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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
18/71

ーちはるー ④

高さは四十メートルくらいだろうか。

台形の土台の上にピラミットが

乗っかったようないびつな形をしていたが、

あまりの雄大さに度肝を抜かれた。


遺跡の頂上には人らしき影が見えたので、

登ってもいいのだろう。

後ろを振り向くと父が頷いたのを見て一目散に駆け出す。

台形の土台の中央の急な階段を駆け上がり壁の前で左右を見渡し、

目の前にいた老夫婦の後を追いかけ裏手に回ると、

遺跡の壁に見た覚えのあるような模様が目に入ったが、

それを無視して頂上への階段を登った。


息を整えながら景色を見渡す。

見渡す限りの絶景がそこにはあった。

下の方を見ると豆粒みたいに小さくなった母が手を振っている。

反射的に「お母さん」と叫び、両手を振っていた。


母が手を振るのを止めこちらに向かって

歩いて来るのを確認してから、

私はその場に座り込み広大な大地を眺めた。

風が森の声を運んで私の体の中に入り細胞を癒しているようだ。

何年前に作られたのか知らないが、

その時の王様も同じ景色を私のように見て

感じていたのだろうと思いながら、ぼんやりと遠くを眺めた。


「ここからの景色すごいね」


いつの間にか母が隣にいた。母も私と同じ事を感じているのだろう。

先程と打って変わって顔に生気が戻っている。


母も無言で景色を眺めていた。

景色を見て言葉を失うとあるが、まさにこのことだろう。

目で広大な大地を眺め、耳で大地の声を聴き、

鼻で森の香を嗅ぎ、全身で風を感じる。なんと贅沢なのだろう。


「そろそろ行こうか」


後ろの方から父の声が聞こえたが、

「もう少し見ている」と私は即答した。


「お母さんはどうする?」


「ほかの場所も見てみたい」


二人は私の空間から出て行った。

何分でも何時間でもこの景色を見ていたいと思う。


「ちはるー、そろそろ行くよー」


何十分経ったか分からなかったが、

母が下の方から手を振っている。

私は仕方なく立ち上がり渋々父と母の元に向かった。


帰り道はひたすら下りなので何の苦もなく

先程の船の所まで降りてきた。

途中馬に乗ったツアー客らしい人とすれ違ったので、

どこからか馬で来ることができるということも知った。


船に乗り込むと、行きと同じように父がハンドルを回している。

私は恐る恐る声を掛けようと思ったが、

父が自らハンドルを放し手招きした。


私は思いっ切りハンドルを回したが、あまりの重さにびっくりした。

母がハンドルを回そうとしない理由が分かり、少し後悔したが、

他の乗客から笑い声が漏れていたので、

意地になって対岸に着くまでハンドルを回し続けた。


私達が船から降りると、車が船に乗り込む姿を目で追っていた。

車で「ニッチ」に行けるなんて聞いてない。

私は父を睨みつけたが何事もなかったかのようにトランクを開けて、

デイバックを投げ入れ、

「歩いて登った方が達成感あっただろ」と澄ました顔で言ってきた。

確かにと納得しかけたが、グッとこらえて、

「バカ」と言い放ち、車に乗り込んだ。


今度の目的地は「ニッチ」から五分程度の場所だった。

丘の頂上だったので、街を一望できる。

眺めは良かったが、つい数十分前の景色と

比較してしまうと少々残念な気もするが、なかなかの景色だ。


「まず遺跡を見てから、チェックインしよう」


 先程と違い手ぶらの父が言った。今度はここから近いのだろう。


「どこ行くの」一応聞いてみる。


「ここだよ」

 と言いながら目の前の建物を指さす。

確かにエントランスと書かれていた。


 その建物の二階が入り口になっていて、

階段を上り入ると小さな博物館になっていた。


父が料金を支払い終わると、なんとなく展示物を見る。

なんの前知識もないというか、

そもそもここは何という遺跡なのかも分かっていない。

もちろん英語なので読む気にもならない。

人骨、当時の様子や発掘品などあったが、

興味のない私は一分程で見終わってしまった。

そう、私は遺跡が見たいのだ。


「先行ってもいい?」と聞くと、

「気をつけてね」と母の声が返ってきた。

まだ最初の方の展示品を見ているのだろう。

私は案内板に従い先へ進む。


 目の前に森の中にひっそりと佇む遺跡が目に入った。

『ニッチ』とは違いそれほど大きくはないようだ。

遺跡の入り口みたいな門をくぐると、

遺跡に囲まわれた広場みたいになっており、

その先の牛乳瓶みたいな人一人しか通れない通路を

さらに進むと遺跡の迷路が現れ、子供心をくすぐられる思いがした。

近所にこんな遺跡があったら間違いなく

秘密基地になっていただろう。ひたすらに歩き回った。

こういう時兄弟姉妹がいればと思ってしまう。

かくれんぼとか鬼ごっこをしていただろう。


 何分かひたすらに歩き回ったせいか疲れたので、

遺跡の中の涼しい場所に腰を下ろした。


「ちはる、どこ?」それほど遠くないところから母の声が聞こえた。


「ここ」と私は返したが「ここ」と言って分かるわけない。


「そこで待っていて」


「分かった」


 と言いながら外から見えない方に移動したが

五分程して見つかり、「もう、こんなところに隠れて」

と言いながら私の横に座った。

母はペットボトル片手にのどを鳴らしている。

「いったい一日で何リットル飲むんだよ」と無言のつっこみをいれた。


「ここ涼しいね」母は満足そうに言ってから、


「今回の旅行に来て良かった?」母の顔が覗いてくる。


「いいところだと思うけど、大学試験前に来るようなところではない」


 私はきっぱりと言った。

あと二週間で試験なのにどうして今ここにいるのか理解できていない。

しかし、何か理由があるはずだと私は思い始めていた。


「そろそろ行こうか」


 母は休憩終わりと言わんばかりの勢いで立ち上がり父と先に歩いて行く。

そんな二人の後を追った。

 気付くと一周していたらしく、

そんなに大きな遺跡ではないと改めて思ったが、

『ニッチ』とは違い、迫力とか雄大さはないが、

遺跡探検しているみたいで楽しかった。

まだまだ発掘途中なので、マヤの遺跡に興味がある人はこちらの方が、

見ごたえがあるのかもしれない。


駐車場に戻ると母が、「カハルペッチも良かったね」と父と話していた。


『カハルペッチ』っていう遺跡の名前なら、

『ペッチ』だなと思いながら、ベリーズやマヤについて前もって調べて、

いつの日か『ニッチとペッチにまた来よう』と、

私の辞書に薄く付け足しておく事にした。

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