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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
16/71

ーちはるー ②

―ちはる―


 できる事なら今すぐ帰りたい。

眼下に広がる緑のじゅうたんを見ながらイライラしていた。


 ここはベリーズの上空。間もなくベリーズ国際空港に着く予定だ。

あの日から一つだけどうしても納得できない事がある。

それはこの時期に何をしに行くかだ。

母に聞いても「行けば分かる」の一点張り。

たとえ父に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。

聞く気もないが。


「はぁー」と、今日何回目かも分からないため息が漏れる。


 そんなことを考えていると、アナウンスが流れた。

もちろん英語なのでほとんど何を言っているのか分からないが、

私は機械的に座席とテーブルを元の位置に戻し、

シートベルトをきつく締めた。


 着陸態勢に入り飛行機が揺れる。

先程まで緑のじゅうたん一色だったが、

多くの家や何かの建物が目につく。

思っていたよりも辺鄙な土地ではないらしい。


 飛行機が無事着陸し、

アナウンスが流れると同時に乗客が動き始めた。

私は全く動く気がなかったが、

母に急かされたので仕方なく準備に取り掛かる。


 荷物をまとめたところで、出入り口に向かい愕然としてしまった。

私の認識では飛行機の出入り口は消防のホースを

大きくしたものがターミナルと飛行機を繋ぎ、

そこを通って出入りするものだと思っていたのだが、

目の前には地面に伸びる急な階段があったのだ。


 私は恐怖しながらもゆっくりと階段を下り、

憎きベリーズの土地に立ってしまったが、

立ち止まるわけにもいかず、流れのままにターミナルに向かい、

無意識にパーカー、ロンティーを脱いでいた。非常に暑い、

そして日差しがきつい。無数の針が肌を刺激しているかのようだ。

父が飛行機の中でTシャツになっていた理由が分かる。

知っているなら「一言言え」と思いながら、

母に書いてもらった申告書を税関員に渡し、

中学英語で習う税関でのやり取りを行い、

正真正銘ベリーズに入国した。


 私は愕然としてしまった。

飛行機から降りて百メートル足らずで空港の外に

出てしまった事もさることながら、

目の前に広がる景色が地元の空港に少し似ていたからだ。

確かに古い車が多いし、道もきれいに舗装されていないが、

草木はきちんと刈られ、ヤシの木が優雅にそびえ立っている。

私が想像していたよりもはるかに発展した場所だという事が分かる。


 左の方を見ると空港の出入り口らしく、

「WELCOME TO BELIZE」と、

書かれたゲートが道路をまたぐ形で立ち、

そこから伸びる道の両脇には等間隔でヤシの木が植えられている。


「ちはる、早く乗りなさい」の声に我に返ると、

父がタクシーらしき車のトランクに荷物を入れ、

母は後部座席に乗り込もうとしていた。

慌ててタクシーに乗り込むと、先程見たゲートをくぐり抜け出発した。


あの日からベリーズについて何も調べてはいないので、

中米という地域にベリーズがある事しか知らない。

景色に魅了されたか、それとも暑さで頭がおかしくなったか

分からなかったが、少し興味が沸いた。


「これからどこ行くの?」


 母に尋ねると一瞬不快な顔をされた。

外の見慣れぬ景色を楽しんでいるのだろう。


「はい」と、あの日見た観光ガイドの本と父が作成したであろう

簡単な旅行の工程表を渡してきた。今日一日の予定を見てみると、

この後ベリーズシティーで車を借り、サンイグナシオ方面へ、

シュナントニッチという遺跡を見るらしい。


「もうすぐ海が見えるから後にしなさい。

それにレンタカーを借りて二十分もすれば

一時間くらい景色が変わらないから、そこで見るといい」父は言った。


 私は仕方なく車窓からの景色を眺める。

父が『海』と口にする少し前から、

潮の香が窓の隙間から流れ込んできていた。


 しばらくすると、道の両脇に水面からクラゲの

足みたいな根が覗くマングローブ地帯に差し掛かったと同時に、

その先から輝く海が見えた。


「わー」思わず声を上げてしまった。

今までに何度か海を見たが、同じ海とは思えない程輝いている。

この海は太平洋なのかそれとも他の海なのかも分からなかったが、

わずか数秒で見えなくなっても海の方を見ていた。

まるで本脳が先程の景色を焼き付けろと言っているかのように。

どうやら海に一目惚れしてしまったらしい。


景色は一変して道路の両脇に建物が並んでいる。

繁華街に入ったようだ。日本とは違い原色の建物が多い。

自己主張が強い人達が多く住んでいるのかもしれない。


しばらくしてレンタカー屋さんに到着し、父が手続きに向かった。

私はレンタカーが並んでいる内の数台に目を引かれた。

ここに来るまで車の荷台に乗っている人達かいたので、

この国では荷台に乗って移動してもいいのだと思っていた。

そのチャンスが今、目の前にある。


「ねぇお父さん、車あれにしない?」


 父の元に行き勇気を振り絞って言った。

私から話し掛けるなんて何年ぶりだろうかと思いながら。


「明後日まで結構な距離を走るし、

未舗装路も行くかもしれないからこっちの車にしよう」


 父は私の指す方に視線を向けたが、

トヨタのラウンドクルーザープラドを指さした。


少しは楽しもうとしているのに。

何年振りかに話し掛けてあげたのに。

父は何事もなかったように店の人と話しを続けた。


私は苛立ちを表に出すように、

そのレンタカーの近くに荷物を投げ捨てた。やはり父が嫌いだ。


 手続きが終わり渋々乗り込み、

母が左後部座席に座る私に日焼け止めを渡してきた。


「ちはる、塗っておきなさい」


 母から受け取ると父への恨みをぶつけるように豪快に塗り手繰った。


二十分程走ると父が言っていた通り草原地帯に入る。

見ようと思っていたガイドブック見る気になれず、

景色がほとんど変わらない遥彼方に続く一本道をひたすらに進んで行く。


そんな景色を見ていたらいつの間にか寝てしまった。

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