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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
14/71

ー渉ー ⑫

二人に僕の声は聞こえておらず、

桜は父親の悪口を言っている。

あの川見さんが人の悪口を言う人とは思えなかった、

いや思いたくなかったのかもしれない。

川見さんの印象が変わってしまうから。

「私がお父さんを嫌いになったのは、

お父さんが私を嫌いになったから」と

川見さんは言っていたが、そのような親がいるのだろうか。


「ともみ、ここの曲がり角しっかり覚えておいて。

ここを曲がれば図書館の裏側に行くから。ここのコンビニだよ」


「分かった。覚えておく」


川見さんは携帯を取り出し、コンビニを撮り操作している。

十日前の川見さんはもういないようだ。

曲がり角を曲がり十分もしないうちに図書館の裏側に着いた。


「着いたよ、ここが図書館だよ」


「これ昨日来た図書館?」


そう思うのも無理もない。

表側から見れば一面ガラス張りだが、

裏側からみればただの茶色の建物だ。


「こんなに違えば、そう思いたくもなるよね。

実は私も裏側に来たの初めてで、一瞬疑ったぐらいだから。表側に回る?」


「大丈夫、入ろう」


図書館に入ったのはいいが、僕は図書館に興味はない。

基本的に本を読まない人間だ。

しかし、川見さんが借りようとしている本には興味があった。

川見さんが何に興味を持っているか知れるからだ。


僕は二人が本を選んでいる間、

受付カウンターの近くの椅子に腰を下ろして待つことにした。

いつもなら携帯をいじり時間を潰すが、

そんな気にもなれず辺りを見渡す。

三百六十度本に囲まれた世界にそれぞれの目的を持った人達がいる。

単行本を大量に抱えた中年の男性、

料理本を持っている子連れのお母さん、絵本を持ったおばあちゃん。

同じ歳くらいのカップルが手を繋いで歩いている姿もある。


ふと昨日川見さんが言っていた、マヤペンダントの事が気になり、

『マヤ』と携帯に打ち込むと、

マヤに関連する項目がずらっと出てきたが、

占いが上位を占めていることに驚いてしまった。


仕方なく『マヤ文明』で検索すると、

先程と同じようにいくつもの項目が出てきたので、

その内の一つを選択し読んでみると、

紀元前三千年前から存在していたという事が分かった。


驚きなのは今も尚七百万のマヤ人がいるという事だ。

中央アメリカで栄え、

十六世紀スペインに植民地化されるまでマヤ圏があった事も分かった。


次に『ハアブ』で検索する。

すると、昨日川見さんが言っていた通りの事が書いてあり、

月を表すマヤ文字を見ていくと十二番目に月に『ケフ』と書かれ、

隣には僕のペンダントと同じ文字が描かれている。

何かの模様だと思っていたが、まさか文字だとは思いもしない。


次に『ウェヤブ』を見ようとスクロールしかけた時、

画面が暗くなったので顔を上げると、桜が覗き込んでいた。


「渉も気になっていたんだね。私は昨日調べたんだ。ともみは一番下だよ」


僕は携帯に目線を落とし、下にスクロールしていくと、

桜が言う通り月を表すマヤ文字の一番下に『ウェヤブ』はあった。

しかしその下に、『不吉な日、五日間の閏月』と書いてあった。

川見さんは『十八か月と五日』と言っていた。

川見さんはその五日の内のどれかの日が誕生日らしい。


「ともみはマヤ歴で言うと不吉な日に生まれたらしいけど、

私達はマヤ人でもなければマヤを信仰しているわけでもないから

気にしなくていいと思うよ。気にするくらいなら付けないと思うし」


桜は僕の心の中を見透かしたように言い放った。

桜の言う通りだと思ったが何かが胸に引っ掛かった気がした。


受付カウンターでは川見さんが手続きをしていた。

僕は川見さんが何を借りたのか気になり、

横まで行くとカウンターの上には

借りようとしている本の他に学生証が置いてあった。

隣にいた桜がその学生証に手を掛けようとすると、

川見さんはサッと服のポケットにしまい込む。

「顔写りが悪いから」と言っていたが、

あまりの素早さに驚いてしまう。余程顔写りが悪いらしい。


「ともみ、何を借りたの?」


「えっとね、マヤの本に医学関係の本だよ」


「医学関係の本?」


「そっか、渉に言ってなかったよね。ともみの夢は医者になる事。

それにともみの部屋すごかったんだよ。ズラッと医学系の本で」


川見さんが医者を目指しているなんて知らなかった。

通りで頭がいいわけだと思ったが、

尚更僕達の高校を選ぶ必要はない。もっと違う選択肢があったはずだ。


「ともみってなんで僕達の高校選んだの?」


「えっとね、それはね……」川見さんは困ったように前髪をいじった。


「制服が着たかったんだ。高校卒業したら着られないから。

それに……、何でもない」


自分の夢と高校の制服を天秤にかけ、

高校の制服が勝ってしまうところが川見さんらしいが、そんなはずない。

本当の理由は「それに」に続く言葉だと思ったが、

聞いても答えてくれないと思い止めた。


「ともみこの後どうする?」


「一人で来る予定だったから、何も考えていないよ」


「渉はどうしたい?」


「どうしたいって言われても……」


僕は二人を見に来たので、二人といられるならどこでもよかったが、

もちろんそんな事は言えない。


「じゃあ、お茶して帰ろうか」


桜はそう言うと図書館の中にある喫茶店に向かい、紅茶を三つ注文した。


「ともみってなんでマヤに興味持ったの?」


「中学の時病気に掛かった事があって、

その時お父さんにこれをもらったんだよ」


川見さんはマヤペンダントを外し、テーブルの上にそっと置いた。

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