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今はいない大切な君への贈り物  作者: 宮久啓平
12/71

ー渉ー ⑩

すべての展示室を見学して洋風校舎を後にしたが、

文太のおふざけから始まった茶番劇のせいで何も覚えていない。

きっと僕以外のみんなそうなのだろう。

誰も声を発しない。


「さっきのは冗談だよ。ね、恵理子」


「冗談、冗談、文太が桜をからかうからだよ」


 二人はこの空気をどうにかしようと先程の事を

冗談にしようとしているが、冗談だとは思えない。

あの時の空気が事実だと言っていた。

それは洸平と文太も同じだと思う。


「ともみ、先に図書館に行く?それとも試飲する?」


 麻里は川見さんに聞いたが返事が返ってこない。

麻里は川見さんのところまで行き耳打ちを

すると麻里に何を言われたのか分からないが、

川見さんの表情に笑みが戻っていく。


「図書館の場所分かったから大丈夫だよ。

だから試飲しよう。クタクタだよ」


 川見さんは「クタクタ」と言っていたが、

おそらく精神的疲れだろう。僕も体より頭を休めたかった。


 僕達はすぐ横の公園のベンチに腰を下ろし、

この一週間で溜めたペットボトルを並べていく。

最初は二百五十ミリリットルのペットボトルだったのが、

みんなで試飲するという事で五百ミリリットルになっていた。

二回目の水巡りからはそれぞれ分けて持ち帰っていたのが五十数本。

重さはゆうに二十五キロを超えていた。


「実際並べてみるとすごい威圧感。

ともみどうやって試飲していく?」


「んーどうしようかな?十本くらいに分けて、

それぞれが選んだ五本で決選投票っていうのはどう?」


「いいと思う。じゃあ始めようか」


 最初の十本は数字の1~11まで。

桜と川見さんと僕で回ったところだ。

あの時は飲み比べするつもりはなかったが、

味の違いは分かった。

しかし優劣を判断できるのだろうかと思いながら

最初の一杯を飲み、暫定の一位とした。

次の一杯を飲む。やはりそこまでの変化はないがおいしいと思う。

そして暫定一位が代わる。

次々と飲み比べていき、

結局二十杯以上飲んでしまったが、

最初の十一本の暫定一位が決まった。


「これきつくねー」


 洸平が音を上げた。確かに洸平の言う通りだ。

何本かのペットボトルは空になっている。

この調子だと一人三リットルくらい飲まなければならない。


「やっぱり厳しかったか。ともみどうする?

この調子で続けてもいいんだけど、ちなみにみんなの暫定一位は?」


「せーの」の合図で一斉に指をさす。

やはりペットボトルが空になった2、4、9番に集中した。


「やっぱりこうなるよね。どうしようか?」


「じゃあこういうのはどう?月から木曜日の四日間で

残り四本の暫定一位を決めて、金曜日に最後の一本を決めるのは」


 妥当の案だと思うが決めるのは川見さんだ。

みんなの視線が川見さんに集まる。


「恵理子の言う通りだね。そうしよう」


 とても残念そうだが仕方ない。

限界までやると言われなくてホッとした。


「ともみ図書館行く?」


「明日一人で歩いて来てみる」


「大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。家の方向はあっちでしょ、何とかなるよ。

それにいつまでも友達に頼ってられないし、一人で来てみたいから」


「分かった。その代わり何かあったら連絡してね」


「桜、私の事子供扱いしているでしょ、

図書館くらい一人で行けるもん」


 川見さんはほっぺを膨らましそっぽを向く。


「ともみ、かわいい」桜は川見さんに抱きつき、頬をすりつけた。


「でもね、ともみの事が心配なの。だって家の方向はあっちだよ」


 桜は川見さんの家の方向を指さす。

ちなみに川見さんは西の方を指していた。

間違えなく迷子になるだろう。


「どうしても一人で行くの?」


 川見さんは小さく頷いた。

ここまで抵抗する姿を初めて見たかもしれない。

きっと譲る気はないのだろう。桜は大きなため息を漏らした。


「分かった。その代わり二つ約束して。

一つ目は必ずバスが通る道を行くこと。

そうすれば駅に着くはずだから。

二つ目は昼の十二時に必ず出発する事、約束だよ」


 桜はそう言いながら小指を立てた。


「分かった。バスの道と十二時だね」


 と言いながら桜の小指に小指を絡ませる。

これで安心だ。桜はこっそり後をつけるだろう。


 桜の「じゃ、帰ろうか」の一言で駅に向かう。

「また、月曜日」なんて言う者なんていない。

川見さんを見送ってからだ。


駅に着くといつものように「ありがとう」と、

あの笑顔で手を振りバスに乗り込んで行った。

バスが出発したのを見送って、

「また、月曜日」と僕達はそれぞれ帰宅した。


 4月15日

今日も楽しかったー。まずは買い物。

初めて制服以外でスカート履いたよ。

それにね、パーマも初めてだったんだ。

鏡見てびっくりしちゃったよ。これが私かって。おかしいね。

今度桜が化粧してくれるって。さすがにそれは断ったよ。

恥ずかしいからね。


それにね、渉君に「似合っている」って言われちゃった。

恥ずかしかったけど嬉しかったよ。


お城も初めて見たけど、すごかったね。

本丸は明治時代、農場や校庭だったんだね。

すごいね。


赤い橋の前で写真撮った時外人さんにお願いしたら、

みんなびっくりしていたんだ。おかしいね。

「写真撮って下さい」ってお願いしただけなのにね。


洋風校舎もすごかったなー。

でも麻里と恵理子の一言で何も覚えていないよ。

初めて見たよ。告白するところ。

私がしたわけじゃないのに恥ずかしかったんだよ。


それから何も覚えていないんだ。

麻里がね、「ごめん。突然言って。でも正直に言えたから満足だよ。

もし洸平が今の彼女と別れたら、きちんと洸平に伝えるから、

ともみ、お願いだからそんな顔しないで」って言われちゃった。


告白って恥ずかしい事だと思っていたけど麻里の言葉を聞いて、

恥ずかしい事じゃないって知れたよ。

きっと恵理子も同じ気持ちだったのかな?

私もいつか渉君に告白できるかな?できるよね。


それから桜、図書館の件はごめんね。

私どうしても一人で行きたかったんだ。

図書館くらい行けなきゃ恥ずかしいもんね。

渉君にバカにされたくないしね。明日一人で行けるかな?不安だよ。


それに桜どうして十二時って言ったのか分からないよ。

何かあるのかな?


最後に渉君マヤペンダントの事知らなかったんだね。

ちょっとショックだったなー。

今となっては関係ないけどね。

だって渉君は優しい人って知れたから。

渉君のマヤペンダントのおかげで今の私があるんだよ。


明日も一日幸せでありますように。

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