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鬼界の掟  作者: 弐兎月 冬夜
7/20

風 鳥 鬼  ①

 大輔は少し急いていた。10分くらい前まで晴れていた空が、雲を集めて黒々とした波を打っている。山の天気は変わりやすいというが、あっという間の出来事だった。

 自分一人ならまだしも、幼い子供二人を連れての山歩きはかなり不安だった。ほんの数10メートル先には林道が走っている。しかし藪をかき分けての徒歩は、幼い子供には苦痛であろう。弟の心太はすでにグズりだしている。

「パパァー。もう歩けない!」

ついに心太は泣き出した。

「しんちゃん、もうすぐだからね。」

なだめても泣き止む様子が無い。兄の勇人は泣きそうになる自分を必死で押さえているようだった。

「よーし、じゃあ、パパがおぶってやろう。」

大輔はしゃがんで心太に背を向けた。心太は泣きじゃくりながら大輔の背に乗った。少しだけ頬が緩む。

「お兄ちゃんはもう少し頑張れるかな?」

大輔は勇人に笑いかけた。勇人の眉はハの字になっていたが、それでも歯を食いしばって頷いた。勇人は2歳年上だが、それでもまだ5歳である。父にしがみつきたい衝動を抑えているに違いなかった。大輔は不憫に思ったが、二人を背負う訳にもいかない。それに、水滴が頬に当たりだした。一刻の猶予もないのだ。

 林道に出れば家まではほんのわずかである。大輔は藪をかき分け、勇人に絶えず声を掛け、出来るだけ急いで山を下った。やっと林道に出たとき、雨は本降りとなり、風が出てきた。

「勇人! もう少しだ。がんばれ!」

「うん!」

「走るぞ!」

家は目前である。大輔は心太を背負ったまま走り出した。

その時、嵐のような突風が3人の間を駆け抜けた。大輔は勇人が気がかりだったが、大泣きする心太をまずは家に届けることを優先した。

 玄関の扉が開き、中から頼子が顔を出した。手にはバスタオルを持っている。

「ママ、ただいまあ!」

「馬鹿ね! もっと早く帰ってくればいいのに!」

「そんなこと言ったって・・・」

大輔は心太を頼子に預けると後ろを振り返った。

「まったくぅ! 泣かないのよ、しんちゃん。怖かったよねえ。・・・あなた、勇人は?」

大輔は頼子の問いには答えず、土砂降りの雨の中へ駆け出して行った。


 わずか1分・・・いや、もっと短い間だったはずだ。

 後ろから走ってついてきたはずの勇人の姿が忽然と消えていた。

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