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鬼界の掟  作者: 弐兎月 冬夜
19/20

風 鳥 鬼 ⑬

<風鳥>の捕獲に成功した伊吹と黒夜だったが、その帰途、黒夜に異変が・・・。

「なあ、クロ。堂島教官は鬼なのか? 角も無えのに?」

 ここへやって来た時のミライースは既に無く、代わりに白のトヨエースワゴンが置かれており、伊吹はそのハンドルを握った。キーを回すと爆発するのかと思いきや、エンジンは普通にかかった。エアコンのスイッチを入れるとキュルルルルとベルトの滑る音がする。

「中古車なんだろうが、盗難車じゃねえだろうな・・・?」

 伊吹はレンジをDに入れると、人気のない細い砂利道を静かに下り始めた。黒夜は揺れる車内の後部座席で丸くなっている。すでに夕方に近い。

 あの後、伊吹たちは1日半かけて登った山を数時間で下って来た。帰りには社にお礼も済ませてきた。(律儀なヤツラである。)

ただ、道中での堂島の話は、伊吹がいくら聞いても黒夜ははぐらかすだけだった。

『そんなことはどうでもいいニャ。早く帰ってちゅ~るるを腹いっぱい食うニャン。』

『盗聴でも警戒してんのか? なら、声に出して言うぞ。』

『・・・しょうがないニャア。うるさ過ぎるから教えてやるニャン!」

 黒夜は少し切れ気味である。

「角が無いからと言って鬼じゃない訳じゃニャイのラ。百目鬼だって赤鬼みたいな角は無かったニャ。』

 確かにそう言えばそうだった。鬼と言うものの固定観念と、大仁田の角が印象的だった為か、鬼には角があるものだと伊吹は思い込んでいたのだ。

『吾輩も鬼界の住人だという事を忘れてるニャ。』

『そうか。え? お前は猫又だろ?』

『違うのニョのラ!』

 黒夜は不機嫌そうに眼を開けたが、伊吹には見えなかった。

『教えてやるニャ。黄鬼はルブ族ニャン。ルブ族は肉体再生能力がずば抜けているニャ。戦争中も不死身と言われたのラ。』

「戦争中!」

 伊吹は思わず声を張り上げた。

堂島はどう見ても30代から40代くらいの男だ。戦争に行ってたとは思えなかった。しかし、黒夜も鬼だ。300歳以上だと自分で言っている。しかし、黒夜は転生を繰り返して生きながらえているのだ。堂島もそうなのだろうか?

『あいつは鬼のクセに召集令状を受け取って戦地に行ったのラ。普通の人間なら致命傷になる傷を負って、米兵に撃たれて死んで、3日後に生き返って、捕虜になって殺されかけても無事に戻って来た大バカ者ニャ。』

黒夜は不機嫌そうに説明した。

 黒夜の話だと、彼ら鬼たちも戦時中何らかの形でそれぞれ戦っていたらしい。黒夜が不機嫌なのは、戦争に負けたことではなく、黄鬼が正体がバレそうになるまで戦い続けたことにあるようだ。実際、周りの人間は「不死身の鬼軍曹」と呼んだらしい。

『黄鬼はお前以上にバカニャ。いったん戦いが始まると、戦う事しか頭になくなるニャ。大体、4000人対22000人の戦いに、いくら黄鬼でも勝てるわけがニャいのラ!』

 伊吹はニタニタと笑っている。

『だけどお前はそんなヤツが好きなんだろう?』

『嫌いにゃあ!!』

『もうひとつ聞くぞ。』

『嫌ニャ。』

それでも伊吹は構わず続けた。

『龍の抜け殻に、そんなに価値があるのか? それに、堂島が言った事はどういう意味なんだ?』

『アホに説明するのは疲れるから嫌にゃ・・・けど、説明してやるにゃ。』

 黒夜は大きくため息をついた。

『お前だってノミとかシラミとか飼ってるニャロ。』

『飼ってない!』

『アホ。よく聞くニョラ。人間だって体内に数兆もの細菌を飼っているニャ。鬼界の住人だって同じニャン。<風 鳥>もおんなじニャ。ヤツにくっついてこっちにやって来た見えない細菌や昆虫なんかもいるのラ。そしてその中には有益なものも有害なものもいる。特に<風 鳥>の羊水の中にいるウィルス喰いバクテリアは貴重ニャ。通常ウィルスは単細胞に侵入して細胞の遺伝子を利用して増殖するのラ。けど、そのバクテリアは侵入したウィルスをそのまま取り込んで食ってしまうのラ。』

『・・・・・・・・?』

『アホはこれだから・・・。』

『悪かったな。アホで。』

『だから万能感染症予防薬と言ったのラ。お前はバカだから、バクテリアがいなくとも風邪も引かニャイのラ。』

黒夜は声に出して大笑いした。

『だから飲めと言ったのか。』

『そうニャ。鼻腔の中にも塗っておけばより効果的ニャ。』

『それにしてもあの時那由他(なゆた)が居なきゃ、すべておジャンだったよなあ。だけどここまで飛んでくるたあ、ガッツあるな。那由他! うん!』

 黒夜は声に出して「はあああ~~~。」とため息をつく。顔は明らかに伊吹をバカにしていた。

『那由他は【全にして個。個にして全】にゃ。』

『・・・どういう意味だ?』

『自分で考えるのラ。吾輩はもう寝る。』

『おい。』

 しかし、黒夜はもう答えなかった。話すのが嫌になったのか、本当に眠いのか。幾ら呼んでも答えようとはしなかった。

 やがて、砂利道から舗装道路へと抜ける。ちらほらと民家が点在し始め、だいぶ街らしい所までやって来た。

高速に乗る前に1軒のペットショップが国道沿いにあるのが目についた。

「そういや、ちゅ~るるが切れてたんだっけ。」

伊吹はウインカーを上げてペットショップの駐車場へ車を入れた。

ドアを開けるとき黒夜を見たが、本当に眠っているようだった。伊吹は黒夜を起こさないように静かにドアを閉めると、ペットショップに入り、ちゅ~るるとカリカリ。それと缶詰を数個買った。

 日差しは既に夕闇。 ペットショップの隣には小さな神社があるらしく、塗装の禿げた鳥居が見え、杉林になっている。カラスの(ねぐら)でもあるのか、数羽のカラスが電線に留まっていた。

「全にして個・・・か?」

 伊吹は止まっちるカラスを見上げたが、それは那由他ではなさそうである。伊吹の事など、気に留める様子すらない。伊吹は大きなレジ袋を抱えて車へと戻った。

「いやあ、消費税がいつの間にか上がってるわ。おい、黒夜。起きろ、ちゅ~るるだぞ。缶詰もあるけど、どっちがいい?」

 黒夜は丸くなったまま眠っている。

「おい、クロ・・・」

 伊吹は黒夜を起こそうと彼の体に触った。

(熱い!)

 いつもより黒夜の体温が上がっている。しかも小刻みに震えていて、息が荒い。

「おい、黒夜! どうした!」

黒夜は答えなかった。代わりに右目をうっすらと開ける。心なしか笑っているような表情だ。

(まずい。医者・・・)

 医者に行こうとしたが・・・留まった。黒夜はただの猫ではない。普通の動物病院に連れて行くわけにはいかないのだ。今は尻尾も割れている。

(どうする!)

 伊吹の持っているスマホは既に解約されている。金はあるが新たに契約している時間もなさそうだし、そもそも誰に連絡すればいいのか? 大仁田の病院の番号は知らなかった。

「そうだ。」

 神社の鳥居の陰に郵便局でもあるのか、藪の陰に公衆電話BOXがあったのを思い出した。伊吹は急いで車から降りると、電話BOXへと走った。伊吹が知っている連絡先はたった一つ。公安の固定電話番号だけである。

 しかし、誰も出ない。

安食は不在なのか、それとも帰ったのか?

 電話での連絡はきつく止められていたが、今は緊急事態である。なんとか連絡をとりたいが、それが出来ない。黒夜は、ある意味万能な連絡係だったわけだが、その連絡係が大変なのである。

(くそっ! 俺もバカだった!)

 新人とはいえ、こんな基本的なミスをした自分が信じられなかった。

(どれだけ黒夜に甘えていたんだ、俺は!)

電話BOXを出た伊吹は途方に暮れた。

(くそっ! 何か、何か方法があるはずだ!)

 ふと見ると電線に留まっていたカラスが草地に降りていた。水場でもあるのか代わる代わる地面をついばんでいる。

(・・・・全にして・・・・個?)

 伊吹は黒夜の言葉を反芻した。

(個にして・・全!)

 何かに憑かれたように、伊吹はカラスのいる草地に向かって行く。

驚いたカラスが一斉に飛び立った・・が、一羽だけ逃げずにいた。伊吹はそのカラスの前にしゃがんだ。

 カラスは逃げずに伊吹の顔を見上げると・・・

「なんだよ、今頃気ィーついたんか?」

そう言ったカラスのお腹のあたりから、もう一本の足が姿を現した。






 ひとまずは<風鳥鬼>編は終わりです。

次回はしばらく後になりそうで、少しばかりエッセイを別の名前で書こうかと思ってます。

そのあとは魔芒の月の続きを書こうかと思っております。お気づきでしょうが、鬼界の掟はほぼリアルタイムで進行しており、あまり年月を開けたくはないのですが、いかんせん時間が無い。現在のところほぼ1年前の出来事で進行しており、次の話は年末から正月にかけての話にしようと目論んでおったのですが、そこに行くまでに少しネタバラシの話を書こうと思います。鬼の世界とはいったい何なのかというのを早くも書いちゃおうとしております。本当だったら5話くらいは新キャラ登場とかで話も続くんでしょうけどね(笑)

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