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転生憲兵は悪食属性~140センチは燃費が悪い~  作者: 雪車町地蔵
第十二章 血まみれ朽ち果て摩り切れた、人の生きる涯ての道で

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第八節 命を繋ぐ糧がある

第十二章、ラストです

「おかえりなさい!」


 私の同胞が、そんなことを言う。

 ボロボロの姿で、身重から解き放たれたばかりの姿で、彼女は泣いて、笑っている。

 ……もう、終わりにしよう。

 こんなことを、繰り返してはいけないのだ。


「神よ、廻坐乱主よ」

「おお、おおおお、わしの希戮……」

「星を落として私を砕く前に、問いに一つ答えてみせろ。いまだおまえが八紘一宇を掲げるのなら、神として応えてみせろ。おまえにとって、家族とはなんなのかを」


 問えば、神はいぶかしげに眉根を寄せ。

 あっさりと、口を開く。


「わしにとって都合がいい、食い物のことじゃが?」

「ならばおまえは、功子の真実を理解できていない」

「なん、じゃと……?」


 ああ、そうだとも。

 この神は、何一つ解っていない。


「……私は、この旅路でいくつもの家族を見つめてきた」


 自分自身が、クローンという形で増え続ける家族。

 異種族を受け入れる、巨蟲と猟師の家族。

 他人が自分と同化していくことに耐える、沼の街の家族。

 自分を殺すものを、殺すことでしか伝えられない愛を容認する、女王と騎士の家族。


 家族の形とは、こんなにも多様で豊潤だ。

 だからこそ、そのすべてを滅ぼして、身勝手に都合のよい関係を押しつけるおまえは、他者を歪めて独占するおまえの邪悪は──認められない。


「ひとはそれを、理不尽と呼び。憎悪を込めて、不条理と否定する!」


 醜くてもいい、生き汚くてなにが悪い。


「すくなくとも──他の可能性すべてを食い潰す、おまえよりはよほどましだ!」

「それと、功子になんの関係がある!」

「あるとも!」


 渦動因果録干渉粒子とは。

 功子とは、即ち!


「誰かを想う、命の形そのもの! 喰われる恐怖、満たされる感情、我が子の明日を思う親の祈り! それこそが功子!」


 それがわからぬというのなら。

 わからぬというからこそ!


「私は、今一度おまえを否定するぞ、廻坐乱主! おまえは──神ではない!」

「抜かしおったなぁあああああああああ!」


 廻坐が、両手を振り下ろさんと力を込める。

 直前、魔女は片手を掲げていた。


「集え!」

「な、に!?」


 驚愕に、廻坐の動きが止まった。

 誰も寄りつくことのできなかった老爺に、無数の影が飛びかかったからだ。


 それは──


 槍を構える最速の騎士であり。

 炎を纏う最強の騎士であり。

 金髪の優しき巨人騎士であり。

 双子の陽気な騎士であり。


 或いは、最も無垢なる巫女に導かれた、他の円卓の騎士であって──


「いまこそ王を守れ──円卓よ集結せよラウンズ・アッセンブル!」

『『『『『『応!』』』』』


 ヴィーチェが命じるままに、騎士たちが廻坐乱主へと突撃する。


「おのれ、おのれ、オノレェエエ!! どいつも、こいつも、わしを裏切りおって! 要らぬ、騎士など! わしは、わしが欲しいのは、希戮だけ! そうだ!」


 襲いかかる騎士たちを殴り飛ばし、蹴り飛ばし消滅させながら、廻坐が叫ぶ。

 狂気の笑みを湛えて。


「希戮とは、(ひとつになる)ことを、(こいねがう)と書く! 即ち、わしと同じになることを運命づけられた名前!」

「否! 希望を(ひとつ)に束ねると書いて〝希戮〟の二文字!!」

巫山戯(ふざけ)るなぁアアアアアアアアアアア!!」


 廻坐の放つ功子の奔流。

 ヌラリと立ち上がった騎士の巨躯が、それを押しとどめ、わずかばかりの時間を稼ぐ。

 すべての騎士たちが、笑って消滅する刹那。


 同時に、私の総身に力が満ちる。

 高らかに。

 すべてよ終われと、私は吠えた。


「〝功子全転換(マビノギオン)〟──〝天魔覆滅(エクスキャリバー)〟!」


 黄金の輝きが、星の内海を満たす……!


§§


 吹き荒れるは桜花嵐(おうかあらし)

 桜吹雪が星の内海を覆い尽くすなか、真功子リアクターが蒼く輝く。


 総身を包み上げる黄金の鎧。

 ヴィーチェの設計した完全躯体。その羽化した姿。

 フォース・アクチュエーター・ジャケット・イマーゴ。


 いまこそ私は、邪悪へと挑む。


「ここで神の力を使い切るつもりか! させぬ、させぬぞ! それは、わしの伴侶になるものゆえに!」


 憤怒を露わにした廻坐乱主が、星の内海に身体を接続。

 灰と化していた八岐大蛇をも取り込み、白き巨竜へと変貌する。


「繰り返すぞ、おぬしはわしの隣に立つべきなのじゃ、希戮! いまキセキを使えることこそが、その証明!」

「隣か……悪いが、先約がいてな」

「ちょっ、キリク!?」


 横でぼうっと浮かんでいたヴィーチェを、抱き寄せる。

 目を白黒させ、顔を真っ赤にする彼女を抱きしめ、赫怒(かくど)とともに放たれた竜のブレスを、拳を突き出すことで無効化する。


 さらに放たれる尻尾、踏みつけ、羽ばたきによる禍ツ風、降り注ぐ無数の流れ星。

 一撃一撃が、世界を壊すほどの奇跡。

 そのすべてを捌き、粉砕し、私は前に進む。


「──やって。やっちゃえ、キリク! ここで、こんな悪夢は終わらせるのよ!」

「ああ、できるだろう。私がいて、君がいるならば!」


 廻坐乱主が、おののくのがわかった。

 彼奴の緑の瞳孔が、理解でないものへの恐怖に歪む。


「おぬしは、いったい何者じゃ……?」


 繰り返すうちに、老爺の口から愕然とした疑問があふれ出る。


渦動因果録(うんめい)に記述すらなく──神の前で膝を折ることすらなく──ああ、確かにわしは孤独と苦難の呪いをかけた──わしの伴侶として従順にすべく、精神も肉体も魂すらも汚染した──その心魂は、確かにすべてへし折った! だというのに、いまそこに立つおぬしはなんじゃ? 何度でも蘇るおぬしは──その黄金は、まるで、神ですらない──おぬしはなんじゃ、有木希戮!?」


 私は手中に生み出した刃──二匹の竜が絡み合う七支刀を振りかざし告げる。


 教えてやろう、廻坐乱主。


 グインが道を拓き。

 ヴィーチェが導き。

 数多の出逢いと別れが育んだ旅路。


 これが。

 これこそが。

 命を繋ぐ糧、今日が作る未来、ひとの生きる道!

 キセキなどではない! 想いが築く、必然の旅路!


「即ち──(ジン)(セイ)ッだぁあああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 人間の証明。

 黄金の斬撃。

 世界のすべてを染め上げる夜明けの一撃が。


 偽りのカミの肉体を、両断した。

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