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転生憲兵は悪食属性~140センチは燃費が悪い~  作者: 雪車町地蔵
第十二章 血まみれ朽ち果て摩り切れた、人の生きる涯ての道で

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第五節 天の光はすべて敵

 功子差動飾帯(フェンリル)が炎熱になびき、背面の多元功子捻出機関(グガランナ)は目映き輝きで世界を照らす。

 腰でうなりを上げる功子密束投射装置(レイヴン)が周囲に漂う功子をかき集め。

 胸のリアクターが蒼色に発光。

 そして、いま。


 双眸──黄金に輝いて。


「散華せよ!」


 右腕の竜頭(ペンドラゴン)を解放。

 ゼロタイムで撃ち出された功子全投射が、神へと迫る。

 だが。


「ふぉっふぉっふぉっ。何度も言っておるじゃろう、おぬしが挑むべき試練は──こちらじゃと!」

「VARAAAAA!」


 咆哮を上げた八岐大蛇が、八つの口腔より放つブレスを統合。

 私の全投射を迎撃する。

 ふたつの功子の奔流はもつれ合いねじれあい、天へと向かって屈折、大爆発を起こす。


 なんたる功子容量。

 なんたる作用範囲。

 もしこの場所が珍妙なる星の内海でなければ、荒れ狂うエネルギーで構造体の外殻を貫通していたことだろう。

 それだけの破壊力を目の前にしながら、神は一切動じない。


「VVVVLUGUUUUUUU!!」


 八つの巨大なアギトが同時に迫る。

 触れられれば拙いのはリトーと同じ。

 ならば対策も同じく、膨大量の功子で弾くしかない。


「レイヴン!」


 両腰の投射装置から、圧縮成型した功子を取り出す。

 さながら光剣二刀流だが、形状は槍だ。

 それでもって、まず飛び込んできた大蛇の頭ふたつを串刺しにする。


 絶叫を上げる大蛇。

 光剣はすぐさま分解されるが、傷は残る。

 密度さえ上げれば、ダメージを与えることが可能。

 では、有効な戦術は……? ああ、こんなときあの子がいてくれたのなら──


「──っ」


 瞬間的な物思いの間隙につけ込まれる。

 突撃してくる無数の蛇頭に気を取られれば、後方で待機していたアギトに閃光が宿る。

 功子線流がなぎ払うように投射され、私の身体を直撃。


「VRUGU?」

「そう不思議そうにするな。キャスとてこのくらいはやった」


 グガランナが功子を反射すると同時に、リアクターのエネルギーソースへと変換。

 消費した分を回復しつつ、私はアウトリガーで空間を蹴る。

 逃げる私の前方、後方から、功子線流が縦横無尽に迫る。


 首筋に手をかけ、フェンリルを一気に三段階解放。

 身体能力を飛躍的に向上させ、包囲網を突破する。


「まあ、この程度はやってくれんとのう。というわけで、ちょっとばかし難易度を更新じゃ」

「!?」


 廻坐の言葉が響いた瞬間、周囲の空気が激変した。

 鳴動する大気、押しつぶされそうなプレッシャー。

 弾かれたようにソラを見れば、満天の星が。


 ()()()()()()()()──


「おぉおぉぉぉおおおおおおぉおおおおおおおおおお!!!!」


 でたらめな分厚さの功子防壁を展開するのと。

 流星雨が降り注ぐのは同時だった。


「目で見て聞けば、造作もなく。しっかり耐えるのじゃぞ、希戮? 〝渦動因果録支配(こうしてんかん)〟──〝廻天洛陽撃(ほしのうまれるとき)〟」


 それは、渇望とすら呼べるものではなく。

 呪詛とも言祝(ことほぎ)とも位階の異なる。

 純粋なる神の御業だった。


「がぁあああああっ!?」


 一つ一つが惑星クラスの大質量と、その質量が転じた重力、熱量!

 一瞬でも気を抜けば木っ端微塵に砕かれる、〝星〟そのものを使った攻撃!


 ふざけるな、いくらなんでもこんなもの現実に起きてたまるか。

 夢、幻術の類いを考えるが、いま全身を苛む激痛に偽りはない。

 脳内を真っ赤に染め上げて、アラートが鳴り響く。


「功子の知覚とは運命の閲覧。功子の運用とは運命への干渉。ならば、無限の宇宙を落下し続ける惑星を、狙った場所に落とすことなど容易いもの。さて、銀河の衝突を受けて、まだ立ち上がれるだけのちからは──ほう!」


 バケモノが、感嘆の息を吐いた。

 濛々と舞い上がる星屑を切り裂き、私は飛び出す。

 全身の装甲が軋みを上げているが、グガランナとレイヴンの併用によっていまだ功子残量に余裕はあった。


 ……だが、逆に言えば余裕があったのは功子の残量だけ。


 ブルブルと身体が、意図せぬ恐怖に震える。

 神の発する絶望的なプレッシャー。

 そして、功子知覚者として成長したことで理解できる、あまりにも圧倒的な廻坐との力量差。

 まさしくそこには、天と地の開きがあり。

 もう一度いまの絶技を喰らえば死ぬという確信だけがあった。


 いまならわかる。

 あれほど苦戦したキャスでさえ。

 廻坐乱主にとっては、蟻の一匹以下に過ぎないのだと。


 恐ろしい。

 怖い。

 戦時中に恐怖などいくらでも感じたが、心底魂から凍えるような絶望ははじめてのものだった。

 根源的な恐れが、私の身体を震わせガチガチと歯を鳴らす。

 冷や汗が止まらず、いまにも失禁脱糞しそうだった。


 ……だからこそと、私は震える拳をきつく握る。

 震えは止まらないが、決意は固まる。折れかけの心に、接ぎ木を当てる。


 何度も挑むことはできない。

 乾坤一擲、一撃を持って、この絶死圏を突破するしかない!


「おおぉ! さすがはわしの見込んだ伴侶候補じゃ! そうじゃ、そうじゃ、すべてを賭してかかってこい! 命を捨ててわしを求めよ!」

「気持ちの悪いことを抜かすな、腐れ外道が!!」


 憎悪と嫌悪を力に変えて、リアクターの出力を上げる。

 ごまかせない恐怖を、それでも封じ込める。


 両腰のレイヴンを掴み、作用を発生。

 上空へと向かって飛翔。

 ぐるぐると渦を巻きながら舞い上がり、両手をバッと広げる。


 まるで狙ってくださいといわんばかりのアピールに、八岐大蛇が食いついた。

 ほとんど反射だったのだろう。

 隙だらけの私へと、八条の功子線流が統合された、極太の一撃が肉薄。視界を染め上げる。


 だが。

 これを待っていた。


「おぉおおおおおおおおおおお……!」


 グガランナを最大機動、レイヴンを連動し一斉解放。

 迫り来る功子のすべてを、余さず吸収する。

 廻坐の一撃は吸収不可能だったが、こちらならまだ対応できる!


 それでも予想に数倍する功子に、脳みその中でシナプスがプチプチと千切れていく。

 神経は一瞬で全焼し、血管は沸騰した血液を心臓に吐き出すダストシュートと化す。

 絶望的な苦痛にガチガチと歯が鳴るが、これを耐えなくては次の一手に繋がらない。


 気合い、根性。

 そんなものでは駄目だ。

 必要なのは、規律。

 これまで鍛えあげてきた経絡を秩序立ててすべて開き、体内に破滅を受け入れる。


「ふむ……?」


 廻坐が、愉快そうに口の端を持ち上げた。

 ブレスを飲み干した私の身体からは、無数の輝きが投射されていたからだ。

 輝き……すなわち、功子の糸!


 それは、八岐大蛇が気がついたときには全身に纏わり付いており、私の手の動きに合わせ、一気に絞り上げられる。


「VARAAAA!?」

「おー、見事に八岐大蛇の動きを封じたか。しかし、それも時間の問題ではないのか?」


 廻坐のいうことは、腹が立つがもっともだ。

 触れたものすべてを功子に分解する八岐大蛇の前では、どれほど頑丈な糸であっても意味はない。

 やがては分解され、白銀の八頭竜は自由を取り戻すだろう。

 仮に捕縛し続けたとしても、その間は流星雨に対応できない。


 だから、その前に。


「巫女殿を──取り戻す!」

「取り戻すもなにも、〝あれ〟はわしの分身じゃが? ふむ、そう考えると、おぬしに求められておるようで悪い気はせんが」

「のたれ死ね、ウツケが」


 悪態を吐き、功子の作用反発力で最大まで加速。

 右腕に功子を可能な限り集中。


 これまでの私なら、功子による破壊ぐらいしかできなかっただろう。

 だが、旅路のなかでみた珪素騎士。

 なにより巫女殿の功子運用。

 その模倣が、ぶっつけ本番ではあるが、きっと不可能を可能に変じさせる!


 願え。

 もっと強く、もっと論理的に!

 精神論などではなく、これまでの積み重ねが引き寄せる必然を起こせ!


「おぉおおおああああああああああああああああああ!!!!」


 ありったけの功子とともに、拳を八岐大蛇へと叩きつける。

 弾ける光、蒼の粒子!


「分解!」


 膨大な量の白銀。

 功子皮膜を切除して。


「解析!」


 巫女殿の、パーソナルを記憶から紐付けて探し出し。


「再構築!」


 その肉体を、魂を再生する!


 功子を叩き込んでいた拳をぱっと開き。

 私は、うつろな眼窩の彼女を、引きずり出す!


「グインンンンンンンンンンンンンンン!!!!」


 彼女は。

 巫女殿は。

 グイネヴィア・ノウァ・ガラハドは。


「──婿殿」


 優しい笑顔とともに、こう言った。


「オレを、殺してくれ」

更新は毎日21時ごろ

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カクヨムのほうで数話先行掲載しておりますので、お気になった方はそちらも是非

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