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転生憲兵は悪食属性~140センチは燃費が悪い~  作者: 雪車町地蔵
第十一章 玄米の握り飯

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第二節 最強の騎士、再び

「ヴィーチェ、巫女殿の様子は?」


 そう訊ねれば、彼女は短く返答を寄越す。


「無事よ」

「これは当たり前のことなのだが。小官は巫女殿を害する理由がない。あくまでカイザーの御心に背くことがないよう、一時的に行動権を剥奪したまで」


 嘘をついているようには感じなかった。

 それほどまでに、騎士の声は決意に燃えていた。


「巫女殿は、最前席でご観覧あれ。このキャスパ・ラミデスが、偶像の叛逆者を打ち倒すさまを。あらまほしき戦果にて、戦友とカイザーに報いることを!」

「そう、廻坐乱主に命じられたのか」


 私の問いかけに、珪素騎士は乾いた笑みをかえした。


「珪素騎士とは、そのように造られた者。いやいや、かつて円卓などと呼ばれたのが懐かしいほどに。この身はすでに、変容を遂げているのですなぁ」


 自嘲の言葉は、すり切れた理想の証しだったのかもしれない。

 やがて、珪素騎士の全身が、炎を纏う。


 背面の鏡から噴出した炎は糸となり、キャスの全身を包む衣装を編み上げた。

 それは炎の鎧にして、獣の装束。

 薔薇と蜘蛛を混ぜ合わせたような、醜悪な炎獣が、私たちに向かって吠え立てる。


「鎧を纏うがいい、神に弓引く叛逆者! カイザーはついに望まれた、貴君への困難な試練を! 小官を打ち倒せば、この先に進めよう。世界の中枢への門は開かれるだろう。故に、大刀合(たちあ)ってみせよ偶像! 魔女と手をとり、蛮勇に燃え尽きるまで!」


 キャスのそれは、血にまみれたような叫びだった。

 同時に、確かな信仰心に裏打ちされた怨嗟だった。

 ならばこそ、私たちは応えなくてはならない。

 旅はまだ道半ば。

 この最強を打倒した先にしか道がないというのなら、是非など無いのだから。


「ヴィーチェ」

『アクティヴコードは!』

「功子転換──戦鬼転生!」


 私は、赤き鎧を身に纏い。

 黄金の双眸が──いま、輝く。


§§


「初手より禁忌にて仕る!」


 出し惜しみをして勝てる相手ではない。

 私は喉に手をかけ、即座に手折る。

 耳障りな音とともに、マフラーが首筋から吹き出し、荒れ狂う熱波になびく。

 瞬間的に跳ね上がる出力。だが、これでもまだ及ばない。いまのキャスは気迫が違う。

 さらにもう一度、私は喉を潰す。


暴食器官アンボトム・グラトニー活性開始(ハザード・オン)──安全弁解放(パンドラ・スライド)──暴食昂揚(エスカレート・バイト)


 血しぶきとマフラーを翻し。

 私は両腰のレイヴンへと手をかけ、功子の作用で急速飛翔。

 キャスへと突撃する。


『キリク。戦闘可能時間は、残存功子から逆算すると六十六秒と六! カミツキ・システムが顕在化する前に、仕留めて!』

「無論だ!」


 レイヴンの引き金を互い違いに引くことで、ジグザグに飛翔。

 狙いをつけさせないまま、一息に珪素騎士へと肉薄する。

 直前で反転。

 圧縮功子弾頭を掃射する!


「羽虫のごとく、ブンブン飛び回る! けれど小官の炎は、誘蛾灯!」


 珪素騎士の全身が爆発的に燃えさかり、こちらの攻撃を跳ね返す。

 一撃で珪素騎士の装甲を打ち抜く弾頭が、炎に負けて塵と化す。

 以前はやはり、本気ではなかったか!


「はぁああ!」


 左腕放熱フィンから刃を生成。

 必殺の意志を込めた斬撃を、炎の渦へと放ち、両断。

 渦中から飛び出したキャスと、そのまま肉弾戦へと転じた。


 脚部アウトリガーを射出、反動によって姿勢を制御。

 渾身の正拳突きを叩きつけるが、彼奴も引かない。

 炎の爪で相殺し、さらに腕が伸びる!


 炎のなかから飛び出したキャスの腕は、尋常な長さではなかった。

 これまでに倍するリーチを誇るそれが、間合いを見誤った私の顎を打ち抜く。

 ぐらりと傾く視界。

 決死の覚悟で繰り出した胴回し蹴りが、あらぬ方向へと引っ張られた。


 ()()()()


 全身の至る所に、気がつかないうちに張り巡らされた炎糸が、私の体勢を無理矢理に崩したのだ。

 それでも、ここで距離を離すのは愚策。

 髪を伸ばし、彼奴の腕を絡め取って態勢を制御。

 拳を振りかぶったところで──苛烈な炎を纏う蹴撃が飛来した。


 咄嗟にレイヴンから功子の盾を生成し受け止めるが、それも砕かれる。

 胴体にめり込むのは、腕と同じく細長い足。


 思いっきり蹴り飛ばされて、壁面に激突。

 焼けただれた赤銅にむしばまれ、思わず悲鳴を上げる。


「キリク!」


 追撃をかけようとするキャスに、無数の刃が殺到。

 ヴィーチェの牽制を受けて、珪素騎士が背後へと飛び退く。

 落下し、地面へと突っ伏した私を、飛んできたヴィーチェが支えてくれる。


「キリク、キャスパ・ラミデスの功子容量は無尽蔵よ」

「そ、の話は、以前聞い、た」

「黙って聞いて。あいつには秘密があるの。精強なる珪素騎士の中で、あいつだけが最強の二つ名をほしいままにする理由。それは──」

「ご密談ですかぁ? 戦闘の最中は、私語を慎むものと習わなかったので?」

「「ッ!」」


 拡張刃衣の壁を突破したキャスが肉薄。

 私たちはお互いを突き飛ばし、彼奴の一撃を紙一重で回避。

 炎の爪が、構造体を砕き、融解させる。


 段違い。

 この珪素騎士だけは、強さの桁が違う!


 時間をかければ不利と、私とヴィーチェの意見が一致。

 強引な攻勢に打って出る。

 あめあられと降り注ぐ重力の刃。

 キャスは炎の糸を編んで笠を作り、凡てを融解させてしまう。


 隙を見て、白兵戦の距離へ踏み込む私。

 薄ら寒い笑みを湛えた珪素騎士の顔面に、右、左と拳を打ち込むがどちらも躱される。

 しかし、これは釣り餌。

 渾身のミドルキック──からの変速下段蹴りが、わずかに彼奴の対処速度を突き破り、その右足をへし折ることに成功する。

 火花が散る。


「グッ──叛逆者!」

「誰も彼も、珪素騎士は私に首ったけだな。だから本命を見誤る」

「──まさか」


 キャスが振り向いたときには、もう遅かった。

 魔女が、刃の展開を終えていたのである。


「拡張刃衣戦術、第四十二式」


 出し惜しみは皆無。

 頭上に片手一本で振り抜かれるのは、超々巨大な重力の剣。

 彼女が保有するすべての刃衣が一つとなり。

 無数の重力と斥力の反発が、一方向に統一されて凄まじい威力を生み出す。


 荒れ狂う超重力の合成!

 紫電を纏わり付かせた一度きりの必殺剣が、いま振り下ろされる!


残光剣ガンマレーザー・バースト毀炉之刃(キロノヴァ)!」


「魔女めぇえええええええええええええええええええ!!!」


 ふれるものすべてを原子分解する超潮汐力の刃を。

 しかし、キャスは受け止めた。


 最強の珪素騎士の名は伊達ではないと、炎糸を無数に重ねた盾をつま弾き、さらに爆炎を重ねて防御する。

 真珠貝のような歯がへし折れることも構わず、ゴシックドレスが潮汐力に分解されるのもいとわず。

 キャスは奥歯を噛み締め、さらにおのれの力を吐き出していく。


 その背中で銅鏡が、これまでになく発光。

 一目で解るほどの異常な値の功子を放出する。

 功子皮膜が、目に見えるほど増大。


「がああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 そして、爆発。

 大規模な爆発が、辺り一面を吹き飛ばし。


 ──爆縮する。


「〝地を這う虫けらは黴菌をばらまき、豊かなパン種を駄目にする〟──」


 地の底より響くのは詠唱。

 おのれの渇望をあらわにする、功子の秘奥。


「〝ああ、願わくばカイザーの慈愛を持って〟──〝この世の遍く汚物を焼却されたし〟──〝神の慈愛をここに〟──〝賤しき異教徒に、神火を以て聖別を〟」


 それは揺らぐこともなく確かに、おのれの信念を蛮名化(さいだいか)し。

 (つい)に、最強の名を結実させる。


「〝疑似・功子転換(サラケノーイ)──浄化焦土(ローゼンクリーガー)〟!」


 咲き誇るは、黒紫の薔薇。

 花弁がすべて散る瞬間、先ほどとは比べものにならない熱量が、この領域を席巻した。


「燃え尽きろ、元凶たる魔女め!!」


 炎がほとばしる瞬間。

 私は。

 私たちは。


「キリク……!」

「ヴィィィィチェエエエエ!!」


 互いの手を、掴んで──

更新は毎日21時ごろ

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カクヨムのほうで数話先行掲載しておりますので、お気になった方はそちらも是非

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