98話 廃課金なゲーム少女
「運命の三姉妹」はハンター仲間の間ではかなり有名である。名前を言えば、嫌なことを思い出したと顔を歪めて、雇用していると答えると、さすがはアリス嬢だ、廃課金姫だねと驚かれて、尊敬の視線を受ける。それがノルンの三姉妹を真似た「運命の三姉妹」である。本当に尊敬の視線かは不明であるが、ポジティブシンキングなバウンティハンターアリスはそう思っていた。
なぜに廃課金姫と褒められるかというと、彼女らは悪名高きコンプリートガチャにて3人全員を揃えないといけないからだ。バラバラにガチャで出る三姉妹。彼女らは三姉妹全員を揃えないと、レベル1のただのメイドさんである。3人揃うと覚醒して「運命の三姉妹」として神の力を持つメイドとなる……という、ギャラクシーライブラリの造りし神秘的な生命体という触れ込みである。
神の力とギャラクシーライブラリの説明を聞いて、もちろんアリスも手に入れるべく奮闘した。ガッチャガッチャとガチャコインを古代神殿に奉納して、かなり使い込みダブった他のアイテムが山となってようやく揃えられたのだ。
だが、苦労は結ばれたとアリスは飛び跳ねて喜び、三姉妹を覚醒させて、その能力に驚愕してガックリと膝をついた。
彼女らは全ての生産スキルをレベル300まで扱えて、戦闘スキルも200レベルまで扱えるという能力だったのだ。
当時のアリスはレベル400。当時のアリスの部下は成長タイプのを部下のレベルとしてはカンストレベルであった350でそれぞれ特化した仕事にて揃えていた。三姉妹は固定能力値。倉庫行き決定の能力値であり、しかも全員の容姿は全く同じ。性格が申し訳ない程度にすこーし違っただけなのであった。
特殊スキルとして、生産スキル使用時に運命の女神という、成功率30%アップがあったが、特化した仲間はハイクオリティ10%作成の特殊スキルを持つ。ハンターがどちらを選ぶかなんて言うのは言うまでもないことであった。もちろんアリスも特化した部下を使用した。
もちろんハンターたちはこぞってクレームを入れた。手抜きすぎだろと。集金えげつなさすぎだと。アリスも毎日クレームを入れた。大量にコインを使って手に入れたのに、これは詐欺です。詫びガチャコインをくださいと。
ギャラクシーライブラリの答えは、「破壊の戦乙女9姉妹」というコンプリートガチャを追加するという結果であった。
アリスは珍しく怒った。激怒した。憤慨して、地団駄を踏んだ。もう騙されないぞと心に誓い、それでも性能が凄いのかなと、コインを手にしてガチャをしちゃって、コンプリートをしたが、生産スキルレベルと戦闘スキルレベルが反対なだけのあとはほとんど同じ能力の、金髪ツインテールという容姿が同じ9姉妹が手に入るといった結果となったのであった。
まったく懲りていなかったアリスであった。
ギャラクシーライブラリはそこであまりの抗議に反省したのか、コンプリートガチャをしなくなったが。
怒ってもガチャはしちゃう廃課金ハンターアリスであった。以降はどうでも良い仕事とかお着替えをしてもらうためにしか三姉妹は使わなかったアリスである。
鏡はもちろん覚えていた。三姉妹は8万円、9姉妹は12万円かけてコンプリートしたので。9姉妹が12万円で揃えられてラッキーとか、金銭感覚のずれた感想を呟いてもいた。以降、コンプリートガチャ問題で世間が騒いだので、運営はコンプリートガチャをすることはなくなったが。
セットアイテムガチャとかいう、名前を変えたガチャが出たりもしたが。どういうのかというと、揃いの装備を作るのに必要なレジェンド素材が出るという触れ込みだった。装備分の素材を手に入れなければならなかったので、さらなる課金をした覚えがある。
アリスは三姉妹を前にして、いつもの如く平然とした顔で、三姉妹のぷにぷにと胸をつついていた。柔らかくて触り心地が良いですねと。三姉妹を出すときはだいたい胸をつついていたのだ。
もちろん元凶はおっさんうさぎの鏡である。着替えをさせては、胸をつつくエモーションをアリスにさせていたおっさんだ。アリスはその記憶を元に行動していた。カニカニと鏡は横歩きをして、そのゆりゆりした光景をベストアングルで見ようと鼻を膨らませて移動して、スナップの効いた今日子のジャブに鼻を叩かれるのであった。
「さて、鏡からは後で見物料をとるとして、挨拶はここまでです。三姉妹にはこの鉱山にて活動をしてもらいます」
あのおっさんうさぎはいつもエッチだからと放置をしておく。三姉妹へはこんな仕事なんて簡単ですよねと、ニコリと可憐に小首を傾げてアリスは尋ねる。できませんという答えは聞きませんと言外で表している。胸を触ることといい、仕事ができるかを確認しないことといい、そもそも冷凍睡眠にしておくのは、ブラック企業も真っ青な暗黒ハンターアリスである。現実となると、酷えなと鏡は赤くなった鼻を押さえながら、その様子を見る。
「わかりました。ここは鉱山なのですね? そして私たちを呼び覚まし、側近は起こさないと言うことは、低レベルの鉱山ですか?」
代表で長女の明日香が目を細めて、冷たさを感じさせる声音で尋ねてくるが、寒さをまったく感じないブラックアリスはこくんと頷き肯定する。
「ここは長期クエストにて、今のところは私だけが訪れることのできる惑星です。おっさんフェアリーの怪し気な誘いに乗ったらこの惑星に到着しました。資源独占し放題なので、領地を持つことに決めたんです。この鉱山は先程手に入れたレベル150の晶石鉱山ですね」
凄いでしょと胸を張って、反らしすぎてウワァと後ろに転がっちゃうドヤ顔アリスの言葉を聞いて三姉妹は顔を見合わせた。色々と端折り過ぎな説明であったが、なんとなく理解したのだ。
「………他のハンターがいらっしゃらない惑星? そんな惑星があるとは信じられませんが」
「疑問は当然です。正直なところ、出会わないだけで、ハンターは他にいると思いますが、今のところはいないという想定で動いています」
よいしょと立ち上がり、パンパンと服の埃を落としながらアリスは明日香の疑問に当然そう思うよねと答える。自分だって、信じられないのだから無理もない。
「ここはギャラクシーライブラリの届く惑星ではないのです。辺境の中の辺境。それがこの惑星仮称いいいいですね」
「いや、フロンティアだって決めただろ! なんで不採用の名前を告げるわけ?」
その名前は却下だ、却下とおっさんうさぎが猛然と抗議をするので、そういえばそうだったっけとアリスはなんとなく思い出す。
「おっさんうさぎが決めたネーミングセンスのない名前なので、きっとすぐに忘れたんですね。私は覚える価値のない名前はすぐに忘れちゃうので。そういえば、おっさんうさぎの名前はなんて言うのでしたっけ?」
「いいいい、よりネーミングセンスはありますぅ〜。おっさんの会心の名前ですぅ〜、無駄に毒舌を高めようとしているだろアリス!」
バレたかと、ぺろっと小さく舌を出して、真剣な表情へと戻すと、三姉妹へと告げる。
「この鉱山をフル活動させます。想定埋蔵量は150年分あるとマップには記載されていますし、この鉱山の採掘が貴女たちのお給料となりますので。サボる人はハンター流のご褒美をあげるので覚悟してくださいね?」
「相変わらず、清々しいほどに人をこき使うそのスタイル。非道な性格は変わらないようで、何よりです」
「有休その他はいつもと変わらないですよね?」
「ボーナスは春夏冬の3回を希望します」
三姉妹は、クスクスと妖しくからかうように笑い、揃って頭を下げてくる。その息のあった行動と、皮肉げで強欲なところは変わっていないですねと、誰よりも強欲な少女は安心した。モニターには忠誠度100と黄金の文字で輝くように表示されていた。
ブラック企業代表取締役アリスは、金払いと休暇はたっぷりと上げるのだ。鏡の性格的に常に忠誠度100ではないと、裏切られる可能性があると考えている小心者なので、その行動を反映してアリスも同じ行動をしていた。
即ち、給料上げてと言われたら、言われるがままに給料を上げてあげるし、プレゼントを貢いだり、宴を開くことに余念がない。今まで使ってきた人から、簡単に有能な人間へと仕事を渡すドライさも見せるので、外資系ハンターアリスと名乗っても良いだろう。
「さて、マップは見れますよね? この地の状態を見てください。どのようなことなのかわかりますよね?」
宙に浮かぶモニターをポンポンとタッチして、三姉妹へと確認をすると、真剣な表情で三姉妹もモニターを叩いて、お互いの顔を見合わせて、コクコクとアイコンタクトをする。以心伝心な三姉妹の中で今日子がフムとほっそりとした白魚のような人差し指を口につけてアリスを見てくる。
「アリスシティという狭くて小さいケチケチなシティを造ったのですね、あるじ様。本来の貯金を1マテリアルも使わない見事な街。そして、ここはたった今手に入れた鉱山ですか」
「なるほど、ハンターがいないというご主人様の申されることに信憑性を持ちました。もしも他のハンターがいらっしゃるのであれば、ご主人様はレベルをそのままに、貯金を使わずに低レベルの街などを造るわけがないですものね」
昨夜も話に加わりながら、現在の状況を確認してくる。アリスの現在のレベル、街の規模を見て、素早く現状を推察する知性の高さを見せてくる。そのとおり、アリスは侵略者は大歓迎だが、侵略されるのは大嫌いなのだ。もしも倉庫の一つでも破壊されたら、躊躇わずにレベルを上げて、ガチガチの防衛網を作るだろうことは間違いない。
矛盾しているようだが、アリス的には矛盾はない。侵略者は防衛網で全て撃退して、倒した敵の残骸やアイテム全てを回収するのがアリス論なのであるからして。そこには自分の被害はゼロ、もしくは防衛網が傷つくだけと言う完璧な理論があるのであった。拠点を破壊されるのはノーサンキューなのだ。たとえ、倉庫一棟であっても。
300レベルの部下ですが、頭は相変わらず良さそうだし、低レベルでもなかなか使えそうですねと、アリスは薔薇のように顔を喜びで綻ばせて頷く。見知らぬ他人が見たら美少女のその笑みに周りは魅了されてしまうだろう。
「では、私の言いたいことがわかりますよね? 採掘用ファクトリーに、飛び地である鉱山防衛用ドロイド兵も用意してください。できるだけ安く。もしくはタダで。元手は少ない方が嬉しいです。条件は以上なので簡単ですよね。温すぎてカップラーメンもできないぐらいな感じです」
ふんすふんすと鼻息荒く、無茶振りに思える指示を出す守銭奴アリスに、呆れもせずに恭しく三姉妹は再度頭を下げる。
「畏まりました。この地のアイテムは使ってよいのですよね?」
「マップに表示されているブロンズパウダーを使ってよいのですよね?」
「作るものはもう決まりましたね」
三姉妹が頭を上げながら、お互いの背中を合わせるように立ち位置を変えて、ポーズをとるようにして、薄っすらと冷たい笑みを浮かべる。
「我ら三姉妹にお任せあれ」
「我ら三姉妹にお任せあれ」
「我ら三姉妹にお任せあれ」
声を揃えて答えると、三姉妹はその腕をゆっくりと天へと翳すのであった。




