97話 鉱山奴隷とゲーム少女
戦闘はあっさりと終わり、周囲の喧騒は静まっていった。未だに坑道付近で抵抗をしているナーガたちがいるが、もはや戦況は覆ることはない。外壁にてアリスの多弾頭ミサイルにてほとんどのナーガは吹き飛んでおり、その後もわんにゃん隊と、ゾンビアタックを繰り返す鏡の力により蹴散らされたからだ。質が悪いおっさんだがじわじわとうさぎの耐久力が減っていたので、あとでアリスに怒られる可能性あり。
鉱山の奴隷。人間族は突如として始まった戦闘に恐怖し、家屋の影などに隠れていた。常ならば普通の軍隊なら乱暴狼藉間違いなし。それを目的に戦いに加わる傭兵がいるぐらいなのだが、アリスの軍隊は違った。
奴隷には目もくれずに、ナーガを倒していくのみであった。しばらくしてから、あれだけ響いていた金属音は聞こえてこなくなり、戦いの怒号は収まる。
恐る恐ると奴隷たちやドワーフたちは勝利者たる軍を見るが、不思議なことにまったくこちらへと目を向けてこなかった。なにか他に目的があるように。
「制圧は終わったようだな、アリス」
「そうですね。かなりうさぎさんの耐久力を減らしたようですが。おっさんフェアリーの頭のように、うさぎさんの毛を剥げさせないでくださいね」
「禿げてませーん。俺の頭はふさふさです〜。え、そこで目を逸らさないでくれる? 禿げてないよね? 俺、禿げてないよね?」
そっと憐れみの表情で目を逸らすアリスにおっさんは焦るが、沈黙を保つ。アリスは新たなるおっさんのからかい方を覚えた模様。
「ふざけるのはそこまでにして、次はどうするんだい? この鉱山地帯を領土にするのかい?」
血のついた剣を布で拭いつつレイダが尋ねてくるが、答えは決まっていた。一度手に入れた物は私の物ですなハンターアリス。この領土も私の物ですと、看板を立てておく予定。
「この地も防衛するとなると、少しばかり厳しそうですぜ、姐さん」
ドーベルが鉱山を見渡しながら、眉を寄せて困ったように聞いてくるが、たしかにアリスシティとこの鉱山、その両方を守る兵はわんにゃん隊にはない。わかりきったことである。
アリスもそのことは理解していたし、無理をしてこの地を守れなんていうつもりはない。そもそも鉱山を守るのは生身の人間よりも遥かに適性のある者がいるからして。
「この地の奴隷はアリスシティに連れていきます。そもそも採掘スキルのない人に採掘なんて資源がもったいないです」
スキルなしがつるはしを振るって、全て小石と結果がなってもらっても困るのだ。採掘時にしっかりと鉱石の目利きができるスキル採掘が必要なのが、鉱山では必須なのであるからして。
なので、ポチポチとボードのボタンを押下していく。パパッと地域一帯の情報が表示されるのでその結果を確認して良かった良かったと安心するアリス。
横合いからおっさんうさぎが顔を突き出してくるので、ほっぺにチューをするつもりですねと、ペチリと叩く。
「いや、そんなことしないから! 鉱山の情報を見ただけだろ!」
「最近、怪し気な動きをしているから悪いんです。ほら、歩いたり、走ったりしているでしょう?」
「するね、普通にしているね。そろそろ訴えても勝てると思う今日この頃だが……この鉱山なかなか良いな?」
ムキーと怒るふりをするが、すぐに真面目な表情となるので、少しつまらないですと頬をプクッと膨らませてアリスも頷く。
「意外なことにここは晶石鉱山ですね。しかもレベル150相当の。これだけ高純度な鉱山、もはや誰にも渡しません。奪いに来たらハンター流の迎撃を見せちゃいますよ。たっぷりと見せちゃいます」
銅鉱山と聞いていたのに、これはなぜかしらんと考え込むが、きっと領地初心者ハンターがクエストをクリアしたご褒美ですねと納得した。よくあるのだ。初心者救済のために、分相応なアイテムが手に入ったりするのが。
自分の場合はこの鉱山がそうなのですねと、アリスはゲーム理論に従って納得した。おっさんは納得しなかったが、なぜ鉱山がここまで純度が高い晶石が採掘できるかは、なんとなくわかった。
晶石は人の多い所に集まる。血を見るような、龍脈が集まるようなところにも。ここは人間族の長年流された血で作られた鉱山なのだろうなと、怯えて隠れている奴隷たちを見て思う。
「まぁ、これからはないから良いけどね」
別に沈痛な暗い思いになるとかはなかったけど。ゲームから抜け出したアリスに負けず劣らず、おっさんも結構倫理観が酷かったので仕方ない。前向きであると言い直せば良いだろうか。
ともあれ、おっさんの予想通りなら、ここの人間族はまともな生活になるだろうし、過去のことはおっさんやアリスには関係ないことだ。小説の正義感のある主人公のように、その光景を見て、俺は全ての奴隷を解放するとか、世界を支配してやりまつとか思わないのがアリスとおっさんのスタンスなのであった。
「やりましたよ、鏡。ここの鉱山は予想以上の場所です。収益性も跳ね上がります。これで研究者を雇ったり、開発が行なえますよ」
ふんすふんすと鼻息荒く、これから散歩に行くんですと喜ぶ子犬のように興奮しながら、アリスはポチポチとボタンを押下していく、
この収益性ならば目下問題としていた事柄を解決できるのだ。簡単に言えば部下に給料を払える。農家しか職業が存在しないこの地の人々には期待できないので、アリスは断腸の思いで清水寺から命綱付きで飛び降りた。
ピピッと音がして、冷凍睡眠から誰を起こしますかと、選択肢が現れる。それを見てアリスは給料が安く、それでいて万能な部下を選ぶことにした。万能といえば聞こえは良いが、ようは特化したスキルを持たない器用貧乏な者である。ただしそれは500レベル以上での場合。現在の低レベルならば万能な者たちを起こすのがちょうどよい。
スキルが低いと言っても、低レベルならば最高のアイテムなどを作れるので。
「誰を起こすんだ、アリス?」
興味津々で尋ねてくる鏡に可憐な笑みにて、ふふっと笑い告げる。
「運命の三姉妹です。彼女らなら今の私の役に立つでしょう」
「あ〜、なるほどね。たしかに彼女らなら大丈夫かな」
鏡も納得して、ふむふむと頷くのを横目に見ながら覚醒ボタンを押下する。
それと共に、空中に立体型の複雑な幾何学模様からなる魔法陣のようなマテリアル回路が現れる。青い光を放つその幻想的な光景に皆が驚き口を開いて眺める中で、回路は稲光を放ちつつ激しく回転をしていく。
そうして回転をするマテリアル回路がその回転をゆっくりと停止していく中で、足先から徐々に腕組みをして、目を瞑る少女たちが姿を現す。
つま先をトンと軽やかに地につけて、体の全てを現した少女たちはゆっくりと瞼を開き、アリスを見てくる。
「おはようございます、アリス様」
「どれぐらい眠っていたのでしょうか、あるじ様」
「この時から給料は発生しますからね、ご主人様」
まるでクローンのように顔が同じ少女たち。その髪は銀糸のように煌めいており、切れ長の瞳と高い鼻、微笑みが冷たそうにも感じる3人の少女。メイド服を着込んでおり、そのスタイルは男を魅了するグラマラスな身体を持つ。
「おはようございます、運命の三姉妹。明日香、今日子、昨夜。給料はまだ発生していません。まだ休暇中の扱いですね」
給料というもっともアリスが聞きたくないNGワードを口にされたので、まだ給料発生してないもんねと、僅かでも支払いを渋ろうとする守銭奴アリスであった。
「アリス様、私たちを起こしたということは、それだけ仕事が増えたのでしょう? 料理ですか? それとも洗濯ですか? 委託先機械のメンテナンス? それとも新しい服を手に入れましたか?」
守銭奴なケチケチアリスのことは、よく知っているので、明日香が目を細めて聞いてくるので、珍しくアリスは居心地悪そうに身じろぎした。
なぜに居心地悪そうにしたかは、おっさんうさぎも同じく居心地悪そうにしてるので犯人は明らかである。
「今日は普通に働いてもらうために起こしました。新しい服を手に入れたわけではないですね」
「この間のマイクロビキニ以上の物を手に入れたかと思ったのですが、そうですか、珍しいですね。仕事で私たちを呼び出すとは」
皮肉げに言ってくるので、仕方ないなぁと、アリスはふぅと息を吐ききっぱりと告げた。
「だって、貴女たちではレベルが足りない仕事が多かったのですから仕方ないですよね。バウンティハンターは常に有能な人材を使うんです。貴女たちは着替え要員として有能でした」
普通の人なら言わない言葉を平然と告げるアリスである。ゲームでは鏡は縛りプレイはしていなかったので、ゲームらしく有能なNPCにどんどん切り替えていったのだ。ゲームだと当たり前の行動だのであるからして。そしてそれをアリスはもちろん自分がしたと思っていた。
「むっ。開き直りましたね。まぁ、たしかにそのとおりですが、口にしないでくださいませ。心が傷つきます」
苦しそうな暗い表情で顔を俯ける三姉妹なので、アリスはもうワンタップモニターを叩く。
「給料が発生するように設定しました」
「なんなりとご命令を。我らが素行の悪いあるじ様」
その言葉を聞くやいなや、汚れることも厭わずに地に跪き胸の前で手を添えて忠実なるメイドへと掌返しをする三姉妹である。皮肉を一つ混ぜるのはやめない模様。
皮肉げに言ってくるが、最初に気まずそうにしただけで、給料を払った途端に罪悪感ゼロとなるアリスはいつも一言多いメイドたちですねと思いながら軽く頷く。
そのために罪悪感がありそうな挙動不審者は一人となった。誰あろう鏡である。なぜ罪悪感があるかというと、彼女らを使いエッチそうな服装の着替え大会を繰り返していたからだ。アリスと違い胸に分厚い装甲を持っているグラマラスな身体なので、ゲームでプレイヤーがよくやるように、おっさんも繰り返しそんなことをしていた。
アリスは給料を支払ったんですから良いよねと気にすることを即行やめたが。
三姉妹とのお付き合いが大変そうなおっさんうさぎである。
あわあわと挙動不審なおっさんうさぎの様子を見るが、いつもこのおっさんうさぎは挙動不審だよねとスルーして、アリスはにこやかな笑みで三姉妹へと命令を下すのであった。




