95話 ゲーム少女と鉱山制圧
木も見えない荒れ果てた地肌が広がる山裾には大勢の人々が働いてた。見ればどんな人種が働いているのかがわかる。
全てボロ布を服として着込んでいる人間族であった。
全員疲れた表情で原始的に土を採掘場から土を運び出して、選別するものたちへと置いていっている。
まともな服装を着ている者たちはドワーフたちだ。ひげもじゃで樽のような体躯。ごつい筋肉質の身体だが、その手先は極めて器用であり繊細な細工もこなす。そして鉱山でははずせない人種であった。なにしろどのような鉱石かを簡単に見極めることができるのだ。
そのため、イーマ国でもドワーフは例外的に良い待遇とされていた。どの国でも働ける人種、それが金属加工の力を持つドワーフなのであった。
厳しい眼で次々と運び込まれた土を選別して優良な鉱石を選んでいくドワーフ。しかしてその姿は疲れてもおらず、特に厳しい労働とも感じていない。
それに対して人間族は酷かった。絶望の表情で奴隷の身を歎きながら、いつ落盤で死ぬかわからない鉱山で働ているのだから。
しかも1日2食の飯は黒パンと具の無いスープである。腹が減って反乱を起こす考えも起こせない。まぁ、ナーガ相手には訓練していない人間族では敵う相手ではないのだが。
ゆえに常に絶望を表情として浮かべて、今日もよろよろと足取りもおぼつかなく土を運んでいた人間族であり、それを監視していたナーガ族も暇そうにしていた。
監視といっても、機嫌が悪い時は、そこらへんにいる人間族を鞭で叩く程度。死んだら、そこらへんに捨てておくように奴隷に言うぐらいとほとんど仕事がないとぼやいていた。
監視役とは名ばかりで、人間族を虐げるのみのナーガ族をチラチラと視界に入らないように仕事をしながら人間族はため息を吐き、今日の仕事が命を落とさずに終わるように祈りながら過ごす。
そんないつもと同様の日であると考えていた人間族、ドワーフ族、ナーガ族であったが、そんないつもと同様の日は今日をもって終わりになるとは誰も思っていなかった。
ナーガ族の監視役が次々と頭を打ち砕かれて死んでいくのを見て、皆が悲鳴をあげて混乱をする。
「敵襲~! 敵襲~!」
櫓に登っていた見張り役が叫び、トーギ国へと指を一生懸命に差しているのを見て、騒然とし始める。
カンカンと鐘が響き、ナーガ族の兵士たちが防衛につく。
トーギ国と隣接して常にその領土を争っていた係争地でもあるために、ここには1000の精強なナーガ族の兵士が詰めていたために、訓練どおりにテキパキと配置につく。
「敵の数200! 犬人、猫人族! 先頭は人間族?」
すぐに敵の数を伝えてくる見張りであったが、その内容を聞いて指揮官は厳しい顔つきとなり叫ぶ。
「敵の人間族はシグムンドか?」
数が少ない敵の兵士団。もしやシグムンドが戦いを挑んできたかと考えたのだ。
この世界は神器というものがある。各国が1~3個の神器を持っており、その中でも戦闘用神器は凶悪である。神器には神器で対抗する必要がある為、滅多にそれを使う事はない。
しかも銅鉱山を奪うために神器を使うなど考える事も難しい。
しかし、たった200人の兵でこの鉱山をおとそうとするのであれば、可能性はあると指揮官は考えたのだ。
なので、先頭に立つ人間がシグムンドかと尋ねたが、見張りの答えは頼りない答えであった。
「わ、わかりません。しかし、大剣を持ってはいるみたいですが」
チッと舌打ちをして、指揮官は部下へと命じる。
「大門を閉めよ! 城壁の上にて弓兵は射撃開始!」
この大門はドワーフの設計の元、奴隷を大勢酷使して作り上げた高さ20メートル、厚さ10メートル。壁のぼりが得意な種族に対抗するために、ネズミ返しと同様の物が城壁脇に設置されている。城壁の通路が10メートル近くの広さを持つので、ナーガ族でも余裕で兵を展開できる場所である。
大門が大きく音を響かせながら閉まる。分厚い鉄の門だ。これで簡単には攻めてこれまいと指揮官は安心する。 ただし、シグムンドがもしもいるのならば話は別である。というか200という兵の少なさから不気味さを感じる。まさか、特攻してきたわけではあるまい。
「なにかしらの勝利を確信することがあるはずだ………」
それを見てから援軍を呼ぼうと考えた指揮官は守備隊と同様に兵に登り相手を見た。
森林から現れた戦士団は随分立派な装備をしているように見える。薄らと輝くその鎧はまさかと思うが魔法の鎧なのであろうか? 全員が同様の装備をしているので一瞬気になる。
そして先頭の男は人間族であった。ただし………。
「シグムンドではない………か」
目を細めて相手を睨むように確認する。指揮官はここの守りを任される前に、シグムンドの姿を含めトーギ国の有名どころは王都の宮廷魔術師の幻術により見せてもらっているのだ。
顔がわからない場合で、相手を侮った場合は神器の一撃で勝敗が決してしまう可能性があるからである。この点は異世界ならではの慣習というものであろう。
ならば、なぜたった200人で攻めてきたのだと首を傾げて考えていたところ
「な、なんだあれは?」
「あぁ、なんとういう力………か」
「じ、神器だ!」
指揮官が周りの叫び声を耳に入れて、先頭の人間へと視線を戻すと
「ば、ばかな、トーギ国は新しい神器を手にいれたのか?」
視線の先にいる人間は大剣を両手に持ち、恭しく掲げていた。
その大剣の先は光り輝き、集まる光の粒子は剣の形をかたづくり、どんどんと先端を伸ばしていく。
天へと伸びていく光の剣を掲げて先頭の人間は叫ぶ。
「剣技『フォールストライク』」
全身を立派な装備に包んでいた人間の男が叫び共に剣を振り下ろす。
光の剣は振り下ろされて、城門へとぶつかり光がチラチラと周りへと飛び散る中で城壁と城門はまるで雷でも落ちたようにガラガラと崩れ落ちていくのであった。
鉄で作られた門は砕けひしゃげており、真っ二つになって吹き飛んだのを確認して、先頭にいたおっさんはニヤリと凶暴そうに笑った。
「ふははは。近くにいれば睨め~。遠くにいれば耳をそばたてよ~………なんか違うな? なんだっけ?」
首を捻って、よく戦国ゲームとかで猛将が叫ぶセリフを言おうとして、うろ覚えなので適当なセリフになるおっさんであった。
名前は鏡。アホの鏡として有名になればいいだろう。
「団長さん! 遊んでいないで突撃するよ!」
腕を組んで、なんというセリフだっけ?と首を捻り考えこむ自分の上司である神殿騎士団長へとレイダが怒鳴り注意する。
その言葉に視線を向けて鏡はのんびりと戦場らしくないセリフで返す。
「あぁ、アリスがあの集団を撃破してから突撃するから、ちっと待ってて」
砕かれた門前にはナーガ族が盾を構えて集団で集まっている。
「おのれ! 神器持ちか、まさかシグムンドか?」
こちらを誰何する問いかけに、フンと鼻を鳴らして仁王立ちにて鏡は楽しそうに答える。
「俺こそは宇宙樹を崇める教団が神聖騎士団長カガミ・ケーマ! 家名が後で、名前が前だ! たしかそれでいいはずだよね? レイダ?」
この名乗りで会ってるよねとレイダへとちらりと視線を向けるいまいち決まらないおっさんであった。
そんなアホなやり取りをしている中で、門前に集まったナーガ族に森の中から光の帯が飛んできて、命中する。
一瞬の眩しさで目を細めるわんにゃん隊とおっさん団長。
すぐに大爆発が起こり、門前の数百はいたナーガ族直撃した者は肉片となり、起きた爆風により周囲の兵士たちは吹き飛んでいくのであった。
その光景を見て、ドーベルが剣を掲げて叫ぶ。
「おっしゃー! 姐さんの攻撃だ! てめえら、今がチャンスだ、突撃、突撃~!」
ときの声をワンワンとあげて、わんにゃん隊は突撃していく。
「あぁっ! それは俺のセリフじゃね? 俺のセリフだよね? うぉ~、突撃!」
間抜けな声をあげて、おっさん団長も剣を構えながら突撃をしていく。
城壁にいたナーガ族は混乱していた。門が破壊されたために門前に集合して敵の侵入を許さんとした者たちもどこからかきた魔法により吹き飛ばされたからだ。
「ま、まずい、魔法使いたち、敵へと魔法をかけよ。弓兵隊、矢を射よ………!」
城壁にいた指揮官がすぐに叫び体勢を立て直そうとする。
神器もちが現れた以上、ここの防衛は難しいかもしれない。だが、それでも踏みとどまり援軍を要請しようと考えたのだ。
その考え自体は正しく立派な兵士であった。
アリスが相手では無ければ、
しゅるるるという音と共になにかが城壁へと落下してこなければ。
「なんの音だ?」
噴煙を吹きながら、なにかが城壁全体へと降り注ぐ。
その噴煙を吹くものの正体は多弾頭ミサイルという名前であったが。
指揮官は永遠にその名前を知ることはできなかった。
轟音と共に城壁がミサイルの攻撃にて連続的に吹き飛んだからだ。
爆炎と爆風。そしてそのミサイルの威力にて城壁はガラガラと崩れて、ただの瓦礫へと変わっていった。
瞬時にナーガ族の精強な兵士たちはその攻撃にて崩壊したのであった。
モニター越しに森に隠れてヒナワン種子島2式に搭乗していたアリスは満足そうに敵の崩壊を確認した。重厚な機動兵器の肩から使い捨ての格安多弾頭ミサイルポッドが外れて光の粒子となり消え去っていく。
「最初はスナイパーライフルで倒そうと思いましたが、敵の数が多すぎましたね。あ、レベルが55になりました」
無邪気なる声音で今の攻撃の感想を言うアリス。そこに慈悲はない。敵は倒すのみと決めているのだ。降参も認めますよと形だけは考えるが相手から言わない限りはサクサクと倒しちゃうゲーム少女であった。
鉱山内は狂乱の喧騒が響き渡り、懸命に残りのナーガ族が対抗しようとしているが無駄であろう。もはや数は同数になったはずであり、装備の状況により負ける事はない。
さて、自分も鉱山街に行きますかねと、ふんふふ~と鼻歌交じりにヒナワンをハンガーへと仕舞いこみ、自分も街へと足を進めるのであった。




