92話 ゲーム少女と蛇の奇襲
薄暗く前も見えない夜の中、しゃりしゃりと地面を擦る金属のような音が僅かに森の中に響く。
森林にはホーホーとフクロウが鳴いており、虫がチーチーと鳴いている中で、繁茂している雑草を踏みつぶしながら大きな蛇が移動していた。いや、蛇ではない。下半身が蛇であり上半身が人間である種族。ナーガであった。
ナーガ族はその巨体を利用した力。高い魔力。蛇らしい痛みに強い身体と体力と他の種族より遥かに基本ステータスが高い。全てが高性能なステータスを持っているのがナーガ族であった。
獣人との戦闘では敏捷には劣り、エルフには魔力で劣り、ドワーフに筋力で負ける。しかし、その魔力は獣人に勝り、敏捷ではドワーフに勝り、筋肉ではエルフに勝る。なおかつ尻尾を含んだ連続攻撃、体重を利用した突進能力、そして高レベルの魔法で戦うのだ。総合的な力では他の種族より大幅に高い能力を持つ。なので選民思想が激しくナーガ族こそが世界の支配者であると言って憚らない。人間族など農奴か下働きにしか使えないと信じている。
そのナーガ族が今、人間族が作ったという街へと侵攻していた。噂による港街であり、人間族が中心の街らしい。なので、海からと海を渡って上陸して森林から攻め込むチーム500人ずつでわかれて侵攻していた。
森林部隊は万に一つも負けは無いと信じていた。獣人族の騎士がいると聞いているが、こちらには切り札たる鉄蛇がいる。今も静かにしゃりしゃりと地面を這いながらついてきている。
王が作り上げた鉄蛇の1匹であり、この鉄蛇がいれば簡単に街など落ちるであろう。
制圧が終了したらすぐに沖に待機している船団を迎え入れて拠点として要塞化する。そのままトーギ王都まで進軍していく予定である。
今回は失敗しても、この港町だけでも取れれば、将来的にはトーギ国を攻める布石となるだろう。こんな場所に人間族の港町を作るのを許すとはトーギ王の愚鈍さを笑ってしまうと、ナーガ族の先発であり、猛将と呼ばれたモートは嘲笑う。
あれは農奴として使うしか使い道が無いとモートは信じていた。鍛えれば強くなるという話はよく聞くしこの国最強も人間族だが、それは極々一部の人間族であり、全体を見ればあれらが特異なのだ。どんな種族にも特異な強いものは生まれるものなのだ。参考にはならない。
しゃりしゃりと地面を這いながら、この街を制圧後のトーギ国の動きを考える。集めた情報によるとこの港町はトーギ王が別国の領土として認めたと聞く。それならば、制圧してもそれを盾にして戦争の口実は作らせない。
もちろん、そんな詭弁は信じまいが、それでも街を要塞化できるぐらいの時間はあるだろう。
「モート様、この森林を超えれば港町のはずです」
部下が報告をしてくるので森の中を見渡す。ナーガ族は蛇らしくピット器官が宿っている。ナーガ族特有の能力であるこのピット器官は熱感知能力であり、アンデッド以外の敵を魔法でも使われなければ見逃さない。
なので、報告を受けて改めて森林を見渡し、ふと違和感を感じる。
「うむ………なんだかおかしくないか?」
突如として尋ねられた部下は驚き首を傾げる。
「なにかおかしい事がありましたかな? ここまで敵はいませんでしたし、魔物の姿も見ませんでした。幸運ですぞ、魔物の森にて魔物に出くわさないとは。我らが勝利する吉兆にちがいありません」
自信満々に胸をはる部下。だが、モートはかぶりをふり違和感を口にする。
「静かすぎるのだ。ここは数歩歩いただけでも魔物に出会うと言われている魔物の森よ。それゆえ、今までトーギ国は開拓をしないできた。敵が強すぎるからな」
部下に話していて、違和感の正体に気づいた。なぜこんなにも静かなのだ?
「魔物の森にて魔物が見えない………! まさか魔物がここらへんにこないように策を?」
その可能性に考えがいき蒼褪める。おかしいのだ、間引きもできないほどの魔物の量があるはずなのに。
すぐに顔を厳しくして指示を始める。
「偵察隊。周りの様子を調べるのだ。魔物がここまでいないのはまさか………」
けねんであろうかと考えて指示を出すモートであるが、すでに遅かった。
「やれやれ。気づかれちまったか。もう少し先で倒しておきたかったんだがな」
渋い低音の声音が森林に響き前方の雑草がガサガサと動く。
そして一人の人間族の男性が蒼い全身鎧を装備して現れた。カイトシールドを左手に持ち、右手には水晶を削りだしたような美しい半透明の片手剣を持ち下げていた。もちろんドヤ顔で口元を喜びでプルプルと震わせたおっさんである。名前は鏡。おっさんウサギからおっさんに擬態中。正直ウサギの方がリアル感があるが、それでもビジュアル面では勝っているかもしれない。
「やれやれ、気づかれちまったか。もう少し先に来て欲しかったんだけどね」
「やれやれ、やれやれだよ。やれやれと言えば挨拶になるんだよね?」
レイダたちが後ろから出てきて、みんなが一斉にやれやれと言い始める。特に無邪気な笑顔でチャシャが尋ねてくるので、くぅっとそんな無邪気な笑顔で見ないでと恥ずかしがるおっさんであった。
「………アリスシティの神殿騎士団だな?」
モートは敵の鎧を布みたいに貫通できる魔法の槍を持ち上げて構えながら尋ねる。
尋ねたときには、こいつらは凄腕だと感覚がいっていた。
「その通り、神殿騎士団が団長、カガミ・ケイマだ」
異世界ではこういう言い方が良いよね。ついに俺の無双物語が始まったんだねと内心では喜び踊っているが、表面上は渋く口元をにやっと笑わせるだけに抑える。
「団長か。人間族というのは本当であったか。だが、我らの前に姿を現したのは間違いであったな」
たしかに強そうな人間族だ。だが、ここで団長を倒しておけば制圧も簡単に進むだろう。我らには神器で作った鉄蛇もいる。
「王より頂いた鉄蛇の力を見よ! いけ鉄蛇!」
槍を振りかざして指示を出すと、委任されていた鉄蛇は物凄い速さで鏡へと向かい突撃してきたのである。
その巨大な体に似合わない突進力は尻尾をバネのようにして弾いたように近づいてきた。
鉄蛇が高速で突進してくる中でも、余裕な表情の鏡。すぐに剣を上段に構えて力を収束させる。
『剣技フラッシュソード』
剣がぴかりとまばゆく光ると、夜の中でその輝きが煌々と照らす。
皆がそのまばゆさに目を細めている間に、すでに剣は振り下ろしており、鏡は攻撃を終えていた。
「なんだ。なんの技を?」
モートがなにが起こったかを確認しようとする。見渡してなにが起こったかを見て、驚愕に口を大きく開ける。
鉄蛇は突進をしていたはずだった。敵の団長を押しつぶす勢いで。
だが、その鉄蛇は鏡の後ろにいた。鏡の振り下ろしにて攻撃を与えたのである。
鉄蛇はその金属の頭をズルリと綺麗な断面を見せて断たれる。そのまま地面へと巨体を横たわすのであった。
「ぐっ! 神器か!」
鉄蛇をあっさりと倒した鏡を見て、モートは呻く。鏡の剣は光り輝いており、その中に光の粒子を集めていたのだ。
「魔剣スターソードだ。かた~い敵でも倒せる魔剣だぜ? 凄いだろ?」
余裕そうに剣を掲げながら鏡が言い放った言葉に、ナーガ族はその力を見て怯む。
その姿を見て、余裕の態度を崩さない鏡。内心ではフハハハハハ愚かなナーガ族めと言いたけれど、グッと我慢するのであった。
スターソードはその攻撃を超能力での攻撃に切り替えた魔剣である。すなわち防御力も超能力抵抗がそのまま防御力となるのだ。
魔法を弾く鉄蛇と言えど、その防御力は物理に偏っている。魔法防御力はそこまで高くない。
その力を見てとったアリスがおっさんに渡した剣。ユニークスキルもちの魔剣スターソードを渡したのである。一応レベル100の武器であるし、おっさんにはぴったりであろう。
だが、そんな仕組みなど敵はわからない。たんに物凄い力をもつ剣だと勘違いした。金属の塊を破壊できるほどの力。神器だと考えたのだ。
そして、いつまでたっても人間族が持っている魔剣はその輝きを失わない。まぁ、マテリアルバッテリー式なので当たり前だが。
そのために、効果が長時間継続する神器だとモートは勘違いをした。
神器相手では自分たちでは戦えないと考える。当たり前の話だが、神器の力は圧倒的であり、その力をどちらが先に使うかで全体の戦争は終わるかもしれない程の価値をもつ。
最低でも5年は必要なチャージを必要とするのだから、当たり前だ。
「この程度の戦闘で神器を使い、敵を倒すか………たしかに鉄蛇は神器でなければ倒せないだろう。だが、この後には主力が来る! 港にも大勢の我らの仲間が上陸をしている。お前の戦いは無駄なのだ!」
ここで戦えば死んでしまうだろう。神器の力を使わせただけで良しとしようと考えて周りへと合図をする。
すぐに周りのナーガ兵が撤退を始めるが、それを見逃すほどのお人好しでは鏡はない。
「すぐに撤退する判断は良いね。でも逃げ切れるかな? わんにゃん隊追撃だ!」
すぐに剣をナーガ族へと向けて、鏡が指示をだす。
すぐにわんにゃん隊は地面を蹴り、一気に移動を始める。地面を蹴る土が舞いながら、突撃をしてくるわんにゃん隊を見て、モートは驚愕をする。
恐ろしい速さで近づいてくるのだ。敏捷力が高位の獣人並みである。見た目はただの低位獣人族なのにである。
「ぐっ! この先には進ません!」
殿を守る兵が盾を掲げて、槍を持ち上げるが
「はっ。無駄なんだよ! 『オーラースラッシュ』」
職業訓練校にて遊撃兵へと転職させた神殿騎士団。見た目はハーフプレートアーマーを装備して弓も使えて、オーラ系の技を使えるので、神殿騎士団ぽくみえるだろういう考えだ。ちなみに筋力体力が25上がり、器用が50上がる。精神と超能力は10ずつだ。
そして剣技と弓技が10上がっている。すなわち40レベルとなり、かなりの強さを誇っているのだ。
オーラの攻撃は神聖さを感じる白い光であり、その光を纏ったレイダの一撃はあっさりとナーガ族の盾を斬り裂いて、その体も断ち切るのであった。




