91話 ゲーム少女はスパイ狩りをする
ざざぁと海の波の音がしており、潮風が薄く匂ってくる港街。1か月少ししか経過していない開拓された村なのに、もう村ではなく街となっていた。
道路は見たことの無い白い石が敷き詰められており、継ぎ目が見えない。この石の力は魔物が嫌がる力を持っていると人々は話し合っている。
すでに陽は落ちて、薄闇が広がる世界。本来ならば大通りも暗くなっており、灯りを持たなければ歩くことも難しい。他の街ならばだが。
灰色のローブを着こんで、速足で歩く男は周りをみて、チッと舌打ちをした。
周りには人間族が大勢まだまだ歩いており、酒場も煌々と灯りを灯している。暗い中でなぜかと聞かれれば、答えは簡単。暗くないからだ。
道の各所には街灯というものが設置されており、それはかなりの細道以外は裏道でも街灯が設置されており明るい。周りを一変するほどの明るさはないが、それでも足元が見えないなどはない。相手の顔も近寄れば簡単に判断できる。
酒場もそうである。アリスという領主が作り上げた酒場は魔法具による街灯と同じ灯りと同じ魔道が置かれており、しかも街灯よりも明るい。
その中に苦々しい表情をローブの陰に隠しながら男は酒場へと入る。
酒場は本来の薄暗さなど欠片もなく、煌々と明るく薄暗い本来の怪しさなどは全く見えない。各テーブルも綺麗に作られており、片隅に酔っ払いが座りこんでいることもないのだ。
きょろきょろと辺りを見渡すと、席の一つに座っていた男が手をあげるので、ほっと一息ついて近寄り座る。
「いらっしゃいませ~。お冷をどうぞ~」
木のコップが置かれて、その中には貴重な氷が入っている。カランコロンと涼やかな音をたてて冷たくなっている水をぐいっと煽る。
まだまだ暑い中で冷たい水はローブを着こんで汗をかいていた身体を涼しくしていく。
最初はこんな冷たい氷が入った水を出すなんて、いくら金をとられるのかと店員へと尋ねたが、お冷はタダですと言われて驚愕したことを覚えている。
だが、今は慣れたものである。慣れた様子でメニューを見る。字が読めない者のために絵入りであり、お金も絵で枚数が書かれているのでわかりやすい。
テーブルにはフライドポテトと鶏のから揚げが置いてあるのが見えるので、男は違うものを頼もうと店員を呼ぶ。
「すまない。この軟骨揚げを一つとエールの大ジョッキを一つくれ」
店員は頷いて去っていく。すぐにエールの大ジョッキが置かれて銅貨4枚と交換して受け取る。
グイグイとエールを飲んで、ぶはぁと息を吐く。
「あ~。ここだけだよな~。こんなに冷えたエールは」
緊張感のない声音でついつい話しかけると相手が苦々しい表情になって言う。
「なぁ、俺たちは間者だってわかってるか? ここの領主のアリスとやらがどこにいるか判明したか? あと、神殿騎士団長の鏡の居場所もだ」
「あ~。それがなぁ、領主の館にいるらしいが、全然姿を見ないらしい。他大陸へ移動しているという噂だが、噂の域をでないしな。というか船をお前みたか? どこに外大陸からきた船があるんだ?」
腕を組んで難しい顔になる相手の間者。
「船など欠片も見たことは無いな………。なのに膨大な量の砂糖や香辛料がある………。転移系の魔法を使うのか? だが、それならば大国レベルの魔法使いがいないとおかしいぞ?」
「う~ん、このまま上に報告するにも情報が足りないぞ?」
「だが、そろそろイーマ様は攻める糸口を報告しろと言われているぞ? どうする?」
ますます難しい顔となる二人の間者。彼らはアリスシティに入り込んだ間者である。イーマ国から雇われた間者である。
しかも人間族だ。このシティは珍しく人間族を主として発展を始めている街なので彼らに白羽の矢がたった。
常ならば、上司の間者のフォローをする下働きの彼らだが、今回は人間族がメインの街なので仕方なく送り込まれたという流れであった。
「正直ここはまずいと思う。どうも領主のアリスに忠誠を誓うと加護がつき力が大幅に上がるという噂なんだが………。本当に上がっているらしい。他の種族並みに強くなるらしいが、本当らしい」
「だよなぁ………。それにここは人間族にとっては暮らしやすい楽園みたいな場所だ。イーマ国みたいに下働きや農奴としてしか働けないということもないしな」
イーマ国では人間族は特に偏見が強く弱いと思われていた。下半身が蛇であるナーガ族は力も強く魔法を使える強力な種族である。そのために鍛えていない貧弱な人間族では相手にならないのだ。なので、彼らには非常に暮らしにくい国なのである。
間者の彼らはまだマシであり、他の人間族は使い捨ての道具扱い。
しかし、ここは人間族がメインであり、偏見もない。暮らしやすさでは比べ物にならない。
「俺………。ここに住もうと思っているんだ………。それに加護だぞ? 加護。どう考えもここの領主は手を出したらまずい」
「だが、イーマ国は大国だぞ? こんな小さい街だとあっさりと攻め滅ぼされるんじゃないか?」
「そうなんだよな………。なんとかならないものか」
迷う二人がごくごくとエールを飲んで、ポテトを摘まむ。
「なんとかなりますよ。もうなんとかなっちゃいます。この凄腕ハンターのアリスに任せれば」
ぎょっと話しかけられたので、驚く二人。すぐに声のかけられた方に顔を向けると小さい少女がにこやかな微笑みを浮かべていた。
「おいおい、こんなところで密談とか本当にこいつら間者なのか?」
呆れながらレイダが問いかけてくる。いつの間にか間者の周りは神殿騎士団で包囲されているが呆れ顔だ。
「こんな明るい場所で密談とはな……」
「きっとマニュアルに酒場で密談をすることと書いてあるんでしょう。私の作った酒場は明るく清潔で美味しいお酒とご飯を出すお店ですから、この惑星の酒場とは違った。ただそれだけですよ」
フフンと威張る子供なアリスである。たしかにこんな酒場は他にはないので得意げな模様。
「まぁ、スパイだって丸わかりだったしな。哀れな奴らだ。捕縛しておけ」
鏡が指示を出して、わんにゃん隊が動き出すと、スパイの二人は状況を理解してすぐに立ち上がり、懐に隠してあった短剣を取り出す。
すぐに短剣を突き出してくるスパイたち。そこそこ鍛えられているのだろう。その素早さは鍛え上げたものとわかる。
だがわんにゃん隊の騎士は、冷静に突き出された短剣へ勢いよく盾を押し付けると、ガチンと短剣はあっさりと弾かれて吹き飛ぶ。
そのままわんにゃん隊の騎士は右足を強く踏み込み、盾で相手の顔を殴ると、あっさりとスパイはその意識を失い倒れ込むのであった。
二人のスパイはあっさりと捕まえられて、牢獄へと連れられていく。
「さて、うじゃうじゃとこんな小さい街に間者が潜入していたことは驚いたけど、アリスはあいつらをどうすんだい?」
「簡単です。間者が来たあとは、盗賊団が攻めてくるのがクエストのセオリーなので、迎撃準備をしておきましょう」
ふふふと楽しそうに笑うアリス。これから先に発生するイベントをワクワクと期待しているのだ。
「それじゃあ、まずはあの人たちの尋問ですね。カツ丼、カツ丼を用意しましょう。ふんわりと卵に包んだカツをのせたカツ丼です」
尋問にはカツ丼でしょうと、この間地球でみた刑事ドラマ物を見て口にするドラマの影響を受け過ぎなアリス。
ピクリと猫耳を動かして、チャシャがニャンニャンとアリスへとしがみついてくる。
「カツ丼って、なぁに? 私も食べたい! 私も尋問室に入るね!」
カツ丼を食べるためだけに、尋問室に入ろうとする子猫である。食い意地が張りすぎていた。
「大丈夫です。私もカツ丼を食べたいので、たくさん作ります。お腹いっぱい食べましょう」
「やった〜! 楽しみ〜」
ニャンニャン躍りをしながらチャシャが喜び、鏡は苦笑いをする。
「おいおい、尋問が目的だからな? カツ丼は二の次だからな?」
呆れる鏡が注意をするが、二人は既に小躍りしながら屋敷へと戻っていく。
しようがないなぁと鏡たちは相変わらずのアリスたちの後へとついていくのであった。
食堂でたくさんカツ丼を作ったアリス。自分は大量に食べますのでと、テーブルにはかなりのカツ丼が置いておく。
パクリとカツ丼を食べながら、アリスはレイダたちへと尋ねる。
「盗賊団イーマとはどんな相手なのでしょうか?」
スプーンでパクパクと勢いよくカツ丼を食べていたレイダは、スプーンをことりとテーブルに置いて教えてくれる。
「イーマ国は盗賊団じゃないよ。ナーガーロードのイーマ王が支配する国なんだ。その領土は広大でナーガ族はかなりの強さを持っているから面倒な相手だよ」
「私にとっては盗賊団ですが……。広大ということは鉱山を持っていそうですね。むむむ、退治したときの報酬が楽しみです」
アリスは期待に胸を膨らませる。膨らませてもあんまりわからない胸をしているが。
「戦争になるんだぞ? アリス一人の力ではなく、全員が戦うとかなり厳しいんじゃないか?」
「空から謎の艦砲射撃がされるかもしれませんね。偶然にも」
「あぁ、倒すのに手段は選ばないと……。それなら大丈夫か。それじゃあ、問題は最初の防衛戦をしないといけないな」
先程の尋問でナーガ族はこの港を攻撃して、拠点としたいらしいと判明したのであるからして。
防衛戦必須である。
ふむふむとアリスは頷いて、考えて答える。
「どこから来るのでしょうか? そこを撃破したあとに攻めに転じましょう」
ナーガ族とはどれだけの強さかワクワクとするアリスであった。強ければ強いほど嬉しいのだからして。
なぜならば、強ければレアポップを、大きな集団を倒せば資源を回収。戦争は無駄がないのであるからして。




