90話 ゲーム少女は取引を終える
サラスが興奮状態でシャドウバタフライの細い機械腕を掴んで必死に顔を近づけてきて尋ねているのをアリスはおっさんアントと会話を交代したあとに確認した。
やれやれとおっさんアントがサラスの追求から逃れることができたので、格好をつけようとしている姿を確認して、相変わらずのおっさんだなぁと窮地を逃れた途端に余裕をもつ鏡に呆れながらも答えてあげる。
「そのとおりです。あれは盗賊団から回収した六文銭を私の持つ技術で手慰みに改造したんです。なぜシヴァではないのかと聞かれれば、六文銭の方が格好良いからですね」
ガーンとその適当極まる答えにショックを受けるサラス。床に手を付けて嘆きながら呟く。
「おー、まさかビジュアルで決められたとは思いませんでした〜。貴方たちにとっては玩具みたいなものなんですね〜」
シクシクと泣いて悲しむサラスであった。
「まぁまぁ、あのシヴァは積み木みたいで使いたくなかっただけなんです。私は使えない兵器ならかっこよさを選ぶので」
バタンとうつ伏せに倒れるサラス。
「トドメを刺されました〜。私はこの間までシヴァを見せて自慢しいしい調子にのっていたんでーす。それが今日来た謎の空飛ぶSR、それを上回る異星人が玩具感覚で改造した超高性能六文銭。恥ずかしいでーす、誰か過去の私に調子に乗るなと伝えてあげてくださーぃ」
メソメソと泣きながら、床に水たまりを作るのであった。アリスはありゃりゃと哀れに思ったが仕方ないのだ。この惑星が面白そうな兵器を持っているから悪い。玩具箱を見つけちゃった子供なアリスなのだ。もちろんその玩具箱の名前は地球と書いてある。
さすがにメソメソと泣いているサラスを哀れに思った守里が、寝っ転がるサラスへとしゃがんで頭を撫でていたわる。なにしろこの間までドヤ顔で、SRの新時代が私のシヴァのおかげできたと言いまわっていたのだ。その羞恥はあまりあるものであろう。
でも、それはそれ、これはこれと気を取り直して好奇心に満ちた表情でこちらへと問いかけてくる。
「なぁ、その蝶々にはパイロットは乗っているようだけど、君は離れた場所から連絡してきているね?」
「えぇ、盗賊団を見つけたので、それの対処に指示を出していまして。そのロボットの中身は別人です」
やっぱりおっさんの蝶々の舞とやらがいけなかったのだ。きっと蛾の舞とかだったに違いない。
自分が話を取りやめてクエストに直行したせいなのに、おっさんの責任へと転嫁するゲーム少女である。まぁ、おっさんアントの謎の踊りも悪かったが。
やっぱりねと、アリスの回答に満足げな表情となり、守里はさらに尋ねてくる。
「君が会話から離れていた間、そこのパイロット君は時間を持たせようと異星人特有の挨拶なのかな? 翅をパタパタと動かしていたよ。君は地球人の感性を勉強しているようだが、そこのパイロット君は地球人の感性を勉強していないんだろ? 見ていて可哀想だったよ」
鏡の蝶々の舞は、異星人ならではの謎の挨拶と思われた模様であった。鏡の感性は地球なのに。
ブフっ! と口元を抑えてクスクスと笑うアリス。笑う小柄な体の美少女は愛らしい。
「違いますぅ〜。あれは芸術的な舞ですぅ〜! なんだよ宇宙人の挨拶って! 俺の舞がそんだけ酷かったってこと?」
口を尖らせて、抗議をする鏡であった。鏡のセンスがないことが判明したが、既に戦艦名とかで色々やらかしているのでいまさらだ。
おっさんアントのセンスの無さはわかりましたと、アリスはスルーして、守里へと返答する。
「私はあらゆる惑星を行き来している行商人。人によっては海賊だろとあらぬ疑いをしてくるのですが、か弱い商人なのです」
物凄く不安なことを言ってくるアリスだが、さもありなんと周りの地球人は納得した。
ギャラクシーライブラリーに登録されていないからと、明らかに国があるとわかっているのに勝手に採掘してくる異星人だ。交渉をようやくしてきたが、それは自分の完全な優位を見せつけてからという悪辣さ。他の惑星でも酷いことをしてきたのだろうと推測するのは難しくなかった。
善良な商人ならばこんなことはしまいと思うが、そこで守里は地球の大航海時代の歴史を思い出すと、宇宙人でも荒くれ者なのだろうと考えた。
大航海時代は植民地支配の歴史でもあるのだから、よほど気をつけないと地球も同じ目にあうかもしれないと気を引き締めるのであった。
「なぁ、疑問に思うんだが、地球の大航海時代と違う点がある。それは君たちが魔法のような科学技術を持っていることだ。なぜ砂糖や香辛料を欲しがるんだ? 君たちならいくらでも手に入るだろう?」
まさか地球でしか砂糖や香辛料が取れないということはあるまい。その科学技術でいくらでも砂糖や香辛料は手に入るだろう。なのに、なぜ?
「面倒くさいからです。作物を育てるのはコストパフォーマンスが悪く、集めるのは面倒くさい。これが希少品ならともかく、安い物では面倒くさい方が気持ち的に大きいんです」
パカンと大きく口を開き、今度こそその回答に呆れる面々であった。
コホンと咳払いをしてから守里は提案を話し合うことにする。
「なぁ、砂糖や香辛料を買う相手はいるのかい? はるばる他の惑星から砂糖や香辛料を求めるのかい」
「えぇ、辺境の未開地にて手に入れた、その響きを聞いて買い取る好事家は多いのです。なので大量に欲しいんですが?」
そういうことねと、なんとなく納得してしまう地球人。舶来ものですという言われたら金持ちは買うだろうと。
「はぁ、見返りはなんなんだい? 陶磁器じゃないよね?」
疲れたように尋ねてくる守里へアリスは伝える。恐らくは簡単に相手が決心する内容を。
「銀河で使われている標準通貨にして、クリーンエネルギー。マテリアル通貨をお支払いしましょう」
その言葉で騒然と騒ぎ始める人々を、ふふっと小さく口元で微笑むアリスであった。
カランとクリスタルグラスの中の氷が溶けた音がして、ソファに座る地球人に偽装をかけているおっさんうさぎが笑う。
ソファに座り、足を組んでウィスキーの入ったクリスタルグラスを持ちながら笑うその姿はなにかの黒幕を演じているとわかる。なにかのキャラになりきっているのだろう。
「鏡、大根を演じているのですか?」
アリスが容赦のないボケを送り、グラスをテーブルに強くおいて、鏡は憤慨する。
「そこは大根役者とかだろっ! なんで根野菜になっているんだよ! ねぇ、アリスは毒舌スキルなんて取得していたっけ?」
「だって、変なことを鏡が自宅でしているからです。なんですか、そのキャラ?」
アリスが小悪魔のように、ぺろっと舌を出してからかうので
「ほら、さっきの取引が上手くいきそうじゃん? なので黒幕っぽくしていたの。迷子探す君のアラームでこれからは月一で取引することになりそうだろ?」
鏡がドヤ顔で言ってくるので、アリスはトポトポと自分のグラスにアップルジュースを入れて微笑む。
「守里たちは涎を垂らして絶対に国を説得すると言ってましたからね。当初の予定通りになりそうで良かったです」
「哀れに思うがなぁ。1Mpで1000トンの砂糖とかと交換か……。でも未知のエネルギー結晶と聞かされたら1000億払っても手に入れたくなるか……」
大量にあるマテリアル通貨だが、相手にとっては未知の素材なのだ。たしかにアリスの言うとおりのレートであったと納得する。なんなら安いぐらいだろう。
「これにより、安定した供給をアリスシティに送ることができるようになりました。まぁ、地球人はこれから技術供与やなんだと煩いでしょうが、まずは成功ですね」
むふふと幼女が悪戯に成功したように喜ぶアリス。可愛らしいことこのうえない。
そうしてテレビをつけると、ニュースが映っているのだが、大騒ぎになっていた。なぜ大騒ぎになっているかというと、謎のSR隊による太平洋連合軍の襲撃事件が扱われているのだ。
「テレビはスクープを撮影できたみたいですね。どうやら基地周辺に張り込みをしていたんですね」
ニュースでは、六文銭Zが敵を撃破していく姿が映し出されており、太平洋連合軍の新型が敵を撃退! と見出しがでていた。
「まぁ、富士演習場から一番近い基地だったしな。テレビ局やら素人カメラマンが張っていてもおかしくない」
鏡はニヤリと笑いながら、グラスに入ったウィスキーをゴクリと飲む。飲食可能にしたのは失敗だったかもと思いながらキメ顔の鏡をしらっとした表情で眺める。
まぁ、そこそこ役に立っているので、気にする必要もないかなと考え直し、モニターにてアリスシティを映し出して状況を確認する。
「人口5436人……。想定よりも遥かに早い人口の増え方ですね。なぜでしょうか?」
コテンと小首を傾げて不思議に思う。まだ王都から帰って一ヶ月も経過していないのに、増え過ぎである。
「ノーマルニュートだらけだな。どうやら王様はこちらの願いを聞いてくれたみたいで良かったじゃないか」
鏡もモニターを眺めながら感想を言う。気楽な感じでの言葉にアリスも頷きながら、ポチポチと各種族や農作物の収穫状況、治安数値を閲覧していくが、途中で眉を顰める。
「鏡、うちのシティに所属しない住人が少数いるのですが、これアホなんでしょうか?」
ついっと可愛らしいちっこい指でモニターの一部を指差す。
「商人なら所属しない奴らがいるのは当たり前だろう? 気にすることは……。あぁ、隠蔽スキルを持たない奴が入るとこうなるのか……」
そこにはノーマルニュートの一人が所属無しと表記されていた。そこは問題ではない。備考に書いてある内容が問題であった。
「備考にスパイと書いてありますね。盗賊団イーマのスパイ」
アリスが呆れたように呟き、鏡も唖然として、これはないなと思う。
「AHOではスパイが潜入するのは最低でも隠蔽スキルが無いとだめだからな……。哀れイーマ国、そしてもっと哀れなのが国としても認められていないところだな……」
「辺境の盗賊団はアホですね。クエストが発生しそうなので、フロンティアに戻ることにしましょう」
楽しくてたまらないですと、桜が咲くような満面の笑顔でアリスはフロンティアへと移動するのであった。




