83話 ゲーム少女と博士2人
バギーはこちらへと物凄い速さで接近していた。荒れ地対応の軍用バギーとはいえ、本当にそれだけの速さで爆走すれば転倒しても間違いない速さだ。
現に助手席に乗る黒髪の少女は青褪めた表情で強く身体を車両に押しつけいるのがわかる。多分100キロは出ているよねとアリスは呆れながら、相手を観察した。
二人共美女と美少女だし、倒す前に話を聞いても良いかなと思う。まぁ、一人はこの間出会った少女ではあるが。
どうしよう、でも正体がバレたら駄目らしいと鏡がうるさく言うので、直接会うのは避けたほうが良いだろうとアリスが考えたときであった。
「ジャマーウェーブぅ! パラライザービームぅ!」
口調でエコーの聞かせた攻撃名を叫ぶカナタが情け容赦なくバギーへと攻撃をして、あっさりと爆走していたバギーは動きを止めて博士二人は麻痺状態になる。
「フフフ、エースは頂きだね!」
笑いながら、なぜか撃墜王を目指しているカナタである。バギーにも容赦なく攻撃を仕掛けた模様。
まぁ、カナタの行動は間違いではない。哀れアクション映画の主人公から、モブないつの間にかやられている脇役へと変わってしまった二人であった。
ゆっくりとバギーは停止して、乗っていた二人はシビビビと麻痺しているのを見ながら考える。
この二人はなにかしらのクエストをくれそうだと。だが自分の正体をバラすわけにはいかないのだ。ハンターを知らない惑星がこんなに面倒だとは考えもしなかった。
なので嘆息するが、すぐに気を取り直す。ナイスアイデアを思いついたのであるからして。
ようは話ができれば良いのだ。なのでターゲット発振カードを渡すことにする。これはターゲットが何処にいるのかがわかるカードで、これを渡しておけばあとから話ができるだろうとの考えからであった。
毎度、鏡には相談せずに事を進めるアリスである。A4用紙ほどの透明なクリアファイルにも見えるアイテムをバギーを回収したあとに二人の真ん中へ置いておく!これはテキスト形式で書き込むこともできて便利なアイテムである。気になるお値段は10MP。格安で使えるアイテムなのだ。マップにこのアイテムが光点として表示されて、テキストに書き込めばそれも表示される優れものである。妨害装置がなければだが、そこはこの惑星では大丈夫だろう。
相手は使い方もわからないだろうけど、とりあえずは良いやと考えて、アリスはそのまま帰還するのであった。
帰還していくアシナガバチの化け物。麻痺しながらも気絶はしていない二人は、目の前のロボットが自分たちの間になにかを置いたのを気づいた。
なので、麻痺をしながらも気合をいれて、ズリズリと這いながら守里は置いていかれた謎のアイテムへと近付こうとする。
反対側からサラスが同じように必死な表情で這っている。
「そのアイテムは私の物だぁ〜」
「異星人とのファーストコンタクトは私がもらいまーす」
麻痺しているので、全く動けない二人はそれでも相手には渡すまいとガルルと獰猛な小動物のような姿を見せて唸る。
まぁ、結果は助けに来た兵士がなんだろうこれ?と拾うというオチになったのだが。
麻痺がとけた二人が襲いかかったのはいうまでもない。
波乱を呼び起こすアイテムを気軽においていったアリス。世界がそのアイテムに注目して活動を始めるとは思っても見なかった。
なぜならば迷子になった人を探すだけの惑星内でしか使えない短距離発振アイテム、迷子見つけちゃう君であったので。
子供の玩具であるから、気にもとめなかったのであった。
よいせ、んしょと可愛らしい声をあげながらアリスは手に入れたアイテムを整頓していた。地下基地にて、モニター前でポチポチと扱っていた。
「六文銭もシヴァも使用用、保管用、売却用に3体ずつ分けて、あとは素材にしましょうか。バギーとかも手に入ったのは僥倖でした。なかなか盗賊にしてはアイテムを持っていましたね」
フンスと息を吐いて、戦利品を眺めるアリスへと憑依時間が尽きてフヨフヨと浮いているおっさんフェアリーが思案顔で声をかける。
「なぁなぁ、なんであんなのを博士たちに渡したんだ? 正体がバレると面倒くさいぞ?」
以前ならばバレたら=死か囚われて研究所行きだと不安がっていたのだが、今はバレたら面倒くさいレベルまで変わっていた。バレたら世界支配すれば良いやと考えが変わったおっさんである。
フルパワーレベルなら宇宙の帝王も相手にならないアリスの力をようやく理解したのだ。
だが、世界支配なんかしたら面倒くさいことこの上ないし、支配したらしたで、そのあとの生活は仕事で埋まってしまうだろう。
現代社会とは時間に追われるのが、重要人物となった者の宿命なのだから。古代ならふんぞり返って遊んでいても良いでしょうな考えだ。
「正体がバレないようにするのは考えました。適当にロボットを作れば良いでしょう。設定はおっさんフェアリーにお任せします。妄想設定は十八番だと思いますので」
「俺の厨二力を見せるときがきたようだな……。任せておけって、なんでやねん!」
胡散臭い関西弁でノリツッコミを行うおっさんフェアリーであったが、そのまま顔を俯けてニヤニヤと口元を曲げて考え始める。なんだかんだいって楽しんでいるのであった厨二病に少し罹患しているかもしれないおっさんフェアリーである。
ちゃかちゃかと整理が終わったアリスは、現状のアリスシティの状態を確認し始める。モニターにはゲーム的に現在のアリスシティの人口や職種、作物の収穫量から交易の利益までが表示されるが、アリスはテーブルに肘をつけて困ったように呟く。
「ワンニャン隊はただの兵士から、防衛兵へと転職できますね。その場合は重装甲の鎧を装備できますが、移動力が減る……。それか軽戦士になって銃か弓を使う移動力の高い遊撃兵へと転職させるか」
「遊撃兵一択だな。防衛兵にする旨味がないだろ? 弓を持たせて移動力の高い遊撃兵の方があの惑星では圧倒的に役に立つ」
鏡の言葉に頷いて同意するアリス。確かに移動させることが多いだろうワンニャン隊だ。だからそれは問題ないのだが。
「ワンニャン隊も農民も技師になれる人がいません……。技術職になれる人が誰もいないんです。これでは職業訓練校を建設しても意味がありません……兵士の職種を変えるだけとなりますね。普通ならこんなことは起きないはずなんですが」
絶対に潜在的になれる職種が表示されるはずなのに、技術職はなんだかんだで絶対に数人はいるはずなのに……。一人もいないのである。
これは困ったことになったぞとアリスは考えてしまう。すでに人口は1637人と表示されているのに、技術職になれる人がいないのだ。
むぅと頬を膨らませて不満顔になるアリスに鏡が考えながら意見を告げる。
「たぶん基本知識が足りなさすぎるんだ。普通なら最低でも高等学校までは卒業しているのが銀河の民だ。宇宙船の運転までできるはずなのに、彼らはそれがない。だから潜在的にもいないんだろう」
「なるほど……確かにそのとおりだと思います。はぁ〜、今はまだ部下をコールドスリープから呼び出せませんよ? 赤字確実ですから」
せめてもう少しは晶石を稼げる状態ならばまだしも、今は無理であるから自分ですべてをまかなわないとならないだろう。
面倒くさいなぁと嘆息するアリスであった。子供っぽく、うにゅ〜とモニターをちっこい指でツンツンとつつく。
「あんな奇襲的な晶石採掘ではちょっぴりしか稼げないですからね。継続的に稼げる場所がほしいです」
それならば収益は大幅な黒字となるだろうから、部下を呼び出せるのだ。月給問題で部下を使えないアリスである。まぁ、貯めているマテリアルを使えば余裕なのだが、この惑星で稼いだ分からしか使わない予定なゲーム少女。
「となると、やはりあちらの惑星に採掘場を作成するしかないな。……なぁ、そろそろあちらの惑星に名前をつけないか? 地球と違って、あちらは名前がないからな」
よく小説とかだと、なんとか大陸とか、あれな世界とか言われるが、残念ながらあの古代の世界ではそんな名前はついていない。なので、そろそろ名前をつけようと鏡は考えたのだ。
ふむふむと頷くアリス。その方が便利なことは間違いないので、同意して考える。
ついっと鏡へ視線を向けて、考えた名前を披露する。
「惑星ああああにしておきましょう。わかりやすいですし」
適当極まる名前をつけるゲーム少女がここにいた。アリス的にはわかれば良いでしょうな考えだ。よりによって惑星の名前付けに適当さをみせてくるので、さすがに鏡も苦笑してツッコミをいれる。
「さすがに酷すぎるぞ。この先もずっと使う名前になるのだから、ちゃんとした名前にしないと」
なんだかゲームにおけるNPCがその名前は使用できませんというような感じで鏡は言う。自分でも惑星ああああとか、言い続けるのは嫌だし。
ゲーム内なら適当な名前にしていた鏡なので、しっかりとアリスもその考えを反映されていたのである。
う〜んと首を可愛く傾げて、それもそうかなと考え直す。そうして今度はしっかりと考えましたと、ニパッと微笑んで伝える。
「では、惑星いいいいにしましょう」
考えても駄目なネーミングセンスゼロのゲーム少女であった。
あぁ……と顔を手で押さえて、鏡は自分が考えないといけないようだと嘆息して言う。
「アリスよ。仕方ないので私が名付けるよ。あの惑星はフロンティアとしよう。ありがちだけどわかりやすいし」
「おっさんフェアリーの名付けにしてはマトモだと思いますよ。ううううとかにすると思っていましたし」
「へいへい。褒めて頂けて光栄です。お嬢様」
おっさんフェアリーが、わざとらしく会釈をしておどけて
「では、フロンティアに行く前に博士とお話しましょう」
フフッと子供みたいに無邪気に笑うアリスであった。




