81話 ゲーム少女と演習場
大勢の人々が集まっている富士演習場。本日は民間人への太平洋連合軍の力を見せるための遊びのような演習日である。真夏日の中、猛暑にもかかわらず、忙しく人々は歩き回っていた。
新型のSRが多数並び、戦車がその横を走る。そして、大画面のパノラマモニターが各所に置かれており、民間人の見学者を迎えていた。そこかしこに屋台が並び祭りといってもよい雰囲気の中で盾野守里は難しい顔を浮かべて、設置された檀上の上にあるVIP席で演習開始を待っていた。隣には立花博士も座っており、各方面のお偉いさんが挨拶にきているのがわかる。
「やれやれ、宇宙人騒ぎの中でも人類は気にせず同胞を倒すための武器を見せびらかすか」
立花博士が馬鹿にしているように眼下のSR部隊を見て笑う。
「仕方ないですよ。宇宙人はごく少数の被害しか生みませんが、他の国は虎視眈々と我が連合の領土を奪おうと陰で動いているのですから」
立花博士の隣にいる軍人のお偉いさんが、その問いかけに肩をすくめる。
「人類が一致団結なんて、たぶん9割は人口が減らないとならないと私は思うね。それほど権力争いとは罪深いと思うよ」
守里が達観したような表情で、自分の考えを口にするが否定する者はいなかった。誰しもがそんなものだろうと思っているからだ。
「オー。守里はいつも歳の割に達観的でお婆ちゃんみたいね。そんな考えだと早く老けてしまいますよ~」
呆れた声が守里に向けてかけられるので、声のした方向を見ると褐色肌の美しい美女がたっていた。天然パーマで肩までかかるセミロング。顔もすっきとした美しい顔立ちで、背丈は160ぐらいだろうか。紛れもなく美女である。今年で20歳になったと酒を飲めると自慢していた美女である。
その美女を見て、つまらなそうな顔になり守里は鼻で笑う。
「私の童顔は常に初対面の人々に馬鹿にされるから、老けるとちょうどいいのかもね」
「お~、それは女性全体を敵にする魔法の言葉ですから、気を付けた方が良いですよ。守里」
「誰かと思えば太平洋連合軍の兵器学専門の若き才媛、サラス・バルティア君じゃないか。開発したご自慢の兵器の数々をみせにきたのかい?」
サラスと呼ばれた美女はストンと守里の隣に座り、眼下のSRへとほっそりとした綺麗な指を指す。
「その通りで~す。見てください。六文銭を旧型にする新型。ロケット燃料を積んでバーニアによるジャンプが可能となったシヴァでーす」
指し示す先にいるのは、装甲を極限まで削り取り、大型のリュックサックのようなバーニアを背負っている緑色のカラートーンのSRであった。鋭角なフォルムを持ち、脆そうな積み木細工で作ったような人型の機動兵器である。
「前回の採用テストでは真田重工に採用機体を取られましたから。今回の機体は破壊神の名にふさわしい性能を持ちますよ。なにしろ電磁バリアを利用した機体バランスと自重制御、そしてバーニアによる高速移動でーす。ついにSRが空を飛べる可能性を見せたのでーす」
ペラペラと自慢げに話すが、たしかにそれが本当ならば凄い話だと守里も思う。人型である兵器SR、通常は戦闘機とか戦車の方が強いはずであり、人型など馬鹿らしいと言われた兵器であるが、超電導はその不利を覆した。電磁バリアは全体を覆うために空を飛ぶのに極めて不利であり、重量のあるエンジンは戦闘機に乗せるには難しく、されど戦車に乗せるには戦車の巨大化をしないとならない。
超電導エンジンによるモーター駆動である人型兵器が脚光を浴びた理由でもある。持てる物ならなんでも持てるSRは万能兵器としての花形なのだ。
それがこれまでは空を飛ぶことが不可能と呼ばれていたことが可能となるならば戦場は一変するのだが、守里はサラスの言葉に騙されなかった。
「バーニアによるジャンプはジャンプ時だけ電磁バリアを解除して大きく飛び跳ねるだけだろう? ウサギのようにぴょんぴょんと飛ぶが、空中では姿勢制御もできない。着地時も電磁バリア頼りだとかなりのエネルギーを喰う。本当に使い物になるのかい?」
「ふんっ。あの脆弱な装甲じゃと敵の攻撃をあっさりと貫通して倒されるぞ」
立花博士も話に加わりサラスへと問い詰めて、うぅとサラスは怯んだ表情を浮かべる。
「たしかにいうとおりでーす。でもですね、そのですね、今までは歩くだけのSRが空を仮にでも飛ぶのですよ? 画期的ではないですか。今までの移動距離を大きく上回る機体となりまーす」
「空を飛ぶか………。儂はガラスの塊が空を飛んでいるのを見たがな。あれを見たら画期的とはなんなのか定義を疑うぞ」
「お~。立花博士のおっしゃるのは仮称宇宙人のガラスの虫のことですね? 太平洋連合軍の研究所に早く回してくれませんか? 日本のみで研究をしていると非難が起きていますよ~」
「ほう、サラスはあれが仮称宇宙人というのかい? とすると、地球人が作ったと?」
きらりと目を光らせて守里が尋ねると、肩をすくめて口元をかすかに曲げてサラスは答える。
「そんなことはありませーん。私もガラス片はビデオで見せてもらいました。あれが本当にドローンとして動いていたなんてにわかには信じられませんが、本当だとすれば地球人では無理があるでしょう~。ですが、私は宇宙人が自己紹介をしてくれるまで仮称をつけるだけでーす。科学者としてね」
首を曲げて美しい微笑みを見せるサラス。目には理知的な光が宿り、太平洋連合軍の才媛と呼ばれることはあると感心させられる。
「では、次に宇宙人に会ったらマイクを向けて尋ねればよい。自己紹介をしてくださいとな」
立花博士が腕を組み、椅子にもたれかかりながら鋭い眼光で告げてくるのを、満面の笑みでサラスは頷いた。
「もちろん、私が会える時にはマイクをもってとつげーきです」
チャーミングな笑みを片腕を曲げながら浮かべるのであった。
そんな3人が会話を続ける中で、放送が周辺に響き渡る。
「皆様方、お待たせしました。我が太平洋連合軍の誇るSR。しかも試作新型も含めた実弾を使用した演習の始まりです。モニターをご覧ください。繰り返します………」
その放送を聞いて、3人ともVIP席に座っていることもあり、モニターへと画面を向けるのであった。
モニタには富士演習場の実弾着弾地点である荒地と分割した画面でSRが並ぶ姿が表示されている。武骨なる鎧武者六文銭と細身の積み木で作ったようなシヴァだ。30機程が並び、これから用意されている瓦礫を飛び越えたり、歩いて移動しながら着弾地点へと持っている超電導ライフルで射撃を開始する手はずとなっていた。
放送が続き説明を開始する。
「瓦礫を超えた後の射撃地点へと移動したあとに攻撃を行い、着弾地点にあるデコイSRを撃破していきます。6チームに分かれての射撃戦で、移動タイムと命中した際のデコイSRを破壊した点数が総点数となり一番高い点数を取ったSRが優勝となります」
ふふっとサラスはその説明に笑い、うきうきとした表情で守里へと声をかける。
「ゲームじみたショーですが、わかりやすくて良いですよね。毎年これをやると夏だなぁと私はおもいまーす」
「君は兵器に惚れすぎだよ。兵器マニアが科学者になると碌な事にはならないと思うが、もうなっているから仕方ないな」
守里の呆れたような言葉に得意げにふくよかな胸を誇るように反らして、返事をサラスはする。
「今年の優勝はインド方面チームの勝ちでーす。去年は日本方面のチームにとっていかれましたからね。シヴァの良いパフォーマンスにもなりまーす」
ふふんと鼻息荒くサラスは告げてモニターを見ているが、変なことに気づいた。
「あれ? 荒地のデコイSRが傾いていませんか? ちょっと適当に作りすぎだと思いますが」
その言葉を聞いて守里もモニタを見るとたしかにいくつかのデコイSRが傾いていた。それを見て眉を顰めて
「たしかにいくつかのデコイSRが傾いているね。風でも吹いたのかい? これは設置班は後で怒られるだろうね」
設置班が不運にも怒られるだろうと推測して、少し同情を覚える。何しろ民間人のいるパフォーマンスなのに、デコイSRが傾いていたら迫力がない。
「では、スタートします! まずはAチームから!」
放送がスタートを開始してシヴァがバーニアによるジャンプを早速使い、背中のバーニアからジェット噴射を行い大きくジャンプをしていく。
おぉ~と民間人も軍人も空中を飛翔していくSRの光景を感心して感嘆のどよめきを起こす。
それを聞いて、サラスは得意満面となり、肘で守里をツンツンとつついてきた。
「どうでーす。もうジャンプだけでシヴァは大騒ぎでーす。次の採用機は決まったようなもんですね~」
はぁ~とため息を吐いて守里は苦笑いをする。正直どうでも良いことだ。帰って宇宙人の研究を再開したいと強く思う。
サラスと話している間にもシヴァを高速で移動をしていき、時速220キロでのジャンプ速度ですとモニタに注意書きがでる。どうやら採用機体は確かにシヴァなのだろうとそのPRっぷりに呆れる守里だが
「ん? 攻撃する前からデコイSRが倒れてしまったぞ?」
あぁ~と見ている人間にも残念がる声が上がる。たしかに中央に置いてあったデコイSRが倒れてしまって、ただのベニヤ板の表面をみせつけていた。
「もぉ~、なんですか! シヴァのかっこいい射撃シーンが台無しになるではないですか」
プンスコと怒るサラスに、たしかにこれでは酷いな守里も思う中で、シヴァは攻撃をやめることなく超電導ライフルを離れたデコイSRへ向けて撃つ。
電光が銃身を覆い、超電磁の速度をもった砲弾が倒れたデコイSRへ向かう。
「すでに倒れたデコイSRを倒してもかっこよくともなんでもないでーす!」
そんなサラスの苦情じみた声と共に正確にデコイSRへと砲弾は飛んでいったのだろう。空中でチュインとその砲弾が火花を大きく生み出して弾け消えなければ。
はぁ?とモニターを見ていた人々が首を傾げる。あれは花火に変化する砲弾だったのかと不思議がるが守里はその攻撃を見て、ガタンと椅子を倒して立ちあがる。
「どうしたんですか~? 守里、今のは不発だったんでしょうか~?」
「いや、あれは何かに当たった感じで弾けたんだ! 私はあの弾け方を見た事がある!」
焦りながら守里が見る中で、着弾地点からピンク色のショックウェーブみたいなビームが放たれて、離れた場所にいるシヴァへと命中するのであった。




