8話 ゲーム少女は再び異世界に来る
アリスは瞬時にまたもや視界が移り変わった事を確認した。周りは先程いた惑星の土でできた道だ。少し歩いたら盗賊から救った村が目に入るだろう。
まだ、太陽は真上にある。1つしかないから、この惑星は太陽が沈めば夜になるはずだ。夜はアストラル体が活発になる時間帯。少しばかり敵が強くなる時間帯。
夜までには時間がある。ならばレベル上げには時間は充分だろう。夕方までに10まで上げようと決意する。
それと気になっていることがあるし。なにを気にしているのかというと金貨と呼ばれるアイテムだ。これはガチャコインではないみたいだ。でも村長は貴重そうに扱っていたことを思い出す。
なので、ステータスボードからスキルを取得。物の価値を調べるスキル。その名は目利きだ。
解析が相手の戦闘力や素材の成分や効果を調べるなら、目利きはどれぐらいの価値があるかを調べることができる。それが商人がつける定価となるのだ。レベルが上がれば、各惑星の価値とかがわかるが、今は平均的な価値がわかれば充分。
人によってはいらないと言うスキルだが、定価がわかるので私は重宝しているスキル。
きっとレアなアイテムで高いのかも。もしかしたら美術品、いや、レアなモンスターを呼び出すトリガーアイテムかもと期待でわくわくする。
『目利き』
調査結果はっと……。
「価値1MP」
ほえ?と口を開けて呆然とするアリス。え?これはなにかの間違いだよねと、たぶん目利き先が地面の小石にでもなっちゃったかな?私はドジですねと、もう一回目利きをする。
「価値1MP」
結果は同じだった。慌てて解析をする。レアで重要なアイテムにはたまにあるのだ、こんな価値になることが。皇帝がお忍びでであった街の少女から貰ったハンカチを無くしたので、探して欲しいと依頼された時も見つけたハンカチは、1MPだった。
でも貰った報酬は数億の価値の腕輪だった。それと城内立ち入り証。最初の物の価値からはわからないこともあるのだよ、ワトソン君という感じ。
そうしたら解析はこんな感じだった。
「金鉱石でできた物。なにも力は無いようだ」
そのまさかの結果にいよいよ唖然として混乱をする。金なんて、価値が無い。晶金でないとゴミである。なにも力が宿っていないゴミ。
アリスはいよいよ泣きたくなった。どうやら交渉は最初から村長に騙されていたらしい。最近ではなかったので油断をしていた。
うぬぬと歯噛みをして唸る。小柄な美少女が唸る姿は子犬が警戒しているみたいで、可愛らしい。
取引で私は金貨でオーケーだと言ってしまった。きっとガチャコインと勘違いするだろうと村長は計算していたのだろう。
こんなに悔しいことはない。オーケーと言ったので抗議することもできない。一度オーケーと言った限りには、相手に依頼内容で騙されたとかで無い限り、バウンティハンターたるもの抗議はできない。
悔しいので、もはやこのゴミは視界に入れるのも不愉快だ。捨てるしかないね。そして脳内からデリートしようと金貨とかいうゴミを握りしめて捨てようとする。
「待った! 待った、待ったぁ〜!」
アリスが捨てるべく投擲の構えをしたら、顔の前に鏡が両手をあげて出てくる。
私は不愉快ですよと、頬を膨らませてちょっと涙目になりながら尋ねる。
「なにか御用ですか? とりあえず私はこのゴミを捨てたいんですが? 目に見えないところに放り投げたいんですが」
「アリス! その金貨はお金だ、たぶん! この惑星だけで使えるクレジットだと思うぞ!」
慌てた様子で教えてくれるおっさんフェアリー。
嘘でしょと、手に握りしめた金貨とやらを見る。
「え? だって金ですよね、これ。いくらでも石から作れちゃう建設時に見栄えを良くするゴミみたいな鉱石ですよね?」
私も金はピカピカしてるので、家を建てる際に大量に使ったことがあるから、疑問の表情で、ちょっと信じられないよと聞き返す。ちなみにピカピカの豆腐が出来上がったのは言うまでもない。
なにせ金なんて、石をちょちょいといじれば錬成レベル10で作れちゃうアイテムだ。それをクレジット代わりに?
「あぁ、とすると金貨は最低の通貨として使われているんですね」
ようやくわかった。たぶん1MPの代わり。やっぱりゴミだ。よし捨てよう。
再び投擲の態勢になるアリスにおっさんフェアリーが怒鳴るように言う。
「違う! た、多分な? 恐らくはそれ1枚で1万MPの価値はあるかもよ?」
自信なさげてはあるが、そう言ってくるおっさんフェアリー。自分でも半信半疑っぽい。
でも希望が出てきたよとアリスは亜空間ポーチへ金貨を仕舞う。落としたら大変だからねと仕舞ってから、可愛く小さな口を尖らせて抗議する。
「早く言ってくださいよ。捨てたかもしれませんよ? きっと捨ててました。そういう情報は早く教えてくださいね? 次は弁償してもらいますよ?」
セコいアリスの言葉に苦笑いをして、肩をすくめながら鏡は頷くのであった。
アリスは気を取り直して周りを確認する。長閑な土の道。だけれども道を少し離れたら左は森となっている。右は草原が見える。
よくある風景である。草原から流れてくる草の匂いが結構好きだとアリスは思った。様々な場所を旅してきた。火山も雪原も湿地も毒の森やダークアストラルに呪われた地。
色々な場所で色々な匂いがあった。ここは普通の草原だ。草の香りも普通である。
レベル上げにどちらに行こうかなと、愛らしく小首を傾げるアリス。小柄な体躯も相まって可愛らしい。
「あ〜! お前裸足じゃん! 気づかなかった! 俺の家、泥だらけになってない? 結構歩き回っていたよね、お前?」
「もしかして、靴を脱ぐ大和と同じ家でした? ですが仕方ありませんね。玄関で転移しなかったのが悪いんです。後で掃除はしますが、弁償はしませんよ?」
怒鳴り散らす鏡。でもスタート地点があそこだったのだから仕方ない。仕方ないから弁償はしませんよのアリス理論。
靴を装備していないのは当たり前だ。レベル10にいかないと、装備しても意味がない防御力0の布の靴しかないので。
肩をがっくりと落として、疲れたような感じでおっさんフェアリーはアリスをジト目で見る。
「あぁ〜、わかったわかった。次からは玄関から転移するぞ。どうやら転移地点は、前に転移した場所になるみたいだしな」
「了解です。そういえばあの家も私の物になるんでしょうか? 全財産とか言っていたような?」
「へいへい、上手くいったらな。家やその他諸々は成功報酬だ。期待しとけよ?」
はぁ〜とため息をついて、成功報酬まで提示してくれる鏡。
おぉ!今回のクエストは本当に実入りが良いみたいですねとアリスは喜んだ。口元をによによさせて嬉しそうに、クエスト頑張ろうと思う。
「では次なるスキルを取得しておきますね」
ポチッとなと精神術を取得する。ちなみに術系統は最初に1つの術。以降は10レベルごとに新たな術を取得する。
精神術は雑魚敵も強敵にも使える重要だ。気休めだけど強い敵にもとりあえず使うぐらいに使い勝手がいい。この先に覚える術も良いのが多いので取得した。
「それではまずは平原でレベル上げをするとしましょう」
盗賊の戦闘力を見るにここは敵が弱い。鏡には内緒だが、盗賊が視認できない速さで行動していたら、即レベルを回復させるつもりではあった。
しかし盗賊はハンターになりたての初心者向けの敵であったから回復はしなかったのだ。きっとここらへんも弱い敵に違いない。
そして、クエストが進むうちに敵のインフレが始まり、最後は宇宙での艦隊戦か、亜空間でのボスとの戦闘になるに決まっている。私はそういうのは慣れているのだ。その時まで、ゆっくりとレベル上げをしていく予定。
ちゃんとサブクエストも回収していくから、気をつけないとねと、アリスは強く頷いた。
てってことと平原へと道を外れて歩き回って、アリスは戸惑いの声を発した。
「いないです。見渡す限りに敵がいないです。きっと雑魚狩りをしているハンターがいるんですね!」
たまにいるのだ。安い素材なのに生産のスキル上げをするために、自前で雑魚を倒しまくり、レベル上げをしようとするハンターを困らせる人が。
私はレベル上げの人が来ない場所で雑魚狩りをしてきた。雑魚の中に凄い強い敵が混ざるレベル上げには適さない場所だったので、レベル上げをするハンターは来ない場所だった。ハンターのマナーというやつである。
しかし、目の間の平原。村に近い場所なのに、敵の姿が見えない。普通ならノンアクティブの敵が目の前をうろちょろしているはずなのに。雑魚狩りをしているマナー違反なハンターがいるのは間違いない。プンスカとそれはないよとアリスは怒る。
「いや、アリスさんや………。この世界だとモンスターは普通に生活しているから、無意味にうろちょろはしていないぞ?」
鏡が苦々しく困った表情で、驚きの内容を告げてくる。生活をしている?いつもハンターに狩られるか、商人を襲うかしかしていない普通の雑魚敵が?
「それじゃあ、ここの惑星の人たちはどうやってレベル上げをしているんですか? 簡単にレベルアップできないじゃないですか!」
「そうだね……。はぁ、これは思ったよりも大変かもしれないぞ……」
落ち込むおっさんフェアリーを見ながら、アリスもウンウンと勢いよく頷く。
「大変ですよ。これは大変なことですよ。私はどうやってレベル上げをするんですか?」
「いや、そういう意味じゃ……。まぁ、いいや。地道に探すしかないだろうな。ちなみに敵はリポップもないから」
「えぇ〜! 変な惑星ですね!」
リポップが無いとレベル上げも素材集めもできない。というかやりにくい。すごい惑星に来たもんだと、ゲーム少女は驚いたのであった。