78話 ゲーム少女と敵の推測
ワーワーと人々が称賛の声をあげるのを満足げに頷いて受け取るアリス。褒められるのは大好きなので、ニッコリと花咲くような微笑みで称賛を受け取る。
手を小さく振って、子犬を思わせる小柄なる身体での行動なので、その可愛らしさに人々は癒やされて、微笑みを浮かべていく。
ふふふ、掴みはバッチリですねと漫才師みたいなことを考えて、鎧を脱いで火傷の応急手当を受けている騎士たちへと、ちっこいおててを振りかざした。
「エリアヒール」
その治癒の力は騎士たちへと降り注ぎ、淡い光により火ぶくれがあっという間に治っていき、人々は唖然として口をぽかんと開ける。まさか治癒魔法も使えるとは考えていなかったのだ。そういえば紹介時に枢機卿と言っていたが、子供のような少女なので、金かコネかで手に入れた地位だとばかり思っていた。
それが、国内でも使える者はいない範囲治癒魔法を使うとなれば、称賛の声は熱狂的に変わるのであった。
ムフフ、フフフと口元をニマニマとさせて嬉しいアリスは胸をはり、反らしすぎて、うわぁとひっくり返るが、それでも称賛の声はやまなかった。
コロンコロンと転がったアリスは、パンパンと埃を手で払い立ち上がる。たぶんアホな姿を見せたので、ついでに誇りも払ったと思われる。まぁ、ハンターに誇りは最初からないかもしれないが。
そんなアリスたちへと、ようやくてこてことトーギ王とシグムンドたちが遅れてやってきた。
「よくやってくれたアリス嬢、おかげで無為に我が騎士たちが死ななかったことに礼を」
王様なのにあっさりと頭を下げてくるが、この惑星はまだまだ未発展なので、そこまで礼儀にうるさくないから普通なのだろう。
「すまないな。神器を取りに行っていたのだ。見てすぐに強敵だと思われたがゆえに」
シグムンドも笑みを浮かべて、アリスたちへと礼を言う。
その言葉にピクリと反応して、トーギ王たちを見ると、王は4種の宝石を花弁のように加工されて、蔓を模した意匠が杖に施されている金属杖につけた見るからに神秘的な物を持っている。
シグムンドも黒い魔剣のようであり、複雑な意匠が入った薄っすらと刃が光っている力の籠もった片手剣を持っていた。
アリスの視線に気づいたシグムンドが、ひょいと持っている剣を見せてくる。
「これは竜殺しの魔剣グラムだ。陛下がお持ちなのが4精霊の宝石杖、これらの武器を使わねば倒すことは難しいと考えたのだが……貴公たちは強いな。特に鏡殿はまさか素手で戦うとは思いませんでした」
鏡へと視線を向けてシグムンドが感心したように称賛の言葉を口にする。
フッとニヒルに肩をすくめながら笑う鏡。
「素手で戦うしか方法がなかったのでね。剣があればもっと簡単に倒せたのだが」
嘘を言いまくるおっさんウサギがここにいた。殴るのは痛いから嫌だと言い、防御力無効の技は100レベルまでの剣技には無い。なので、たとえ剣があっても素手で戦うことになっていたであろうことは間違いないのだからして。
内心でよく平気で見栄をはれるなぁと感心するアリスだが、たぶん同じ状況ならアリスもこうして見栄をはったはずだが、その自覚はない模様。
「うむ……神殿騎士団団長の力を見せて頂いた。それと我らの神器を使わなかったことも感謝する」
トーギ王がさらにお礼を言ってくるので、さり気なくアリスは解析を二人に使った。
トーギ王『戦闘力1822』
シグムンド『戦闘力1972』
なんと物凄い戦闘力だとアリスは少しだけ驚いた。レベルでいうと130レベルはあるだろう。オズを上回る戦闘力だ。
しかしすぐに考え直す。すぐに駆けつけたのであろうが、それでも立派な装備をしている。王もシグムンドもマテリアルを強く内包する防具を装備している。そして神器なる物の力を考えると、そこまで素の戦闘力があるのだろうかと。
神器の戦闘力を知りたいなぁと思うが貸してはくれないだろう。まぁ、いつか機会があるかもねと断念する。
「神器ですか。たしか力を使うと回復まで数年かかるとかいう話でしたね。切り札を使うのはもったいないでしょうから良かったです」
ふわりと可愛らしい笑みで答えるアリスに対して、トーギ王は重々しく頷く。
「恐らくは敵の狙いはそこであったのだろう。あの化け物を使って我らに神器を使わせるつもりであったのだ」
「……なるほど、切り札をどちらが温存できるかが、この地域の戦術なんですね」
ほむほむと納得するアリス。ようは最強の神器とやらをどちらが温存できるかで勝敗が大きく変わるのではなかろうか?
「一概にそうは言えないが、戦いの趨勢を変えてしまう可能性は持っている。大軍と相性が良い神器などがそれだな。過去に使わせるために少数の軍を派遣して撃退に使わせたあとに、大軍で撃破をした戦いなどがあったしな」
まぁ、そうだよねと思いながら、数年単位での回復が必要とは物凄い使いづらい武器だなぁと呆れる。戦いのピースに入れたくないが、相手が神器とやらを使うとなれば、入れるしかないのであろう。
「あの化け物は私が頂いてもよろしいでしょうか? 倒したのは私たちなんですけど」
一応確認するだけで、駄目だと言われたらハンター流の説得をする気満々なアリスであったり。
「もちろんだ。ただあの化け物はどこから来たのかがわからないのだが……」
「いえいえ、今しがた敵の狙いは神器を使わせることだとおっしゃっていたではないですか。既に予想はついているのでは?」
コテンと首を傾げて不思議そうに尋ねるアリスへと、苦笑いで返すトーギ王。
「先程の発言は迂闊であったな。たしかに集めている情報から相手が新たに手に入れた神器の力だと推測している。名前も判明しており、鉄蛇の卵というオーブらしい。使用すると鉄蛇を生み出すことができるとか」
「そこまで判明しているのですか……。これ以上は聞かないほうがよろしいでしょうか?」
アリスが珍しく考えながら発言する。いつもならなにかのクエストですねと飛び跳ねて喜ぶ少女なのに。
「いや、トト伯の隣国、ナーガ族が主で形成されているイーマの国。アリス殿から見ても近い国が使った神器であろう」
「なるほど。仲が悪い国なんですね」
その国はたしかさっき誰かが言っていましたと思い出す。人間族の扱いが酷い国だっけ?
「あそこはナーガ族だけが神に選ばれたという考えが広まっており、特に人間族は家畜と思っているからな。人間族を含めた多種族を重用している我が国とは相容れないのだ」
「トト伯爵の隣にある国……私の街とも近いということですね。私も気をつけることにいたしましょう」
なにか考え込みながら返答をするアリス。鏡はどうせろくなことを考えていないのだろうなと予想していたが、たぶん当たりであろう。
「そうしたほうが良いだろう。それと我が騎士たちを救ってくれた礼をしたいのだが?」
「そうですね……これからの街づくりのために王都にいる人間族を多少移民させたいのですが、よろしいでしょうか? シグムンドさんには了承を得られたのですが」
一応、王様の言質をとっておこうとアリスは確認のためにも聞いてみる。
あっさりと頷くトーギ王。
「シグムンドから聞いている。スラムの人間族や、困窮している者たちを連れて行くとか。問題はあるまい、許可をしようではないか」
本当に考えなしの王様だなぁとアリスは内心で、あっさりと了承するトーギ王に呆れたが、渡りに船であるからして微笑みながら頷くのであった。
トコトコと揺れすぎてお尻が痛くなる馬車に揺られながらアリスたちは帰還していた。
揺られながらアリスはムフフと嬉しそうに笑う。
「やりましたね。今後はノーマルニュートたちは、私の街に運び放題ですよ。じゃんじゃん増やしていこうじゃないですか」
アリスは人間族と言ったのである。困窮した人間族とか、スラムにいる人間族とか限定したつもりはまったくない。トーギ王が早とちりをしたたけなのであるからして。
「まぁ、順々に増やしていけば良いだろう。とりあえずは7000人ぐらいになれば定期的に作物の収穫もできて収支もプラスになるだろうからな」
鏡がのんびりとした口調で話を返してきて、グリムはわかりましたと頷く。
「驚異的な成長度を誇るアリス様の土地ですので、住む者が増えれば増えるだけ、溢れ返る程の作物が収穫できると考えます。私にお任せください」
へへ〜と恭しく言ってくるので、すっかりアリスを主としたらしい。内心で貴族にもなれるだろうとグリムは確信していた。
ふむふむとこれからのことをしばらく話したあとに、アリスがそういえば、という感じで言ってくる。
「イーマの国とは楽しそうな国ですね。私の街を大きくしてくれそうな予感がします。私の街にちょっかいをかけてくれないでしょうか。手に入れた蛇の残骸もレベル50相当の素材でしたし」
パタパタと足を可愛らしく動かしての、子供が玩具をくれないかなぁという無邪気な感じの発言である。
「そうだな………ワンチャンあるかもしれないぞ? 俺らの街は橋頭堡としては完璧だ。一見完璧なのだからな。港を持っており、他のトーギの街からちょうど良い場所にある。守りやすく攻めにくい土地だからな。少数しか住んでないと思われたら海岸沿いに攻めてくるかもしれないぞ」
鏡が思考しながら答える。自分がイーマの軍師なら攻めにくい砦よりも密かに少数をアリスシティに送り込むだろう。
「それは楽しみですね! 早く来てくれないでしょうか? いえ、グリムさん、私の街についての噂を広めておいてくださいね。簡単に奪えちゃう街だぞ〜って」
目を子供のように輝かせて、ウキウキ笑顔でアリスは期待した。お年玉を早くくれないかなぁという表情だ。
アリスと鏡の会話にグリムは苦笑する。この二人は自分たちが負けるとは欠片も思っていないことがあからさまだからだ。まぁ、それもそうだろう。神器如きでは神には勝てないのだから。自分が勝ち船に乗っていることをグリムは確信していた。
「とりあえずは人を増やして、イーマ国に噂を流しましょう。それまでは私はまた、地球で活動することにします」
あの惑星もそこそこ面白いので楽しむ気満々な地球にとってははた迷惑なゲーム少女であった。




