77話 ゲーム少女とヘビなるモノ
晩餐会はホールで行われていた。石造りであるが堅牢であり、更に外側には外庭、そして城壁があったはずである。しかし石作りの堅牢であるはずの壁は爆音とと共に砕け散り、散らばった破片が噴煙のようにその周辺を覆っていた。
すぐに煙は収まるが、その中から異形が金属音をガシャンガシャンとたてながら現れる。その異形を見て人々は驚き慌てふためて、警護の騎士たちが集まってくる。
全身を覆うフルプレートメイルなのに、軽やかに足音高く騎士と魔法使いたちは集まってくる。その身体能力がフルプレートメイルの重量を無視できるほどだとわかる。
「何者だっ! ここをトーギ王城と知ってのことか!」
剣と盾を構えながら、怒鳴る騎士たち。ここにいる騎士たちは選ばれた凄腕の騎士たちであり、全員高位種族の狼人、獅子人、ハイエルフで編成されている。
賊が何者であろうとも、あっさりと倒し鎮圧できるだろうと、周辺の貴族たちは平静に戻る。少しの間だけであったが。
中から現れたのは、金属でできた大蛇であった。ぎしぎしと赤く目を光らせて、口からは煙をシューシューと噴き出しており、鉄色をした硬そうな胴体はどれぐらいの長さなのだろうか。長さがわからないのは地面から突き出すように現れているからであり、この大蛇が地面を掘って現れたのがわかる。頭だけでも3メートルはありそうな大きさなので、全長もかなりの長さなのだろうと推測するのみだ。
そんな大蛇へと、勢いよく騎士たちが脚を床へと踏み込み剣を構えて肉薄する。
「これでも喰らえ、化け物めっ! 『強撃』」
剣技の一撃にて騎士たちが一斉に襲い掛かる。相手の出方を確認せずに一気に倒すのはこの世界では当たり前である。術の詠唱や力を溜めた剣技を使われる可能性があるからだ。
だが、一斉に斬りかかった騎士たちの剣はあっさりと弾かれた。大蛇の鉄鱗は圧倒的な防御を持っている模様。
「ば、ばかな! 我らの剣が通じないとは!」
それを見た魔法使いの一人が魔法を唱える。
「敵を打ち砕く光の矢とならん! 『魔法の矢』」
数本の光の矢が騎士の眼前に生み出されて、すぐに大蛇に向かい飛んでいく。
光の矢は高速の飛翔にて、大蛇へと命中をするが、命中するのみであった。パチンと軽い音と共に弾かれた。魔法の攻撃が通じずに驚愕する魔法使い。
「剣技も通じぬ防御力。魔法の通じぬ抵抗力………」
異様な防御力に怯む騎士たちへと大蛇が口をぱかりと開ける。その口内が高熱で歪み始めて、一気にブレスを吐きだす。
シュオーと噴き出すブレスは高熱を伴った蒸気であり、騎士たちは盾を構え、魔法使いは防御の障壁を繰り出すが、あっさりと盾を構える騎士を蒸気で覆い、魔法攻撃ではない蒸気は魔法使いの障壁をあっさりと貫通していく。
「ぐはぁ~。か、体が!」
あっという間に火ぶくれを起こし倒れ伏す騎士たち。騎士などは金属製の鎧のために、さらにそのダメージは大きい。とどめとばかりに大蛇は少し頭をひいた後に、弓で放たれた矢のように突進をしてくる。
そのダンプの如き突進で騎士たちは押しつぶされて、運が良ければ異世界転生行きとなるかもしれない死を迎えるはずであった。
のそりとその間に一人のおっさんが立ちふさがらなければ。
「やれやれだぜ。『ディフレクトブロッキング』」
おっさんが片手を突進する大蛇へと向けると、6角形の金色のシールドが生み出される。そのシールドに大蛇はぶつかり弾かれる。
よいせと、体を捻り巻き込むように回転蹴りを大蛇の頭にぶち込むおっさん。足を伸ばして綺麗にその蹴りは決まり、大蛇は頭を揺らす。
『オーラブロー』
そのまま鋭く床に足を踏み込み、輝く白光を纏った右拳で撃ち放つ。
撃ちだしたブローは大蛇の頭へとめり込み、更に転がるように吹き飛ばしていく。オーラブローは相手の体術スキルのレベルが自分より低かったり、耐性スキルがない場合に防御力無視でダメージを入れられる技だ。
フッとかっこをつけて、その様子を見るおっさんである。まさに調子にのった急に力を手に入れた主人公みたいな行動をして満足げな表情である。
「ぷぷっ、やれやれだぜ、とか言っています。キメ顔で言っていますが、それはイケメンに限るというやつですよ? 鏡がやるとただの疲れたおっさんにしか見えません」
後ろから追いついてきたアリスが、鏡へとフレンドリファイアをする。黒歴史を想像ですねとぷぷっと笑うアリスの言葉で、顔を真っ赤にして羞恥に包まれるおっさんであった。
「ちょっと、俺が決めているんだからチャチャをいれるなよ。今のかっこよくなかった? かっこよかったよね?」
鏡が慌てふためながら言うが、やれやれと肩をすくめるアリス。美少女のほうがおっさんより、やれやれが似合うと判明した瞬間であった。
「だって、地味に一回しか防げない盾技とか、防御無効の技を使っているので、やれやれと似合わない行動だなぁと思いまして」
「いやいや、あいつ硬そうだからね? というか硬いよね? 俺は今素手なのでちゃんと選択した技を使うんだよ!」
「たしかに硬そうですね。どこから紛れ込んだアストラル体なのでしょうか? 興味が湧きますね」
アリスはぱっちりおめめで吹き飛ばされた大蛇へと解析を行う。
『戦闘力1000』
ありゃ、意外と高い戦闘力ですねと驚きの表情を浮かべる。なにげにおっさんウサギよりも戦闘力は高い。そして、おっさんウサギにはこの結果は教えないようにしようと決める。たぶん戦闘力を聞いた途端にヘタれるだろうから。
「ですが、防御に極振りな敵と推測します。というかどこが作成した機動兵器なんでしょうね?」
吹き飛ばされた大蛇が再び口内を開いて、蒸気を噴き出そうとしているのを見て人差し指を向ける。
『サイキックバインド』
不可視の念動が大蛇を覆い、その動きを止める。レベル10の敵の動きを10秒間止める物理抵抗可能な念動拘束である。物理、超能力両方で抵抗されるので、大体1秒止めればいい方だ。
同じように大蛇も動きを再開するが、口内にためた蒸気は消え去っていた。
ふふっとその様子を見てアリスは面白そうに笑う。
「ため技のキャンセルができるんですね。ならば問題ありません、ガラクタとして片づけを始めましょう」
珍しい素材が手に入りそうだねと期待に溢れるアリスは鏡へと視線を向ける。
「レアアイテムゲットのチャンスですよ、鏡。破壊しましょう」
「ん? だが、あいつは硬いぞ? どうやれというんだ」
鏡が疑問の表情となる。オーラブローでもそこそこのダメージしか入らない相手だ。硬い相手なのだ。
「こうするんです。『エンチャントサンダー』」
雷光がおっさんウサギの手に宿り、バチバチと光を放つ。それを見て嫌な予感がする鏡。
「………え~と、もしかして殴り倒せと? 俺の拳が痛そうな感じがするんですけど? 殴ると俺の拳も痛いんだけど?」
「嘘は言わないで良いですよ。微妙な痛さしか感じないはずです。クールタイムが無くなったらオーラブロー、それまではサンダーの追加ダメージでちくちくダメージを入れてください。私も敵の攻撃をキャンセルしつつ、雷系統でダメージを与えまくるので、後ろでお茶でも飲みながら支援するので」
「最後の一言が気になるが………。はぁ、まぁ、仕方ないか。では倒すとするか………。あぁ、嫌だ、今度はナックル系の装備も配布してくれよ」
動きを止められていた大蛇が再び突進してくるが、今度は受け止めずに鏡は軽く床を蹴り突進してきた大蛇の頭へと両手をつけて、倒立するみたいに回転して頭上を越える。
そして胴体に飛び乗った鏡は右、左、連続突きと、雷光を纏った拳を次々と突き入れる。
胴体は凹みもしないが、雷の追加ダメージが入っているのだろう。拳を叩き込まれるごとに大蛇は嫌そうに体を震わせる。
『サンダーレイン』
鏡の頭上から幾本もの雷が降り注ぎ、鏡も大蛇も合わせて直撃していく。雷により胴体が欠けるように壊れていく大蛇。
「おーい! 俺がいるのに範囲攻撃を使うなよ! びっくりするだろ! 最低でも声をかけろ!」
「なにを言うんですか。敵に今から攻撃をしますよと言えと? そんなアホなことはできません。どうせフレンドリファイア無効なんです。せいぜいアホなおっさんの頭がアフロになるぐらいですから安心してください」
雷を放ったアリスが平然とした表情で次々と雷の術を放ちながら、鏡へとからかうように言う。
「アフロは問題だからね? あれはラテン系の陽気な人しかやってはいけない髪型だから。っと『オーラブロー』」
怒鳴りながらも、大蛇がその攻撃に苦しみのたうち回り胴体をくねらせるのに、鏡はバランスボールに乗るようにバランスよく動き胴体の上から落ちることは無い。
ぎゃーぎゃーとアリスと鏡が怒鳴るように話しながらも、大蛇はどんどんと雷で焼け焦げ、拳による攻撃で胴体をへこませる。
10分ぐらい経過しただろうか、大蛇は動きを鈍くする。それを見逃すわけはなく、アリスも鏡も最後の攻撃を繰り出す。
『サンダーレイン』
『オーラブロー』
雷光煌めき、白光が周辺へとその輝きを見せて、それらの攻撃が直撃した大蛇は頭を半壊させて動きを止めるのであった。
ずずーんと床に倒れ伏して動かなくなる大蛇。
「ラストアタックは俺だったか。まぁ、主人公にふさわしい戦いだったな」
大蛇の胴体から飛び降りて、床へとスタッと降り立つ鏡が、うんうんと頷いて満足げな表情になる。
「いえ、私の攻撃で終わっていました。脇役なおっさんの最後の攻撃は無駄でしたね。エネルギーの無駄遣いでしたね」
ふふふ、ふははとお互いが目線を合わせて、牽制するようにバチバチと目を光らせるが
「まぁ、でも久しぶりのボス戦でしたね。私は満足です。結構楽しかったので」
「スキルなしのステータスだけの雑魚だったもんな。あいつ蒸気ブレス以外は攻撃方法なかったっぽいし」
二人とも笑顔でと表情を変えるのであった。近接戦闘系スキルのない敵など戦闘力に差があっても雑魚であるからして。技術がステータスの差を覆すのである。
その戦いを呆然とした表情で見ていた騎士と魔法使いたち。あきらかに自分たちでは倒せない敵であったので、邪魔にならないように下がっていたのだ。量より質がものをいう世界なので、こういう判断も騎士たちは必要なのである。無駄に命を散らして、しかも邪魔をする可能性があるので。
そして、その連携の取れた戦い、男の騎士が軽やかに殴り倒し、少女が援護の魔法をいれていく姿を見て英雄の叙事詩を見ていた気分になり
「うぉぉぉ~」
と剣や杖を掲げて、興奮と称賛の叫び声をあげる。周りの貴族たちもその戦闘を見て驚きの声をあげ始めた。
アリスたちの話はこの戦いをもって有名になるのである。




