76話 ゲーム少女と晩餐会
シャンデリアなんて気の利いたものはなく、薄暗い中で晩餐会が行われる………。と思っていたアリスと鏡であるがホールまで案内されて驚きの表情を浮かべた。
煌々と明るく光る地球にも負けない明るさをみせて、案内されたホールは夜の中にあったのだ。
「これは………。術ですね。しかも持続性の高い召喚系の術ですね」
アリスは素早くホールを見渡すと数百人はいるホールの天井にはフヨフヨと光球が浮いており、その輝きが部屋全体を照らしていた。
「そうだろうな。光の精霊とかそんな感じだろう」
鏡も頷きながら、輝く光球を見て答える。さすがはエルフの王が支配する王国である。何人もの精霊使いが光の精霊を使役してホールを照らしているのだろう。
「照明係の精霊使いですか。馬鹿みたいに維持費がかかると思いますがこれが贅沢というものなのでしょうか。どこかのおっさんフェアリーは輝くこともできないのに。フェアリーなのに輝くこともできないのに」
「フェアリーは輝かないからね? 翅をたなびかせて光の粒子が舞い散るかもしれないけど。輝かないからね? おっさんじゃなくても輝かないからね?」
相変わらずの応酬をアリスと鏡がしたあとに、入り口をくぐる。どうやら身分制度による入場の順番もなさそうであるし、見る限り皆でわいわいと話しているので、身分が下のものが上のものに話しかけてはいけないという礼儀も無さそうだ。
「というか、身分が下のものは上のものに話しかけられるまで、話してはいけないって、変な風習だよな。あれを現実でやると物凄い盛り上がらないパーティーとかができる可能性があるぞ、話し声もしないシーンとしたパーティーとかな」
鏡は小説などで見た身分制度による風習を思い出すが、あれは現実にやったらどうなるだろうと、少し興味深げである。何しろ身分の上の貴族のほうが数が少ないのだ。その数の少ない貴族が声をかけてくれるまで待つのであれば、身分が下の者は静かにホールに佇むのみとなるだろう。
「まぁ、めんどうそうな礼儀がなくてよかったです。ではいきますよ」
とてとてと可愛らしいドレスをきたアリスが中に入っていく。今夜はイベントアイテムの誰でもお姫様になれるというプリンセス変身ロッドの変身効果でお姫様ドレスになっているアリスである。ちっこい宝石がついているバレッタにふわふわのピンクのフリルがたくさんついているドレス。少女趣味ここに極まるといった姿である。
ちなみにプリンセス変身ロッドは女性が使うよりも男性キャラが使うことが多かった。誰でも変身できるので阿鼻叫喚なムキムキなおっさん姫ができたりしたのでネタとして楽しんでいたのである。
「おぉ、ようこそアリス嬢。この晩餐会を楽しんでいただけると嬉しい限りだ」
トーギ王が少年少女の数人と一緒にやってきて、ほらがらかな声音で歓迎をしてくる。
軽く首を傾けて可愛らしくスカートのすそを持ち挨拶をするアリス。
「お招きいただきありがとうございます。今宵の晩餐会への招待を有難く思います」
うむうむとトーギ王は満足げに頷き、傍らの少年、少女へと声をかける。
「この者たちは私の息子、娘だ。よろしく頼む」
ペコリと挨拶をして王子たちへと視線を向けて愛想をよくする。クエストがあるなら、どんと来いと言う感じ。あとでお話がとか、実は私は、とかそんな話を希望するが普通に王子王女との挨拶は終わってしまう。
ありゃ、思わせぶりな言動をする相手もいませんでしたねと、内心で落胆しちゃうアリス。アリスの内心がわかっているのであろう鏡は苦笑いを浮かべる。ちなみに重要そうな発言をしない限り名前を覚える気はないゲーム少女である。
「今宵はアリス嬢から買い取った砂糖や香辛料も多々ある。陶器やガラスのグラス、ぺーキングパウダーをつかったパンなどを我が国の特産品に使用しているからな。充分楽しんでくれ」
「はい、楽しんでいきたいと思います」
そう答えたアリスに軽く頷いて、トーギ王は他の貴族の挨拶をうけに移動するのであった。
晩餐会の案内は、ドロシーがついてしてくれることとなった。トーギ王との挨拶が終わったと思ったら一緒に晩餐会を楽しもうとやってきたのである。というか、晩餐会というかバイキングなような気がするが、まぁ、お国柄なのであろう。
執拗なる挨拶を貴族たちが目をぎらつかせてしてくるが、それは鏡へと押し付けてアリスは、わー、パーティー楽しみです~と無邪気な少女を装いドロシーと歩き回ることとした。
まて、アリス、俺もつれていけというアリスを呼び止める声が聞こえたような感じがしたが、まさか強力な身体をもつおっさんがそんな泣き言をいうわけあるわけないですね、ただの幻聴でしょうとスルーして歩き回る。
「これはトーギ国の特産雲の樹を炒めたものよ」
ドロシーがほいっとテーブルに乗せられている白い綿飴みたいなものを指し示す。
特産品という言葉に弱いアリスは興味津々で雲の樹とやらを見つめて尋ねる。
「これはなんですか? 甘い綿菓子?」
「綿菓子がなにかがわからないけれど、美味しそうな名前だから後で教えてくれるかしら? これは雲の樹の柔らかい小枝の部分ね」
「小枝? 小枝ですか………。興味深いですね、いただきま~す」
パクリと口にすると、ふんわりとした滑らかな味わいである。
「おぉ、凄いです。甘くない綿菓子ですね。塩の味しかしませんが………」
相変わらずの味付けであるが、感触が楽しいのでパクパクと食べるアリス。
その様子を見て、嬉しそうな表情になるドロシー。
「でしょう? 雲の樹は高級品なのよ。若葉や花、小枝が柔らかくて美味しいの。真っ白な樹で雲の樹と呼ばれるわ」
自国の特産品を喜んでもらえて嬉しいドロシーは、その樹の特性を教えてくれる。
「幹は硬くて食べれないんだけどね。小枝はとても柔らかいの。若葉や花もふんわりとして食べやすいのよ」
「それじゃあ、雲の樹とやらはすぐに食べ尽くされるのでは? 食べられるために存在する感じがするのですが」
なんて美味しそうな樹木だろうとアリスは予測する。それだと食べられるための樹木だねと考える。
考えるので、当然の疑問をドロシーはふふんと腰に手をあてて、アリスへと返事をする。
「雲の樹は名前の通りに水と風の魔法を使うトレントなのよ。小枝や若葉、花は自分の魔法を使う際の触媒にもするの」
「タコみたいな敵ですね。自分の身体を触媒にするなんて、それならば若葉や花、小枝からは良い武器とかも作れるのでは?」
触媒にできるほどに強力であれば、素材としても一流であろうと考えるアリスだが、ドロシーはかぶりをふる。
「大昔は神様が加工したハイポーションの素材とか、魔法の杖とかにできたらしいんだけど、今はその技は失伝したわ。それに雲の樹を倒すのも大変なのよ、触媒にできるほどに強力な小枝とかを使用して魔法を使ってくるから、よほどうまく戦わないと死ぬ時もあるわ」
「ほぉ~。それなら、これは命懸けでとってきたんですか?」
「小枝とかをうま~くかすめ取る猟師がいるのよ。高く売れるからね、それを買い取ったものがこれなわけ」
ふむふむと頷くアリス。どうやらこの惑星は文明度もマテリアルも少ないが、珍しいアイテムは沢山ありそうである。もしかしたら強力なマテリアル素材もあるかもしれない。何しろ神器というものがあるのだから。
これはどんどこ情報を集めないといけないねとアリスが内心で考えていると、疲れた表情の鏡がようやくこちらへと貴族たちの挨拶を乗り越えてやってきた。グリムは招待されなかったので二人だけだったのが致命的だったかもしれない。
「あ~。アリスさんや。俺が苦労して言質を取られないように貴族どもとやりあっているのに、そっちは美味しそうなものを食べ廻るグルメツアー中か? 少しこっちの苦労を背負ってくれ~」
クスリと笑い、アリスは癒されるような安心感を与える微笑みで鏡を迎える。
「ご苦労でした、鏡。さすが私の騎士団長です。これからも頑張ってくださいね」
忠義に報いるお姫様を素で行うアリスであったが、鏡は騙されなかった。そんな演技は他の人には通じてもおっさんにはつうじないのである。
「これからは姫様もご一緒に話し合いに加わってくださいね。クエストが発生しない挨拶でも」
「スキップ、スキップ」
紅葉のようなおててで耳を塞いで、面倒ごとは嫌なんですと呟くアリスに、鏡はこの性悪な少女めと晩餐会が終わったら、頬をむにーんの刑にしようと決意する。
「ふふっ。仲がよろしいのですね」
クスクスとドロシーが笑うので、仕方なく苦笑で返す鏡であった。
「だが、ここは人間族が意外と貴族で多いな? 偏見で差別されているんじゃなかったのか?」
周りを見渡しながら、鏡が思ったことを言う。周りにはエルフ、ウルフ、キャットと大勢のニュートがいるが、その中でもポツリポツリと人間族の貴族がいるのだ。
「あぁ、それは当然ですわ。この国ができた当時はエルフと人間が力を合わせて建国したという伝説がありますので。魔物に食い殺されそうなエルフと人間を神様が保護したのが、この国の起源と言われていますわ。なので貴族の人間族は鍛えに鍛えまくっていますわ」
「は~、それでも平民はあの扱いとなると………、他国での人間族の扱いが怖いな………」
はぁ~とため息を吐く鏡。人間族が頑張って貴族をしている国ですら、平民は困窮していた。鍛えれば強くなるというが、日々の生活の中で鍛えるなど金銭に余裕がなければ不可能な話だ。なのでスタート地点で裕福でなければならない。それをこの国の貴族はできているのだ。それが他の国ならば………。
「良いではないですか。その方が私たちには都合が良いかもしれません? 人口を増やすチャンスが増えるぐらいに考えましょう」
ポジティブシンキングなアリスの答えに鏡はそれもそうかと頷く。結構簡単に人口を増やせるかもしれないからだ。
「それならば人間族が虐げられている国が良いのだが………どっかあるかな? ドロシー嬢」
気軽にドロシーに尋ねる鏡。うにゅうにゅ、さすがサポートキャラ、その調子で情報を集めてくださいとアリスが頷き
「そうですわね………。人間族を奴隷のように使っているのは、隣国のイーマ国ですわ、あそこは」
ドロシーが人差し指を頬にあてながら答えようとしたが、
ドカーン
と爆音によって止められる。
なんだなんだと見渡すと、ホールの壁が砂煙をあげながら崩れており、崩れた壁から何かが出てくるのが見えた。
「やりましたよ、鏡。やはりハンターがいるところに、厄介ごとあり、です」
不敵に笑い、なにかクエストが始まりましたねと壁の向こうから現れる何者かを見定めようとするゲーム少女であった。




