75話 ゲーム少女は謁見する
ちゃっちゃっちゃっちゃっ〜と鼻歌を歌いながらアリスはてこてこと王城を歩いていた。無骨な石造りの通路には松明掛けが均等に置いてあり、煤のあとが古代の城という感じを見せていた。
よくある壺やら鎧は全く通路にはなく、花を飾られていることも、絵画がかけられていることもない。そもそも窓すら木窓なので、開け放しで虫が普通に入ってくるだろう。
ダメ出しばかりするアリスだが、気になることが一つあった。
隣を颯爽と歩く凄腕の騎士に見せているおっさんウサギへと疑問を口にする。
「この王城を囲んでいる城壁……外壁と違いマテリアルの力を感じました。シールド搭載型ですね、こんな辺境の惑星なのに変ですよね? 私たち以外のハンターが王の可能性がありますよ? まぁ、レベル200程度の力しか感じられませんでしたが」
「俺たち以外にハンターはいないと思うぞ。あぁ、いったいどういうことなんだろうな? この城もなんとなくチグハグだ。美しい城に継ぎ接ぎで石を新たに積んでいる感じだぞ? なぜなんだ、グリム?」
アリスに聞かれてもわかるわけ無いでしょと、さらに隣に疑問をパスするおっさんであった。考えることをしない点で極めてこの二人は似ている。わかる人に聞けば良いというスタイルだ。
ふむ、顎に手をあててグリムが周りを見渡しながら返答する。
「これは神様が作成したのです。神代の時代、お伽噺の世界となりますが、ここでははっきりとその痕跡が残っています。この城の城壁は魔物に襲われて苦しむ人々を哀れに思った神様が作ったそうです」
ほぉ〜、とアリスは目を輝かせながら、口元をニマニマさせる。それはレアアイテムがありそうだと嬉しく思っているのだ。なにしろ神様と名乗る敵は常に珍しいアイテムを落としていったのである。
アリスが亜空間ポーチに入れているアイテムでもそのような物を常にいくつか入れている。戦闘不能時に自動回復する全ての魂の宿り木たる不死鳥の羽、あらゆる攻撃を跳ね返して敵へとダメージを与える深淵に棲まう竜神の鱗などなど。
もちろん使う気はないので、捨てないようにロックをしているが。だってアリスが亜空間ポーチに入れているのは消耗品がほとんどなのだ、万が一にも使わないようにしなければなるまいと、ゲームクリアまでラストエリクサーを使わない鏡の性格を反映していた。
「他にも神器はあるのですか? なにがあるのでしょうか?」
興味津々な表情でグリムへと尋ねると、簡単に返答をしてきた。それだけ有名なのだろう。
「常に水が湧く無限のクリスタル、シグムンド様が持つ神剣グラム、強大なる精霊獣を扱うことができる王が持つ4精霊王の宝石杖ですな」
「なんだよ、そんなに知れ渡っているのか? というかそんなに強い武器があるなら魔物をバンバン倒して安全な地域にすれば良いんじゃね?」
鏡が不思議そうに疑問をぶつけるが、その回答もあっさりとしたものだった。
「武器の神器はだいたい5年は使わないで力を貯めないと使えません。そのために最近で使ったという話は聞きませんな」
「はぁ、なるほど……自動回復のみでエネルギーのリロードは行わないのですね。何という節約思考……なかなかここの王様は考えていますね」
アリスがほうほうと感心するが、たぶん違うと鏡は苦笑する。
「恐らくは力の補充が俺たちとは違いできないんだろうな。まぁ、仕方ない」
「どれかくれませんかね? なにかと引き換えに」
フンフンと鼻息荒くアリスが尋ねるが、それは無理だろうなと鏡とグリムは首を横に振るのであった。
「ここが謁見の間でございます。アリス様」
全く無視をしていたが、案内をしていた前方の侍従が大きな鉄の扉を示す。まぁ、象のように耳を広げて盗み聞きしていたみたいだが。
「では、ここの王様に会いましょうか。なにか面白いクエストをくれると嬉しいのですが」
開き始める扉の前で、フフッと悪戯そうな微笑みを浮かべるアリスであった。
ぎぃと音をたてて扉が開き始める。門番兼扉を開ける係なのだろう。うんせうんせと懸命に力をこめて開けている騎士。
「なんだか重そうですね? これ、門番さん大変なんでは?」
その様子に戸惑うアリスであった。だって顔を真っ赤にして扉を開けているのだもの。
応援の騎士もきて、ぎぃぎぃと扉を開けて、やりきった感で満足げな表情の騎士たち。こちらへと入るように手振りで示す。
てこてこと中に入るアリスの耳に騎士のボヤキが入ってきた。
「久しぶりにこの扉開けたけど重いなぁ………」
クスリとそのボヤキを聞いて笑ってしまう。なるほど、権威を見せるために扉を閉めていたのであろう。いつもは開け放しに違いない。
だが騎士たちが一生懸命な様子で開けているので、逆効果な感じもするが……。まぁ、王様の考えることなんてわからないよねと考えを放置した。
中に入り見渡すと一応王座まで続くように毛の短い絨毯が続いていた。そして相変わらず松明掛けがあり、石壁にてできている武骨な謁見の間であった。絨毯以外は玉座が精々綺麗な調度品というかんじだろうか。他は何もなくガラーンとしている。
てこてこと歩いていき、王座まで辿りつく。エルフな王様と王妃が座っており、横の壁際には貴族と思わしき人々が整列もせずに集まっており、興味深げにこちらを見ている。シグムンドもその中に見えた。
ちょこんと立ち止まると、アリスはカーテシーを行ない、にこりと微笑む。
「こんにちは、トーギ王。私は銀河を股にか、いえ、外大陸からきた神官の魔風アリスです。特殊枢機卿の地位を大神殿から賜っております」
「私がこのトーギ国の王。トーギ11世である。面をあげよ」
「頭下げてないです」
即座に返事を返す恐れを知らないアリス。ブフっと鏡が笑って、グリムがため息をつく。そしてトーギ王も内心で慌てていた。やべ、いつもの通りに面をあげよと言っちゃったと。いつもは頭を下げたまま挨拶を相手はしてくるのであるからして。騎士と商人ぐらいは頭を下げていてくれないかなと、視線を向けるが騎士は頭を軽く下げて挨拶をしただけ。辛うじて商人だけが頭を下げる寸前であった。
言うの早すぎたよ。もうスルーして話を勧めようと決意する賢王トーギであった。本当に賢王なのか疑問符がつくハイエルフである。
貴族たちがヒソヒソと顔を合わせて、話を始める。
「なんという傍若無人な!」
「子供とはいえ、酷いものだ」
「外大陸から来たというが……」
「物凄い美しい少女ではあるが………」
「相変わらずのアホな王だな………」
うるさい貴族たちへとトーギ王は鋭い視線を送ると、その視線に気づいて押し黙る。どうやら最後の発言は耳に入らなかった模様。
多少の呆れた表情をしながらも、怒ることはせずにトーギ王は口を開く。
「ようこそ、アリス枢機卿。今回の謁見にたいしてはグリフォンを退治したというそなたたちの功績を考えてのことだ。我が国の災厄を退治した英雄の顔を見てみたいと思ってな。まさか、これほど美しい少女であるとは思わんかった」
「ありがとうございます、王様。依頼をクリアしただけですので、たいしたことはありませんが」
謙遜をしていると思われる発言にトーギは重々しく頷き、話を続ける。ちなみにアリスにとっては本当にたいしたことはなかったのだが、それは相手にはわからないだろう。
「どうだろう? 外大陸からの訪問者ということだが、困ることは多数あるのではなかろうか? そなたがもちこんだ渡来の物も我が国で大変喜ばれている。なにか好きなものを褒美として与えようではないか」
ん~、とコテンと首を可愛く傾げてアリスは悩む。なにを貰おうかな、神器がいいけどさすがに国を救った英雄とかではないからくれないだろう。それならば、考えていた内容を再確認するだけだ。
「トーギ王。私は魔の森と呼ばれる場所を開拓しました。道路を作り、港を作り、街を作りました。なので、道路を敷いた魔の森内部と街は我が大神殿の直轄領として認めていただけないでしょうか? できれば文面で証跡を残す感じで」
その問いかけにピクリと眉を動かしてトーギ王は思考する。少し厄介な話であるし、侵略を目的としたら極めて困る内容であるからだ。
迷うトーギ王にアリスは畳み込むように話しを続ける。もちろん交渉スキルを使用して。
「開拓者の物になるという話を聞きましたが、平原を開拓されてもトーギ王は困るでしょう? 私は魔の森のみを開拓していくと約束しましょう。もちろん侵略などはしませんよ? 魔の森内部で発展を続けていくことを約束します。文書に残してもよろしいですよ?」
「………なるほどな………。失礼だが、それでもそなたたちのことを信じるには日が浅い。では、我が国の騎士団も少し常駐するということでどうだろうか? もちろん魔物退治に協力をすると約束する。騎士団が常駐すれば、侵略者であるということはなかろうと信じることができよう」
「わかりました。それでいきましょう。文書での証跡を残すことは決定です。あとは、常駐する騎士団が治外法権というのは困りますよ? 悪いことをしたら、ハンター流の法で裁きますからよろしくお願いしますね」
「よかろう。もちろん交易もしていきたいと思うので、そこらへんの話もしようではないか。定期的な輸出品を売ってくれるのだろう?」
トーギ王はその話に納得して合意する。アリスの言い回しには気づかなかったので、本当に賢王なのか不安な王である。
アリスはこう言ったのだ。魔の森の開拓にとどめますと。それは広大なる魔の森を全て自分の領土にするという宣言であるが、まさか凶悪な魔の森を支配下におけると考えていなかったトーギ王はあっさりと了承してしまったのである。
それに気づいたのは鏡だけであった。相変わらずアリスの思考は手に取るようにわかるおっさんだ。少女の考えを手に取るようにわかるなんて、危ないおっさんの可能性あり。
パンと両手をうって、アリスは満面の笑みを浮かべた。可愛らしく誰もが魅了されるような野花のような微笑みであり、周りの貴族たちもその微笑みにうっとりと見惚れてしまう。
もちろん、アリスは想定通りの交渉となったので嬉しく思い、心の底からの笑顔を浮かべたのである。
「砂糖や香辛料、その他色々を持ち込んでいますので、このグリムを通してお売りしましょう。各国へと窓口となってくださると嬉しいです」
「もちろんだ。我が国の周辺に至る国まで、そなたの交易品を売る手伝いをしようではないか」
にやりとトーギ王も笑みを浮かべる。転売からの利益を考えると途方もない金額になると考えている。本当に定期的に貿易ができるのであれば、これほど国にとって利益をもたらす内容はない。
しかも騎士の常駐を許すとなれば、侵略目的でもないと判断できるので良いことづくめであった。
最近きな臭い隣のナーガ国の動きを牽制できることも可能かもしれない。
貴族たちは、利権を求めて目をぎらつかせ始めて、トーギ王は満足げな表情となり、アリスは内心でほくそ笑んだ。
「では、歓迎の晩餐会と移ろうと思う。準備までアリス嬢たちを客室に案内せよ」
侍従に命じて、これからのことを考え始めるトーギ王。
良いですね。王様との交渉は良い感じで進められていますと、アリスは悪戯そうに眼を光らせるのであった。




