74話 王都は大騒ぎになる
トーギ王国王都にあるトーギ城。無骨なる城ではあるが、ところどころに美しい意匠が掘られている壁や像が見える。なぜか無骨な城には似合わない感じである。噴水もあり、庭園は常に美しく花が咲いており、人々の目を楽しませていた。
これは神代の時代から続く城であるからに他ならない。気まぐれなる神々はいつまでも尽きぬ水を生み出すクリスタルや常に花が咲き続ける庭園などを作っていったのだ。他の部分は増強や改築により長い年月で姿を変えていたが、神々が作りし部分だけは残ったので、このようにへんてこなちぐはぐな城となっているのであった。
その中でも『永遠なる花園』と呼ばれる常に花が咲き乱れる庭園にて、王たちが茶会をしていた。
侍女が陶器でできた白いポットにドバドバと茶葉を入れて、もう一つのポットに入っていたお湯をダバダバと入れる。そうしてジャカジャカとポットを振ると、テーブルに置いてある、これまた白い陶器のカップにトトトと美しく所作で注ぐ。
紅すぎる紅茶が注がれて、ツイっと砂糖壺をテーブルに座る人々へと勧めてから、頭を下げて控えるのであった。
注ぐところ以外はダメダメなメイドである。アリスが見たら怒ってスパルタな教育を施していただろうが仕方ない。
なにしろ作り方は一応聞いたが、一応聞いただけであり、たくさん入れれば美味しいでしょうという考えから、初めて見る紅茶とやらを淹れたのだから無理もなかろう。
茶葉を入れすぎて渋みしかない紅茶であるが、それでも今まで飲んでいた体に良さそうな草を煮たものよりは遥かにマシであるからして。
そうして、富を表すようにドバドバと砂糖を入れる面々である。砂糖を入れると渋みもなくなり甘くて良いよねという紅茶をもう飲まなくて良いよと言われそうな飲み方であった。
そんな飲み方をしているのは、この国の王夫妻とシグムンドとドロシーである。王夫妻はエルフの中でも高位の種族ハイエルフであり、元々魔法が得意なエルフの更にその上をいく種族だ。強力なる魔力を持ち、たびたびその魔力にてこの国を救っていた者たちの系譜である。
ただ、この世界のエルフたちは別に長生きというわけではない。老化がなかなか体に現れないので長生きに見えるだけで、あとは魔力が高いせいもあり、他の者たちより30年程長生きなだけである。十分長生きではないかと言われるとそのとおりだが、シグムンドたちもその高い魔力により長生きだ。
すなわち魔力が高ければ、常に身体が頑強になるので長生きする。そこに種族は関係ないのである。とはいえ、獣人族は元々魔力が低いのも多いので相対的に見たら、種族レベルで長生きではあろうが……。
トーク王は紅茶にドバドバと白い砂糖を入れたあとに、カップを持ち一口飲む。
「うむ……渡来の紅茶なるものは、素晴らしく美味い。この器も素晴らしい」
「そうですわね、貴方。今まで飲んでいたものなど、もう飲めませんわ」
ふふっと王妃が笑って、紅茶を口にする。
「それがですね、その渡来の少女なんですが凄いんです! 美味しいものをたくさん持っているんですよ!」
ドロシーがニコニコと笑いながら話しかけて、そうなのかと感心する王たち。この国というか、世界的に礼儀はそこまでは発達していない。高位の者には恭しく礼儀をとり、言葉遣いを気をつけましょうという感じだ。まぁ、まだまだ未発達な世界なので細かい礼儀作法はそこまでない。
「その少女は興味深い。よく教えて欲しいのだが」
「喜んでお教えしますわ、陛下」
ドロシーが優雅に微笑み、4人は談笑をしばらくの間行っていた。
その談笑は、駆け寄ってくる侍従により打ち破られるのであるが。
庭へと息せき切って駆け寄ってくる侍従を見て、4人は緊張感に包まれる。
「何事だ! なにがあった!」
威圧感を超えて、恐怖を感じるほどの圧力を王から感じて立ち止まり息を整える侍従。ぜーはーと息を整えたあとに佇まいを整えて話し始める。
「じ、実はグリフォンの討伐を受けた者たちが帰還いたしました」
ん?と首を微かに傾けてトーギ王はなにを言われたのか思い出した。
「あぁ、あのグリフォン退治か。なんだ? 受けた者たちがいたのは聞いていたが、生き残りが命からがら帰ってきたのか? 多少の金を渡して情報を得よ。どれほどの数がいたのか? どれぐらい強かったかをな」
グリフォンが巣を作っていると聞いて、その危険さを考えて討伐ができないだろう傭兵団へと配下の伯爵を通して依頼を出していたことをトーギ王は思い出す。生き残りは必ずいるだろうから、その者たちに多少の金を払い様子を聞こうと考えていたのだ。
冷酷な考えだが、騎士が無闇に死ぬよりは遥かにマシである。それに本当に有能な傭兵団ならこの危険な依頼を引き受けることはしないだろう。受けるのは金に目が眩んだ馬鹿な傭兵団だけだ。そう思っていた。
「グ、グリフォンは11匹、いえ、話を聞く限り12匹はいたと思われます」
侍従の答えに驚くトーギ王。シグムンドたちも、その数を聞いて驚きの表情を浮かべる。
「そこまでの数か! それならば騎士団の精鋭を出さねばならんだろう。2000ほどの騎士団の出撃を許可する。シグムンドよ、そちに任せたいが受けてもらえるか?」
すぐに敵の強さを換算して、対処をするべくトーギ王は指示を出す。即断即決な賢王と呼ばれるだけはある素早い判断であった。
「はっ! 陛下、すぐに第一、第二騎士団を招集して出撃いたします」
「うむ、グリフォンがそこまでの群れを作るとは危険だ。この勢いでグリフォンが増えたら被害は酷いものになるだろうからな」
頷き返すトーギ王であったが、侍従が恐る恐る声をかける。
「へ、陛下。違うのです。その……違うのです」
「ぬ? なにが違うのだ?」
トーギ王が侍従へと、訝しげな視線を向けると言いづらそうに侍従は答えた。
「グリフォンはすべて退治されました。その死骸を持ち帰った者たちを英雄として人々は讃えております」
「えっ! グリフォンを12匹も倒した? 一介の傭兵団が?」
ドロシーが思わず立ち上がり尋ねかえし、シグムンドはすぐになにが起きているかを予測して声を出す。
「……傭兵団ではないのだな? 依頼を引き受けたのは傭兵団ではない。まさか……」
「は、はい……。傭兵団ではありませんでした……。その外大陸から来た神殿騎士団です……」
侍従がシグムンドの予想通りの返事をして、シグムンドは自分に匹敵するかもしれない少女を守る騎士団長の姿を思い起こした。
「むぅ………。まさか外大陸からの者たちが倒したというのか……」
「はい。しかも驚いたことに僅か数十人の騎士たちでグリフォン退治をなされたようでして……」
トーギ王が外大陸の騎士団が撃破したと聞いて、苦々しい表情をしていたが、続く侍従の言葉に今度こそ心の底から驚愕した。
「馬鹿なっ! グリフォンの大群をたったそれだけで倒したというのか? 彼らは神代の神器でも我らのように持っているとでも言うのか?」
「わ、わかりません、そ、それで依頼を出した伯爵が依頼料の支払いを求められていますがどうなさいましょうか?」
侍従の言葉に手をひらひらと振って、椅子にもたれながらトーギ王は指示を出した。
「払ってやれ。まさかグリフォンを全て倒すとはな……。シグムンド、彼らはそこまでの強さを持っていたのか?」
その問いにシグムンドは腕組みをしながら答える。
「たしかに少女を守る騎士団長は強者の佇まいはしました。恐らくは私と対峙できる強さを持っていると推測します」
「ほぉ……シグムンドと同等の力を持つか……。ならば神器を持っていてもおかしくはあるまい……」
シグムンドの評価を聞いて、面白そうなものを見つけたという表情へとトーギ王は変える。
「これほどの物を持ち込み、なおかつシグムンドと同等の力を持つ配下を抱える少女か……。面白い、グリフォンを退治した褒美を与えると言って、少女を招待しようではないか。どのような少女か見定めることにしよう」
陶器や砂糖を見ながらトーギ王は少女と会うことを決めるのであった。
話を聞くだけでも、巨万の富を持っていそうな少女である。シグムンドと同等の力を持つ者を抱える、しかもグリフォンの大群を撃破するとなれば、神器持ちの可能性もある。
高位の貴族であるのは間違いないだろう。もしかしたら、他国の王族かも知れぬ。もしも侵略の拠点として開拓村を作ったとしたら危険でもある。
相手の考えを見抜かねばならぬ。話しどおりに宣教にきたならたいして問題はない。こちらの国との友好を求めての王族か高位の貴族の少女が来たのならば、同等の見合い相手を用意して友好を求めても良い。
だが、万が一侵略目的であれば対処をしなければなるまい。
なればこそ、謁見を許し相手の考えを見極めようとトーギ王は決意するのであった。
緊迫感溢れる王城とは離れた場所。城下のグリムの屋敷の玄関前でアリスは人々にチヤホヤされていた。
「見ろよ、あのグリフォンの死骸を!」
「英雄よ! 可愛らしい英雄よ!」
「きゃー、アリス様〜!」
人々が褒め称えて、アリスは調子にのりフフフと笑って平坦な胸をはっていた。胸を反らして、うわぁと後ろにひっくり返りコロコロと転がるが、愛らしいその姿に周りの人々は可愛らしいと、もっと大騒ぎをする。
「フフフ。銀河を股にかける安心格安、依頼を確実にこなす、今日は英雄風味なバウンティハンターのアリスです。依頼がありましたらよろしくお願いしま〜す。あ、ついでに神官なので、回復もしますよ〜」
「アリス様っ! ついでに神官とか言わないでください! 神官がメインで信仰を広めにきたのですから!」
口うるさいお目付け役みたいな役柄になったグリムがアワアワと慌てながら忠告をしてくる。
その姿を見ながら、呆れたようにウサギロボに憑依した鏡が声をかける。
「ちゃんと自分の役どころを覚えておけよ、アリス? 依頼などで困ったことになるぞ?」
「困ったことも、厄介なこともどんとこいです。ハンターならば買ってでも困ったことに首をツッコミます」
フンスと息を吐き調子に乗りまくり、そのテンションは空をも貫く勢いのアリスである。
「はぁ、まあ、楽しそうなことになれば、それで良いのかもな」
口元を曲げて笑いながら、鏡は周りを見渡す。レイダやドーベルたち神殿騎士団も人気者で人々から握手を求められている。いつの世も握手というのはあるのだなぁと苦笑する鏡であった。
その数時間後に王城から、グリフォン退治の報酬を与えるので、登城せよという手紙が届くのであるが。




