68話 王都を散策するゲーム少女
トーギの王都というのは、なるほど栄えているとわかる場所であった。簡単にグリムから聞いた話だと、肥沃な平原の真ん中に位置するが、少し進んだ東には魔の森があり王都でありながら、魔物を抑える街の役目も持っている。
どうも古代の世界ではありがちであるが、ずっと昔に魔物を防ぐために作られたこの街が始まりの国であるらしい。
北には潤沢な鉱石が採れる鉱山を含む山脈があり、そこからの流れる川が王都の田園を潤しており、西と南はあくまでも魔の森と比べると小さいのだが森林地帯と、肥沃な平原地帯となっていた。
平原の割合が多いために作物を多く作れて豊かな街だ。しかも古代のまだ神が生きており受肉して奇跡を起こして時代なので、上下水道などを神器と呼ばれるものが管理して清潔さを保っているということだ。なかなか神様もやるものである。
中心にある王都は交通の要所となり、トーギ国の中心都市として栄えているのだ。人口は不明だがそれでも数十万人はいるとアリスは考えていた。
石畳も少しこの文明度にしてはおかしい。多分石ではないとアリスは看破した。削ってみてもいいかしらんとも考えている。どうやらそこそこ貴重な素材に見えるので。
まぁ、道路に使われるぐらいだからそこまでの貴重品ではないのかもしれない。これが現在も作られるのであれば。
他にも神代の素材がある可能性は高い。やはり古代文明クエストが絡んでいたのだと確信して、ルンタッタとスキップを踏みながら、ご機嫌で王都をうろつくのであった。
ワイワイと大通りは騒がしく、市場通りにはたくさんの人々が露天の主と丁々発止のやりとりをしながら品定めをしている。たくさんの野菜や、ぶら下げられた肉、樽に雑然と剣やら槍などを売っていたり、なにに使うのかわからない物も売っている人も見える。
「この間、初めて王都に来たときはお祭りがやっているのかと思ったんだよ。凄いたくさんの人たちがいるよね〜」
護衛であり、一緒にお買い物を楽しむ友人のチャシャとクロームとブチーダが周りをキョロキョロとお上りさんですと身体全体で表しながら歩いて話しかけてくる。
「たしかに文明度が低い割にこの街に住んでいる人口が多いです。古代文明の恩恵をこの街が利用しているからでしょう」
アリスもてってこ歩きながら、感想を言う。そして、そういう古代文明の秘宝を利用する悪人もいるんですよねと、その際にはハンターの出番ですねと内心で期待しながら。
四人組はお上りさんにしか見えないが、チンピラが絡んでくることはなかった。チャシャたちは騎士然とした青い魔法の鎧で身を包んでおり、アリスはその騎士たちに護衛される貴族の少女に見えるからだ。
なので、チンピラたちは危険感知だけは働かせて、近づきはしなかった。近づくのは商売をしている物たち。しかも露店では、食料品を抜いて、まっとうな信用ある商売とは言いにくい。
なので、極少数の者たちが声をかけるのだ。その中には、アリスたちが身なりが良いので売れるかなと考えた無邪気な子供もいた。
アリスたちがのんびりと、周りを見ながら歩いているときに、子供は声をかけてきた。
「あの……お嬢様、お花はいかがですか?」
アリスが視線を向ける先にいたのは、8歳ぐらいの少し薄汚れたノーマルニュートの女の子であった。お花?とアリスは首を傾げて少女を見る。
「はい! お花です! 色々な花がありますよ?」
ほら、見てみてと微笑みながら蔓で編んだ籠を見せてくる。ほうほうと頷きながら眺める。なんの力も感じない花であるが色とりどりの小さな花が咲いているので、可愛らしい花ですねと花に負けない可憐な微笑みを浮かべるアリス。
「いくらなんでしょうか?」
買う気でありそうな問いかけに少女は元気よく言う。
「一束銅貨一枚です! お好きなのを束ねますよ!」
その言葉に少し目を見開きアリスは驚いた。
「一束って、何個なんでしょうか?」
「えっと……10個ぐらいかな?」
一束がいくつなんて考えたこともなかった女の子はいつも適当に纏めていたので戸惑う。
「そうなんですか。ではすべてもらいましょう。いくらでしょうか?」
優しそうなおねーちゃんだと思って声をかけたら、びっくりする内容を告げてきたので、思わず聞き返した。
「ええ、全部です。おいくらで?」
「えっと、えっと、大銅貨2枚ぐらい……かな?」
いつも銅貨5枚売れれば良い方なのだ。全部なんて考えたこともなかったので、なんとなくな金額を言う女の子。本当に買ってくれるのかなぁという表情をしてしまう。
「大銅貨2枚……。私は金貨以外も持っている準備万端なハンターなので問題ないですね」
はいどうぞと、女の子に大銅貨を手渡して花を受け取ると満面の笑顔で
「ありがとう〜! おねーちゃん!」
やったぁと嬉しそうに銅貨を握りしめて去っていくのであった。
「全部買って良かったの? ただのそこらへんに咲いているお花だよ?」
アリスがちっこい腕に買い込んだ花を抱え込むのを見ながら尋ねてくるので、ふふふと得意げな表情を浮かべる。この花には意味があると。
「あの少女から買ったことに意味があります。あとで教えてあげますね」
道端では少し教えて良い内容ではないのでと、言おうとしたときであった。
「きゃあっ!」
「どこ見てんだ、このガキ!」
先程の女の子の悲鳴と怒声が響く。アリスたちは顔を見合わせてすぐに声のした方に走る。
どうやらなにか起こったようですねと、早くもフラグが作られたことにほくそ笑むゲーム少女である。
だいたい花売りの花を買っておくとクエストが発生するのだ。裏道を教えてもらったり、大きい陰謀に繋がるクエストが始まったり。
なので、花売りからはできるだけ花を買っておくアリスであった。そして早くも予想どおりの展開になったのである。
このパターンは多くあるクエストでもメジャーなルートかなと思いながら、現場に到着する。
現場に到着すると、涙目の女の子が地面に座り込んでおり、鉄製のハーフプーレートを着込んでいる大柄なウルフニュートが怒声を浴びせていた。
「俺が買った肉串が落ちちまったじゃねえか! てめえがぶつかってきたせいでな!」
「ご、ごめんなさい。あの弁償をしますので……」
涙目になりながら、女の子は肉串の弁償をしようとする。幸い奇麗なおねーちゃんに花を買ってもらいお金はあるので、肉串ならば銅貨3枚ぐらいだと思いながら。
ペコペコと頭を下げて謝る女の子に、侮蔑の表情でウルフニュートは言う。
「よし、なら金貨1枚だな!」
「き、金貨ですか? そんな払えません……」
うぅと泣き始めるが、周りは強そうな相手を恐れて助けようとしない。周りの態度に図に乗りながらウルフニュートは言う。
「払えないなら、買ったばかりの剣の試し斬りをさせて貰えばいいぜ! なに、腕一本ぐらいで構わないぞ?」
ニヤニヤと笑いながらの言い分に青褪める女の子。へへへとゲスい笑いを浮かべるウルフニュート。
「丁度よい試し斬りの相手が見つかったな。俺らの訓練ぎゃァァ!」
叫び声をあげて、ウルフニュートは痛みが走った右腕に視線を向けると、串が刺さっていた。しかもズブリと刺さっており、物凄い痛そうだ。
「ここまで展開どおりとは笑えますね。鏡がいないのが残念ですが」
ウルフニュートの隣にはいつの間にか見たこともないほどの美しい少女がいた。だが美しさを台無しにするように、たくさんの串を持っていた。肉串と聞いて、思わず少女を放置して買い込んでしまった食いしん坊アリスであった。花は既に亜空間ポーチへと仕舞い済みだ。
パクっと口に入れてアリスは顔を顰める。
「塩味しかしません………」
しょんぼりしたアリスはそれでも全部食べて、痛がるウルフニュートへと、指だけを動かして空になった串を投げつける。
当たり前だが、指だけなんて普通無理だ。ゲーム少女たるアリスぐらいしかできない技である。
慌てて、ウルフニュートは射線から飛び退く。ゴロゴロと勢いよく身体を転がせていた。
「どこのやつかと思えば………。また人間族か。仲間意識の高い奴らだな」
侮蔑の声をあげるので、スッと目を細めるアリス。
「たしかに裕福そうな感じはしませんでしたね……。全員連れていきたいところです」
大通りも市場でも裕福そうな人間族を見なかったとアリスは思った。どうやら人間族は本当にか弱いらしい。裕福な人間族は探せばいるのだろうが、今は用事がないので問題はない。
「ははぁ、護衛がいるところを見ると、貴族か、お前?」
「あぁ、私はこの国では貴族ではありませんよ。まだ王族にもあったことがないですしね」
以前は各国で爵位は貰っていた。だいたい侯爵まで成り上がって、貿易の関税を0にして貰っていたものであると懐かしく思う。領地は管理が面倒くさいので貰ったのはチュートリアルのちっこいやつだけだった。
その言い回しに、ウルフニュートはピクリと眉を動かして、考え込みはじめた。こちらへと向かってくる様子はなく警戒したようである。
なにか気になることを言ったっけ?と不思議がるアリスへと忌々しそうに軽く頭を下げてきたので驚く。
「失礼致しました。少し悪いことがあり多少の八つ当たりをしただけです。では失礼をいたします」
そう言ったら、スタスタと去っていくのであった。あれれ?とアリスは疑問に思いながら声を出す。
「なんなんですか、あれは? あそこは戦闘になる流れではなかったのでしょうか?」
選択肢をどうやら間違えた模様なので、腕を組んで不思議がるアリスへと、女の子が涙を拭きながら嬉しそうに
「ありがとう、おねーちゃん!」
お礼を言ってくるので、可愛らしい笑顔で返して女の子の頭を撫でながら、なにが駄目だったか考え込む。アリスもちっこい身体なので、おねーちゃんが妹の頭を撫でるような癒やされる光景だった。
「戦いにならなくて良かったわね、貴女が他国の貴族だと思ってあの騎士はビビって逃げたのよ。危機感知だけは働くからね」
今の騎士とやらを馬鹿にしたような声音の方向にアリスたちが視線を向けると、腕組みをしたノーマルニュートの少女がいた。
あれれ?この少女はまともな服装をしていますねと、アリスは目を光らせて思うのであった。




