66話 ゲーム少女は行商人
鏡たちが他の応接室へと、てってこと向かう中でアリスはキャンピングカーの中でシャワーを浴びていた。湯浴みの準備ができましたと言われて、案内された部屋に行ったらタライにお湯がはってあるだけだったのだ。
マジですかと、この惑星の文明度を忘れていたアリスは驚きながらも納得して、丁重にお断りを入れてキャンピングカーにあるシャワー室にいったのである。
フンフンフ〜ンと鼻歌を歌いながら、シャワーを浴びていると、トントンとドアを叩く音がして、チャシャのアリスを呼ぶ声が聞こえた。
「アリスちゃん、やっぱりシャワーを浴びているんだね? もう王都の商人さんが来ちゃったよ〜」
「なんと! 私抜きで話が始まりそうですか? すぐに行くので時間稼ぎをしておいてください。猫のニャンニャン踊りでお願いします」
「そんな踊りはしたことがないけど、了解だよっ! 時間稼ぎに行ってきま〜す」
てしてしとチャシャが足音をたてる音を聞きながら、急がなくっちゃと慌てて準備をするアリスであった。
一方その頃、鏡たちは応接室へと到着しており、目の前には王都の商人とやらがソファに座っていた。
寛いだ様子で余裕の態度を見せつけるうさぎ耳の少女であった。ぴょこんと可愛らしい白いうさぎ耳の柔和そうに見える目つきの可愛らしい小柄な少女であった。
自己紹介が終わり、先程から緊張状態で鏡たちは、目の前の少女と相対しており、話し合いがうまくいっていないことを示している。
グリムが嘆息しながら、相手の少女へと話しかける。
「本当に売上の5割を仲介料として取ると、そうおっしゃるのでしょうか、フーデさん」
たしか今年で17歳の少女である目の前の商人は幼い頃からやり手の神童だとは噂されていた。その歳で商会の当主につぐ権力を持つと噂され、前回の話し合いではいなかった人物だ。
頬に手のひらをそえるようにつけて、おっとりとした声音でフーデは頷く。
「えぇ、わたくしどもとしても申し訳ないのですが、あれが砂糖と証明するだけでも大変でして。白すぎるあの砂糖は、普通の砂糖の色を知っている貴族様には疑いを持たれます。解消するには、うちの商店の看板を担保にしなくてはならないので、大変なんです」
しゃあしゃあと言ってのけるフーデを見ながら、グリムは嘘をつけと内心で思う。定期的に納入できると前回言ったとき、フーデの父親は馬鹿にしたような表情を浮かべていた。恐らくはまた一攫千金の夢をもった馬鹿な商人が身代を潰すだろうという感じであった。
それはそうだろう、定期的に南大陸から輸送できた商人などいないのだ。赤字を覚悟して常に少なくない金額を使って船を出している商人が聞いたら鼻で笑うに違いない。フーデの父親の態度も理解できる。反対の立場なら自分も鼻で笑っていただろう。
だが、フーデはいきなりの仲介料の値上げ、しかも暴利を提案してきた。早すぎる対応であり、やり手だとの噂は本当なのだろう。
グリムが見たこともない魔法の馬車に、立派な騎士と高位貴族に見える美しい少女を連れてきたときに、本当に定期的に輸送できると見込んだに違いない。その決断力は感心するが、あまりにもその決断は早すぎた。
「ですが、そちらも5割の売上からの仲介料は払えないでしょう? こういってはなんですが、グリムさんは辺境と王都を行き来する中ぐらいの商会です」
フーデはニタリといやらしそうに笑みを浮かべて
「なので、私たちの商会がよろしかったら、全て請け負いましょう。どうやらやんごとない方もいらっしゃる様子。王都にて1番のわたくしの商会が貿易のお相手を致しましょう」
グリムではなく、鏡へと向けて話かけるので狙いは明らかだ。
そらきたと思って、反論をしようとしたときである、ドアが大きく開かれてチャシャが入ってきた。
「どうも、どうも。グリムさん、お茶を持ってきました」
全然態度がなっていないチャシャであるが、今は助かったとお茶がテーブルに置かれるのを待つ。
チャシャはにこやかに鏡とグリムとフーデの前にコトリとお皿を置いていく。ちなみにレイダとドーベルは後ろに立って護衛をしている形だ。
鏡がテーブルに置かれた白い皿を見て、プッと笑いを含んで吹き出した。
「これがお茶か?」
「お茶はこちらで、これは今作ったチキンカレーで〜す。味見をしたけど美味しいですよ!」
私の一番好きな料理なんですと、キラキラとした瞳で語る、味見と称しながら2杯も既に平らげた食いしん坊な子猫である。
目の前には白い陶器の皿に赤色のルーがご飯の上にかかっている。ゴロゴロと惜しみなくチキンや野菜が入っており、バターの匂いもするので、バターチキンカレーだろう。横にはスプーンも置かれていた。
フーデは戸惑った表情でいきなりの食事が配膳されたことに驚いていた。しかも皿は見たことがないほど白く、お茶もこれまたそこらの草を煮た物というわけではなく、赤く美しい透明感を見せる見たこともない物だ。
王都で様々な商品を扱う自分でも見たことが無い物ばかりである。悔しいがこれも南大陸からの輸送品だろうと見当をつけて尋ねてくる。声が震えないように気をつけながら
「こ、こちらはなんなのでしょうか?」
「スプーンでパクっと食べてください! とっても美味しいですよ」
物怖じしない猫人族の少女の言葉に、少し引きながらも言われたとおりにスプーンを持ち上げて口に入れる。まさか毒など入れるまいとも考えているからだ。
恐らくは自分たちの力を見せつけるつもりで配膳してきたのだろうと思いながら咀嚼する。
チャシャは単に時間稼ぎといったら、ご飯を食べることだよねと、自分基準で考えて作ったばかりのチキンカレーを持ってきただけなのだが。そんなことはフーデにはわからない。
食べた途端にその味わいに驚愕して、もう一口食べる。もう一口、もう一口とあっという間に平らげる。空になったお皿を悲しく思いながら
「こ、これは香辛料をふんだんに使ってますね? 口いっぱいに芳醇な香りが広がり、コクのある味わい、香辛料の辛さ、バターがその辛さを緩和して、この白いなにかとの味わいにハーモニーを与えます!」
フーデは食レポを突如興奮した様子で語り始める。それを見て、自分たちも驚いたんだと思う面々。
「こ、こんなに贅沢に香辛料を使ったモノを御馳走していただけるとは! それにこのお皿も見たことがないほど美しいですよ!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。おかわりはいりますか? 持ってきますよ」
グリムの言葉に口元を引き締めるが、すぐに悔しそうに頰を羞恥で赤くしながら頷く。
「はい……。おかわりをお願いいたします」
「は〜い! すぐに持ってきますね」
ルンルンとチャシャがお皿を持って厨房に行き、グリムは砂糖壺の蓋を開けて、フーデに紅茶も勧める。
「さぁさぁ、紅茶をどうぞ。これは砂糖ですので、お口に合うまで、入れてください」
ぐぬぬと歯噛みをして、完全に主導権を取られたと悔しそうにしながら、紅茶を飲むと香り高くこれまた美味しいお茶であった。これまで自分が飲んできたものが、お茶では無く、単なる草をにたものだと痛感する物であった。しかも砂糖を惜しみなく勧めてくるのだ。
「ど、どうやら、わたくしが思うよりも遥かに南大陸からの物が輸入できているのですね?」
「大神殿から手厚い支援を受けているからな。まぁ、面白いものを持ってきているよ。グリムはよくやってくれているしな」
鏡が主導権を取り戻したことを感じて、余裕の笑顔でフーデの問いかけに答える。
「でしたら、わたくしの商会の方がお役に立てると思います。なにせ王都で1番の商会ですので、うぴゃあっ!」
話の途中で叫び声をあげるフーデ。なぜ突如として叫び声をあげたかというと
「鏡、鏡。見てください、新種の人種ですよ。私はウサギ耳の種族を初めて見ました。ラビットニュートと言うのでしょうか? 耳がもふもふとしていて触り心地が良いです」
ようやくやってきたアリスがフーデの後ろから、ウサギ耳をもふもふとちっこいおててで触り始めたからである。
これはもふもふとしていて良いですねと、ムギュムギュ物珍しそうに触りまくるアリスを振り払うフーデ。
「な、な、な、なんですか! いきなり女性の耳を触るなんて、どこの無礼な子供ですか!」
怒鳴りながら、アリスを怒った表情で睨んでくる。どこからやってきた小さな子供だと、さらに怒鳴ろうとしたときであった。
「初めまして、ウサギさん。私は銀河を股にかける安心格安、確実に依頼をこなす、今日は行商人をするバウンティハンター魔風アリスと申します。よろしくお願いしますね」
僅かに小首を傾げながら、美しくカーテシーを見せて微笑むアリスであった。可愛らしい美少女がそこにいた。
フーデはアリスのその姿を見て、その美しさにハッとした。すぐにこの少女が噂のやんごとない身分の少女だと気づき、表情を微笑みに戻して、頭を下げる。
「これはこれは魔風アリス様でいらっしゃいますか。わたくしの名前はフーデ・ブックスと申します。王都にてしがない商会をしている身なれば、お会いできて光栄です」
見たところ、お飾りの少女なのだろう。騎士団が立派なことを鑑みれば、身分の高い少女を看板にしたに違いないと間違った判断をした。
危険なる海洋貿易なれど、どうやらこの人々は魔法の道具を山程持っているように見える。この少女の服も見たことがない美しい服もであるし、騎士団の着込んでいる装備も薄っすらと青く光るような輝きを持っており、魔法の鎧に間違いない。武器も同じく魔法の武器であるならば待望の定期的な海洋貿易が可能になる手段を作ったのだろう。
グリムが初めて砂糖を持ってきたときは、運悪く居合わせなかったかが、あとからグリムを馬鹿にする父親の話を聞いて、その可能性にフーデは真っ先に気づいた。グリムは手堅く辺境伯のところで商売をしている狐人族だ。博打はうつことはないだろうし、うつとしたら勝率はかなりの高さだと考えたからだ。
なので、グリムが王都に来たら、真っ先に知らせるように門兵に金を渡していたのだが、想像以上の者たちがきたのだ。
このチャンスは絶対に逃さないとフーデは目をギラつかせて、周りの人々の自分を見る目に気づかなかった。
アリスにコテンパンにやられるだろうと想像して、憐れみの目でフーデを見ている鏡たちの視線に欲に駆られたフーデはまったく気づかなかったのだった。




