65話 ゲーム少女は商人の屋敷に入る
ブルルとエンジン音をたてながら、門を潜っていくトラック群。その横に綺麗に整列しながら行軍する神殿騎士団。その異様な馬車を人々は物珍しそうに眺めていた。
整列と行軍、綺麗に行われるその姿に人々はその騎士団の練度の高さを感じて、美しく映える青い武装を見て、どこの騎士団かと噂をするのであった。
実際は練度は最低であり、張りぼての騎士団であるが、整列と行軍だけは練習していたのでなんとか見れる形となっている。まぁ、個人の戦闘力は底上げされているので、そこそこ強いことは間違いない。
ちなみにオズは来ていない。彼女はアリスシティの防衛の為、居残りである。
ごとごとと石畳を踏みながら、移動するキャンピングカー内で、アリスはグリムにこれからのことを尋ねる。
「これからどこに行くんですか? 市場を支配するんですよね? 独占すれば値段は上げ放題ですし」
さらっと恐ろしいことを言うアリスへとグリムは恭しくしながらも否定する。
「いえ、市場は様々な物が売っているので、支配はできません。しかし、砂糖市場は支配できるでしょう。それに伴う多少の妨害があると思われますが、まったく問題はありますまい」
ふむふむと可愛く頷きながら、アリスはグリムの妨害という言葉に目を輝かせる。
「仕方ありませんね。妨害する人は誰なんでしょうか? ハンター流の抵抗を見せたいと思うのですが、どうでしょう?」
この主の好戦的な性格は嫌というほど知ったグリムは予想通りの答えに首を横に振る。
「いえ、妨害は商人が行うでしょうが、砂糖市場は狭い市場の上に、儲けもそんなにないんです。ですので、その商人を懐に入れれば問題ありません。前回も話を通しましたので今回も簡単な話となるでしょう」
ん?と疑問に思いレイダがその会話に口を挟む。
「儲けが少ない? そんなわけないだろう、砂糖は高価で私たちなんか見たこともないし」
当然の疑問をレイダがすることにたいして、グリムは丁寧に今の市場の状況を伝える。
「砂糖を見たことが無いとおっしゃったでしょう? その通り、砂糖は数が少なすぎるんです。王侯貴族でも上位しか手に入れることができないほどに数が少ない。南大陸からの輸送は危険で、失敗することが7割、砂糖は高価ですが7割の損失を補填するほどではありません」
「それじゃ、誰も砂糖なんて輸送しようとは思わないじゃないか? なんで砂糖を商売にする人がいるんだい?」
「砂糖をメインにしているわけではないんです。砂糖はあくまでもオマケ。本業は食料品の取り扱いですね」
ん~?と首をコテンと傾げて、アリスも疑問の表情となる。
「では、なぜ砂糖が流通をしているんですか? リスクにあうリターンがなければ誰もやらないのでは?」
「どこにでも命知らずの人というのはいるものですからね。人魚族に手伝ってもらいなんとか定期的に輸送をしようとする者がいるんですよ。まぁ、砂糖で財を成した人というのは聞いたことがありませんので、成功はしていないでしょうが」
そのグリムの言葉を聞いていた鏡がなるほどと理解を示す。
「なるほど、砂糖は王侯貴族の無茶ぶりから仕方なく仕入れているんだな? あくまでも人脈作りのためというわけか。それだけ海は危険というわけなんだなぁ。まぁ、そりゃそうか、海は大型化が地上よりも進むものな。魔物であればどれぐらい大型の魔物が遠海にいることやら」
王侯貴族も7割失敗する事業に投資などしたくあるまい。沿岸での貿易はありそうだが、遠海での貿易はなさそうであるから、利権などどこにもないのだろう。あるのは王侯貴族との人脈作りだけというわけだ。
「さすがは鏡様。その通りでございます。なので、良識ある商人は嫌々仕入れているのが実情です。定期的に仕入れることができない商品などまっとうな商人ならば扱いたくありません。特に王侯貴族と付き合いのある商人であれば」
グリムが理解の早い鏡の頭の良さを褒めてくるので、多少気分の良いおっさんである。
「さすがは鏡です。そういうしょうもない考えはすぐに思いつくんですね。さすがはおっさんです」
うんうんと腕を軽く組みながら、アリスがすかさず鏡をディスる。常に鏡をディスろうとするゲーム少女であるからして。
「しょうもない考えではなくて、理知的な思考と言いなさい! アリスでは浮かばない考えだろう?」
ふっふっふっと、いつもディスられているんので、お返しをする鏡に対して、アリスはふっと不敵に微笑む。
「ハンターならリスクなんて関係ありません。儲かることは率先してやるので、皆が一斉に南大陸とやらに同じ状況でも行くはずです。なので砂糖はこの市場に溢れかえっていたでしょう」
「あ~………確かにな………。たぶん海に現れる大物の魔物も良い素材と経験値稼ぎになるとか言って喜んで戦うだろうしな………」
アリスの言うとおりであろう。ゲームでそんな美味しい儲け話があれば船が壊れても突撃を皆が繰り返していくのは間違いない。そのうちに安全な航路も発見されて砂糖は満ち溢れるに違いない。命を賭け金にしない復活できるゲームキャラだからだ。アリスはそれを理解している。
だが、どうなんだろうか、アリスは自分が死んだときのことを覚えているのだろうか? どうも死んだときのことはなかったことになっているような感じが話している間にするのだが。
まぁ、それはいずれわかるだろうと鏡は考えるのを止めた。ゲームで死なないことを知らなければ、戦闘での命を落とした経験はなかったことになる。あのゲームは蘇生術はなかった。拠点に戻る前は戦闘不能と表示されて、戦闘不能を回復する術というのがあったので瀕死の状態は覚えていると思うが。
グリムはアリスと鏡の話を聞きながら、ハンターとは神の使いのことだろうかと思いながら、それならばアリス様がそう名乗って誤魔化している理由がわかると考える。神の使いならば、強大な力があるのは当たり前だろうから。
とりあえず、話を戻すために口を挟むグリム。
「そのようなわけで、仲介料を払えば文句は言ってきません。それどころか見たこともないほど白い砂糖や胡椒その他の香辛料を仕入れてくれる私たちに感謝の言葉を言ってくるぐらいです。この間もそうでした。なにしろ馬鹿げた遠海貿易をしないですみますからね」
「なるほど、それではまずはその商人との話し合いですね。交渉スキルの出番という事ですか。私に任せておけばタダ同然まで仲介料は下げることが可能でしょう」
ふんふんと鼻息荒く、できるだけ儲けを増やそうとする守銭奴アリスがここにいた。どうしてこんな娘なのに、周りが神様扱いできるのか、鏡は首を捻って疑問に思うがあれほどの奇跡を見せられたら仕方ないかとも思う。
「とりあえず、私の商店に向かいます。この馬車を仕舞うぐらいはできる庭がありますので、あとは倉庫に砂糖やらを仕舞わないといけないですし」
「盗まれないようにお願いしますね? 盗まれたら教えてください。盗んだ相手を地の果てまで追いかけて盗んだものは返してもらい、持っているものは全て貰い受けますので」
平然とした表情で、相変わらずの恐ろしい内容を告げるアリス。盗まれるのは嫌なので仕方ない。盗難防止用地雷の出番かなとも思っている。
「ご安心ください。警備はかたく、神殿騎士の方にもしてもらいますので、盗まれることはないと思われます」
「任せてください、姐さん。加護の力をうけて、これまでとは話にならない強さを手に入れたんでさ。万全の警備をしてみせます」
ドンッと胸を叩いて、自信満々に言うドーベルなので
「なんだかフラグをたてたような気がするなぁ………」
と、鏡はぼそりと呟くのであった。
ぞろぞろとグリムの家に到着すると、結構な石造りの屋敷であり、大きな庭まであるのでさすがは王都と辺境を行き来する商人だということがわかる。
屋敷からはぞろぞろと使用人たちがでてきて、頭を下げて挨拶をしてくる。ご主人様が凄い人たちを連れてきたと興味津々な様子だ。
なにしろ上品な服装をしている美少女と、それを固める立派な鎧をつけている騎士団なのだから。だが、数人はこの間逗留した傭兵団だと気づいて、不思議そうに首を傾げる使用人もいた。
「では、我が屋敷へと逗留してください。すぐに湯あみの準備と食事の準備をしますので」
「よろしくお願いしますね。チャシャさん、醤油や香辛料、砂糖を使った料理法をここの料理人に教えてあげてください」
グリムの言葉に頷きながら、チャシャへと視線を向けてお願いをする。何故ならば通常の料理はこの惑星では食えたものではないと理解しているからだ。
その点、つまみ食いばっかりしているチャシャたちは、作り方も覚えているようなので、ちゃんとした料理を作るようにこの屋敷の料理人に教えるように伝える。
「あいあいさー。ケチらないで良いんだよね? りょ~かいっ! それじゃいってきま~す。今夜はチキンカレ~」
赤い色のチキンカレーを作ろうとチャシャたちはルンルンと機嫌よく厨房まで向かう。この間も来たのでしっかりと場所は覚えているのだ。そして自分の一番好きな料理を作らせようと画策する子猫であった。
あの様子なら大丈夫だろうとチャシャたちを見送り応接室まで案内される御一行。他のわんにゃん軍団は他へとグリムに案内されてついてくるのはアリス、鏡、レイダ、ドーベルである。
「執事はタキシード姿ではないんですね、メイドもメイド服を着ていませんよ?」
アリスがじろじろと周りを観察すると
「そうだな、メイドはメイド服! まずはそこから改革していかないといけないな」
その言葉を聞いて、うむと力強く頷き変態な言葉を発する鏡。
「さすがは鏡。変態的な言葉を平気で言えるその胆力に感心します。私はそこまでは言葉にできる胆力はありませんので」
ジト目で鏡を見ながら、冷たい声音で告げるアリス。むぐぐっと確かに今の言葉は変態ぽかったかもと反省する鏡はそれでも言葉を返す。
「だが、アリスもメイド姿の方が良いだろう? 配下のメイドは皆可愛いメイド服だしな」
「当たり前です。メイドは可愛らしいメイド服を着るのが決まりなんですから」
すぐに同意する鏡と同レベルの思考をもつアリスであった。
そんな漫才をしている二人も応接室に入り、疲れたねと座って寛ぐ。
しかし、その寛ぎタイムも長くは続かなかった。雑談をして湯あみにアリスが向かった後に使用人がグリムへとなにごとか告げに来たのだ。
ふむと、グリムは頷いて一行へと声をかける。
「どうやら、くだんの商人が来たみたいです。会うことにしましょうか?」
まぁ、アリスもあとから来るだろうと頷いて、一行は別の応接室まで向かうのであった。




