63話 ゲーム少女は収穫する
ヒュインと地球から異世界へと再びやってきたアリスである。白亜の宮殿にも似た豪邸の玄関へのテレポート。なぜならばアリスの家は土足厳禁、すっかり靴を履かないで家を歩く魅力にハマったので。なので靴を履いている時は玄関でテレポートすることにしているのだ。
久しぶりなアリスシティですねとアリスが外に出て、周りを見渡す。放置の限りをしていたのでどうなったかなと興味津々である。
普通の人ならば、作った拠点を一ヶ月も放置はしないだろう。しかしアリスはゲームの世界の住人である。一ヶ月ぐらい、ほいほいと放置するなんて当たり前であり、ハンターなのだと気にしないのであった。
気が向いた時に拠点を開発して、楽しそうなクエストがあれば完全放置して遊ぶ。それがゲーム少女のジャスティスなのだ。
そんなアリスを庭でのんびりと日向ぼっこをしていた子猫が見つけて、うにゃ〜と指を指してきた。
「あ〜! アリスちゃん発見! たぁっ!」
ニャ〜ンと飛びついてきて、尻尾をフリフリしながら頬ずりをしてくるチャシャ。
むいむいと頬ずりされながら、アリスはチャシャの耳をモフモフしながら、どうやら元気そうで安心しましたとホッとする。放置していたでしょというツッコミはなしだ。ゲームではよくある感情の持ちようであるので。
「元気そうで何よりです。なにか変わったことはありましたか?」
「あったよ! というか今まさにそれが起こっているところだよ!」
その言葉にスッと目を細めて緊張状態になるアリス。なにが起こったのでしょうか?アストラル体の襲撃?他のハンターの襲撃?
「来てきて! こっちだよ!」
アリスの紅葉のようなちっこいおててを掴んで、チャシャは引っ張るので、素直にてこてことついていく。
自宅を出てから、周りを見るとなにやら街と畑を隔てる門で人々が集まっているのが見えた。なにやら驚いてはいるようだが、そんなに切羽詰まった表情でもない。
その中でも難しい表情をしていたグリムがアリスに気づいて駆け寄って来た。他の面々も気づいて集まってくる。
アリスはコテンと可愛く小首を傾げて尋ねる。
「なにがあったのですか? 敵でも来ましたか? ハンターの出番ですか?」
その答えに駆け寄って来たグリムたちは、あぁいつものアリス様だと安心しながらも問い詰めてきた。
「アリス様、ご機嫌麗しゅう。しばらくお姿を見なかったので我らは心配しておりました」
「仕方ないんです。ちょっと砂糖とか香辛料に面白おかしい投資やクエストなどがありましたので。拠点のことを忘れていたわけではありませんよ? で、いったいなにが起こっているのですか?」
額の汗を拭きながら、グリムは神らしく気まぐれなのだろうと納得しながらも、驚愕の出来事を話す。
「実はこれなんです、アリス様」
グリムが指差す先には小麦と大麦の山が集まっていた。収穫したばかりらしい。拙い農業の知識で頑張ったとみえる。ワンニャン軍団の人もその中に混じっているので、農業の知識を教えたのだろう。
だが別におかしいところはない。種は拠点の物を渡したが普通に育てたようだ。
アリスがなにがおかしいかわかっていないと理解してグリムがおかしいところを伝える。
「収穫量が異常なのです。豊作どころではない量が収穫できました。通常の10倍は実がなっております」
「あぁ、品種改良されていないこの世界の作物と、品種改良されまくりのたとえレベル1の作物でもAHOの作物じゃ実の生り方が違うんだろうなぁ。たとえ下手くそに育てたとしても」
鑑がうんうんとドヤ顔で頷いているので、そんなものですかとアリスにとっては普通のことなので、いまいちピンとこない。自らが普通に使っている物を凄いと言われても、わからないものだ。
「それとですな……。この麦はなんと20日で収穫できたのです!」
グリムがわなわなと身体を震わせながら、目を大きく広げて伝えてくる。
「はぁ……。当たり前ではないでしょうか? 最大でも作物って30日でできますよね? オーブの木が30日間でしかもランダムにしか実らないから、苦労をした覚えがありますが」
「いえいえ! 普通は春に蒔いて秋に収穫します! こんなに早くしかも異常な程の実が生って収穫できるなんて聞いたことがありません! カブなんて3日で収穫できたんですよ!」
さっぱり驚かない下界知らずの神様へと、これは凄いことなんですと拳を強く握ってアピールする苦労性なグリムである。
「そうなんですか。それでは私の拠点の普通とはこういうことなんです。連作障害も無しで凶作もない。さすがに常に豊作とはいきませんが、収穫期間は先程伝えたとおりです」
ぱっちりおめめをグリムへと向けて平然と当たり前のこととして伝えるので、グリムは神様の加護というもの甘くみていたと痛感した。もはや神の加護などお伽噺の中にしか存在しなかった。そんなお伽噺の話が現実となれば、物凄いことになると、なぜ神様があれほど信仰されていたのかを理解した。
これ程凄い加護が貰えるのならば、誰もが信仰するのは当たり前だと、深くため息をつくのだった。
そんな疲れ切ったグリムを横目にレイダが物怖じせずにアリスへと困った表情で告げてきた。
「なぁ、アリス。聞いたとおり収穫が凄いことになっているんだが、穀物倉庫がないんで困っているんだ。冷蔵庫?とかいうのに入れるのもそろそろ限界なんだ。倉庫は作れないのかい? 麦も入れないといけないしね。そうしないとネズミに食われちまうよ?」
「無礼者っ! アリス様を様づけしないとは、このオズがゆるし、あうっ」
いつの間にか、ペット枠の美少女竜が側にいて、レイダを怒鳴ろうとしていたので、とりあえずチョップを入れておく。
「良いんです。そこまで気にされるのも面倒くさくなってきましたし、様づけはオズだけでも良いです」
「え〜っ! なんか我だけ扱いが酷いような……。でも眷属なのだからそれは当たり前ですよね……。選ばれし眷属なら……ふふふ」
なんか一人で呟いて納得しているオズを放置して、ふむんと顎にちっこいおててをあてて考える。
「まぁ、山程屑晶石は集めてきましたので、最低ランクの冷蔵倉庫はちょちょいのちょいとできます。ちょっと待っていてくださいね」
すちゃっと、トンカチを取り出して建設を開始しようとするアリスへと、ドーベルが慌てて止める。
「姐さん、倉庫はすぐにできるんで? なら麦の実を取り始めてもいいですかい?」
「麦の実を? どうやって取るんですか?」
なにか力を使うのかなと思い尋ねると
「棒で叩いて、実を取るんで。結構な労力を使うんで早めにやっておきたいんでさ」
それを聞いて小躍りを始めるおっさんフェアリー。おっさんなので全然見たくない踊りだ。
「キター! 異世界チートのひとつ。千歯こき! 御家人殺しとも呼ばれたチートアイテムだ! アリスよ、おっさんフェアリーの知識を教えよう」
ふふふと調子にのるおっさんフェアリーへと
「そんな凄いアイテムがあるんですか? 物騒な名前ですが、おっさんフェアリーには相応しそうなアイテムですね」
「フハハ! ディスっても無駄だ。千歯こきの力を見て驚くが良い! 千歯こきとはなぁ………」
これこれこうなってと、手振り身振りで教えるおっさんフェアリー。ふむふむとアリスは理解して尋ねる。
「とりあえずはオート製粉機械を作ろうと思っていたのですが、それを使うと多くの実を採ったり、質が良くなるんですね? 早速作ってみましょう」
なにか凄い付加がつくんですねと、納得したアリスが言われたとおりに作ろうとするが
「あ〜……アリスさんや………ごめん、今のはパーティージョーク、ジョークなんだ。さぁオート製粉機械を作っちゃおう!」
冷や汗をかきながら、そういえば科学技術があったねと迂闊なるおっさんは千歯こきの提案を自分から却下した。
「へぇ〜。さすがはフェアリーですね。凄いつまらないジョークだと私は思いましたので、おっさんフェアリーにしか通じない高次元のジョークなんですね」
冷たい視線でおっさんフェアリーを見ながら、なんとなく話の流れから迂闊なる発言をしたのだろうなぁと理解したアリスであった。
まぁ、おっさんフェアリーだから仕方ないですねと、気を取り直して、ドーベルへと告げる。
「脱穀から製粉までできる道具も作りますので、皆さんに麦をまとめておくように伝えておいてください」
ギョッとした表情になるドーベルだが、この姐さんはなんでもありだなと苦笑交じりに頷く。
そうして、数十分後には見事に小さいながらも冷蔵倉庫と製粉工場を、トンテンカンと作ったアリスであった。ついでに屋根付きの倉庫と整備及び車両制作用工廠を小さいながらも作成した。
冷蔵倉庫では、野菜を長期間保てて、製粉工場では労力の大きい脱穀から製粉までを全て麦を入れるだけで、やってくれることを説明する。
人々が驚きでざわめく中で、アリスは困った表情になる。
「メンテナンスをしないといけないのですが、どうしましょう。自分でやるのは面倒ですし」
もうメカニックをコールドスリープから起こさないといけないのかしらん。でも、この拠点レベルだと、メカニックの給与だけで赤字になってしまう。なにしろ最高レベルまでメカニックは育ててあるのだからして、それなりに給与は高いのだ。
「なにを困っているんだ、アリス?」
怪訝な表情で困っているアリスへと声をかけてくる鏡。
その姿を見て、ぽんと手を打つ。
「ちょっとうさぎを改良しておきましょう。具体的にはバイオパウダーを混ぜて。良かったですね、鏡。ご飯を食べれるようになりますよ」
このうさぎは給与がそういえばタダなのだと思いだしたアリスは、うさぎロボを半生命体化させて、メカニックその他諸々のスキルを100レベルまでつけて改良するのであった。
「アリスの提案は嬉しいが、俺をブラック的にこき使うわけじゃないよな? おい、目をそらすな! こっちを見ろ〜!」
そんな叫び声をスルーして、とりあえずこれで良いやと考えるアリスは、次は王都ですねと考えるのであった。




