60話 ゲーム少女は戦闘評価をする
この間の戦闘から数日後、鏡の自宅の地下室にある秘密基地にて、アリスは先日の戦闘シーンをモニターに映して見直していた。もりそばを食べながらという緊張感ゼロではあったが。
「必要数の屑晶石は集まったので、この間の戦闘を気まぐれに見てみようと思ったんですが……。少し変じゃないですか、これ?」
リプレイとモニターに表記されたボタンを押下すると好きな戦闘を見れる仕様である。しかも何故か主観視点ではなく、第三者目線のいわゆるTPS視点というやつだ。まぁリプレイシーンを見るのが主要なので、そんなことでも気にしない。
というか気まぐれに見るだけのゲーム仕様だ。そして、まさにプレイヤーらしい考えをするアリスである。
ズルズルと蕎麦を食べながら、視線をアリスに向けてカナタが答える。
「なにが変なの? 私のかっこいい戦闘シーンしか映ってないけど」
心底から自分の活躍しか目に入らないらしいカナタであった。
「いえ、これを見て思うんです」
「ん? なにをアリスちゃん?」
テーブルにのせられている海老天を箸で摘み、口に入れるカナタ。パクパク食べているカナタを見て、おもむろに気になっていることを話す。
「もりそばには、天ぷらは合わないんじゃないかって常々思っていたんです。ほら油っぽくて天ぷらは、さっぱりした蕎麦と味の調和がないと思うんです」
真剣な表情で、蕎麦をすすりながら真面目に言う。
「だから蕎麦はおかずなしで、蕎麦だけで薬味を少々とわさびをたっぷり入れて食べるのが最高だと思うんですよね」
「おぉ〜、なるほど! 通だね。アリスちゃん」
その言葉に感心するカナタであるが、
「ちがぁう! 違うよね? なんで蕎麦の感想にいつの間にか変わっているんだ? 早変わりしすぎだよね? モニター見てたでしょ? 話を戻そうよ」
すばやくツッコミを入れてくれるおっさんフェアリーであるので、このおっさんフェアリーはいつもすばやくツッコミを入れるなぁと思うアリスは仕方ないなぁと話を戻す。
「おっさんフェアリーが、カナブンの如く煩い羽音をたてますので、話を戻しましょう。温かい蕎麦は鴨南蛮そばが一番だと思うんですよね、あの鴨肉との蕎麦のコンビは最強です」
「私は月見そばかな? 卵を溶いて食べると美味しいんだよね〜」
遂におっさんフェアリーは地団駄を踏みながら、大声で怒鳴ってきた。
「そっちに戻すんじゃねーよ! 温かい蕎麦の話にしろといったわけじゃないからね? あとさり気なく人をカナブン扱いしたな!」
プンスカ怒るおっさんフェアリーをみて、クスリと笑い、からかいすぎたかなと思いながらモニターの画面を切り替える。
リプレイがされているが、その中でもレールガンを受けているシーンとなった。
「これなんです。これはレールガンですよね? 結構なダメージが入るかなと、戦闘後は思いました。で、次にこれ」
またもや画面が切り替わり、今度はアイアンスコーピオンの鋏であっさりと超電磁バリアごと切られているSRが映る。
首をコテンと可愛らしく傾げながら、アリスは確認する。
「超電磁バリアが張られているのに、何故かあっさりと斬り裂いていました。これ本当はおかしいんです」
「なんで? こっちがそれだけ強かったということじゃないの?」
アリスの発言を聞いて不思議な表情になるカナタ。その発言に頭を振って答える。
「ここまで圧倒的になるわけがないんです。敵の武装から少し弱い程度だと考えていました。ですが、蓋を開けてみると苦戦どころか、ダメージすら負わないとは思いませんでした」
「たしかになぁ、超電導シリーズはたしかレベル20で作られる兵器だから、そんなに差は無かったはずなんだがな」
首を傾げる鏡。そうなのだ、アイアンスコーピオンの装甲はたしかに硬いが、超電導なら多少はダメージが入ってもおかしくはなかった。
「それで気づいたんです。この惑星の兵器は魔法と呼ばれている力を使うあの惑星の力よりも弱いと」
そう言って、手のひらから念動術を使うアリス。
『サイキックハンド』
少し離れた場所に置いておいたお代り用の蕎麦の丼を不可視の手で持ち上げて目の前に持ってくる。
「おぉ! 宇宙人パワーだね! 凄い!」
カナタは感心しきりで、今の技を見るが、レベル1で使える離れた狭い場所のアイテム等を回収する簡単な術だ。タンスの後ろ等に落ちた物を取るのに重宝する。
それを見て、鏡はピンと直感した。何故地球の兵器が弱いのかを理解したのだ。
「なるほど、アストラルからの力を入れてないからだな?」
「そのとおりです、さすがフェアリーですね」
頷いてアリスはその疑問を肯定するが、鏡が見えないカナタにはさっぱりわからなくて、頬を膨らませる。
「アリスちゃん、なんで頷くの? 私も教えて!」
ふふっと得意気な表情となり、アリスは箸をフリフリ語り始める。
「この惑星は超古代文明と同じ歴史を繰り返しているんです。すなわち幽玄界と呼ばれている私たちと同じ世界であり、私たちの意思のみが存在する世界というものがあるんです。そこには物理的攻撃は通じません。アストラル体を倒せるのはマテリアルをこめた力だけなんです」
「う〜ん、いまいちよくわからないよ? どういう意味?」
「超古代文明はその身体を幽玄界に置きながらも、物質世界に干渉できる化物、すなわちアストラル体に滅ぼされました。惑星すらも簡単に砕ける武器を持っていたと過去ではわかっているのですが、そんな凄い文明もアストラル体には傷一つつけられなかったのです」
その話にますます首を傾げて、不思議な表情となるカナタを見て、もっと噛み砕いた内容を話す。
「簡単に言うとですね、私は化け物だ〜っていう意思だけの敵がアストラル体。それを倒すには倒しちゃうぞ〜っていう意思を当てないといけないのです。物質はそこに干渉できません」
ガオ〜と手を振り上げて化け物の真似をする小柄なアリスは見ていて癒やされるおちゃめな美少女である。
「わかった! 幽霊には攻撃は効かない! そんな感じ?」
ポンと手をうってカナタが理解したよと目を輝かせる。
最近テレビを見ていたアリスは幽霊の意味がわかるので、言い当て妙だねと、ちっこいおててでぱちぱちと拍手をしてあげる。
「そのとおりです。マテリアルにて幽霊を倒せるようにしたのが、銀河標準武器ですね、私の身体にも誰でも宿る超能力でも同様の力を持ちます」
褒められて、エヘヘと照れるカナタはその先に繋がる話を理解した。
「なるほど! 宇宙人の武器は幽霊の化け物を倒すように特別な力を持っている! 物質の力を意味なくするような力を! そして防御に使う装甲もまた幽霊と対抗するための力を持っているから相手の物質はその力を失う。すなわち、地球の兵器等の物質にしか効果を発しない武器は相手にならないんだ! 退魔師が必要なんだね!」
「最後の一言は意味がわかりませんが、概ねそのとおりです。あらゆる物質にはマテリアルが込められているので、まったく効かないということはありませんが、それでもマテリアルを加工しているハンターの兵器には玩具よりも弱い武器と化します。インスタントなガラス装甲でもなければまともな装甲を貫くことは難しいですね、気合の入ったノーマルニュートのパンチのほうがまだダメージを負います。そこにはアストラルの力がこめられていますので」
魔法も原始的な極めて弱い超能力と同様なので、まだ地球よりも戦えるとアリスは推察した。オズとSRが戦えば、アストラルに干渉できる力をもつので、恐らくはオズの圧勝であろう。
「これにて戦闘評価を終わります。授業料は最近噂の美味しいパフェをだすお店のパフェでいいですので、カナタさん」
その言葉に苦笑いをするカナタであるが、アリスとの付き合いを段々理解してきたのであるからして、あっさりと笑顔で頷く。
この少女はハンターという職業らしく、常に報酬を求める。だが、簡単なお願いとかなら飴一つで律儀にこなしてくれるのだ。どうもハンターはタダ働きをしたら、周りのハンターに怒られるらしい。ようは鍛えた腕を安売りするなという不文律があるのだろう。
宇宙人との付き合いがパフェ一つなら安いものだし、アリスとお出かけは楽しそうだとカナタは微笑む。臨時収入も入ったし。
「良いよ、パフェを2つまで奢っちゃおう! 実はアリスちゃんのお陰で臨時収入も入ったんだ!」
フンフンと鼻息荒く、カナタが嬉しそうに答える。
臨時収入という言葉に、ピキーンと目を光らせるアリス。
むふふと、微笑みながら期待の籠もった目を光らせてカナタを見つめる。
「きました。きましたよ、好感度が上ったことによるイベントですね、わかります。私もその臨時収入となったクエストに誘ってくれるんですよね? わかります。わかっちゃいました」
そんなクエストがたくさんあったのだ。暇だからちょっと遊びに行かないと誘われて、何故か無人島に遭難したり、キノコ刈りにお呼ばれしたら黄金晶石のある洞窟に迷い込んだり。今回も同じクエストが発生するとアリスは理解した。理解してはいけない方向に理解した。だってゲームの世界から来た少女だから仕方ないのだ。
ムフフと口元をニマニマと嬉しそうにするアリス。可愛らしくて頭を撫でたくなる愛らしさだ。
その期待の籠もった目で見つめられたカナタが困った表情を浮かべて、頬をかきながら返答をする。
「あ〜、あれは私のクエストなんだ。ほらテスト勉強を教えてくれたでしょう?」
「ええ、カナタさんの学力向上クエストですね。一応精一杯教えたつもりでしたが?」
なにかまずかったかしらんと、疑問を顔に浮かべるアリス。序盤の育成クエストなので簡単なやつだったのだから、取りこぼしはないはずですと思う。
「うん、勉強を教えてくれてありがとうございました! でね、その成果が凄かったの! 中学から赤点ぎりぎりだった私が学年15位となりました! アリスちゃんの教え方が凄いわかりやすかったからだよ!」
「あ〜、アリスのレベルなら簡単な勉強なら大成功な結果が連発していただろうし、そういうことになるのか」
カナタの喜色満面な笑顔を見て、納得する鏡。良かったなと思っていたら不吉なことを言ってきた。
「アリスちゃんに夜中まで勉強を教えて貰ったおかげって、お母さんに話したら臨時のお小遣いをくれたんだ! あと、アリスちゃんにお礼にしにくるって!」
マジかよと鏡が嫌な予感をバリバリとすると同時に、ピンポーンとチャイムを鳴らす音が家に響いた。
「はい。どなたでしょうか?」
アリスがインターホン越しに答えると
「その声はアリスちゃんね、私よ、カナタの母親。今日はカナタの勉強のお礼に来たの。お父さんはご在宅かしら?」
なにやらフラグをたてたような予感がするアリスは、なんだか楽しそうなことが起きそうですと、わくわく顔で玄関に向かうのであった。




