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6話 ゲーム少女は雇われる

 それなりに上品さをみせる家具が置いてあるリビングルームでアリスはウトウトしながら、目の前の変わり者のフェアリーアストラルを眺めていた。


 私がゲームのキャラなどと、滑稽な話をするフェアリーアストラル。悪戯が大好きな種族にふさわしいと考えて、ふわぁと可愛くあくびをした。あくびで流した涙をちっこいおててで拭うと、フェアリーアストラルの鏡は真剣な表情で、また話しかけてくる。まだゲームキャラだとか、なんとか言うのかなぁ。早くイベント内容を教えてくれないかなと考えていると


「わかった!」


 パンと膝を叩いて決心したような、なにかを覚悟したような表情の鏡が声を発した。


「アリス! ギャラクシーライブラリーへアクセスできるか?」


「えぇ、ギャラクシーライブラリーは絶対に通信が途絶えない……なるほどです」


 ギャラクシーライブラリーは古代遺跡であり、皆から運営と呼ばれる装置だ。常にヘルプ機能を叩くと教えてくれて、なにか不具合があると、対応してくれる。アリスはおっさんフェアリーがなにを言いたいかわかったので、真剣な表情をつくり真相を答える。


「まさか、ここは異世界とか? それならばギャラクシーライブラリーに接続不可能です。なるほど、理に叶っていますね」


 そうして、アリスはギャラクシーライブラリーへとステータスボードから連絡しようとした。内容はこのクエストなかなか進まないんですけど、だ。

  

 多分、ストーリーの進行については教えられません。といういつもの返答が来るはずだった。しかし、びっくりしたことに絶対に常に繋がるはずのギャラクシーライブラリーに繋がらない。グレーアウトして、叩くこともできなかった。


 アリスは驚きの表情を隠せずに鏡へと向き直った。


「運営が叩けません! 通信不可能となっています。こんなことは初めてです。もしかしてここは異世界なんでしょうか!」


「だから、そう言ってるだろ? ここはゲームの世界ではなくて、地球という惑星の日本という国なんだ。自分の立場がわかったか?」


 なんと、アリスは異世界にきたらしい。信じられない。……でも、そうすると見たこともないアイテムやマテリアルが大量にあるのだろう。恐らくは古代遺跡と呼ばれる場所がこの惑星に違いない!


 やったー!とぴょこんと小さく飛び上がって喜ぶ。むふふ、私が1番乗りだとすると、稼ぎ放題だ!可愛く微笑みながら、これからの予定を考える。ここのアストラル体は強いのだろうか?そうすると断腸の思いで、マテリアルを使用して劣化を治さないといけないと。


 そこであることに気づく。なので鏡へと聞いてみるアリス。わからないことは、まず相手に根掘り葉掘り聞くのだ。相手が諦めて秘密を語るまで聞くのがアリスのスタイルだ。長期クエストではそうしていた。たいした秘密がないランダムクエストは会話をスキップして、力任せにクリアしてたけど。


「私の亜空間倉庫は使えるんでしょうか? 使えないと私はギャン泣きしますけど」


「さあ? 使えるんじゃない? 亜空間ポーチは使えたんだろ?」


 鏡も首を傾げて答えてくるが不明瞭な答えだ。でも使えるか確認すればいっかと、亜空間倉庫をタップした。亜空間ポーチと違い、戦闘中は使えないのが不便だ。


 出現位置は上空っと……。ぽんぽんと空中に浮かぶボタンをタップする。


 その行動がなにを意味するか、鏡はすぐにわかったのだろう。のんびりと興味深げに尋ねてくる。


「ん? なにを出すんだ? マテリアルか? ようやくヤバイと思って、レベルを回復するつもりなのか?」


「いえ、絹ごし豆腐を出そうかと。あれが出せれば全てを出せるはずですので」


 完璧な解答だ。アリスはガラリと窓を開けて上空を見る。


「へぇ〜。絹ごし豆腐か。豆腐なら……。ま、まて! 絹ごし豆腐はヤバイ! 出すんじゃない!」


 なんだか慌て始める鏡。なんだろう?小首を可愛らしく傾げて、もうそんなことを言っても遅いよと思う。


「もう出しましたけど、出しちゃいましたけど。絹ごし豆腐」


 その返答と共に、上空がバチバチと雷光が走り始めて




 全長12キロの私の万能超戦艦絹ごし豆腐が現れたのだった。




 超大なる戦艦。ガチャ神殿で手に入れた素材をふんだんに使った万能戦艦にして金食い虫。これを起動させる時には、交易用の素材を買い占めて行く時か、巨大アストラル体か艦隊戦のときだけ。だってお金を使うので。大量にマテリアルを消費するのだ。


 呼び出すだけならば問題は無い。動かすときには乗員を用意したり、その食料やら給料やらで洒落にならない。絶対に黒字になる時だけ使うと決めている。


 オリハルハへ辺境から、亜空間にしまえない空間影響を受けやすいクリスタル類を運ぶのが、ここに来る前の私の仕事だった。


 ボロ儲けで、笑いが止まらなかったのを覚えている。


 そんな超戦艦は白い船体で長方形の四角の形をしている。でこぼこのところは格納庫やら艦砲、カタパルトや迎撃用の機銃からミサイルランチャーや超兵器が搭載されている。


 正直、大和帝国の豆腐に似ているので、絹ごし豆腐と名付けた。似合っていると思うのだが、どうだろうか。


 アリスが作る建物や戦艦は何故かいつも豆腐に似ているので、凄腕の豆腐職人と呼ばれているのである。正直センスが無いことの証明なので、全然自慢にならない。


「あ〜! アホみたいな名前をつけなければ良かった! ふざけなければ良かった〜」


 ゴロゴロと空中を器用に転がり、羞恥に苦しむおっさんフェアリー。


 私がつけた名前なのに、また変なことを叫んでいるおっさんフェアリー。まぁ、私がゲームキャラだとか言っているから、設定を大事にしているのだろう。設定に凝っているフェアリーアストラルだ。


 たしかに実はふざけてつけていた。超戦艦の名前はなんですか?と聞かれれば、にこやかに悪戯な笑顔を見せて、絹ごし豆腐ですと答える。相手は大体ぽかんとしたあとに笑うので、サプライズが成功して、この戦艦の名前を絹ごし豆腐にして良かったと、口元をにまにまさせるまでが流れである。


 そんなおっさんフェアリーは放置して、アリスは上空に浮かぶ戦艦へと周囲の調査を行わさせる。結果は安全。周囲1万キロに敵対勢力は無しと出た。それならば問題はないとアリスはポチポチとタップした。


 転がり羞恥に責められていたらしい、おっさんフェアリーは立ち直ったのか、アリスへと視線を向けて叫ぶ。


「アリス! 亜空間倉庫へ絹ごし豆腐を仕舞うんだ! 大変なことになるぞ!」


「大丈夫です。周囲に絹ごし豆腐を喰らえる敵は存在しませんでした。調査済みですよ」


 心配性なおっさんフェアリーだなぁと、アリスは安心させるように微笑みを浮かべる。


 それを見た鏡は、空中で地団駄を踏むという器用な演技を見せる。


「ちが〜う! 違うったら違う! 心配しているのは敵じゃない。国の調査隊が来るぞ!」


「私のマップには、ここは辺境開拓地と記載されています。ギャラクシーライブラリーに認められた国なんか無いですよ?」


 異世界とか言っておきながら、よくよくステータスボードを見ると辺境開拓地と地名が書いてあった。本当に異世界なのか疑問に思うが、もしかしたら異世界と呼ばれるほど遠い辺境なのかもとあたりをつける。いや、多分そうなんだろう。


 ギャラクシーライブラリーに認められない国はバウンティハンターが建国した国だけだ。ここもそうなのだろうか?そうだとすると不味い。戦闘になるかも。


「ここはギャラクシーライブラリーに載っていない国なんだ! 急がないと! 早く仕舞うんだ! ちなみにバウンティハンターが、建国した国でもないからな!」


「え〜。早く言ってくださいよ。もう10分は仕舞えませんよ?」


 アリスは困った表情をして、返答をする。もう遅いのだ。早く言って欲しかったと頬を膨らませて可愛く抗議する。


「10分? まさかハードチェッカーをかけたのか? あぁ〜、たしかにいつも取り出したときは使ってた!」


 そのとおりとアリスは頷く。ハードチェッカーは戦艦に異常がないかを調査する装置だ。結構高いが航行前には絶対に使う。アリスはケチはケチでも使うときは惜しまずに湯水のように使うのだ。なかなか使うときがこないだけで。


 なので、周囲が安全だと調査結果が出たのでハードチェッカーを使用したのである。おっさんフェアリーはそれがすぐにわかるとは、なかなかの戦艦乗りだねと感心した。


「うぉぉぉ〜。この超戦艦を10分も放置? あり得ない! ありえな〜い!」


 ギャーギャー叫ぶ鏡。私は10分待ったら、また仕舞おうと考えながら、冷蔵庫にあったサイダーの缶をプシュッと開けた。むふふ、全部食べて良いといったもんねと、ご機嫌でお口へと炭酸をコクコクと流し込む。冷たくて、口の中がシュワシュワする。飲み込むとスーッとした甘みが舌にきて美味しい。


 コクコクと飲みながら、なんだか周囲が騒がしいねと、窓からちらりと見ると、ノーマルニュートがワイワイと上空を指さして叫んでいた。まぁ、気持ちはわかります。なかなか12キロ級の戦艦は辺境では見ないだろう。


 アリスは記念撮影をしますかと、聞いてみようか?小金が稼げるかもと予想する。


 そんなアリスへ鏡が必死な様子を見せて声をかける。


「アリス! 俺の全財産をあげよう。30億はあるはずだ! 依頼は俺がこの家にたまにはいるように偽装することと、俺の忠告を聞くこと、そしてゲームキャラとして認識して変な行動を慎んで、これからの異世界での冒険を俺とすることだ!」


 ビシッと指をアリスに指して、強い口調で依頼をする鏡。


 やっとクエストが始まったねと、アリスもいつもの営業の微笑みを見せて


「ご依頼ありがとうございます。安心格安、確実に依頼をこなすバウンティハンター、魔風アリスに全てお任せください」


 そうして頭をさげて、依頼を受けるアリス。


 どうやらゲームキャラとして振る舞わないといけないのかなと思うが、難しいときは言い訳して切り抜けようと考える。


 とにかく30億と言っていた。かなりの金額であるし、レアな素材も手に入ることは間違いないねと、これからのクエストを期待するゲーム少女であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] しかし、考えたら鏡のオッさんだからこんなコントじたてに笑えるけど。仮にデミウルゴスが願いを叶える飴ちゃんをもっとヤバい奴(世界の滅びを願うとか)に渡していたらダークファンタジー1直線だ…
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