59話 SR対ゲームロボ
超電導機動兵器、通常SR。無敵の超電磁バリア機能をもつ人型ロボット。8メートル程のずんぐりとしたドワーフが重装甲の鎧を着たような見かけである。その中でも最新式の六文銭に乗りながら出雲はカメラアイが役に立たないので、ハッチを開けたまま夜半の公園を見つめていた。
「はっ! 本当にカメラアイには映らないんだな、正直嘘くさい話だと思っていたんだが」
その呟くような言葉を通信が聞き取り、多少の雑音と共に言葉を返す。
「そのとおりだよ、出雲大尉。私も見るまでは半信半疑だったんだが、どうやら本当みたいだからビックリだよ」
年若い少女の声音での通信を聞いて、今年で30になる出雲は苦笑交じりに答える。
「あれが他の国が作ったという可能性は無いのか? 画期的な発明から生まれたとかな」
「その質問は今までの科学者が考えたさ。だが、カメラに映らない異常な力を持ち、かつ自壊する際にはガラス片となる。そんな存在を他国が開発しており、それを日本の図書館で使う? 不法投棄されたしょぼい鉄屑を回収するために?」
ふふっと少女の笑い声が聞こえて話を続けてくる。
「答えはノーだ。あり得ないしデモンストレーションにしてもしょぼすぎる。明らかに拙い隠蔽をしながら、かの機動兵器の持ち主は動いている。そこには映像に残らない自信とバレてもどうとでもなるという傲慢さが隠れ見えているよ、今回みたいにね」
出雲は偉そうに語る少女の声にうんざりしながら、公園へと再度視線を向ける。
そこには巨大な鉄色のサソリが見えていた。いきなり空中から現れたのだ。
「あれは今までとは違う兵器だ。今までのは使い捨てであるようなガラス片であったのに、今度は鉄色をしており巨大な兵器だ。あの素材はどこからきたのか疑問に思わないかい?」
「うん? ……まさか不法投棄されていた鉄屑から作られたっていうのか? 超技術をもつ異星人が?」
「恐らくその線は良いところをついているよ。なぜそんなことをしているのかは不明だけどね。まぁ、仮説は色々と考えられる。この地球で作れると見せてくれるとか、交易を求めているとか」
そこで通信からの声は少し間があり
「最悪を考えると、地球の資源でどんどん侵略兵器を作る自動機械とかね。もはや相手は死んでいてAIだけが動いているとかね」
「それだとこの地球が滅亡一直線だな。正義の軍隊としては戦わないといけないというわけか」
肩をすくめる出雲。正直色々と面倒くさい話だと気づいたのだ。
「安心したまえ、最悪の考えはたった今消えたよ、あの2体のみで、どうやら芋虫タイプは着陸してこない。私たちの存在がバレバレなんだろう」
「それが最悪でないとなんでわかるんだ?」
「あのサソリの動きさ。みたまえ、片方のサソリは私たちと戦う気十分な様子で、わざわざこちらの射線に入るように移動している。あれをどう思う? もう片方は巧みな位置に移動して射線に入らないようにしているのに」
あぁ、と納得して頷く出雲。あんな動きを腐るほど見たことがあるのだ。
「自分の機体の凄さに酔っている新米だな、ありゃ。うちの部隊でも新入りがよくやるよ」
「そのとおりだよ、もしかしたら思考が我々と似通っているのかもしれないね。さて、あの新米君の期待に沿うように戦闘を開始しようじゃないか」
「作戦ではあのサソリが守っている芋虫を倒して回収するんじゃないのか?」
作戦では、二体の六文銭がサソリをひきつけて、その間に他の六文銭が芋虫を撃破して回収する予定だったはずなのだ。
「いやいや、馬鹿なことを言わないでくれ給え、君は兵士なんだろう? 目の前の状況はわかり易いほどわかりきっている。私たちを排除するまで、芋虫君は着陸してこないだろうね、賭けても良いよ」
「……あ〜、たしかにな。安全を確保するのがあのサソリの役目ってところだろうしな」
嘆息しながら、部下へと合図を送る。
「残念ながらパターンAはなくなった。サソリの撃破をメインに変更だ、作戦を開始せよ!」
鋭く命令を下す出雲の声にそれぞれの部下が返答する。
「ファースト了解」
「セカンド了解しました、先制攻撃を開始します」
都内の公園全体にSRを配備したために、ここには3体しかいないが通常なら充分すぎる相手である。たとえ戦車でも相手にならないだろう。通常ならば。
「カメラアイが相手を映さない以上、ハッチを開けたままの戦闘になるからな! 気をつけて戦闘しろよ」
「隊長、ハッチを開けたままは自殺行為ですよ、どうにかならんのですか?」
「超電磁バリアが防御をしてくれると信じるんだな。通常兵器なんぞ絶対に通さないから大丈夫だ」
自分でも信じていない言葉を部下に告げて苦笑する出雲。
「通常兵器を敵が使ってくれればいいんですがね」
ファーストの言葉を合図にしたような感じで、セカンドが超電磁レールガンを撃つ。磁界が発生しプラズマじみた砲撃がサソリに向かう。空気が焼けるような嫌な匂い共に高速で電光をほとばしりながら。
常ならばあっさりとバリアのない相手など分厚い装甲でも溶かして貫通させる超兵器だ。あっさりとサソリに命中したのを見て今までの経験からかなりのダメージを与えたと思った兵士たちはその目を疑った。
呻くようにセカンドが呟く。
「直撃したはずだ。バリアらしきものを使った様子もないのに傷もついていないのか!」
サソリの頭をヘッドショットしたはずなのに、軽くチュインという音がして、傷もついていなかったのだ。
「なんて装甲だ! あれが不法投棄された鉄屑から作れたんなら、100億するSRはどこの軍隊も買わなくなるぞ!」
出雲が驚愕と共に見ていると、サソリがガシャガシャと多脚を高速で動かして近づいてきた。周りにある木を押し倒しながら、軽快に突進してくる。
「全機一斉射撃! 撃ちまくれ!」
そう命じながら、キーボードを打ち込み移動を開始する。レバーはあるが、簡単な操作しかできないのでいちいちコマンド入力を行い行動を命じないといけない。
SRはゲームなどと違い繊細であり複雑な操作を必要とするのだ。
がしょんがしょんと移動を始め、重さで公園に足跡が残る。
舗装し直さないといけないだろうなと出雲は戦闘中に場違いな考えをしつつ、敵を正面に迎えた。
「こいつ! 俺たちより速いぞ!」
最高時速80キロしかでないが、重たい超電導エンジンを積んでいるので仕方ない。
もっと大型にすれば良いと昔は試行錯誤されたが、これ以上は今度は装甲が持たないのだ。自重で機体が潰れてしまう。どうせ超電磁バリア頼りであり、装甲が多少薄くても構わないという思想の元でSRは作られているのだから。
そして、そのギリギリの速度が今のところ時速80キロなのであった。
なのに敵は時速100キロは出ている。こちらの合金とは違うのだとわかる。
構えた超電磁レールマシンガンを撃ちまくる。残念ながらカメラアイに映らないし、そのために自動ロックもできない。視界のみで戦わないといけないのだ。
「レーダーの無い大昔に戻った気分だ!」
バリバリと電光を撒き散らしながら、小型弾を使用したマシンガンの弾が無数放たれる。
その全ては新米が乗っているだろうサソリに命中するが、カンカンと軽い音をたてて弾かれるだけであった。
「くそっ! 近接戦闘じゃないと勝ち目はなさそうだぞ!」
ピアニストのようにキーボードを叩き、六文銭に近接戦闘の指示を出す。六文銭はその指示に従い、いつもならば敵の超電磁バリアを貫通させる超電磁ナイフをとりだして身構える。
その時にはサソリは目の前に来ており、その巨大さを威容さを見せつけていた。
「ハッチを開けたままの近接戦闘とか、俺はアホだな」
苦笑いをしながらも、キーボードを叩き戦闘を開始する。右腕をひいて、突きを入れようとする六文銭。金属音が響き頭を貫こうとするが
「チッ! 駄目か!」
でかい敵の鋏が突き入れようとした右腕を挟んでいた。
下がりながら右腕を振り払おうとする六文銭だが、右腕はあっさりと鋏に斬られてしまった。同じ超電磁でないと貫けないはずの無敵のバリアは役に立たず、装甲はまるで紙のように斬られてしまう。
「バリアの機能は働いていないのかよ!」
叫んで後ろに下がろうとする六文銭をサソリが追いかけてきて、今度は左足を挟まれる。
ジリッと少しだけ抵抗を見せたが、やはり右腕と同じように斬られてしまい、出雲の六文銭は横倒しになるのであった。
「隊長! バリアが役にたちません!」
「だ、だめだ! まったく太刀打ちできません!」
見るとベテランと思わしきサソリに2体とも脚を斬られ横倒しになっていた。ご丁寧にレールガンも銃身を斬られて。
そうして、サソリは後続にいた車両を次々と破壊していく。出雲はなにもできずにその光景を見ているだけであった……。
戦闘が終わり、こちらの対抗手段がなくなったと理解したのだろう。先程のサソリと同じく芋虫ロボットが空中から現れて次々と地面を食べ始めていく。
「なんであいつらはなにもない地面を食べているんだろうな」
出雲は元100億のスクラップに座って、公園内をもしゃもしゃと動きながら地面を食べている芋虫を見て呟く。
「う〜ん、私たちにはわからない素材でもあるんだろうね」
声のする方を見ると150センチぐらいのポニーテールの少女が歩いてきていた。
「おいおい盾野博士、こんなところまで来ていいのかい? 危ないと思うがな」
一応忠告を入れる出雲だが、盾野と呼ばれた少女はかぶりを振って答える。
「いやいや、ある程度までに近づかなければ大丈夫だろうよ。君がぼんやりと眺めていることができるぐらいの距離ならね」
「さよけ、食べられても知らんからな」
「その可能性は極めて低いだろうね。それにしてもSRをまったく相手にしないとは驚きだ。少しは戦えると考えていたんだけどね」
首を竦めるようにして、口元を歪める盾野。
「あっさりと300億が禄な抵抗もできずに失われたのが効いたらしい。援軍は準備がどうたらと言ってきてくる気配はないね」
「まぁ、そうだろうな。きっと俺たちと同じようにやられるだけだからな」
出雲は援軍が来ないことを特に恨みはしなかった。傷も負ってないし、来ても倒されるだけだろうから。
「興味深い、実に興味深いよね、あの青いクリスタル。多分重力操作できると思われる。そして異星人の機動兵器の素材、技術、思考など楽しそうなことがいっぱいだ。これだから人生は面白い」
そう言って弱冠15歳の天才総合科学者である盾野女史は公園で蠢く異星人の機動兵器を見つめるのであった。




