58話 ゲーム少女は太平洋連合軍と戦う
晶石の回収作業は一週間に渡り行っていく。安い弱い最低レベルの晶石であるし、回収時間も一時間と短いので回数をこなす必要があったのだ。
今夜はその最後の日、一週間の最後の日となっていた。
小型宇宙艇がお空をフヨフヨと飛行中である。その中でアリスはのんびりと勉強をカナタに教えている。
現国や世界史などはわからないので、反対に教えてもらう立場ではあるが、理数系や英語は完璧であるので、小学生のようなちっこいアリスがカナタに教えていたのである。
「これは銀河第八公式を使うと、この数字になるんです。わかりました?」
「アリスちゃん、その公式は複雑すぎて地球人にはついていけないと思うよ?」
訂正。たぶんカナタに教えることができていた。
「しょうがないですね。地球の公式とやらはこれなんですね。ふむふむ、それじゃこの公式を使ってください」
教科書をパラパラと読んだだけで理解する最高種族ロイヤルニュートである。
ペンを口に加えながら、カナタはチラチラと時計を見て、さっきから気になっている言葉を発する。
「ねーねー、なんだか今日は目的地に到着するのが遅くない? いつもなら到着してるよね?」
「その問題を解くまで到着することはありませんからね。 カナタさんの成績を聞いて驚きましたので。カナタさんの育成クエストまで入っているとは思いませんでした」
中間テストとやらは赤点ぎりぎりばかりだったと聞いたので、なんとカナタを育成するクエストもあったのかと納得したアリスはスパルタ教師へと早変わりしていたのだ。
それを聞いて、急に熱心に取り組み始めるカナタ。
「もぉ〜。早くそれを言ってよ! 待っててね、すぐに終えるから」
そうしてあれだけ苦戦していた問題集をその熱意で解くカナタなので、明後日の期末テストは大丈夫だろうとアリスは胸を撫で下ろすのであった。目指せ学年一位であるからして。クエストに手抜きは許さないアリスであった。
カナタが問題を解いている間にウィンドウが開き鏡が映し出される。その表情は少し困った顔だ。ウサギなのに、困った顔だ。
ん?とその表情に気づいたアリスが問いかける。
「どうしました、ウサギさん。故障でもしました? 主に頭の中身が故障しました?」
「お前はとりあえずディスらないといけない病気なのかっ! なに? 時候の挨拶はまず相手をディスると決めているわけ?」
「そんなことはありませんよ。相手は選びますので。で、どうしました?」
コテンと可愛く首を傾げてなにがあったかを尋ねるアリス。
「それがなぁ……レーダーにこれから向かう神宮の公園に多数の人間の反応があるんだわ。金属反応もあるから、俺たちを狙っているのかも」
「むぅ、盗賊のランダムクエストではなく?」
「あぁ、これを恐れていくつも採掘する公園は変えていたんだがなぁ。どうやら都内の他の公園もレーダー反応を調べたら多数の同じような生命体と金属反応があるんだよな」
腕を組んで答える鏡に、う〜んと顔を顰めてアリスは呆れた。
「人海戦術というわけですね? 呆れました、そんなことをすれば赤字確実ですよね?」
「今をときめくニュースになってるからね、不法投棄の場所での戦闘。すわ異星人との戦いかって」
フンフンと興奮したカナタが問題を解き終わったらしく口を挟む。
カナタをちらりと見てアリスは考える。最近のニュースは一応チェックしていたのだ。
「しかし、まだ公園の採掘はニュースになっていませんでした。たった一週間、しかも映像にも残らないのにもう国が動いたのですか?」
「う〜ん……。もしかしたら指揮官が変わったのかも。余程優秀な奴に」
相手の動きが早すぎるので驚いているおっさんうさぎ。
はぁ〜とため息をつくアリスにカナタが戸惑い顔で聞いてくる。
「どうする? 今日はやめちゃうの?」
その言葉にキョトンとした表情でアリスは答えた。
「なにを言っているんですか? もちろんやめませんよ。この宇宙艇だってタダで動いているわけではありませんからね。ただちょっと相手を殺さないで無効化するのは面倒くさいと思っただけです」
ハンターであるからして、戦うのは問題ないが、鏡からできるだけ殺さないように言われているのだ。彼我の戦力差なら余裕なので、仕方なく頷いたアリスである。
「では、ハンターの採掘を邪魔したらどうなるか、この国の人たちに教えてあげますか」
「ふふふ、今回は私も頑張るよっ!」
カナタもノリノリで力こぶをつくるように腕を折り曲げて張り切った声を出す。鏡もその返答を聞いて頷く。
「それじゃあ気をつけて行って来るんだな。クロウラーはどうする?」
「殲滅後に投下をお願いします。20分後ぐらいですかね」
そう答えてコックピットに乗り込むアリス。
薄暗いコックピットはアリスが搭乗したことで、ネオンの光のように輝き始めるので、すぐにチャカチャカとパネルを操作していく。
「了解だ、降下開始」
おっさんウサギが頷いて操作をすると、ハッチが開き、アイアンスコーピオンは空へと放たれたのであった。
地面へとその巨体の重さとは到底思えないふわりとした着陸をしたアイアンスコーピオン。すぐにアリスはレーダーを使用すると
「なるほど、車両が多数。ノーマルニュートも100人はいますね。まぁ、この間と同じように車両と高価な機材を壊しますか、赤字決定にしてあげます」
「了解っ! カナタ行きますっ!」
この間と同じく警官隊だろうと、ガションと脚を踏み出そうとした時であった。
チュインとカナタのアイアンスコーピオンの装甲に何かが当たる。
「おぉ? なんか文字がモニターに出てきたよ! 読めないけど!」
「今度数の読み方を教えますね。そこにはダメージゼロと出ているんです」
カナタの問いかけにすぐに答えて、アリスは今の攻撃力を推察した。
「あれはこの間の暴徒鎮圧弾とは威力が違いますね」
「あれは実弾だ、アリス! こいつら軍隊か?」
焦った声音のおっさんウサギが叫ぶ。
「ふむ、では警察ではないということですか?」
アリスが首を傾げて尋ねるが、鏡が答える前にそれは判明した。バンバンとサーチライトがつけられて、アイアンスコーピオンを照らし始めたのだ。
そうしてサーチライトの横にいるのは戦闘服を着込んだ兵士たちであった。
「太平洋連合軍だ! やっぱりこの間の戦闘を問題にしたんだな!」
叫ぶ鏡へカナタへ授業をする傍ら、地球の歴史の勉強をしていたアリスが問いかける。
「たしか第二次世界大戦中に作られた国ですよね?」
「あぁ、インド、ベトナム、タイ、マレーシアやシンガポールにオーストラリア、あと忘れたけど、日本と東南アジア圏の国々が作った連合だな」
そう鏡が答える中で.相手方から8メートル程度の人型機動兵器が歩いて来た。
「超電導エンジンを第二次世界大戦のかつてのドイツが開発したんだ。それを使用した超電磁バリアやレールガンを搭載した人型兵器は一個師団をたった一機で撃滅した凄さを見せつけた。それが世界崩壊の始まりだったんだけどな」
「続きはわたくしカナタが教えてあげまーす。戦闘は圧倒的にドイツに傾きましたと言いたいところだけど、強すぎる機体を持った部隊が万能感に酔いしれてドイツを離脱して自分の国を作ろうとめちゃくちゃし始めたんだ。超電導エンジンの技術は他の国にも渡って、超電導機動兵器も作られたんだけど、やっぱり万能感に酔いしれて裏切りが横行。枢軸国対連合軍だったのに、小国が乱立する世界戦国時代に入っちゃって、混沌の世界になったの」
カナタがは〜いと手をあげて教えてくる。先程から理系をスパルタで教えられたので、お返しをしたいのだろう。
「15年近くの戦乱の結果、世界はいくつかの大国や連合が組まれたのが今の状態というわけだ」
鏡の言葉に頷くアリスはモニターに映る人型兵器を観察する。
「あれがその後継機、悪名高き超電導人型機動兵器、通常SRと呼ばれているね、機動兵器は軍以外は使ってはいけない規則だし、恐ろしいことに街中でも発砲を法で許されているんだよ。もしも悪人が機動兵器を使用した時にすぐに許可なく戦闘できるように」
ムフフと得意気に伝えてくるカナタ。その姿はかなり嬉しそうである。非日常これ極まりといった様子なので頬を紅潮させて興奮している様子だ。
「なるほど、この惑星の機動兵器が相手ということですね。随分楽しそうな予感がします」
アリスはレバーを握り戦闘態勢に入るが
「ねーねー、なんだか赤い表示が出たよ? これなぁに? 読めないんだけど」
「それは敵の攻撃の射線に入りましたよという表示ですね。ん〜……運転スキルは働いていないのでしょうか?」
アリスがいちいち尋ねてくるカナタのことを首を捻って不思議に思う。スキルが働いていれば動かせるはずなのに、なんでだろう?
「あ〜、それがね、動かし方はわかるんだけど、表記された内容に従う行動をしないといけないときに動けないんだよ、字が読めないから」
「……なるほど……それは盲点でした。でも言語理解のスキル装備はないんですよね。ギャラクシーライブラリーに接続すれば簡単に取れてしまうのが言語理解だったので。仕方ないです、あとで単語をいくつか教えますね」
ほむほむとカナタの言葉に納得するアリス。確かに字が読めてこそ行動できる内容があるので、そこは仕方ない。
「それとね、なんだかモニターにさっきの文字がたくさん出てきているんだけど、なにかな?」
あっけらかんとした声音でカナタは不思議に思っているが
「あぁ、ひたすら敵が攻撃してきているんです。ダメージはゼロですが。これで万能感を感じていたのですか?」
弱すぎない?と思う。国を裏切るほどの力にしてはしょぼすぎるのであるからして。
「いや、レールガンはかなりの威力だぞ? それとSRの持ち味は超電磁バリアだ。その強固なるバリアはどんな攻撃も受け付けないんだ。乗り手に万能感を与えるぐらいな」
鏡が口を挟んで説明する。どうやら敵はかなりの自信のあるバリアらしい。
「あぁ、防御重視でしたか、なるほどです。では防御重視同士でどれだけ戦えるのかを確かめましょう」
「見せてもらおうか! 太平洋連合軍のSRの力というものをっ!」
ノリノリで叫んで突撃を開始したカナタのアイアンスコーピオンをちらりと見てから、自らもレバーを倒して前進させ、戦闘を開始するアリスであった。
ここにゲームのロボットと現実のロボットの初戦闘が開始されたのであった。




