57話 ゲーム少女は上野公園を散歩する
真夜中の都内上空。そこにステルスモードで飛行している小型宇宙艇があった。70メートルぐらいの大きさの小型艇で大気圏突入、突破もできる地味に強力なそして安いという重要な点をもつ小型艇だ。ちなみに武装は攻撃力100しかない小型エネルギー機関砲という弱い武器である。無論、アリス視点であるが。
静かに音もたてずに、バーニアから白く光るエネルギー粒子を噴出しながら只今移動中の宇宙艇である。
その中でのんびりと寛いで漫画を見ているアリスと、窓から眼下の風景を興奮して夢中になって見ているカナタの姿があった。
「ねぇねぇ、すごいね! 私は今宇宙船に乗っているんだよね?」
「そうですね、凄いです。なんで、このキャラはフッと言うだけで立ち上がるだけで、体力満タンになるんですか? 敵役の相手に同情してしまいます。可哀想過ぎませんか?」
「いやいや、ここは私の感動に付き合ってよ、アリスちゃん。というか、その漫画だいぶ古いやつだね? お父さんが持っているのを見たことがあるよ」
アリスの手元にある漫画を覗き込んで、カナタが感想を言うというほのぼのとした空間がそこにはあった。
だが、それは空中に突如出現したモニターの前に霧散する。
モニターにはリアルすぎる描写のウサギが映っており、口を開く。
「アリス、そろそろ目的地上空だ。準備をしておけよ?」
その言葉にパタンと漫画を閉じて、アリスはコクリと可愛らしく頷く。美少女は頷くだけで絵になるのでお得である。
「了解しました。では、私たちも搭乗を開始しましょう。カナタさん準備は良いですか?」
アリスはカナタへと視線を向けると、パイロットスーツに運転スキル+10の腕輪と機械操作スキル+10の腕輪を装備しているカナタが喜色満面な笑顔で親指を立てる。
「あいあいさー! これよりカナタは機動兵器アイアンスコーピオンに搭乗します!」
そうして、すぐさま後部カーゴに置いてあるアイアンスコーピオンと呼ばれた機動兵器のハッチを開けて飛び乗る。
「楽しそうだなぁ~。宇宙人の侵略の手伝いだったらどうするつもりなんだろうね、あの娘………」
おっさんウサギが呆れかえった様子で、ノリノリのカナタを見て言うので、アリスは答える。
「きっとそれでも喜んでカナタさんは乗り込むと思いますよ。サポートキャラは友好度を下げない限り裏切ることはないのです」
そして、アリスもとうっと小柄な体躯にふさわしい身軽さでアイアンスコーピオンのハッチを開けて入り込むのであった。
「その考えは極めて危険だぞ、アリス………。サポートキャラは俺しかいないと思わないとまずいが………まぁ、裏切られたら裏切られたか。地球の科学力ではAHOのゲーム科学力にはまったく敵わないとわかったしな」
鏡はそう呟いて、コックピットでポチポチとハッチを開ける準備をするのであった。
鉄色に鈍い光を放つサソリ型機動兵器アイアンスコーピオン。20メートルぐらいの胴体をしており、高さは5メートルぐらい。鋏やら尻尾、そして脚を含めて展開すると50メートルぐらいの大きさにはなるだろうか。自動兵器ではなくパイロット搭乗型である機動兵器だ。
その仕様は拠点防衛兵器である。耐久力が2000あり、防御力は500ある。そして機動力は100しかない。武装もしょぼく攻撃力0のパラライズビームにて敵を麻痺させることと、攻撃力100のビームシックルしかない。
単に時間稼ぎに使われることでしか使い道がないAHOの初期拠点防衛兵器であり、アイアンパウダーとマテリアル500で作れるゴミ機動兵器である。
AHO開始時にはその防御力にうざいGみたいな敵だと攻め手が文句を言ったが、インフレ激しいゲームであったので、あっさりとGみたいに簡単に後期では撃破されることになった可哀そうな機動兵器である。
そんな機動兵器の操作資格は運転スキル10か機械操作スキル10が必要である。簡単に作れる上に簡単に操作できるので、カナタにスキルアップ装備を渡して使わせることにしたのである。スキルアップ装備もこれまたゴミのような装備であるので、とりあえずレンタルという形で渡したアリスであった。
コックピットは狭くモニタは前面モニターと両脇の横面モニター2面、そして後部を移すモニターが前面モニタの下にちっこく設置してある。
タッチパネルを押下しながら、アリスは通信ウィンドウを開く。カナタが映った事を確認して
「どうですか、カナタさん。操作に問題はありませんか?」
最低限のスキルなので、大丈夫だろうかと声をかけるが
「こちらカナタ。システムオールグリーン、準備良し、いつでも行けます!」
ノリノリの笑顔でタッチパネルを操作しながら返事をしてくるので、大丈夫そうですねと微笑みアリスはもう一つのウィンドウに映るおっさんウサギへと声をかける。
「こちらは二人とも準備良しです。ウサギさん、ハッチを開けてください」
カナタの前で鏡と呼ぶわけにはいかず、とりあえずウサギと呼んでいるアリスである。
「アイアイ、マム。ハッチオープン。全機降下開始!」
鏡の言葉により、がくんと多少コックピットが揺れて空へと放り投げられるアイアンスコーピオン。
モニターに空中に躍り出たアイアンスコーピオンの姿が見えて、興奮した声音でカナタが叫ぶ。
「うっひょー! 私は今、最高の気分だよ~!」
生身での行動は初めてだからだろう、興奮しっぱなしのカナタであるので、一応警告をしておく。
「この惑星の技術レベルではアイアンスコーピオンの装甲を打ち破れるとは思いませんが一応注意しておいてくださいね。やられると感じたときには遠慮なく緊急離脱システムを使ってください。それを使えば」
「はいはい。何回も聞いたから大丈夫だよ。基地まで私だけ転送されるんでしょ? 大丈夫、しっかりと覚えているから」
カナタがアリスの声に被せて、安心してよという表情で言ってくるので、まぁ、いっかと楽観的なアリスも頷くのであった。
現在は1時、夜中の時間であり、カナタはアリスの家にお泊りをすると親に告げてある。アリスちゃんは凄い頭が良いので期末テストの試験範囲を教えてもらうという理由だそうな。そろそろ期末テストが近いらしいのに、遊びまくるカナタなので、大丈夫かしらんと鏡が心配をしていたのをアリスは覚えていた。
期末テストって、なんなのか説明を受けて、ふ~んと頷くアリスであったが特に私には問題ないですねと気にせずにカナタを今回の回収作業に付き合わせたのである。
地面が近づき、慣性緩和装置が動作をして、ずしんと合金の塊みたいなアイアンスコーピオンが着陸する。カナタを見ると特に問題なく着陸したようである。
そして、アイアンスコーピオンの周りに同じく5メートルぐらいの芋虫型ロボットが20匹程着陸してくる。
突如として着陸した異形のメカに1時という夜中でもあるのにいた夜更かしな人たちが驚愕の表情で見つめていた。
周りの状況を確認しながらアリスは芋虫型ロボット、晶石回収ロボットクロウラーに命令を出す。
「では、この上野公園という名の鉱山から晶石の回収を始めてください。クロウラーさん」
キュイーンと音をたてて、口を開き土にかぶりつくクロウラーたち。がぶがぶとかぶりついて、晶石のみを選択して採掘していく。
「アリス。トラクターポータルの設置を開始するぞ」
鏡の言葉がしたと思ったら、青いクリスタルが魔法陣の形になるように宇宙艇から落ちてくる。
六本のクリスタルを頂点として、青く光ると円形のトラクターポータルが生まれる。これに入ると許可されたものは宇宙艇まで飛翔して帰還できるというシステムだ。これを使用して亜空間装置に弱い晶石を直接運んで回収するというシステムである。
トラクターポータルの正常動作を確認して、アリスはカナタに告げる。
「では、この周辺にいるノーマルニュートには退場してもらいますよ。カナタさん、説明した通りにお願いします」
「あいあいさー、クロウラーの邪魔にならないように排除を開始します。パラライズびぃぃむぅ」
スーパーロボットに乗っているような楽しすぎる状況に、カナタはノリノリでアイアンスコーピオンの側で呆然としていた人間に尻尾からパラライズビームを放つ。効果を聞いただけで、本当に麻痺させるだけかわからないのに、容赦なく撃つカナタである。
尻尾からチュインとビームが発射されて、呆然としていた人間に命中すると、ウッと叫んで麻痺をした人間は倒れる。
「麻痺時間は大体1時間です。回収時間は1時間と決めていますのでちょうどいいでしょう」
アリスも側にいたノーマルニュートへとパラライズビームを撃って麻痺させて、カナタへと話しかける。
「ほいほい。了解。小型あーむぅぅ」
いちいち叫んで、アイアンスコーピオンから、小型の機械腕をでかい鋏の腕の横から取り出して、人をそっと掴んで、ポイっと回収エリアから投げ捨てる。
地面に転がり、土まみれになる麻痺した人間を見て、カナタはうんうんと満足げに頷く。
「これで話のネタにはあの人は半年は困らないだろうね。私は今良い事をしているとおもう!」
ふんふんと鼻息荒く呟く相手を麻痺させてのカナタの言動であるが、鏡もそれを聞いて苦笑する。
「たしかに、あの人は半年はネタに困らないだろうな。アリス、何人ぐらいこの周辺にいる?」
「20人ぐらいですかね。そんなに多くはありませんでした。これで終わりです」
ようやく現実で起きていると理解したノーマルニュートが逃げようとするが、
「逃げるのが遅すぎます。ギャラクシーライブラリー内管轄惑星であれば、すぐに人々は逃げますよ。こんなことは日常茶飯事なので」
と呆れながら平和すぎる人々へと、パラライズビームを撃ち込むのであった。
チュインチュインとあっさりと麻痺させて、ぽいぽいと回収エリアから運び出して、アリスは最初の回収は上手くいきそうですねと満足げに頷くのであった。




