56話 ゲーム少女と怪談
あれは、シトシトと雨が降るそんな湿気の高い梅雨の季節でした。もうね、そんな雨が降り続くと気が滅入るじゃないですか?
雨が降っているんでもちろん雲は厚いんですがね?その日はほらよく昼でも暗い程の分厚く暗い雲が空を覆っていたんです。でね、今日は早じまいをしようかなぁとも思っていたんですよ。
え?私の仕事は何かって?あぁ、言い忘れましたか、私は業務用の砂糖やら香辛料を扱っている問屋みたいなもんを小さな商いですがやっているつまらない店主ですよ。
そんなつまらない店主が、あんなことにあうなんてね……。え?どんなことにあったって?
そりゃあんた、あんなことって言えば、あんなことですよ。それを今からお話しようってんじゃありませんか。
もう真昼でも暗かったんです、思えばそれが予兆だったんでしょうね……。夕方になると、もう真っ暗でして、私は早く梅雨明けしないかなぁと思いながら、そろそろ店を閉めようかと、重たい腰をあげようとしたところです。
チリンチリンとね、扉を開ける時になるようにしていた鈴が鳴ったんです。
おや?もう店を閉める時間なのに珍しいと思ったわけです。何しろうちは業務用を売っているんで、大きな注文は電話やメール、小売でも朝早くか遅くても昼ぐらいには客が来てしまうんです。だからこんな時間に来るなんて珍しいと入ってきた客を見ました。
その客はなんというか奇妙な客でした。なにが奇妙かはその時はわからなかったんです。ほら推理小説とかでも、手品とかでもネタバラシされると、ああそんな簡単なことだったんだと思うわけです。それと同じで出会った時は普通の客だと思いました。
ちょっと背丈の高い、あとは普通のスーツを着ているどこにでもいそうな中年の男性でした。顔?それがねぇ、今思い出しても顔が思い出せないのですわ。絶対に見たはずなんですけどねぇ。
そんなことも終わったあとに気づいた訳でして、よくテレビとかを見て、おいおいなんでそんな奇妙な奴に会って気づかないんだよとかね、ツッコミを入れていた私ですが……いやはや自分がいざその状況に入ると気づかないもんですな。
でね、男はこんな霧雨みたいな雨が降っているのに傘を持ってもいないのに、濡れていないんです。スーツはバリっとノリの効いたシワ一つないままでね?でも車で来たのならおかしくないって、私は全然気にしませんでした。
問屋街なんて夕方には閑散として、車一つ通らないもんで、店の前に車が駐車したなら、そのエンジン音が聞こえても良いはずなのにですよ?
迂闊な私はその時は疑問にも思いませんでした。なんで愛想よく声をかけたんですわ。
「いらっしゃい。なにをご入用で?」
問屋なんてね、もうなにを買おうって決めてる人がほとんどなんですわ。だから早々にお客は迷わず注文してくるんです。
その男も低音の渋い声音で言うんですわ。
「砂糖10キロ入りを100袋、他に胡椒も同じだけ貰おうか」
「へい、畏まりました。お支払いはカードで?」
こりゃ結構な商いだなんて思って、支払い方法を確認すると
「……いや、現金で支払おう……」
なんというか、ボソリボソリと話すのにね、妙にしっかりと耳に入る声なんです。
現金なんて珍しいなと思いながらも、なにかのイベントで使うのかなって、少しだけ首を傾げて返事をしました。
「へい、畏まりました。お届け先はどこにしましょうか?」
そうしたところ、奇妙なことを言ってくるんですわ。
「今、倉庫にあるか? あるなら支払いをしていくから持っていこう」
あれま、随分急いで欲しがる客だなって思って頷きました。
「ぎりぎりですがありますよ、領収書はどなた宛にしましょうか?」
なにしろ大金が動きますので、領収書は当たり前の話です。私も領収書を取り出して尋ねましたが
「いや、領収書はいらない。物を見せて貰おうか」
領収書をいらないなんて変な話ですから、少し驚きました。だけれども、各小売店に分けたりするのかなって、奇妙な話だと思いながらも、それでもあまり気にしませんでした。
札束をぽんと取り出してくるんで、驚きましたがそれでもお釣りを渡して倉庫へ案内しました。でもその時もおかしかったんです、札束なんてこの男はどこから取り出したんだって。
スーツは先程も言いましたが、バリっとしたノリの効いたシワ一つないもんなんです。手ぶらですし、札束なんて持っている様子もなかったんです。あぁ、思い返すと私はいかにも馬鹿な店主を演じていると思いますわ。
でね、倉庫へ案内して、砂糖と胡椒を見せました。男は満足そうに頷いて言いました。
「充分だ。ではシャッターを開けてきてくれないか?」
トラックを乗り付けるんだろうなって、頷いてシャッターを開けに行きました。といってもシャッターなんて目の前です。ボタンを押して、こうガラガラとシャッターが開いたのを確認して、私は振り向きました。
「お客さん、トラックはどこにあるんで?」
そう伝えたら、ニヤリとその男は笑ってね、なんというか口元だけで笑った感じの不気味な笑いでした……。
「あぁ、もう終わった。それでは帰ることにするよ、どうもありがとう」
変なことを言うお客だと思いました。まだ運び出してもいないじゃありませんかと口に出そうとして驚きました。唖然として声もでないってやつです。
なにしろいまさっきまで目の前にあった砂糖と胡椒の山が綺麗さっぱりに無くなっていたんですからね。目を離したのはほんの数分となかったんですよ?それなのに綺麗さっぱりに無くなってたんですわ。
ポカンと馬鹿みたいに口を開けて唖然とする私の横を通り過ぎて、シャッターから男は出ていきました。
通り過ぎて行く時にね、なんだか少女の声も聞こえたんです。
こう、囁くように、それなのに耳にやけに残る美しい声音でね
「ありがとう」
ってね、そうしてシトシトと雨が降る中で、男は傘もささずに帰って行きました。なぜかスーツはバリっとしたノリが効いたままでね、濡れることもなく帰っていったんですわ……。
そのあとはどうしたかって?お金を確認しましたよ。もしかしたらこんな現代ですが狐や狸に化かされたんじゃないかってね。木の葉に変わることもなく本物で一安心でしたが。
それでね、最後に監視カメラを確認しましたよ。倉庫にももちろんカメラはあるんでね、どうやって砂糖やら胡椒を持っていったのかってね。
見て驚きました。店に入る時はドアがひとりでに開いていて、男の姿なんて影も形もありません。倉庫でも私は誰もいないのに、まるで相手がいるように話をしているんですわ。
そうしてシャッターを開けに離れたときに、砂糖も胡椒も忽然と消えていきました。最初からそんなものはそこになかったようにね。
それで初めて私は気づきました。遅ればせながら相手はこの世の者ではなかったんだとね。それから数日は高熱を発して寝込んだのが、この話の終わりです。
その高熱が単なる風邪なのか、あの世の者に会ったからなのかは……。
あんたの想像におまかせします。まぁ、一つ言わせて貰うのは夕方に傘もささずに買い物に来る客には気をつけたほうが良いってことですかね……。
パタンとスマフォに乗っていた最近の実際にあった怪談という話の載っていたサイトを閉じてカナタは目の前にいる少女へと不満そうに叫んだ。
「これアリスちゃん関わってない? こんな都市伝説が結構出回っているんだけど!」
プンスカ怒っている子供みたいなカナタは目の前の美少女宇宙人に問い詰めるように尋ねる。
そんなカナタを見ながら困ったような表情で、アリスは答える。
「そんなオカルトを全部私のせいにしないでくださいよ、まるで私が噂の発信源みたいじゃないですか」
その答えに、少しだけしょげてカナタが小声で謝る。
「あ、ごめんなさい。宇宙人だからなんでも噂の原因になっているなんて、私の早とちりだよね…」
「そのとおりです。隠密行動なんで、秘密なクエストだったんですから」
飄々と答えるアリスに、バンとテーブルを叩いてカナタはソファから立ち上がって叫んだ。
「やっぱりアリスちゃんの仕業だったのね! 私も混ざりたかった! 濡れ女とかをやってみたかった〜」
ジタバタと身体を絨毯に寝かせて駄々っ子スタイルをとるカナタ。ちなみに今は鏡の家である。
「この娘は宇宙人じゃなくてもいいわけ? 妖怪関係でも問題なし?」
高校生なカナタが駄々っ子スタイルでシタバタするのを呆れた表情で眺めるおっさんフェアリーである。
「カナタさんは妖怪?になりたかったのですか? 妖怪ってなんですか?」
首を傾げて不思議な表情になるアリスへと、ガバリと起き上がり、強い口調で言う。
「非日常ならなんでも良かったんだよ! もぉ〜、アリスちゃんのケチ〜」
「むぅ、私がケチなのは否定しませんが、なんでも良かったのですか?」
そのアリスの言葉にキランと目を光らせるカナタ。
「なにかまだやるの? 私も混ぜて!」
顎にちっこいおててをあてて、投げかけられた言葉を検討する。もう砂糖やらは集まったので問題はない。あとはなにを集めようかと考えると答えは決まっていた。
「では次は素材の中でもちょっと基本素材が欲しいんですよね。集めるのを手伝って貰っても良いですか?」
「おお! そんなのを求めていたんだよ! 次はなにを集めるの?」
亜空間ポーチから、コロンとアイテムを取り出して見せる。
「何これ?」
アリスのちっこいおててには、六角形の透明なクリスタルが見えており、中には淡い光が満ちている。
「これは加工済みの晶石です。あらゆるマテリアルを合成するのに必要な基本鉱石です」
「へぇ〜。そんな物があるんだ。で、日本のどこにあるの?」
その問いかけにニコリと花が咲くような微笑みを見せて答える。
「生命体の多いところ、そしてマテリアルを使用しないところですね。マテリアルを使用すると弱い晶石は結構な確率で消えてしまうんです。強い力場の鉱山は関係なく高級な晶石を生みますが、その分凶悪な敵が生まれるので採掘しにくいのですが」
「ほえ〜。それじゃどこに行くの?」
その問いかけにフフフと笑いながら答えるゲーム少女であった。




