54話 ゲーム少女は説明する
ワイワイと人々が、いや、アリスシティの住民となった人々が宿舎でいろいろな物を見ながらアリスへと質問してくる。
「これがかまどなんですか?」
電熱コンロを指さして、戸惑ったように尋ねてくるので、カチリとレバーを捻って熱を発生させて見せる。
「この熱でいろいろな物を焼いたり、煮込んだりします。あまり火力は強くないので、そこは要注意ですね」
アリスは丁寧に教えてあげて、鏡はフヨフヨと浮きながら呟く。
「序盤の機械は昭和時代の物と同じなんだよなぁ。まぁ、拠点1レベルだから仕方ないけど」
「早く30まで上げたいですね。少なくともマテリアル式機械へと総入れ替えしないと、マテリアル代が勿体無いです」
アリスは相変わらずのケチぶりだが、まぁ、たしかにそうだなと鏡は思う。現代科学はレベル5だから、そこまでいけばマシなのだろうか。
ちょっとしょぼすぎるので、開発に投資したら良いんだが、研究所も研究員もいないので開発すらできない。ゲームなら必ず一人はいた研究員だが、現実ではいないのでアリスはどうするつもりなのだろうか。
拠点の開発はプレイヤーがやる場合は一つずつ作ることができて、自動で作るには研究員による開発と、開発したものを作る様々な職業が必要なのだ。人口が増えればプレイヤーの手は回らないので、開発は絶対に必要なのであった。
おおっとどよめきが発生して、皆が電熱コンロをカチリカチリとつけて遊んでいるのを横目に次の説明に移る。
「このスイッチを押せば明かりがつきます。各部屋にあるので使い方は押せばつくと、消すときはもう一度押せば良いと理解してくださいね」
「ほぇ〜。本当に明かりがついちゃう! しかもロウソクより全然明るい! アリスちゃんこれ凄いよ!」
チャシャが感心しきりでぴょこんとジャンプして、にゃ〜んと鳴く。ロウソクと比べないでほしいとアリスは思うが、まぁ、そんなものなのだろう。
「これ! これも凄いよ! 捻るだけで水がいくらでもでる! 井戸から水を汲む必要がなくなるよ!」
ジャージャーと勢いよく蛇口から水を流して叫ぶレーテル。先程までの敬う気持ちより、好奇心が勝った模様。
「アリス様。この透明な物はなんですかな? 窓に嵌っているものなのですが」
グリムがベタベタと窓ガラスに触り
「なんだ、この箱! 中が冷たいぞ!」
ドーベルが、冷蔵庫を開けて
「こりゃなんだい? おっと、音が鳴り始めたよ!」
と、レイダがジュークボックスを使って大騒ぎであった。誰も彼もが見たこともないので、アリスへと質問を浴びせて、それにいちいち答えたアリスは疲れ果てるのであった。
グデーッと大の字にうつ伏せになり、上品な内装の自宅のリビングルームに寝っ転がるアリスである。
「アリス様、お疲れ様でした。お茶でも飲んでください」
オズがしずしずとコーヒーを用意する。どうやったら良いのかは、先程アリス様に聞かされたので、神竜な自分は楽勝であると考えて。
バシャン
バシャバシャ
ザー
コーヒーミルを使うところから、コーヒーを入れようとするまでの音がこれである。
泥水みたいだけど、粉をたくさん入れた方が良いだろう精神でオズがじゃんじゃかコーヒーの粉を入れているのを見て、アリスはおもむろに立ち上がり、無言でドロップキックを入れた。
ぎゃあと叫んで吹き飛ぶオズに、ぱっちりお目々を向けて怒りの表情で言う。怒りの表情でも子供のように見えるし美少女なので迫力ゼロであるが。
「私が用意した食べ物を粗末にする人は、もれなくハンター流のお仕置きをする予定ですので、作り方を覚えておいてくださいね」
食べ物を粗末にするのは許さないアリスである。失敗は良いが、それなりに頑張って欲しいと思う。
「す、すいません、アリス様。たくさん入れると美味しいと思いまして……」
ペコペコと頭を下げる子供にしか見えない美少女を見てため息をつく。そうして、コーヒー豆を持ち上げて、しっかりとオズを見据えて
「良いですか? このコーヒーの作り方は……」
しばらく、アリスのコーヒーから始まりサンドイッチで終わる料理講座と相成ったのであった。
リビングルームでクピクピと可愛くカフェオレを飲みながら、ソファに座っている人々を見る。
レイダ、ドーベル、グリム、オズ、なぜかチャシャ、クローム、ブチーダである。
「美味しいー! これ凄いパンだね! 卵も美味しいし、ハムも美味しいし!」
両手にサンドイッチを掴み、もっしゃもっしゃ口に頬張り食べるチャシャたち。すっかりサンドイッチが気に入ったらしい。
他の面々もサンドイッチを食べている中で、アリスは微笑ましいですねと、口を綻ばす。
もちろん小さなお口でパンを齧りながら。自分が食べないという選択肢はないのであるからして。
「いや〜、こんな柔らかいパンがあるんだね。初めて食べたよ」
レイダが感心しながらツナサンドを食べる。よく見たらこの団長はツナしか食べていない。かなりツナを気に入った模様。
「いや、王侯貴族も食べたことはないでしょう………。これが王都で売られれば繁盛間違いないですよ」
グリムが一口ごとに何やらブツブツと呟いて食べている。
「このコーヒーとかいうのは甘くて美味いですね、姐さん!」
ミルクをたっぷり、砂糖を山ほど入れればもはやコーヒーの味はわかるまいよ、ドーベルよと鏡は苦笑いをした。
まぁ、砂糖が高級品な中で、いくらでも使ってくださいねと砂糖壺を出されれば、皆は限界まで入れるだろうことは間違いない。
皆がおもいおもいに寛いでお腹がいっぱいになり、食べ終わった頃に、佇まいを変えて、真面目な表情でアリスは皆に言う。
「拠点は最低ランクではあるけど完成しました。なのでこれからの行動を決めねばなりません。まずは大工。これは絶対に外せないです」
フンスと息を吐いて、皆を見渡し胸をはる、偉そうな子供のようなアリスの愛らしいその姿を見て、は〜い、質問がありますとチャシャ。
「はい、チャシャさん、質問どうぞ?」
チャシャは不思議そうにコテンと首を傾げて尋ねてくる。
「職人は高いよ? 多分すごい値段が引き抜きにはかかると思う」
ほぅほぅと頷くアリス。それは初耳であるからして。
「王都でも職人はだいぶ金を使わなければ引き抜きは無理でしょう。しかもこのような辺境に」
グリムがきまずそうに言ってくる。確かにそうかもしれないねとアリスは推察した。自分の拠点がちっこいのはわかっているのだ。こんなところに来るのはそれこそ一流ではない困った人々たとわかる。
「ですが、アリス様の存在を広めて、この街を教えれば人々は我先にと集まることは間違いありますまい。アリス様の存在を広めてよろしいのでしょうか?」
グリムが至極真面目な表情で、アリスを見て尋ねてくる。
ふむと、紅葉のようなちっこいおててを顎にあてて考える、小柄な可愛らしいゲーム少女。
「そうですね、銀河を股にかけるバウンティハンターの私の名前は有名ですが、この惑星では名声度が高くないんですよね」
明後日の方向に考えるアリスの答えはやはりバウンティハンター中心であった。
名声度が低いうちに、そんな宣伝をしてもコストパフォーマンスが悪いし、拠点のレベルは低すぎて、見つかったら他のハンターのカモにされるかもしれない。そんなことになったら大赤字確実の戦争突入間違いなし。
なので、あっさりと答えた。周りの人々の考えや思惑とは全く違う方向に。
愛らしく可憐なる微笑みで、柔らかな声音で返事をする。
「やめておきましょう。拠点の拡大化も必要ですが、未だに弱い拠点なので、食い物にされると私は怒るので。怒ってハンター流マックスアタックをしてしまうので」
コクコクとその返事に頷く面々。チャシャだけは残っているならこれ食べて良い?と残ったサンドイッチに手を伸ばしていたので、大物かもしれない。それか単なるアホな猫。
それ以外の面々は怒ったアリスの力が恐ろしく冷や汗をかいていた。
そんなアリスを見ながら、う〜んと腕を組んで考えるおっさんフェアリー。
「怒ったアリス………。レベルマックスアリスなら俺のことも余裕で復活できると思うんだけどなぁ……。まぁ、これも面白そうだし、とりあえずあと少しレベルが上がればなんとかなるかもだしな」
ふふんとニヒルな笑みで悪役ぶるおっさんフェアリーは手のひらサイズなので、全然悪役には見えなかったが、鏡の中では不敵な悪役っぽいと考えていた。
「ではアリス様の存在はどうしたら良いのでしょうか?」
グリムがアリスの顔を窺いながら再度尋ねてくるので
「私は神官で良いですよ。流れの神官でこの地域に宣教にきたということで」
ふむふむと頷いて、パンと膝を叩きグリムは答えた。
「かしこまりました。では、外大陸の神官が宣教に来たと言うことにしておきましょう」
最初からそういうことにしてなかったっけと、首を捻り疑問に思うが、とりあえず自分の思い通りになったしいっかと気にしないことにしたアリスであった。
「で、アリスちゃん。お金はどうするの? また砂糖とか?」
チャシャの言葉にコクリと頷き、亜空間ポーチから砂糖を取り出そうとして
「ありゃ、あんまりありませんね」
ぽてぽてと出てきたのは10キロの砂糖が2袋だけであった。むぅと唇を尖らせて考えるが、たしかに全然買い込んでいなかったのだ。
「たしかに見たことのない白き砂糖でも、これだけですと金貨40枚程度でしょうか」
それでも400万は日本円で固いんだけどねと、鏡は見るが護衛代から宿代を含めると全然足りないことは明白だ。この間は100袋程の香辛料やら砂糖を売りにいったのだから。
というか護衛が軍隊のごとく多かったので疑われて大変だったグリムたちである。
ふぅと息を吐いて、アリスは周りを見渡すと
「仕方ありませんね。少々集めて来ないといけないのでしばらくはのんびりとしていてくださいね」
地球で集めちゃおうと、気軽にアリスは考えていた。100袋を集めるのはちょこちょことスーパーをまわって集めたので大変だったのだが簡単に買えるし問題は無い。
というか、新たなドローンで買い集めようと密かにほくそ笑むゲーム少女であった。




