49話 拠点を決めるゲーム少女
ダイショーから西には広大な魔の森が存在しており、魔の森を突っ切るように北西に直線状に行けば、一週間程で王都へとたどり着く。魔の森の中では、5日程度の旅程だろうか
もちろん、危険な魔の森を通過するなど不可能なので、北に大回りをして大体14日程度の日程となるのだが。
そんな魔の森の南部には海へと広がっており、断崖絶壁でもあった。30メートルは軽くある断崖絶壁の海辺は通常ならば船をつけても、地上に上陸することもできない要衝だ。水深は深く座礁しそうな岩礁もないので、ここに港を作ればかなりの使い勝手の良い場所なのだが。
断崖絶壁は魔の森を超えて、かなりの範囲に及んでいたので、ここらへんに港を作成するのは不可能であった。
あった、だ。既に過去形となっていた。そう、過去形であり、過去形にした人物は断崖絶壁を切り崩した更地に得意げな表情で小柄な身体で精一杯胸をはっていた。
はりすぎて、うわぁといつもの如く、ひっくりかえるまでがアリスのスタンスだ。コロンコロンと転がったが、もう慣れていますのでと、服についた汚れをパンパンとはたいて立ち上がり様変わりした断崖絶壁の海辺を見渡す。
既に断崖絶壁は跡形もなく、生えていた草木は跡形もなく、白い加工された地面へとブルドーザーにより処理済みであった。
ブルドーザーだけではもちろんこのように地形を削ることまでは難しい。地形を削りきったのは他のアイテムの効果である。
「かき〜ん」
地面がゴゴゴと揺れて、アリスの身体を揺らし、目の前にドスンと全長30メートルはある巨大なモグラが現れる。つぶらな瞳と茶色い毛皮、黒い土を掘るのに適している爪をしており、鼻をひくひくと動かしている大きさを無視したら、可愛らしいモグラである。
「よしよし、土竜さん1号、更地作業お疲れ様でした。大変でしたか?」
ひくひく動かす鼻を小柄な身体をいっぱいに伸ばして、撫でるアリス。傍から見たらなんか巨大な生物の怒りをおさめる巫女ポジションだ。
もちろんそんなことはなく、これは課金開拓シリーズ、地形変更兵器土竜さん1号である。その力によりアストラル体というか、この惑星でいう魔物を撃退したあとに更地に変えたのであった。
「おぉぉ! さすがはアリス様! このような竜まで使役するとは感心しましたっ!」
アリスの後ろに待機していたオズが、感心の叫びをあげて土竜さん1号を見つめる。このモグラも戦闘力は2000なので、地味にオズより強かったり。
「ふふふ、この数日間で雑魚狩りをしまくったので、レベルも35になりました。建築学と大工技術を取りましたので、拠点制作が行なえます」
えっへんと得意げな表情をするアリス。
「おぉ〜。お家を作成するのですか?」
コテンと可愛らしく首を傾けて尋ねてくるので、むふふと未来ロボットよろしくいつもの初心者キットを使うことにする。もうそろそろ一ヶ月経過するし、拠点を作成しないと住人を出迎えることができなくなってしまう。
「これで港付きの拠点を設置できますねっと」
ニッコリと笑って、亜空間ポーチから初心者拠点制作キットを取り出す。ミニチュアサイズの箱庭が出てくるので、確認すると自分の家である基地と浄水及び発電を行えるエネルギー複合施設が確認できた。一万人までの水と電気をマテリアルを燃料に配給できるシステムである。しかも港付きバージョンだ。
「では、問題なさそうなので、ポチリと」
地面に置いて使用すると、ピカリと光り輝き周辺を照らし、数秒後に光が納まると、港が作成されており、中央には白亜の美しい豪邸が建っていた。少し離れた場所にかまぼこ型倉庫に似たエネルギー複合施設が設置されているのが見える。そうして拠点全体をコンクリートの防壁が囲む。
「うんうん、これでとりあえずの拠点は完成しました。あとは配管を行えば完璧ですね」
「凄いです! 一瞬の内にこんな建設物を作るなんて魔法、我は見たことないです!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、興奮して頬を紅潮させるオズ。まぁ、ゲーム仕様の力であるからして、凄いのは当たり前だ。使用すると更地にポコンと建設物が現れるのであるから。
「ふふふ、これは初心者救済用拠点制作キットなので、通常1000人までしかインフラをカバーできない拠点制作キットですが、初心者のハンターを救済する為に作成されたので、通常の10倍までのインフラをカバーできるんですよ」
自慢しながら語る調子に乗るアリスの言葉に
「いまいちよく意味がわかりませんが、とにかくアリス様は凄いということですね!」
ほうほうと頷いて、尻尾をフリフリしながら話を聞くオズはアリスに負けず劣らず小柄で愛らしい。
お互いの顔を見合わせて、和気あいあいと会話をするアリスへと、鏡が困ったように声をかけてくる。なんだろう?なにか変でしたでしょうか?と首を傾げるが
「あのさ、アリスの住む家しかないけどどうするつもりだ? 簡易宿舎を作るのか?」
今のところ、アリスの住む豪邸しかないのだから、尋ねるのは当たり前である。キョトンとした表情のアリスはポンと手をうって
「あぁ、そのことですか。大丈夫ですよ、木材、石材、アイアンパウダーにバイオ素材も揃っていて、建築学も大工技術もスキル取得したんです。大工屋アリスの出番ですよ。もう作りまくっちゃいます」
すちゃっと工具一式を取り出して、おっさんフェアリーへと微笑む。
「何人来るかはわかりませんが、とりあえずわんにゃん隊も含めて、兵舎と宿舎を作ります! 作っちゃいます!」
叫んで、とりゃあと亜空間ポーチから、木材を取り出して、パウダーをキラキラとまぶすようにして、トンカンと建て始める。
楽しそうにトンカントンカン作るアリスを見て、オズはまたまた感心の尊敬の念が籠もった視線を向けるのであった。
「鏡さん、アリス様は凄いですね、竜生をしてきた中でもこんなに凄い人間族は初めて見ましたよ」
鏡をちらりと見て、語るオズ。なんとオズは魂の欠片的、粗大ゴミ的かもしれない鏡を見ることができたのである。竜瞳は魂的な力も見ることができるらしく、アリスと一緒にいる鏡を見ることも話すこともできる。できないのは触ることだけらしい。
初めて見たときには、妖精は妖精界に存在を残しているとかで、フェアリーであることに疑いを持たなかった。実際はアリスに負けたタダのおっさんなのだが。
「まぁ、アリスの本来の力はこんなもんじゃないからなぁ。本来の力を見たら驚くどころじゃないぞ?」
話し相手が増えて嬉しそうな鏡がオズへと答えるので
「なるほど、理解しました。人間族でなくても、あの力はおかしいおかしいとは考えていたのですが、実は神様ですね? 見たことはありませんが」
「神様って、本当にこの惑星にはいるわけ?」
フヨフヨと浮遊しながら、おっさんフェアリーは剣と魔法の世界だからいるかもなぁと考えていた。
「いましたよ? かつては受肉してたまに下界にも降り立ったそうなんですが、2000年程前から姿を消してしまい、残滓しか残らなくなったそうです。そのために神聖魔法は力を失い、神官は激減しました」
丁寧な言葉使いで教えてくれるオズ。さすがは竜であり、なかなか博識だが、その言葉に嫌そうな表情を浮かべてしまう。
「それ嫌な情報だなぁ。神様を滅ぼしたやつがいそうで怖いよ」
「たしかに神様が姿を消してからしばらくは混乱の時代となり、かなり荒れ果てたと聞きます。まぁ、治癒魔法も神聖魔法も使えなくなったら、病気も治せないし、魔物との戦闘で傷も癒せませんからね〜。ポーションはすこ〜しずつ傷を癒やすだけですし」
鏡は知らないが、既に多元世界の高次元体を全て滅ぼしたデミウルゴスはその娘たるアリスに滅ぼされているが、それを知ることはないだろう。なので、無駄な心配をしているおっさんフェアリーである。
こっそりと呟くような小声でさらにオズはむふふと子供っぽい微笑みを浮かべて聞いてくる。
「アリス様は神様ですよね? 力を無くして復活した神様。信仰心を糧にその力を取り戻そうとしているんですよね? 我はわかっちゃいました。推理しちゃいました」
「あぁ〜………たしかにアリスは神様の職業を取ってはいたけど、あれは職業であるし……」
その言葉を耳にして、ふんふんと鼻息荒くオズは確信したと言葉を放つ。
「やっぱり! なら私も眷属になるんですよね? 貴方も神様の眷属になりたいがために、アリス様に纏わりついているんでしょう? 神竜! かつていたけど、神様がいなくなりタダの知性もつ竜へと全て堕ちてしまいましたが、我が新たな神竜に! かっこいい〜」
キャッキャッと飛び跳ねながら踊りだす愛らしい子供なオズを苦笑しながら、たしかに神竜になる日がくるかもしれないからと否定しないおっさんフェアリーであった。
そんな会話を鏡とオズがしている間にも、なにか建設の工程を抜かしたような、単に何もない空中にトンカチをトンカン叩いているだけにしか見えないアリスの建築はゲーム仕様パワーであっという間に建物が建てられていく。
「とりゃぁ〜! まずは一棟完成です! 1棟で100人まで泊まれるので、とりあえずは10棟まで建てちゃいます! ポコンポコンと建てちゃいますよ〜」
段々と建築が楽しくなってきたアリスであるが、どう見ても大工仕事ではなく、不思議な仕事である。なにしろトンテンカンテンと空中を叩き、壁を叩くだけで内装や窓ガラスまでできるのであるからして。
その不思議なパワーこそ神様の力ですねと、キラキラとした瞳でアリスを見つめるオズ。
この間までは魔法使いだと言われていたが、神様にランクアップした模様のアリスであった。
そして僅か1日で10棟の宿舎が完成する。
「これでとりあえずの建物は完成でしょうか? 上下水道も電気もバッチリですね。電気はあとから純マテリアルエネルギーに変えたいですが……。まぁ、とりあえずはこれで良いでしょう」
こうして、出迎える準備は万全となったので、自宅でのんびりとしましょうかと、出来立ての自宅へと鏡とオズを連れて入るアリスであった。




