48話 ゲーム少女は竜を部下にする
へっへっへと舌をだらんとだして、ごろんとひっくり返り腹を見せて服従のポーズを取る黒竜はその図体と違い、なんとなく愛らしい。だが、その図体が愛らしさを台無しにしていた。なにしろ20メートルはある巨大な図体だ、愛らしさなどどこかに吹き飛ぶというものである。
「なんだか、せっかくのドラゴンアストラル体だったのに残念な終わり方でしたが、これでフィニッシュです」
スチャリとロングビームライフルを構えて、オズの頭に狙いをさだめる容赦のないアリス。
それを見たオズは恥も外聞もなく、喚き始める。
「助けて〜、お願いします、助けてください! 貴方様に服従しますから!」
そんな命乞いをを聞いて、一応返答をするアリス。一応なところが黒龍の運命を物語っていた。
「わかりました。辞世の句を読むまで待ちましょう。はい、残り90秒です」
辞世の句と言いながら、考える時間をまったく与えるつもりはない非情なるハンターへと、こりゃ泣いて命乞いは無駄だと察したオズは攻める方向を変えてきた。
「我は役に立ちます! それは物凄く! あと我の宝物を全部あげますから! いえ、差し上げますのでどうか配下にしてください!」
「う〜ん、配下にすると給料必要ですよね!それと食べ物も。ノーマルニュートぐらいなら気にしませんが、大型アストラル体はお金がかかるので、冷凍睡眠させているのですよ。冷凍睡眠もタダでは無いので弱いあなたはいりませんね、宝物の在り処だけ教えてもらえませんか?」
血も涙もないと思われる可愛らしい姿からは想像もできない非情なる戦士なアリス。おっさんフェアリーは自分の行動の結果がアリスの自我を作ったと知っているので、微妙に気まずそうにしていた。
「こ、これならどうですか?」
慌ててオズは魔法の力を発動させる。
『シェイプチェンジ』
その言葉と共に黒龍は光に包まれて、消え去ったあとには、アリスと同じぐらい小柄な少女が佇んでいた。一見するとノーマルニュートにしか見えないが、頭にちっこい角とお尻に竜の尻尾が見える。真っ赤な赤毛はセミロングで外ハネをしており、ルビーのような綺麗な瞳、スッキリした鼻筋にちっこい唇と顔つきは可愛らしく、頭を撫でたい愛らしさであった。
そして裸であったので、素早く木の葉をたくさんかけると、オズは再びシェイプチェンジを唱える。唱えた結果緑のワンピースへと木の葉が変身したのでなかなか使える超術だねと感心した。
「人化キター! 凄いよアリス。どうするアリス?」
小踊りしながらテンション高めに尋ねてくるおっさんフェアリーをちらりと見て、オズへと再度声をかける。
「給料は一月100マテリアル、ご飯はノーマルニュートと同じぐらいで良いなら三食付きで週に2日のお休みとお盆休み、年末休み、有給休暇あり。もちろん怪我した時は治癒して、福利厚生はたまに気が向いたらなんかします。それでいいですか?」
かなりの鬼畜な給料であり。竜を雇用する金額ではないがオズは喜んで尻尾を文字通りびたんびたんと振った。
「意味がわからないところがありますが、助けてもらえるなら、それで良いです! 契約します! 竜の契約は、絶対です! 破ったら竜社会から総スカン食らうぐらいに絶対です!」
微妙に契約の力が疑わしい発言であるが、まぁ、良いかと頷く。
「では、これからは私が貴女の雇用主です。裏切ったらもれなく素材行きとなるので、すぐに裏切って頂いて構いませんから」
ヒィと後ずさり、涙目になるので、ちょっとこの竜は可愛らしいねと満足するアリスであった。
「では、オズちゃん、宝物の場所まで連れて行ってください。あ、白龍さん1号はこのまま開拓を進めておいてくださいね」
わかりましたと、かきーんと鳴く白龍さん1号を見てから、オズの案内する場所についていくアリス。
ドスンドスンと地面に穴を開けながら移動する最中、気になることを鏡が尋ねてくる。ちなみにオズはヒナワンの肩の上にちょこんと乗っている。
「なぁ、おかしくないか? なんで黒龍なのに赤毛?」
ほむほむとアリスも鏡の質問を聞いて同意して、その質問をオズに投げる。
オズはその質問になぜか動揺して、挙動不審になるが、はぁ〜とため息を吐いたあとに呟く。
「あのですね………。赤龍よりも黒龍のほうが強いかなって思いまして、部分的シェイプチェンジで鱗や瞳を黒くしたんです」
「えっと……だから弱かったんですか? ブレスもそのために吐けなかった?」
あまりのアホな回答にさすがに予想外の内容なので唖然とするのであった。このアホ竜は本当にトカゲではないのかしらん。
「あ! えと……鱗の強度とかは変わりませんので、負けたのは偶然じゃないです。それとですね、ブレスなんですが……」
「ブレスが?」
コテンと頭を傾げて不思議がる少女へとオズは涙目で答えてくる。
「なんか、自分の息をふ〜って吹きかけるの嫌じゃないですか? ちょっと我は恥ずかしくてできないんです。だって自分の息ですよ! それをふ〜って、そんなの羞恥心があるとできない技ですよね!」
ふ〜っと口を尖らせて息を吐く真似をする愛らしいオズが、同意を求めてくるが、たしかに自分が竜なら、そんなことを考えてしまうかもしれないとアリスはなるほどねと納得した。美少女の吐息はご馳走ですとか変態が集まってきそうな予感がして、ブルっと体を想像した恐怖で震わすのであった。
「なんだか、そんなことを聞いてしまうと、今まで以上に竜のブレスを防いでしまいますね、おっさんフェアリーみたいな歳の竜の吐息だと気絶しちゃうかもしれませんよ」
「うぉぉぃ! そこはおっさんフェアリーはいらなかった! いらない主語だったね、アリスさんや」
ディスるアリスへと、またもや抗議をするおっさんフェアリーであるが、このおっさんフェアリーはいつも抗議しているとスルーする。
そうしてアリスはオズに案内されて結構離れた洞窟へと到着して、オズはヒナワンの肩から飛び降りて、こっちへと振り向く。
「この奥が我の住処です。宝物は奥にありますよ」
てってこと足どり軽く奥に行くオズについていく。
周りを見渡しながら移動すると、暗いけど竜が住むのであるから、物凄い天井が高い。
「洞窟というレベルではない感じもしますが、宝物はなんでしょうね?」
ふふんと息を吐き、ドヤ顔で得意げな風に語る鏡。
「竜を仲間に入れて宝物を手に入れるときたら大金だよ。多分金貨がいくつも山を作っていて。魔法の武器やアイテムがたくさんあるんだ。大儲けだな、アリス!」
「そうなんですか? ドラゴンアストラル体はいつもその身体が一番金になっていたのですが、お宝を貯め込むとはこの惑星のドラゴンはハンターに優しいですね! 今後はドラゴンを見つけたら即滅ですね!」
キャイキャイと楽しそうに取らぬ狸の皮算用をする二人はしっかりとフラグをたてていた。
「こちらが我の宝物です!」
ジャーンと小柄なおててを振って、目の前を指し示すオズだが
「………鏡さん、マテリアルの山はどこにあるんですか? 珍しいアイテムは?」
珍しく鏡をさん付けしてくるアリスの圧迫感に冷や汗を流すおっさんフェアリー。
「アリスさんや、よく考えてみるとだ、金貨なんかどこから持ってくるんだよって話だよね? ちょっと現実とゲームをごっちゃにしちゃったよ、アハハ」
「はぁ〜。おっさんフェアリーは役に立たないとわかっていたのに信じた私が愚かでした。ミジンコにも劣るおっさんフェアリーを信じた私が愚かでした」
がっくりと肩を落として期待した分、悲しくなるゲーム少女である。クッとディスるアリスへと抗議をしようとするが、目の前には岩しかなかったのだ、いや、チラホラと錆びた鉄らしき塊も見える。
「なんでもお好きなのを持っていってください! 全部でも悲しいけど良いですよ!」
子供にしか見えないし、そんな子供が大事にしている宝物を持っていくのは罪悪感がありますねとさすがのアリスも考えて物々交換といきましょうと考え直して、目ぼしい物がないかを自分の目で見るためにハッチを開いて、ひらりと華麗に地面へと降り立つ。
警戒心ゼロなアリスであるが、そんなアリスを目を丸くしてオズは見つめて、小首を可愛らしく傾げる。
「あれ? 巨人族の方では? 人間族?」
巨人族だと思っていたら、身体が開いて中から人間族の小柄で脆弱そうな子供のような少女が現れたと驚く。
まぁ、そうですよねとアリスも頷いた。なんかこの娘は勘違いをしていたと思われるので、カーテシーをしながら再度正式に挨拶をする。
「オズちゃん、こんにちは。私は安心格安で確実に依頼をこなす宝物を見てがっかりしているバウンティハンターの魔風アリスです。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。私は魔の森を縄張りにする赤竜のオズと申します。えっと、なんてお呼びすれば良いのでしょうか?」
慌ててペコリと頭を下げるオズは中身が少女とわかっても、契約を違えることはしない模様。素直に頭を下げてくるので、にこやかな笑顔でアリスは答える。
「アリス様で良いですよ。様付け程度で大丈夫ですから」
普通に様付けを求める社員は最初に上下関係を教えておかないとねと考える社長なアリスだった。
「はい、アリス様。今後ともよろしくお願いしますね。我は頑張りますので!」
「よろしくお願いしますね。では金目の物を貰いますが、お礼にこれをどうぞ」
先払いしておきますと、金貨をオズに渡すと、おぉ〜と驚愕の声をあげる。
「これ、金貨ですよね? 私もあまり持っていないです。なにしろ金貨持ちは危険な魔の森なんか抜けないので。もちろん私の宝物をいくらでも持っていってくださいね」
「では、そこのキラキラと少しだけ光る宝石の原石をいくつかください」
すぐに目利きを使い、売れそうな定価のできるだけ高いやつをホイホイと選んでいき、そのたびに金貨をオズに放り投げる。
そんなやり取りを結構な時間費やしてから、亜空間ポーチに入れた原石はあとで研磨しようと決意して、オズへと告げる。
「これから魔の森の一部を開拓しますので、邪魔をしてくる魔物たちは率先して撃破すること。それがオズへの最初の命令です」
「理解しました。アリス様。我に全てお任せくださいませ」
そう答えて、オズは飛び出していき、アリスはまた開拓に戻るのであった。




