47話 ゲーム少女はドラゴンと戦う
アリスはちっこいモニター画面を覗き敵の動きを予想する。初期型の機動兵器ヒナワンを使うのは2回目であるが、運転も機械操作も持っている自分には操作は他愛ない。ただ、友人のハンターに見られたら、なんでそんな旧型の骨董品を使っているのと大爆笑されるだろうなと、ふと友人たちを懐かしく思う。
この惑星のクエストを行ってから、まったく会っていないので彼女らは今は何をしているのだろうかと考えるが、今は戦闘中だと意識を切り替えて、ぱっちりおめめをスッと細めて再度の敵の動きをトレースする。
旧型ゆえに全面モニターでもないし、補佐AIもいないので操ることは難しいが、アリスは先制攻撃を与えるべく種子島1式ビームカノンを構える。
機動兵器の戦闘力はこけ脅しである。なにせ戦闘力とは装備している武器や防具を全て加算した数値を叩きだすので、火薬庫のように装備をしている機動兵器が恐ろしい戦闘力数値を叩きだすのだから。
もちろん、機体性能は武器の数値を抜いて考えなければならないので、このヒナワンの戦闘力は本当は600というところだろうか。装備などなにもしていないドラゴンアストラルと比べれば2倍の戦闘力の差があるだろう。
「まぁ、問題はないんですけどね。ハンターの戦い方には色々ありますから」
こちらに気づきもしないで、白龍さん1号へと高速で移動している黒竜は時速200キロといったところだろうか。あと数分で接敵するだろうが、不敵に口元を曲げているような感じがするので自信満々といったところが見られる。
「白龍さん1号が倒す前に、攻撃しないといけませんね」
輝く吐息一発で撃墜されそうな黒竜を心配するアリス。もちろん心配は自分が倒さないと経験値も素材もボーナス補正の入ったマテリアルも手に入らないと考えているからに他ならない。
「まずはこの攻撃はいかがでしょうか」
術技対応機体ではもちろんない旧型であるので、機体性能だけで戦うしかないのだ。まぁ、パイロットのスキルだけは使用可能であるが、それは様子を見て使おうと考えて、アリスは引き金を軽くひく。
キュオォォンと両肩のビームカノンがエネルギーの粒子を収束し始める。溜めの時間があるのがカノンの弱点であるが先制攻撃なのだから、問題はない。
「やぁってやるぜぇぇ!」
ハイテンションになった鏡が、びしりと指をモニターに映る黒竜へと突き付けて楽しそうに叫ぶ。なにかのアニメの主人公になった気分で叫んでいる元中年のおっさんであるが、今は幻想のフェアリーだから問題は無いと考える様子。幻想というか悪夢のフェアリーという感じがするのだが。
発射時に空気を震わせて、機体をその反動で僅かに押し下げて、収束されたビームは太いエネルギーの束となり黒竜の移動予測地点へと空間を貫き通すように飛んでいく。
黒竜は久しぶりに怒っていた。魔の森の支配者になり数百年経過するが、まさか縄張りの森を破壊する魔物が現れるとは考えていなかったのだ。少し前にそれを知った黒竜は激怒して巣からすぐに出立した。
その魔物は白い美しい竜鱗をもつ蛇みたいな体を持つ竜だとすぐにわかった。海などにはあのようなドラゴンが生息しているのを知っているからだ。そして竜の眷属と思わしきものが破壊した森の後になにやら嫌な感じのする白い道を作成しているのを確認して、この竜は敵であると認識した。
黒竜の力を知らない若き竜であろうが、身の程を教えてやろうと急いで飛翔して白竜へと接近している最中であった。
少し離れた森林の中から、魔法と思われる光の束が黒竜に襲い掛かってきて、大爆発と共に命中したのであった。
ドーンとでかい音をたてて、爆炎に包まれる黒竜を見て、アリスはむふふと可愛らしい笑顔になり不意打ちによる大ダメージを与えたことを確信した。
「命中しましたね。アストラルフィールドも張らないとは、やはりオオトカゲの親戚なのかもしれないです」
レバーを引き倒して、その重厚な機体を出発させる。ドシンドシンとその重量にふさわしい足跡を地面に刻み込みながら、黒竜へと近寄りながら、ロングビームライフルを油断なく構える。あの程度では倒せてはいないだろう、たぶん、ドラゴンなので。
「あれで倒せたら、トカゲさん決定だったのですが、どうやら耐えた様子なので安心しました」
爆炎が収まった後にはボロボロになった黒竜の姿が見えた。初期型とはいえ、賞金首を狩れるほどの戦闘力を持つビームカノンの直撃を不意打ちで受けたのであるから、美しかった黒い鱗もボロボロになっており、肉が焼け焦げており、翼もボロボロとなり被膜が破けている。
それでもホバリングをしているので、ドラゴンアストラル特有の浮遊系スキルで浮かんでいるのだろうと予測するアリス。墜落してくれたら楽だったのですが、少し落胆する。
そんなアリスというかヒナワンを黒竜は見咎めて、怒りの咆哮をして叫ぶ。
「その姿は巨人族か! 我を魔の森が支配者、黒竜オズとしっての所業か!」
あらら、喋ることができるんですねと僅かに驚きながらアリスもスピーカー越しに答えてあげる。
「こんにちは。私は安心格安、依頼を確実にこなし竜も倒せちゃうバウンティハンターの魔風アリスと言います。貴方が死ぬまでの短い時間ですが、どうぞお付き合いくださいね」
くわっと赤い目を見開き、オズは再度叫び白龍さん1号の前にこちらを倒そうと考えたのであろう。身構えて叫ぶ。
『ハードスキン』
『マジックボティ』
『カウンターマジック』
どのような攻撃をしてくるかと、レバーを握りしめて様子を見ていたアリスは最初にオズがとった行動にあっけにとられて、小さなお口をぽかんと開けてしまう。
「なんと、最初に強化術を使うボスアストラル体は初めて見ましたよ、鏡。戦闘中に使う敵はいましたけど………。ヘタレすぎるというか用心深いというか………。なるほどこの惑星のアストラル体は生活をしているという意味が分かってきました。それは自分の命を大事にするという事にも直結しているのですね」
うんうんと頷いてオズを見ると、まだ強化術を使用しているので、どんだけ使うのでしょうかと少し笑ってしまう。
『シャープネス』
『エンチャントマジック』
『プロテクション』
『ハイストレングス』
「えいっ」
引き金をひいて、いい加減待ちくたびれましたとロングビームライフルを撃ちだすと、先程のカノンとは違う細いビーム光がオズへと高速で向かい、それを見たオズは慌てて逃げようとするが
「ふげっ」
チュオンと翼を撃ち抜かれて、間抜けな声をあげて、今度こそ浮遊も限界にきたのであろう。ヘロヘロと弱々しく墜落していく。
「ば、馬鹿な! いかなる魔法も防ぐように最初に防御魔法を使ったのにあっさりと貫くとは!」
墜落しながら、なんだか意味が分からないことをいうオズの言葉を聞いて、ん?とアリスは首を傾げて鏡に尋ねる。
「なんか防御フィールドって張られました? 私には少し薄く輝いただけにしか見えなかったのですが」
その問いに、う~んと腕を組み鏡は考えながら戸惑ったように答える。
「マテリアルを使用した術技と違い、この世界の魔法というのは本当に原始的なんだろう。その原始的な魔法を防ぐ魔法をあの黒龍は使ったんだ。単純に物理攻撃を防ぐ盾じゃないとビーム攻撃は軽減できないからな。たぶんプロテクションとかは効果を表していたよ。ビームの威力の方が圧倒的過ぎてわからなかったんだろうな………」
哀れみを黒竜に覚えて、おっさんフェアリーは圧倒的なAHOの力に驚愕した。戦闘力はあちらが高いのにそれを帳消しするほどだとは思わなかったのだ。思えばアイアンボアとかもその戦闘力に比べると脆すぎたので、まったく戦闘力は当てにならないと痛感するのであった。
墜落した黒竜は頭を持ち上げて、まだまだ戦闘を続行する戦意は尽きていないとわかり、アリスはペダルを踏み込み、バーニアを使用する。
大型のバーニアは重すぎて遅すぎるヒナワンをカバーするためのものである。その大出力により、ほぼ直線でしか移動できないという弱点はあるが、高速で移動できるので鈍重をカバーしていた。
大型のバーニアから、光の粒子が噴出されてあっという間に急加速をして地面の土を舞い上げて、途中にある木を打ち砕きながら突き進みはじめる。
それを見た黒竜も負けてはおらじと、再び咆哮して魔法を発動させる。
『チェインライトニング』
鎖状の雷がヒナワンへと向かい、間にある木々を打ち砕き、地面を穿ちながら命中する。騎士団すらもただの一度のこの魔法で周辺へと連鎖して焼き尽くし全滅する必殺の魔法であった。さすがに雷系はなかなか回避できないので、喰らってしまったアリスはダメージを確認する。
「ダメージ1」
モニターにはダメージの数値が表示されていて、ふむふむとその結果に満足して、さらにレバーを押し倒して急加速を続けるアリス。どうやら今の攻撃はヒナワンの装甲を貫くことはできなかった模様。さすがの重装甲であると嬉しく思う。
必殺である魔法を受けてもびくともせずに近づいてくる巨人族にオズは慌てて、再度魔法を唱える。
『ライトニングスフィア』
黒竜の周りを10数個の雷球が生み出されて守るように雷の結界を張り始める。バチバチと空気を焦がす音と木が焦げる匂いと煙を発して、オズは守りの術が間に合い安心する。
この雷の結界は近づいてくる者を雷で焼き殺して、遠くから撃たれる魔法や弓も雷で迎撃する優れものだ。この魔法を打ち破った敵は今までにいないので絶対の安心を持ち反撃の狼煙をあげようと巨人族を睨む。
アリスはよくある防御フィールドが張られたのを確認したが、すでに投擲範囲に入ったので気にもせず腰にあるビームチャクラムを掴む。
「ビームチャクラム!」
鈴の鳴るような愛らしい声音で叫んでヒナワンの両手にあるビームチャクラムを腕を振りかぶり投擲した。ちなみに武器名を叫んで攻撃するのは、なんとなく機動兵器に乗りながら叫ぶのはかっこいいとハンター内で言われていいるからだ。
ビームチャクラムは敵の途上で実体が無くなりビームのみへと変換されて、その高熱の刃をオズへと高速にて飛来させる。
ライトニングスフィアはビームチャクラムに反応してバチバチと雷を与えるが、ビームというエネルギーの塊となっているチャクラムはその攻撃により、少しだけビームを拡散させただけでオズへと到達して、その回転するビームの刃で切り裂くのであった。
スパスパとまるで竜鱗が役に立たずに、発泡スチロールのように切り裂かれていくオズはその痛みで大声で悲鳴をあげる。
「ぐぎゃあぁぁ! ま、まて! 降参! 降参する! 降参しま〜す!」
ぺたりと頭を地面につけて、オズは叫びまくり、ごろんと腹を見せてひっくり返り服従だろう姿を見せるのであった。
「え? こいつ、もう終わり? ヘタレ過ぎないか?」
犬の服従かよと、黒竜の姿をみてドン引きな鏡
ここまであっさりと戦闘が終わるとは考えていなかったアリスも、引き金に指をそえながらどうしようかと迷うのであった。




