42話 ゲーム少女は素材を集める
モニターには高速で移動しているために、目まぐるしく夜の灯りがポツポツとついている美しい風景が移り変わっていく。表示は正常に巡航中と記載されており、順調であった。
「ウヒョー! 凄い! なにこれ、本当にロボットに乗っているみたい!」
目の前のモニター横にカナタの顔が映る。パイロット用ヘルメットとパイロットスーツを着込んだ無駄に形から入っている少女なので苦笑してしまう。
「パイロットスーツなんか着込んでも意味ないではないですか。リモートにて操作中なんですよ?」
そんな当たり前のことをはしゃいで騒いでいるカナタへと告げるアリスたちは現在インスタントカマキリを鏡の家の地下に初心者秘密基地セットを使用して密かに作り上げた部屋にいた。
部屋にはゲームセンターの体感ゲーム機のような筐体が設置されており、そこにアリスとカナタは乗り込んで、インスタントカマキリを操作しているのであった。
しかしゲームセンターの安っぽい作りとは違い、コックピットの質感や本物らしさにすっかりカナタは魅了されていた模様。
レバーは半透明なクリスタルでできており、モニターは綺麗なガラスではなく、きめ細かな水晶の輝きをみせている。そしてある程度はレバーからの思考操作にあわせて行動してくれるのだ。カナタが興奮するのも無理はない。
インスタントカマキリはインスタントモスキートと同じくインフレ後に初心者救済のために実装された資源回収マシンだ。AHOは戦艦などを作成する際の必要資源も大量に必要なので、資源回収マシンは重宝された。インスタントカマキリはガラスパウダーのみで作成できて誰でも別売りのインスタントマシン操作用コックピットを購入して拠点におけば操作できるのが売りで、インスタントモスキートと同じく隠蔽能力が高い。
ただしAIはアホなので、近場の資源を集めるのにしか役に立たなかった、本当に初心者向けである。インスタントモスキートのように悪名高い性能はなく、所持金や資材の少ない初心者でも作れるのが売りなのであった。
そして、コックピットを見せたカナタはパイロットスーツが着たいと駄々をこねて騒いだので、仕方なくレベル10のパイロットスーツをプレゼントしたアリス。
「まぁ、これで回収班として、カナタさんを雇えたと考えれば安いものですか。給料は1回10マテリアルの最低限で良いですよね」
アリスの中では、カナタは初期回収班という括りに入れていた。しょぼい能力だけど他にいないし仕方ないよねというゲームでありがちな初期キャラ扱いだ。たぶんレア度でいったらコモンであり、有能なキャラが入ったらすぐに首にされることは間違いない。
そんなカナタは大はしゃぎ中なので、一応忠告しておくアリス。
「カナタさん、今日の回収は金属が最低限1000キロは欲しいですので、頑張りましょうね。操作方法は理解しましたか?」
「了解っ! カマキリシックルで粗大ごみを小分けにしてから、噛みつき攻撃でパクパク食べて回収でしょ? 解体用ビームは使っても良いかな?」
わくわく顔で期待しているカナタへと頷いて
「弱レーザーですが、大幅に稼働時間を減少させるものなので、乱用は控えてくださいね」
「だいじょぶ、だいじょぶ! だいじょうぶ〜! これでもゲームは得意なんだから任せてよね」
ドンとそこそこある胸を叩いて、カナタは了承するが、いまいち不安だなぁと考えるアリスであった。
しばらく移動していると、マップが目標地点に到着と表示されるので、サポートキャラのおっさんフェアリーがアリスへと忠告をしてくる。
「おい、そろそろ到着だぞ、アリス。あと、今俺のことをナチュラルにサポートキャラ呼びしなかった?」
なにか変なことを気にするおっさんフェアリーだが、いつも変なことを気にしているので放置して、カナタへと伝える。
「到着したようですので、回収を開始しましょう。私は資源が手に入って嬉しい。ゴミ掃除をしなくても良いここの主も片付けをしなくても良いとウィンウィンですね。さすが私です」
「なにが、さすが私だ。テレビを見ていたら、たまたま粗大ごみの不法投棄に困る人たちのニュースを見ただけだろうが」
「それこそタイミングよく見れる私の力なんですよ。おっさんフェアリーはこれだから重箱の隅をつつくような存在だと思われちゃうんですよ」
むふふと可愛らしく微笑み、さり気なくおっさんフェアリーをディスるアリスへと、空中でぴょんこぴょんこ飛び回って怒る鏡。
「酷い! ちょっとおっさんの差別が酷いよ? 美少女だから許しちゃうけど!」
おっさんと美少女の格差を自ら決める鏡であった。まぁ、美少女にはおっさんは敵うわけはないので仕方ないだろう。
着陸させるために、どんどん下降していくと森林が見えて、その中に結構な数の粗大ごみが眼下に見えてくる。
モニター越しにカナタが疑問そうな表情で尋ねてくる。
「ねぇ? なんで粗大ごみ回収センターで資源回収しないの? あ、鉄とか金属系しか回収できないとか?」
「いえ、リサイクルシステムならば、そこそこの資材まで回収できます。バイオ関係でもどんとこいですが、粗大ごみ回収センターってなんですか?」
なんだかわかりやすい名前ですねとワクワクしながら聞き返すと
「え〜? 地球の日本の情報集めたんじゃないの?」
「集めましたが、読んでいません。大量にある情報は困った時に見れば良いんです」
そのスタイルに変更はないと威張るアリスへと、疑問を返すカナタ。
「ここはどうやって調べたの? ニュースのみ?」
「いえ、不法投棄を目標名称に設定したインスタントモスキートが昨日持ってきた情報ですよ。かなりの資材が捨てられているようなので、私が有効活用します」
「ほむほむ、それじゃ回収作業が終わったら教えてあげるよ」
むふふ〜と口元をニマニマさせているカナタへと
「ありがとうございます。では作戦を開始しましょう」
合図をしてまずは廃棄冷蔵庫ですねとレバーをひくのであった。
シュインシュインとカマキリのビームシックルを光らせて冷蔵庫を細かく切断していく。抵抗はほとんどなくてバターを熱したナイフで斬っているようだ。そうしてちょっと大きいノートパソコンぐらいの大きさになったら、噛みつき回収システムで齧ると光の粒子へと変換されてカマキリに吸い込まれていき、モニターに金属+1と銀河標準語で表記される。
もちろんカナタは文字が読めないが、それがまた宇宙人の乗り物に乗っている感じがしてテンションが上がっているのだろう。
「キャッホー! 斬っちゃうよ〜。私のシックルがサクサク斬っちゃうよ〜!」
キャホキャホと叫びまくり斬っているのを微笑ましそうに眺めるアリス。昔を思い出して感慨深い。
「ハンターになりたての頃の私もあんなふうに、この単純作業を………楽しんでませんでしたね。安い素材は買えば良いやと思って買い漁っていました」
アリスには作業において楽しかった思い出より面倒だった思い出しかないのであった。
「まぁ、良いですよね。今回みたいなことは稀ですし、いえ、もしかしたらこの惑星ではこういった作業が増えるんでしょうか……。それは面倒なのでカナタさんは手放せませんね」
カナタは有能な回収班になりそうですねと、もはや完全雇用確定なブラックアリスである。給料が安いと言われたら上げれば良いやと考えていた。今まで雇ってきた人も自己申告があったら上げるスタイルだったので。その理論でいくとカナタの給料は永遠に上がらないかもしれない。
たぁっ!とやぁっ!とカナタが叫びながら、無駄にアクション多めで資源を回収しているのを横目に、淡々と効率的に集めていくアリス。
「ここは当たりですね。車も何台も不法投棄されていますよ。今日は大豊作ですね」
ふんふんふ〜んと鼻歌を歌いながら、ご機嫌なアリスは車をサクサク斬ってカマキリで齧っていく。チーズを齧るが如く、どんどん集めていき金属600と表示され、カナタの方も430と表示されていたのでノルマは終わりだけど、ある分は全部持っていこうと、ちょっと離れたところにある廃車にカマキリを移動させていたときだった。
次の廃車がカナタのいる場所よりも結構離れていたのだが、
「ねぇねぇ〜、アリスちゃん? なにかに引っかかっちゃった。網みたいなやつでシックルだと斬れなさそうだからレーザー使っても良い?」
「良いですよ。もうノルマも終わりましたし、稼働時間を気にすることもありませんしね」
カナタののほほんとした問いかけに、たぶんレーザーを使いたいだけだろうなとクスリと小さく笑いながら移動を再開させようとしたときだった。
ビィィィンと、カマキリの翅を震わせて触角からビームが放たれて、絡まった網みたいなのを切り裂く最中。
ドンドンと変な音がして、カナタカマキリの身体が揺れる。
「わわっ! なになに? モニターがブルーからオレンジ色に変わったよ?」
慌てたようにカナタが言ってくるのでカナタカマキリの耐久力を見ると7割減っていた。
それを目にした瞬間に目を細めてカナタへと叫ぶアリス。
「攻撃を受けています! すぐにその場から離れてください!」
「え? 攻撃? なにそれ? あぁぁ!」
カナタの不思議がる表情が驚愕に変わってしまう。
「真っ赤になったあとにモニターが真っ暗になっちゃった!」
「機体が破壊されたんです! 何者かの攻撃により!」
アリスはカナタへと叫んで教えたあとに、動揺を見せずにテキパキとモニターを叩き、行動を開始する。グイッとレバーをひいて、その場から翅を震わせて緊急離脱すると、今までいた場所になにかが高速で通り過ぎた。
「敵! 今のはなんだ? なんでどうして?」
叫びながら混乱する役に立たないおっさんフェアリーへと
「わかっています! どうやら囲まれたみたいです。私たちはなにか正体不明の盗賊とか盗賊とか盗賊に見つかったんでしょう、鏡」
「俺たち、盗賊に狙われた? いや、日本に盗賊が普通に歩いているか? 盗品業者? そして、これは非武装機体だぞ、どうするアリス!」
ふふっと可憐に微笑み、アリスは口を開く。
「もちろん非武装機体だというのは知っていますが、盗賊に狙われたんです。簡単には負けませんよ、ハンター流のお返しをしてあげましょう」
モニターには銃を持った盗賊が何人も見えたので、運悪く見つかったのだろうとアリスは考えて戦闘準備を始めるのだった。




