37話 ゲーム少女は領主館に行く
誘拐犯にあっさりと連れ去られる勢いで馬車に乗るアリス。かっぽかっぽと馬が馬車をひいていきゆっくりと街中を移動していく。
その様子を物珍しそうに眺めるアリス。かっぽかっぽと馬が馬車をひいていくので、ちょっとあのお馬さんは可愛らしいですねと、ひひーんと鈴のなるような声音でお馬さんの興味をひこうとするが、こちらへと振り向くことは無かった。
アリスの無邪気な様子を見て、はっはっはっと笑いながらフォックスニュートが口を開く。
「馬車が珍しいですかな? まぁ、滅多に乗らないでしょうが」
平民には無理でしょう。金持ちの商人ぐらいでないとねと遠回しに自分の優越さをアピールするが
「そうですね。こんなに遅い乗り物には初めて乗りました。これは乗り物として意味があるんでしょうか? ちょっと意味がわからない乗り物ですね」
アリスはフォックスニュートの言い回しに気づかずに、平然と感想を返す。だって、乗り物といったらギュルルンと速さを出すものではないだろうか? 遅いのもあるが馬にひかせる意味がわかりませんと不思議な表情を見せる。
商人はその返答に鼻白み、アリスをじろじろと観察して、相手の素性を予想しようとするが、ここらへんでは見たことが無い服装。恐らくは傭兵用だとは思うごつい作りだが、布も見たことが無い感じだ。そして、馬車に乗ってもまったく動じない様子で無邪気に馬の気をひこうとしている子供っぽさ。
訳が分からない。それにつけて治癒魔法や神聖魔法を使いこなすというのだ。人間族にあるまじき高性能である。いや、貴族の人間族なら話は分かる。子供の頃より血のにじむような訓練をしているからだ。なので人間族の貴族には要注意するのが一般的であるが。
この子供も貴族なのだろうか? ならばどこから来たのか? ダイショーの街という栄えているといえ辺境に近い場所に来た理由が知りたいと思う商人である。だが、まずは人脈を作っておくべきだと考えたのだ。この少女はきっと大成する。人間族でこれほどの使い手ならば確実に成りあがるだろう。その時の為に恩を売っておくのは悪い話ではない。
そのために、少女に近づき領主へとの面会を仲介したのである。領主も貴重な神官だ。厚遇を約束して囲い込もうとするか、少なくとも友好関係を結ぼうと考えているだろうから、領主とのパイプも作れて一石二鳥である。
だからこそ、この少女へと気の良い商人であると信用させる必要があると考えて、口を開く。
「アリスさん。自己紹介がまだでしたね、私の名前はグリム。ダイショーの街にてしがない商人をしております。主に食料関係と雑貨を取り扱っておりますので、なにか必要な物があればお声をかけていただければと思います」
「なるほど、わかりました。貴方は初期にサポートをする商人さんですね。開拓クエストとかもありそうですし宜しくお願いします」
うんうんと私は全てわかりましたと頷く全然わかっていないアリスである。なんでもサポートキャラにするゲーム少女なので、そろそろ考え方の矯正が必要かもしれない。
「アリス、気をつけろよ? フォックスニュートはずるがしこい奴が多い。ぼったくられないようにしろよ?」
鏡が気にして忠告をしてくるが、ふっと微笑んで答えてあげる。
「交渉スキルの出番ですね。腕が鳴るというものです」
交渉スキルにより、ぼったくりを行おうとするアリス。相手も交渉スキルを持っていると予測しているが、現実世界でそんなテキスト通りの力をもつスキルなんかないのであるから、このグリムなる商人は余程気をつけないとアリスに酷い目にあってしまうだろう。
「アリスさんは神官魔法に詳しいとか。どこで勉強をなされたのでしょうか?」
アリスの出自を探るために会話をしかける止めとけばよいグリム。
素直にアリスはその問いに答える。
「宇宙樹を信仰する神殿ですね。あそこは術ごとに面倒なクエストや多額の寄付を必要としていて大変でした」
宇宙樹とは聞いたことの無い宗教だなと、内心で首を捻りながらも表情にはおくびにも出さずに、わかりますといった感じで頷くグリム。
「どこも神殿というのは一緒ですな。魔法を教えるから多額の寄付をというのは、よく聞く話ですよ」
多額の寄付をできる環境にいたのかと推測する。しかし以前に門前でであった時は裸足でもあり、みすぼらしい恰好であった。だが、今は見たことが無い上等そうな服装をしている。きっとあとから支援する者が合流したのだろう。これはお家騒動かなにかで避難してきた貴族の子女であろうと考えるグリム。儂の推理もなかなかだと内心で自画自賛するが、まったく当たっていない。まぁ、ゲームの中からやってきたと推理できたら、それはそれで頭がおかしいが。
まったく素性を確かめている会話に気づかないアリスは素直に、お馬さんの気をひこうとひひ~んと可愛く声をだしており、グリムはこれ以上確かめるのは、もっと信用が上がってからだと思うのであった。
鏡が難しい表情でグリムを見ているが、それには当たり前だがまったく気づかなかった。
ぱっかぱっかと蹄の音をたてて、石畳を馬車が行くと石造りの要塞のような城が見えてくる。最初に見たときは前に建っていた三階建て屋敷しか少し丘陵となっていることもあり、ほとんど視線に映らなかったが、その後方に城が存在していたのだ。目の前まで近寄るとその重厚な作りに圧倒される感じだ。
「アンティークですね。機械反応がなさそうですので本当に石のみで作っているのですね。凄いです、世界遺産並みですね」
圧倒されるといっても、石作りという点で圧倒された模様。気分は観光者であるアリス。
「ここら一帯の辺境を魔物から守る重要拠点でもありますからな。はっはっはっ」
グリムが得意げに、アリスが観光者目線で城を見ていることに勘違いして、その凄さに圧倒されるのだと思って言う。
「へぇ~。たしかに生でみると凄いな。テレビで見るヨーロッパ王国の城とは違うなぁ」
旧ドイツと第二次世界大戦前には言われていた国にある城をテレビで見たことがあるが、やはり本物は違うと感嘆するおっさんフェアリー。
門番が馬車を止めてくるが、御者がなにかを伝えると頷いてあっさりと通してくれる。
門は開きっぱなしであるので、普通にぱっかぱっかと入っていく馬車。
中に入ると質実剛健といった感じの石造りの城が奥に見えて、住居にしているのだろう三階建ての屋敷の二つが見えてくる。
「普段の執務は屋敷でとっておりますので、今回も屋敷へと向かいます、アリスさん」
丁寧な物腰柔らかな感じで伝えてくるので、こくりと素っ気なく頷き、この領主面会クエストはなにが報酬かとワクワクしているアリス。
屋敷の前に到着して、アリスたちが降りるとエルフの男性が立っていて、こちらを待っていたようであった。金髪で若そうに見える。目つきがなんとなくこちらを見下しているような感じだとアリスは感じる。良いですね、良いですね。その目つきをしてくるニュートは確実に厄介なことを起こすので楽しみですとほくそ笑む。
自分が上だと考えているエルフニュートだねと思いながら近寄ると
「ようこそいらっしゃいました。私は家宰のキリブと申します。グリム様御一行ですね。お話は聞いております。こちらへどうぞ」
ゆったりとした態度でグリムへと丁寧にお辞儀するキリブ。その態度に不審を覚えたのだろう、グリムがやけにゆっくりとした口調で訂正する。
「今回は神官様であらせられるアリス様が領主様であるトト様にお伺いしたのです。私は単なる付き添いですので」
訂正をしろという口調を聞いて、キリブは鼻で笑うようにアリス様を見た。
「あぁ、治癒魔法が使えるとか言っている人間族ですね。まぁ、手品とは色々なものがあるので平民が騙されることも多いのですよ」
むむぅとアリスのはその言葉にひっかかりを覚えて、笑顔で尋ねる。怒りの表情でないのがアリスらしい。たぶん厄介ごととなるのを楽しく思っているので笑顔となっているのであるからして。
「私の治癒術が手品とは、なかなか面白いですね。耳長さん。いえ、アホそうなので、その耳はつけ耳ですか? ちょっとうざいので取った方が良いですよ?」
ごく自然に煽る言葉を口にするアリスである。ふふふと小さく可憐な微笑みを浮かべているのが、タチが悪い。
案の定、相手は激昂してアリスへと怒鳴るように言ってきた。
「どうせポーションを上手く使って治癒魔法に見せているだけだろうが! よくいる手品師が! 私はそんなのには慣れているんだ!」
「私はアホそうな貴方をみて、すぐにつけ耳だとわかりました。凄いでしょう」
得意げにキリブを見て、胸を反らしながら答えるアリスである。その言い合いにグリムは想定外のことにオロオロとし始める。
顔を真っ赤にして、額に青筋をたてて怒りの頂点に達したキリブが手を振り上げて魔力を込めて叫ぶ。
「火の精霊よ。我が名キリブとの盟約に従い現れよ! 『サラマンダー召喚』」
その力の発動に気づいて、アリスはサッと後ろにグリムの首元を掴みながら下がる。
あわわとグリムが引っ張られて後ろに転がるのをみて
「どうやら戦闘となった模様です。このつけ耳さんに力を見せておきましょう」
自信満々でグリムへと言い放ち、キリブが振り下ろした地点を見つめる。
そこには空間がゆらゆらと歪み、炎のトカゲが現れる。1メートルほどの炎でできたトカゲである。
優越感に満ちた表情でキリブがアリスへとドヤ顔で叫ぶ。
「我が炎のサラマンダーにより焼け死ぬか? 土下座して謝るなら今のうちだぞ?」
プッとちっこいおててを口元にあてて笑うアリス。
「そんな小さなトカゲさんを出して、良い気になるなんて、ますます貴方がつけ耳だと確信しました。しょぼい手品お疲れ様です」
「ぐぬぬ! ここまで私を愚弄してきた人間族は初めてだ! 脆弱な人間族よ、魔法の力をみよ!」
指示をだしたのだろう、サラマンダーがゆらりと炎の下をちろりとだして、こちらへと攻撃態勢をとる。
「やれやれです。そんな小さなトカゲで満足している貴方ではバウンティハンターには敵わない。それを教えてあげましょう」
軽く肩をすくめて、半身に身構えてホルスターへ手をかけるゲーム少女であった。




