36話 ゲーム少女は辺境の人気者
カンカンと勢子の鳴らす音が平原に響き渡っていく。旅人が見れば、狩りをしている農民かなにかかなと首を傾げる集団。俺たちは傭兵団だと言い張る犬猫軍団がいるのである。わんにゃんわんにゃんと叫びながら金属音をたてて獲物をおびき出しているのであった。
傭兵団は鍋をお玉で叩いて敵を呼び寄せるのでしょうかとシュールな光景にアリスは可愛らしく小首を傾げた。もはや200人近い集団で狩りをしているのであるが、勢子は武器すら短剣しかもっていない。
「鏡、最近のああいうのがトレンドなんでしょうか? もはや傭兵団とは言えないと思います。なんで鍋とかを持ち出しているんでしょうか? この前までは銅鑼とかでしたよね?」
その不思議そうな声音での問いかけに鏡は呆れた表情でアリスへと視線を向けて答えてきた。
「それはあれだろ? アリスが音が鳴る物なら鍋とかでも良いんじゃないですかと言ったから、おぉ! それは盲点だったねとか言って傭兵団が使い始めたからだろ?」
「う~ん………。たしかにそうですが、こうやってみると物凄いシュールな光景ですね。もはや傭兵団の傭の字も見えないですよ、この人たち」
ビックボアがきたぞ~という声が聞こえて、森林から数匹が音に興奮して飛び出てくるが、アリスは素早くエネルギーガンをホルスターから抜いて光球を撃ちだす。
チュインチュインと相変わらず安っぽい玩具のような音がして、光球はあっさりとビックボアたちの頭を焦がしていくのであった。
「おぉ~、さすが魔法使い様だ」
「今日もボアのステーキだな」
「煮込みもいいんじゃないか?」
傭兵団は獲物に群がり解体を始めていく。もうそれは嬉しそうな笑顔で野生の欠片も残っていない。どうやらアリスは犬猫軍団の餌付けに成功した模様。
はぁ、と嘆息して辺境の中の辺境は凄いなぁと思いながら、アリスは経験値テーブルを確認する。
「鏡、これでレベル21になりました。数を稼いでるのでなんとかという感じですが」
ステータスは50になったので10ずつ分ける。スキルポイントは保留にしておく。今のところこの惑星では必要なスキルがいつもの惑星とは違うので念のために。
「あんな雑魚を10数匹倒しただけでレベルが上がるとは凄いよなぁ、インフレが酷かったゲームで良かったよ」
「むふふ。私はロイヤルニュートですよ? ノーマルニュートとは性能が違うのです。いえ、あらゆる種族の中で最強の種族が私なのですから」
ちっこいおててを口にあてて、得意げに笑うアリス。自慢するのは大好きなので。
「まぁ、今のところ手ごわい敵が出てこないからなぁ。無双しすぎというか、ちゃんとした魔物と戦いたいというか………」
アリスの得意げな表情を見て、腕組みをして苦笑する鏡。今のところ狩人じゃないかなと思うほど獣としか戦っていない感じがするからして。異世界スローライフが始まりそうな勢いである。
そんな二人へとチャシャが笑顔で手を振りながら近づいてきた。
「アリスちゃ~ん。今日の狩りは終わりだって~。帰る準備をしようよ~」
「了解です。そろそろ飽きてきたのでちょうどいいですね」
頷いて帰宅の準備をするアリス。周りでは山と解体したボアが見えている。今日も焼肉は確定であろう。
「しかし、ボアっていくら狩ってもいなくならないのな? なんでだろう。こいつら分裂して増殖でもしているわけ?」
物凄い疑問である。普通に狩りをすればここらへんの猪は狩り尽くしているのではないだろうか?
「鏡、どこかでこの猪たちはリポップしているのです。やっぱりリポップする場所があるんですよ。今度稼ぎの良い場所を探さないといけませんね」
「ぐぬぬ………。否定できないところが困るな………。まじでリポップしているのかなぁ」
現実世界だから、そんなことはないと頭から否定していたが、魔法がある世界なのだ。もしかして本当にリポップしているのかもと疑問に思ってしまう常識が崩れ始めているおっさんフェアリー。
「ここは機械がない世界ですからね。ちょっと私の機械部隊を利用できないのが面倒ですね」
色々と倉庫には機械部隊が仕舞ってある。その中でも低レベルで使用できる物が色々あるのにと、頬を膨らませて、ちょっぴりご不満アリス。たぶん王都とかでは機械があるんだろうとも考えている。
あと、鏡には内緒だが地球とかいう惑星は機械がたくさんあるので、使用していこうと考えてもいるアリス。あそこには珍しい機械とかがありそうです、きっと珍しい素材もありそうだと考えているので。
そうして、テコテコとチャシャたちと雑談をしながら、ダイショーの街へと帰還する。帰還すると、門前には人だかりができており、大勢が傭兵団の帰還を待っているのだ。いや、実際は一人を待っていた。
アリスが帰還した姿を見せると、多くの人がざわめき近寄ってきた。それを見て隣を歩いていたチャシャが感嘆の声を上げる。
「また人が増えたね~。最近どんどん増えていくね」
「そうですね。細々としたランダムクエストですが、こんなに大量に発生した事は今までありませんでしたよ」
アリスは平然とした表情で、いつものことですがちょっと今までとは違いますねと小首を傾げる。
そんなアリスへと人々は集まりながら、口々にお願いをしてくる。
「おぉ~、アリス様。うちの子供が怪我をしまして」
「腰が悪くて仕方ないのです」
「腕が折れてしまったのです」
「お嫁にきてください」
最後の発言者には丁寧にお断りをして、他の人へヒールをかけようとするが、パンパンと手をうちながらレイダとドーベルがアリスを守るように
「はいはい。アリスの魔法はそんなには回数が無いんだから、重傷者だけ酒場に来な」
「おらおら、姐さんから離れな。希少な神官様なんだぞ」
傭兵団長らしい強面を威圧を出しながら、手を振って人だかりを散らしていく。
「しょうがないなぁ~。アリスちゃん、人気者だね?」
チャシャが感想を述べるとおり、気軽に治癒をして報酬は野菜とか少ない金額やらだったので、あっという間に人々へと噂が広がり、このように人々はアリスの帰還を待つようになってしまったのだ。
神官様なんだから狩りなんかに行かないでもという声もあったが、ランダムクエストのクリアのために経験値を稼がないという選択肢はない。そんな意見は無視して未だに狩りをしているアリス。
酒場に戻り、10人程度の重傷と思われる傷病者を癒していき、終わった後はゆっくりとくつろぐ。
周りの傭兵団は最近金回りが良すぎており、装備の一新をしていたり、贅沢に暮らしておりだいぶ状況が変化した模様。アリスがいなくなったらどうするのだろうかと疑問に思うおっさんフェアリー。こいつらは先のことをまったく考えていないと思われるからだ。
「アリスがいなくなったら、昔の暮らしに戻るんだぞ? こいつら貯金はしないのか、貯金は」
「良いんではないですか? 傭兵にふさわしいですよ。それに堅実に暮らしたい人は質素にして貯金するんじゃないですか?」
「まぁ、傭兵団だからなぁ、明日の命も知れない職業だからな………。でもなぁ、こいつらは明日の命も余裕であるだろうし、傭兵団じゃない狩人軍団だし、故郷に帰って畑を耕すとか店をやるとか………。ないな………。どうやら文字もわからないやつらがほとんどみたいだし」
自分で言っていて、それはないなと考える鏡。教育がなされていないから文字も読めないのである。アリスのようにチートなゲームの力はないのであるからして。
「でも、この気の良いやつらをこのままの暮らしにさせていくのも少し可哀そうな感じがするんだが」
鏡は傭兵団に情が移った模様。なにか助ける方法が無いかなと頭を捻り始めるが
「これまでも、これからも多くの集団と付き合っていくのですから、そこまで気にしても仕方ないかと。まぁ、少しは助けることもやぶさかでないですが。開拓クエストとかありそうですし」
ゲーム理論で語るアリスには、あまり心に響かない様子。ゲームの中では様々な勢力にいたのであるからして。
そうした会話をしたところ、中年の声音での声がかけられる。
「アリス様でいらっしゃるでしょうか?」
「はい。私がアリスです。安心格安で確実に依頼を遂行する美味しいご飯が大好きなバウンティハンターの魔風アリスですよ」
いつもの自己紹介がてら、声をかけてきた人を見ると狐の耳と尻尾をしたでっぷりと太っている中年であった。
にににこと笑顔を見せて、瞑っているのかわからない細目をこちらに向けている。
「少しお話がありますがよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞどうぞ」
ちっこいおててを開いている椅子に向けて勧める。これはクエストかなと予感もしているアリス。
「これはどうも。太っているせいか立っているのも辛いぐらいでしてな」
わっはっはと大声で笑い、レイダたちが警戒心溢れる表情をする。それほど腹黒そうな笑いであったので。アリスは嬉しさ溢れる表情をする。それほど儲け話になりそうな腹黒そうな笑いであったので。
そして、アリスは期待感溢れる笑顔を見せて語りかける。
「なんでしょうか? 儲け話でしょうか? 儲け話は大好きですよ」
いきなり儲け話かと聞かれて、極僅かに口元がひきつるフォックスニュート。巷では報酬を求めない聖女のような神官だと噂されていたのに、どう見てもその言動はがめつそうに感じたからだ。
貧乏人には人気取りで安くしていたのかと、内心で思いながら、金の話をする人の方が話は早いと考えて揉み手をしながら言う。
「いやはや、ご高名なアリス様のお噂を聞きましてご領主がお会いしたいという話を小耳に挟みました。それならばアリス様のためにも一肌脱いで私が仲介をしてご紹介しようと思った次第。もちろんお金は頂きません」
「あ、そういうのは良いです。間に合ってます。お金をとるとかいう話は私的にノーサンキューですので」
お金を頂きませんということは、後から請求されるかもと考えてあっさりとしらけた表情をして、手を振ってお断りを入れるアリス。身についた条件反射的な行動であるハンターなのだ。
それを聞いて、自分の言い方がまずかったと慌てるフォックスニュートは手を大きく振りながら、今言ったことを否定する。
「アリス様! 今のは言葉の綾です。商人というものはついついそういった語尾をつけてしまうものでして。お会いして頂ければどうでしょう? 金貨10枚を報酬に致しますが」
「それを早く言ってください。わかりました。そのクエスト受領いたしましょう。金貨をよろしくお願いいたしますね」
即行意見を変える守銭奴アリス。金貨というものは今のところ120枚程あるが、この惑星でのクレジットだと聞いているので、もっと増やすのだの精神である。
そうしてアリスはあっさりと、お菓子をあげるからついておいでと言われて、のこのことついていく子供のように商人と一緒に行くのであった。




