35話 ゲーム少女は噂になりはじめる
ワイワイと相変わらずの騒がしさをだしている猫まっしぐら団の拠点である酒場。宿屋の名前は黄金だっけ?もう忘れましたとアリスは言う場所には、大勢の犬猫軍団が集まって仲良くお酒を飲んでいた。
「かんぱーい!」
「みろよ、この金貨の輝きを!」
「しばらくは遊んで暮らせるよな」
仲が悪かったことなど嘘のように、和気あいあいとして木のコップを打ち合い乾杯をして飲みまくっている犬猫軍団である。
その仲が良い様子を見て、ふよふよと空中に浮きながら鏡が偉そうに言う。
「犬と猫だから仲が悪いというのは嘘だよなぁ~。やっぱりお金だよ、お金。お金があれば仲なんか簡単に良くなるもんなんだよね」
うんうんと頷いて語る内容にアリスもむぐむぐと口にご飯を入れながら同意する。
「そうですね。お金があるハンターたちは仲が良かったかもしれません。レアなアイテムを求めるとき以外は」
「金があれば、戦いたくなくなるだろうなぁ、こいつら傭兵団というか狩人軍団だし」
わははと肩を組みあい機嫌良さそうにエールを呑んでいる犬猫軍団を見て、野生の欠片も戦士としての破片すらないよねと呆れるおっさんフェアリー。
「レアアイテムを落とすアストラル体の噂がでてくるまでですね。出てきたら血で血を洗う抗争がはじまるのでは」
「いや………それはハンターだけだ。こいつらはキノコ採りやイノシシ狩りで満足しているやつらだ。間違いない」
「はぁ、そんなものですか。まぁ、ハンターでなければそうかもしれませんね」
アリスはコクリと頷いて、また料理を食べ始める。色々な果物や野菜をすり潰して、塩をかけてペースト状にしてからバターと牛乳でソースを作っている。そのソースをかけている焼肉だった。
う~んとフォークでつついて、アリスは他の食べ物を見るが、全部同じソースをかけている。
「努力の方向が間違っていますね。というか全部同じ味になっているじゃないですか。もう少し考えて作れないんでしょうか?」
アリスゆーざんはご不満そうに料理を見て、はぁとため息を吐く。美味しい料理が食べたいのでそろそろ地球に戻るべきか考えてるアリス。
「仕方ないだろ、醤油などは無いし、砂糖や香辛料もないんだ。どれぐらい砂糖が高価か確認する必要があるな」
鏡が建設的なサポートキャラにふさわしい発言をするので、首肯する。たしかに工夫にも限界があるかもしれない。ほとんどの料理には砂糖や香辛料が必須な場合が多い。
「レベルをせめて20まで上げたいのですが、まだ19なので20まであげたいのですが」
アイアンボアはあれから数体襲い掛かってきたが、キングボアとは比べ物にならない小柄な体格だったし、帰りの道中の敵もしょぼかった。しかし、倒す数は稼げたので19までレベルが上がったのだ。
「たっぷりとマテリアルを稼いだだろう? それを使えば? この惑星で稼いだマテリアルは今までの稼ぎとは別枠ということで」
う~ん。目的なく上げるのは嫌だなぁ、お金がもったいないですよと迷うアリスだが、恐る恐る声がかけられたので、声の方に振り向く。
そこには赤ん坊を抱きかかえた女性が立っていた。なんだか非常に焦っている様子だ。女性は悲痛な声音でアリスへと話しかけてくる。
「あ、あの神官様とお伺いしました。坊やが昨日の夜から熱が全然ひかないのです。どうか治癒をかけてもらえませんか?」
その悲痛な声は周りの傭兵たちにも聞こえて、酒場が静かになる。傭兵団の拠点に入ってくる勇気は凄いものだ。そしてそれだけ切羽詰まった状態だなのだろうと推察できる。そして神官の病魔退散の治癒魔法は一般人では受けることなど絶対にできない希少なものなのだ。アリスの噂を聞いて必死になってきたのだろう。
珍しくノーマルニュートである。なんか久しぶりにノーマルニュートを見ましたねとアリスは思いながらステータスボードを叩く。マテリアルを消費してレベル20にと上げてから女性へとニコリと可愛らしい微笑みを見せる。
「もちろんです。赤ん坊を治せばいいのですね」
ポンポンと治癒効果上昇のスキルと超術効果上昇のスキルを取得。そして派生した職業神官を取得してから、紅葉のようなちっこいおててを赤ん坊へと翳す。残りスキルポイントは1となった。神官は女神の癒しという1日に1回HPを全回復させる力を使える職業だ。まぁ、ヒールを連発すれば問題ないので死にスキルとも言われているが欠損も治せるのが一応ウリである。
『キュアディジーズ』
神聖なキラキラした光の粒子がフワリとアリスのおててから生み出されて、赤ん坊へとたどり着き、ぴかりと淡い光が生み出されたその後には、高熱で真っ赤な顔であった赤ん坊は普通の肌色に戻り、すやすやと寝息をたてていた。
「念のために回復もしておきましょう」
『ヒール』
ぽわんと赤ん坊を光が覆う。なにも起きた風には見えないが、恐らくは見えないところで回復したはずである。
あっさりと治った赤ん坊をみて、うんうんと想定通りの回復がなされて満足なアリス。
唖然として腕に抱きかかえた赤ん坊を見る女性。まさかこんなに簡単に治してくれると思っていなかったのだ。泣きながら頼み込んで治癒魔法を使ってもらおうと考えていた。それでもかけてくるかはわからなかったのだ。それほど希少な魔法なのであるからして
それがあっさりと簡単に治癒魔法を使用してくれてあっさりと治してくれたので、驚きから立ち直り、深々とおじぎをしてお礼を言う。
「あ、ありがとうございました。もうだめかと考えていたんです。本当にありがとうございました」
「いえいえ、それで報酬はなんでしょうか?」
にっこりと聖女のような可憐な微笑みを見せて、報酬を求めるアリスである。その問いに蒼褪める女性。金貨が何枚必要なのだろうかと考えて、自分では到底払えないと絶望の表情をする。当然だ、病を治す治癒魔法は大金が必要なのである。だが、自分はもっていない。どうしようかと考えて駄目元で提案をする。
「あ、あのうちは野菜を作っているんです。それでいかがでしょうか?」
駄目だろうとは思いながらも、目の前の小さい子供のような美少女に聞いてみる女性。ふざけないでくださいと殺されるかもと足が震えはじめた。
だが、予想と反して少女はにっこりと微笑んで頷く。
「では、持ってきてください。なんの野菜かは知りませんが12個は欲しいですね」
簡単なランダムクエストである。アリスはそう判断した。たまにあるのだ、こんな感じのクエスト。いつもしょぼいアイテムをくれる人たちである。酷い時は海苔1個とかあったから、最初から期待はしていない。それに辻ヒールは結構かけるし。
アリスの言葉に驚き、喜び泣きながら、なんと慈悲深い少女だと感激して女性はコクコクと頷いて
「わかりました! 夫に言ってすぐ持ってこさせます! うちの野菜は美味しいですよ!」
そう言ってあっという間に酒場を走って出てしまった。赤ん坊を抱えて走るのはかなり危ないと思うんだけどとアリスはその様子を心配気に見送った。
そんなアリスへとレイダが、疑問顔で不思議がりながら、そしてこの少女の力に改めて驚きながら尋ねてくる。
「いいのかい? 同じ人間族だからタダ同然であんな貴重な魔法を使ってあげたのかい?」
「貴重? そんなことはありませんよ。別にアイテムやお金を消耗するわけではありませんし」
レイダの言葉に不思議がりながら、アリスも答える。所詮レベル20で覚える超術だ。低レベルだし、少し休めば回復するし。
頭をガリガリとかきながらレイダはこの世間知らずのお嬢様の考えに納得した。たしかに何かを失うとすれば魔力でありすぐにそれも回復するのであるから。がめついことは知っているが、それだけではなさそうだとも、アリスの評価を修正する。
「そうかい、そうかい。あんたが良いのであれば問題ないしね。たしかに魔力しか使わないけど、その希少さに普通の神官様なら大金をとるんだよ?」
「あの程度の超術で大金なんかとれませんよ。そんなことをしたら、反対にこちらがハンターとして恥ずかしく思われます」
高レベルでしか治せない永遠系の病気とかなら、大金をとるかもだが、こんな簡単な超術でぼったくりをしたら、他のハンターからどういう噂をされるかわからない。当たり前でしょうと答えるアリス。辺境だからヒーラーがいないのだろう。ここは辺境の中の辺境だし。
「あ~、どうなんだろうな。厄介なことになるかもしれないぞ、アリス?」
簡単に激安で治癒魔法を使ってくれる少女。その少女の噂が広がったらどうなるかを想像して鏡も心配気に言ってくるが
「厄介ごと? 素晴らしい響きですね。そう思いませんか?」
厄介ごとという単語を耳にして、目をキラッキラッさせる厄介ごと=報酬の高いクエストと同義語だと考えているアリスであった。どんとこい厄介ごとである。
「お前はそういうやつだったよな………。あぁ、わかっている。笑顔でアリスは厄介ごとに首を突っ込んでいくものな」
「それがハンターというものですよ、鏡。フラフラと少女の周りを浮いている変態おっさんフェアリーとは違うんです」
「おい! さりげなく俺をディスるなよ! フラフラと浮いているのは仕方ないだろ!」
さりげなくではない感じもするアリスの言葉に怒ったフリをするおっさんフェアリー。
「では、私がお風呂に入っている間、なぜ浴室のぎりぎりに待機しているんですか? 時折壁を透過して覗きもしていますよね?」
「ええっ! お前気づいていたの? あ、いや、お前が心配でたまには顔を見ないとと思ってな、え? なんでその時に怒らないの?」
「まぁ、クエストを受けましたし、害がなさそうなので少しぐらいなら見られても放置することに決めました。追い出す行為も面倒ですし」
「まじかよ! それじゃ次からは一緒にお風呂に入っていいのか?」
うぉぉ、アリスがデレたかもと期待感溢れる表情で鼻を伸ばして聞く変態おっさんフェアリー。それに対して静かな声音で凍えるような目つきで答えるアリス。
「良いですよ。どこまでその体が攻撃に耐えられるか試したいところですし」
すかさず土下座を空中でする鏡。
「すいませんでした。調子にのりました。たまに覗くことで満足します」
覗くことは止めないらしい。はぁとため息を吐いて、まぁ、それぐらいなら別に良いでしょうと思うお人好しすぎるアリスであった。
そんなコント中の二人へと声がかけられるので見てみると、いつの間にか戻ってきたのか女性が夫らしきノーマルニュートと一緒に来ていた。手には野菜をいっぱいに抱えている。
嬉し気な表情で感謝の言葉を言う夫婦。
「ありがとうございました。まさか神官様に治してもらえるなんて………。夫は薬屋を回っていたんですが、ちょうどタイミングよく捕まえることができまして、一緒に挨拶にきました」
夫婦ともに深々とお辞儀をして、野菜をたっぷりと渡してくる。
「感謝の印です。どうぞお納めください」
「50個はありますね。なかなかの報酬です。こちらこそありがとうございました。安心格安、確実に依頼をこなす癒しが得意なバウンティハンターの魔風アリスを今後ともよろしくお願いしますね」
そういって、周りの人々をうっとりさせる可憐な微笑みを浮かべるアリスであった。




