34話 ゲーム少女と鉄の猪
たりゃぁと、飛び込むように落ち葉の塊へと潜り込みゴールデントリュフを採取するアリス。その採取する素早さは探すのが難しいはずなのにとウルフニュートを驚愕させていた。また見つけたのか、とうっと、誰にも取られないようにぴょこんとジャンプして、また飛び込むがめついゲーム少女である
通常ゴールデントリュフの採取は、ここまで来るのが命懸けである。なにしろ、蛇や毒蜘蛛、さらには魔物がここまで来るのに多種がおり、トドメにアイアンボアがゴールデントリュフを食すためにうろうろしているからだ。
そして、ゴールデントリュフ自体、なかなか見つからない茸である。雑草の下に生えており、アイアンボアが来ないか周りを気にしながら探すのだから当たり前であった。
犬人族の嗅覚を利用して、今まではなんとか探している形なのに、この人間族の美少女はどこにあるのかまるで見えているように次々と採っていく。
「俺たちも負けてられねえぜ! お前ら気合入れろ!」
ふんふんと鼻を鳴らしてキョロキョロと周りを探しまくるドーベルたち。
触発されてレイダも仲間たちに強い口調で叫ぶ。
「あたしらも負けていられないよ! ガッツリと採るんだ! 金貨が埋っていると思いな!」
周りの仲間たちはドーベルとレイダの声に目を輝かせて各々が頷く。
「はい! 見つけます!」
「金貨だぞ〜!」
「探せ探せ〜!」
ワンニャンと叫んで地面にへばりつく犬猫軍団。もはやきのこ狩りに来たツアーの旅行者にしか見えない。
はぁ〜と、ため息を吐いてその姿にアリスと同じく呆れる鏡。
「おかしいな………。異世界で無双してハーレムとは言わないから、二人ぐらい可愛らしい尽くしてくれる女性と暮らせるかもと思っていたのに、理想と現実が違いすぎるな………」
う〜んと腕組みをしてフヨフヨと浮かびながら、自分の境遇が変わりすぎたと苦笑いする。
「まぁ、楽しいし良いかな。あとは身体を取得できれば、良いんだが……」
そのスキルには予想がついている。時間制限があるが問題はないだろう。まずは身体を手に入れることであるからして。
ちらりと小柄な愛らしい美少女のアリスを見て思う。とうっ!と先程から落ち葉に飛び込み、体中落ち葉だらけにしている子供っぽい少女。そんなことは気にしないで、フンスと鼻息荒くゴールデントリュフを取りまくっている。
「あんな可愛らしい美少女と行動できるだけでも、俺は勝ち組だろっ!」
叫んで、ニヤリと笑いながらおっさんフェアリーはアリスを見て愛でるのであった。
アリスはゴールデントリュフがあるところがキラキラと採取ポイントとしてわかるので、次々と取りまくっていた。
「これが全部金貨というものになるのですか」
ふ〜んとでかい塊のようなゴールデントリュフをちっこいおてての上でコロコロと転がして観察する。今までもこのような食材を集めたことはあるが、特にクエスト以外で採取するのはスキル上げで必要な、しかも市場では高価な物ばかりであった。
「ですが、もうスキル上げは必要ないですし、これは売ってみるのも良いですが、料理の食材にもしてみましょう」
なんだか、以前より効率的に動くよりも楽しむことを優先してきているので、この惑星に来て良かったかもと思って、クスリと笑う。
そうして、ぱっちりおめめを僅かに細めて、森の奥に視線を向けて呟く。
「どうやらボスのお出ましですね。これは黒字確定です」
ゴールデントリュフに加えて、お高く売れる素材のボスとはなかなか美味しいクエストですねとホルスターからエネルギーガンを抜いて、半身になり身構える。
逐一マップを見ていて敵の存在を確認していたアリス。すでに凄い速さで近づいている敵にも気づいていたのである。
「猪さんがやってきましたので、皆さん注意してください」
周りに声をかけると、ふんふんと地面にへばりついていた犬猫軍団が慌てて立ち上がり武器を持って身構える。
緊張感溢れる空気の中で、ドドドと草木をメリメリと押し曲げながら全長20メートルはある高さは5メートルぐらいの鉄の色をしている凶悪そうな猪が現れた。
「はぁ? これが猪? ちょっと大きくない? 猪じゃないよね? なんか別の生き物だよね、これ? こんな敵を倒してドーベルたちはゴールデントリュフを採取していたわけ?」
その巨体に驚愕して叫ぶおっさんフェアリー。その姿を見て、呆れて教えてあげるアリス。
「たぶん違いますよ。犬猫軍団の様子を見ればわかります。たぶんイベントボス戦ですよ」
アリスの言葉通りにドーベルは冷や汗をかいて驚愕の叫びをあげた。
「こ、こんな化物見たことねぇ! アイアンボアはこんなにでかくねぇ!」
「わかります。いつもこんな展開なんです。説明を受けていた敵は現れずに、もっと凶悪な敵が出てくる。別段驚くことではないですね」
うんうんと予想通りの叫び声を聞いて、いつものことだねと、冷静に動揺を見せずに、ぱっちりおめめを敵へと向けてスキルを発動させる。
『解析』
ピピッとすぐさま頼りになるスキルは敵の力を空中に表示させる。
『戦闘力322』
その戦闘力は今まで出会ったこの惑星のアストラル体の中で最強であったが、ボスなのであるからして当然だろう。
「おい、アリス! 敵はこちらを上回る戦闘力だ! こちらもレベルアップをして対抗するんだ」
まったく面白みのないことを焦りながら叫ぶおっさんフェアリーへと、残念な人を見る視線を向ける。
「せっかくのボス戦ですよ。楽しまないといけません。戦闘力はあくまでも指針。本当の戦いというものでは、経験がものをいうのです」
余裕綽々なアリス。この程度の戦闘力の差など誤差だ。以前は数百万の差の敵と戦ったことも何度もある。私の戦闘力は530万ですと威張っていた敵も苦労したが倒したのだ。
「100程度の差で焦らないでください。鏡はハンターというものがわかっていないですね」
やれやれこのおっさんフェアリーは仕方ないなぁと伝えるゲーム少女。
グモォ〜と咆哮する敵。ビリビリと空気が震えて周りへと超常の力が伝播する。力が籠められた咆哮を耳にして犬猫軍団は身体をブルブルと震わせて、フラフラと全員倒れ伏した。
どうやらスタンかパラライズの効果があった模様。アリスには状態異常耐性という全耐性を持つレアなスキルがあるから効果がなかったのだろう。
ふふっと可憐な口元を微笑みに変えて、小柄な身体をもって、敵へと立ちはだかる。
「ギャラクシーライブラリーからの敵情報が入らないので、私が名付けましょう。貴方はキングボアと名付けましょう」
グォンと地面を猛烈な勢いで蹴り、一気にアリスへと肉薄するキングボア。冷静にその姿を見て、タンっと地面を蹴り、くるりと回転ロールで回避をするアリス。
「そしてイベントにより、不自然に私だけが戦う状況にも慣れています。ボス戦はハンターのみで戦うことが多いから、ハンター以外の味方が大勢いても油断するな。ハンターの基本ですね」
立ち上がりざまに、チュインチュインとエネルギーガンの引き金をひいて、小さいされど高熱の光球が射出されてキングボアを襲う。
じゅわっと毛皮が焦げて、グォォと痛みでよろけるキングボア。命中した箇所が黒く焦げており肉が焼ける匂いが周りに広がる。
アリスを敵と見定めて、キングボアは立派な角を向けてきて、立ち止まって力を溜め始めた。
角が鉄色のオーラに包まれたかと思うと、ぐにょぐにょと数十メートルは伸びる。キングボアは首を振り、鞭のようにしなる角をアリスへと振りかざしてきた。
ビュッと風をきる音がして、アリスの途中にある草木を切断しながら角は向かってくる。
通常の戦士なら驚き慌てて、鞭のようにしなる角に切断されたかもしれない。
しかしアリスはゲームの中から現れた少女だ。トリッキーな、いかにもボスが使う攻撃など、これまで腐るほど体験している。
キングボアの使う技など、驚くことなどなにもない。慌てず騒がず目前に迫った角へと防御を張る。
『空間シールド』
ほとんどの攻撃を防ぐ超常の壁が角の目前に突如として現れて、あっさりとその攻撃を弾いた。どのような巨体から繰り出されても無駄などころか、弾き返した威力でノックバックをさせる凶悪な防御壁だ。
キングボアも今までの敵と同じく、いや巨体から繰り出された威力なので、強くノックバックをして首があらぬ方向へと折り曲がる。
首が折れるほどではなかったが、それでもかなりの痛みがあったのだろう。フラフラとノックバックどころかスタン状態にもなった。
『エンチャントサンダー』
エネルギーガンへと先程取得した雷術の力を付与するアリス。雷光がエネルギーガンを覆い、バチリバチリと雷の音がするが、フレンドリーファイア無効なゲーム仕様なので、自分がダメージを負うことはない。
『クイックドロー』
そのままいつもの十八番である銃技を使うと6発の光球が雷光を纏いキングボア目掛けて射出された。
正確にふらついているキングボアの頭へと命中して、一気に頭の半分を焦がす。
ぼうぼうと燃え始める頭の痛みに苦しみながら、なおも突撃してこようとするキングボア。
「ボスにしても弱いですね。エネルギーガンと雷系に相性が良すぎな敵で良かったです」
ついっと、小さなおててを翳して追撃を入れる。
『マインドショック』
パシリとキングボアの頭に光が走り、またもやふらつき突撃がキャンセルされると、アリスはチュインチュインとエネルギーガンを連発してダメージを与え続けた。
もはやキングボアの頭は完全に炎に包まれて、脳を焼かれたキングボアはあっさりと地面へと倒れ伏すのであった。
ズシンと大きな轟音と共に倒れ伏すキングボアを見て、あっさりと倒したアリスへと視線を向ける咆哮で麻痺って倒れている犬猫軍団。
「す、すげえ………」
「あれだけの化物をあっさりと……」
「これが魔法使いってやつかよ」
それぞれが驚嘆と称賛の声を上げるので、ムフフと頬を紅潮させて、両手に腰をあてて胸をはるアリス。
「この程度のボスなど楽勝です。あのボスは私の物なので分け前はあげませんよ?」
褒められることが嬉しいアリスは、もっと褒めて良いですよと思いながらもボスの所有権をアピールする。まぁ、アリスから奪い取ろうとする人もいないだろうが。
そうして、しばらく麻痺の回復から待って、ゴールデントリュフの採取を再開し、たっぷりと獲った犬猫軍団はホクホクとした嬉しげな表情で街へと凱旋する。
アリスの名前が世の中へと広がり始めた最初のクエストであった。




