32話 ゲーム少女はもう一つの傭兵団と交渉する
なんだかグダグダとなったイベントである。正直そう言うしかない。なにせ悪そうな、いかにも自分はやられ役ですと雰囲気で表していたドーベルは愛想よく揉み手をしながら、アリスへと話しかけてきているのだ。
「いやぁ〜。お強いですな、姐さん! 俺が今まで見てきた中でも群を抜いて強い御方だ!」
まるで犬が尻尾を振って媚びるような変わりようである。体格の良い強者であるような雰囲気から、一気に強いものに媚びへつらう小物へと早変わりしたのであるからして。
まぁ、それも仕方ない。ゲームと違い彼我の力の差がわかれば明らかに勝てなそうな相手にも喧嘩を売る人などいないものだ。見れば、団長の媚びる様子にのっかれと、他のウルフニュートも愛想よく尻尾を振っていた。もはや可愛らしい犬の集団である。
「残念だったな、アリス。どうやらクエストは発生しないようだぞ?」
ウルフニュートの集団を見て、呆れながらもからかうような声音でアリスに話しかける鏡。
ちらりと鏡を見て、むぅんと考え込むアリス。たしかに鏡の言うとおり、どこかで選択肢を間違えたのかしらんと残念に思うが、まずは殴られて呻いているキャットニュートを助けますかと、ちっこいおててを翳す。
『ヒール』
いつもの治癒術が発動して、ポワンと光に覆われたあとに傷一つない姿となるボコボコに殴られていたキャットニュート。殴られて腫れていた顔も痣だらけの身体も綺麗になって、飛び上がるように喜び始めた。
「すげえ! 傷がこんなにあっさりと治るとは」
やったニャンと猫踊りを始める人を良かったですねと微笑むアリス。今回は報酬は求めない。クエストの一環であると考えているからだ。
そんなあっさりと治ったキャットニュートを見て、ドーベルたちは、本物の神官であったと息を呑む。噂には聞いていたが、多少の傷を治すぐらいだろうと考えていた。
しかし、実際は戦いも一流で、見る限りだと治癒術も一流だ。どこからこんな人間族を仲間にしたんだと睨むようにレイダへと視線を向ける。
その驚嘆と羨ましがる視線に気づいたレイダは、ふふっと優越感丸出しの笑みを浮かべた。ニヤリと笑う姿を見て悔しいやら憎らしいやらと色々な感情が渦巻くドーベルであったが
「何が面白いクエストは無いんですか? 貴方はただの雑魚役だったのでしょうか?」
心底不思議そうな表情でアリスが尋ねてきて、それを見たレイダが何故か慌て始めたので、力関係が薄っすらと予想できた。
なので、背を縮めてちっこい少女へと目線を合わせて問いかけてみる。
「へい。俺たちもそこの猫人族と同じぐらい、いいえ、それ以上の儲け話があるんですが」
媚びる表情全開で話しかけるドーベル。アリスはなるほどと、その変わりすぎた態度に、読めましたとばかりに小さく笑って頷いた。
「貴方は私にクエストを持ってくる人だったのですね。変化パターンでわかりませんでした」
言葉の意味はよくわからないが興味を持ってくれたようだと、ほくそ笑んでドーベルはこの流れを逃すまいと張り切って揉み手をした。その姿は餌を欲しがり、懸命に主人に纏わりつく犬であった。
プライドを捨てて、骨を取るとドーベルは犬人族のことわざに従い話を続けた。
「へい、姐さん。こんな細道で話すこともないですし、俺たちの酒場ででも続きの話を」
「まちなっ! 儲け話はわかったよ。アリス、うちの酒場で話そうじゃないか。ご飯も冷めちまうよ?」
強い口調で口を挟み、アリスへと視線を向けるレイダにアリスは飛び上がって動揺した。
「そうです。そうでした! まだまだご飯を食べる予定でした! すぐに戻りましょう。そこの子犬さんも一緒に来てくださいね」
そう言って、風巻くような速さで走り、酒場へと帰宅するアリスであった。相変わらずの刹那的思考である。思いついたら即実行なのであった。
「待ってくれ、姐さん〜」
「あんたら、戻るよっ!」
バタバタと慌てて、アリスのあとについていく傭兵団を見て、おっさんフェアリーは騒がしくなってきたなとニヤリと楽しそうに笑いながら追いかけるのであった。
酒場へと戻ると、ヘロヘロなキャットニュートたちがテーブルに突っ伏していた。辛そうなうめき声はなんだろうと耳を傾けると
「うぅ、酔って走るなんてもうやらないぞ………」
「気持ち悪い、気持ち悪い〜」
「うげぇ、もう寝ようかなぁ」
助けに行こうとしていた酔っぱらいの情けない声だったので、アリスはつまらないBGMですねとスルーして、ちょこんと椅子に座った。そしてパタパタと足を振って、手でバンバンとテーブルを叩く。
「コックさん。美味しいご飯をお願いします。さっきの復習ですね。ちなみに不味かったら私が復讐しますから」
最後の語尾に恐ろしい内容を加えるアリスを見て、酒場のマスターは真剣な表情で頷き厨房へと入っていった。
その姿を見送って、アリスは対面に座るドーベルを見る。どうやら敵地だというのに吹っ切れたか、逃げ切れる算段が有るのか?たぶんアホそうな強面なので、前者だろう。
「へへっ。儲け話を話すにはそれなりに酒も飲まねえとな。おい、俺にもエールをくれ!」
堂々と注文するドーベルを苦々しい表情で見て、レイダも座る。なんだか面白そうな対立ですねと内心でワクワクするアリス。揉め事の影に儲け話ありなので、常に揉め事が発生するのは歓迎なのである。
早く儲け話とやらを話してくださいとアピールするアリス。目を輝かせて玩具を強請る子供のようで愛らしい。
そんなアリスの様子を見て、口を挟まないレイダを見て、いよいよ自分の予想は当たっていた。どうやらこの少女の方がレイダよりも上なのだと確信して、おもむろに話し始めたドーベル。
「いや、簡単な儲け話なんですよ。ちょっとダイショー山の奥にある茸を取るだけっていうね? それで金貨がジャラジャラと手に入るという寸法でさ」
語り口から言って詐欺師以外の何者でもない口ぶりである。これに引っかかるやつはいまいとおっさんフェアリーは思うが
「なるほど! 面白そうなクエストてすね! 安心格安で確実に依頼を遂行するバウンティハンターの魔風アリスにお任せください。たくさんの茸を取り尽くしてきましょう」
あっさりと詳しい内容も聞かないで、クエストを受領するアホな娘のアリスであった。
まぁ、騙されたら、騙した相手へよくも騙したなと満面の笑みで襲いかかり、すべてをぶん取るハンターなら気にもしないのだろうと嘆息する。なぜならばプレイヤーにとって、騙す相手は儲かる相手という認識だからである。
アリスはふんふん鼻息荒く話の続きを強請る。なんだか金貨をジャラジャラとは良い響きです。なんとなく気にいる音源ですねとご機嫌な様子。
「ゴールデントリュフというのを採取する。それだけでさ。デカイ上質な物なら金貨5枚は堅いですぜ」
うへへと小物へと変化したドーベルはここぞとばかりに声を大きくする。
「待ちなっ! あそこにはアイアンボアたちがいるはずだ。あいつらの好物だからね」
レイダが怒鳴るように口を挟むので、隣にちょこんと座っているチャシャへと不思議そうな表情で尋ねるアリス。
「アイアンボアって、なんですか? なんだか硬そうな名前ですが?」
酒場のマスターがコトンと置いていった猪の焼き肉をむぐむぐと口いっぱいに入れて食べていたチャシャはゴクンと飲み込んで答えてくる。
「えっとね、アイアンと名前がつくのは私たち傭兵にとっては天敵なんだ。凄い硬い毛皮をしていて力も強いし倒すのが大変なの」
ほうほうと楽しそうにその情報を聞くアリス。強いという単語に反応する根っからのハンターである。
「鉄の剣で攻撃しても、刃こぼれするし、牙はこっちの革の鎧なんかあっさりと貫いちゃうんだよ!」
「なるほど、武器壊しは怖いですね。お金が大変かかりますので」
腐食系とかの攻撃を使う敵は大嫌いだ。戦う際には遠距離でが鉄則。攻撃するとこちらの耐久力を下げる敵は超術で撃破。ハンターの鉄則である。
ちなみにアリスは見つけたら、速攻超術で倒していた。偶に銃での攻撃でもスキル能力でこちらの銃の耐久力を下げてくるやつもいるので。
でも今は攻撃的超術を覚えていない。超術はある程度SPが無いと連発できないし、爽快感もないので取得を後回しにしていたのだ。
戦いには爽快感も必要なのである。たまにギリギリの戦闘をするのも楽しいが、さくっと倒しまくるのも爽快感があって楽しい。
せめて30レベルになるまでは攻撃的超術は取得するつもりは無かったが、この惑星は少しばかり変である。スキルの取得構成を考えないといけないかもしれない。あと楽しむのにも超術が必要になるかもしれないと思うゲーム少女。
アリスのハンターをやる第一条件は楽しむことである。それに付随するのがお金貯めと希少なアイテムのコレクションであるからして。そこに優先順位の揺らぎはない。
アリスがぼんやりと考え込み、チャシャはテーブルに次々と置かれる料理を食べまくる。この料理の代金はアリス払いだが気にしない。友好度が上がると思えば安いものだと、猫の尻尾をフリフリ振りながら嬉しそうに食べるチャシャを眺めて和む。フリフリ尻尾は可愛らしいので触ってみたい。
「アイアンボアは魔法使いなら簡単に倒せるはずだ! なにしろ魔法には弱いのがアイアンボアの毛皮の弱点だからな!」
ドーベルが叫ぶようにレイダへと言って、その言葉にレイダもううむと考え込んだ。ちらりとアリスを見て
「あ〜、アイアンボアは肉が凄い美味いんだ。それに毛皮も傭兵たちに人気があるからね。金貨10枚は倒したらするんだよ」
「なるほど話はわかりました。すなわち私はお金をたくさん稼げて経験値もたっぷりなクエストができる。よ〜くわかりました」
もはや金鉱に潜るも同然な気持ちで、うんうんと腕を組んでクエストに期待しながら頷く小柄なる少女。危険だと言う言葉はもちろんスルーするアリスであった。
その言葉に苦笑交じりにレイダがドーベルへと声をかける。
「うちの神官様は行くつもり満々みたいだ。あたしたちも同行するから分け前は8:2だよ」
「バカ言え! 6:4だ! ゴールデントリュフがある場所は俺たちが詳しいんだからな!」
ぎゃあぎゃあと犬と猫が言い争うのを見ながら、新しいクエストでレベルアップができるかなと考えるゲーム少女であった。




