31話 ゲーム少女はもう一つの傭兵団と出会う
わっと酒場で飲んでいた面々は武器を取り、どやどやと出ていく。もったいないことに皿をテーブルから落として立ちあがって向かおうとした人もいたので、アリスは軽く殴って、食べ物を粗末にしない事と掃除してから来るように優しく説明して、自分も他の面々と一緒に出ていく。
殴られた人は食事を無駄にするなと殴られたので、気絶していたがそんなことは気にしないアリスである。せっかく作った料理を無駄にする方が悪いのであるからして。
スタタタとキャットニュートの後ろをついていくが、どうも走り出そうとする面々はフラフラである。それはそうだろう。さっきまで金があるからと浴びるように飲んでいたのだ。走ればその分酔いが回る。
平気そうなのはレイダとペイド、そしてチャシャたち食い気優先にして酒を飲んでいなかったメンツだけだ。
「だよなぁ~。漫画とかアニメとかでもこんな感じの出入りがあるけどさ? 現実でやられると酔っているから走るの自殺行為だよな………」
走るのをやめてへたり込んでいるキャットニュートを情けないなぁと、哀れみが入る視線を向けて鏡が眺める。
「鏡………イベントなんです。序盤のイベントでそんなに大規模な合戦が発生することはないんですよ?」
走りながら、ふよふよと浮いているおっさんフェアリーへとしょうがないなぁと、哀れみが入る視線を向けてアリスが眺める。
「むぐぐ………現実でも同じ現象となっているから否定できん………。このアホキャットニュートたちめ!」
地団駄を踏んでプンスコ起こるおっさんフェアリーである。ゲームと同じ現象に現実でしないで欲しいと不満一杯であるからして。
てってこと走っていくと、細道でキャットニュートが3人、ウルフニュート5人に殴られている姿が見えた。ボコスカとマウントを取られて殴られているのをアリスは発見した。
そこへどやどやと走りながら、レイダたちは到着した。
しかし、道の反対側に30人ぐらいのウルフニュートがちょうどタイミングよく現れる。
助けようとして走り寄ろうとしたレイダたちだったが、その数を見て立ち止まり警戒する。
それを見て相手の一番前に立っていた奴がにやりと悪そうな笑みを浮かべて、話しかけてくる。
「久しぶりだな……レ」
しかし話は続かなかった。立ち止まらなかった人間がいたのだ。当たり前だがアリスである。颯爽と敵へと走り寄り、体を屈めて突っ込む。
マウントをとっていたウルフニュートが慌てて立ちあがろうとするが遅い。もう既に猛禽類の目つきをしてアリスは凶暴な笑みを浮かべて獲物へと接敵した。
そして、鞭のようにしなる右脚で蹴りを頭にぶちかます。ぐあっと叫んでマウント状態から転がり落ちて倒れる。すぐに他のウルフニュートはマウントを解き立ちあがる。マウントを取っていないウルフニュートが拳を握りこんでこちらへと突撃してきた。
「てめぇ! この人間族がぁ!」
右腕を大きく振りかぶる躱してといっているようなあくびのでる攻撃である。
「お手をしたいんですね。しょうがないです。相手をしてあげましょう」
アリスはフッと可憐な笑みを見せて、ぶんと突き出される拳をスッと右腕で絡めるように受け流す。そして僅かに力を入れて体を押し込むと相手の体勢が崩れるのを見て、左足を強く地面に踏み込んで、右足を突き入れるように胴体へと攻撃した。
「ぐへっ」
ゴロンゴロンと吹き飛ばされるウルフニュート。その後ろから2人のウルフニュートが迫ってくるが、平然とその様子を観察していた。
「おらぁっ」
「がきがっ!」
お互いに腕を振り上げて近寄ってくるので、はぁとため息をついて体を半身にして鋭く地面を蹴って右側のウルフニュートへと近寄る。先程のウルフニュートと同じような振りかぶる攻撃をあっさりと右手をそえて軌道をずらして受け流す。敵が目の前をたたらを踏んで通り過ぎようとする。
『チャージ』
一瞬、力を溜める。体術レベル1の技だ。少しだけ次の攻撃が強くなる。基本体術である。その力を使い胴体へと体を傾けるほどの踏み込みで蹴りをぶちかました。
反対側にいるウルフニュートと一緒に重なるように吹き飛んでゴロゴロと転がっていくのをアリスは一瞥して、残っている最後のウルフニュートへと視線を向ける。
最後のウルフニュートは焦った表情で、あっさりと仲間を倒した子供のような人間族に恐怖しながらも拳を打ち込んだ。
パチッと軽い音がして、紅葉のようなちっこいおててであっさりと防がれたことに瞠目する。アリスは体幹を傾げることもなく、後ずさることもなく赤ん坊のパンチでも防いだように平然としていた。
「お手はできるのですね。では、次はお座りです」
受け止めた拳を払い、瞬時に顎へと掠るように右拳をしなるように入れる。
カスッと軽い音がしたと思ったら、目の前のウルフニュートは力を失くし、へたり込み座り込むのであった。
うんうんと満足げに見ながら、微笑みを見せるアリス。
「お座りもできて合格です。わんわん団はなかなか躾ができているんですね」
からかうように自然な感じで煽るアリスの発言。周りはその発言と行動にビビってドン引きしていたのだった。
しーんと静寂に包まれる細道。まさか子供のような、しかも脆弱な人間族が犬人族を倒すとは考えていなかったのだ。しかも苦戦もせずに瞬時にあっという間にである。
ごくりと息を吞んで、ウルフニュートの中でもリーダーらしい肌が色黒の2メートルはあるドーベルマンの耳と尻尾をつけている男性が、動揺を抑えるために口元をぺろりと舌で舐めて言葉を発した。
「おいおい、お互いのたかが喧嘩を大抗争にしようとでも………」
続く言葉がでてこない。計画ではここで煽っていく予定であった。殴られ続けている猫人族の仲間を救わないかと煽る予定であり、動けない相手をドンドン煽り、そこで最近急速に名声をあげていたレイダの名声を下げる予定であった。
だが、ちらりと喧嘩を見ると既に終了しており、ドヤ顔の子供のような少女がふんふんと鼻息荒く、戦い足りない感じで立っている。
あれはやばいと内心で冷や汗をかく。話では治癒を使う神官だったはずだ。しかし身体強化も使いこなしている魔法使いだ。きっと戦えば30人ぐらいはあっさりと倒されそうだ。そんな予感がビシビシとこれまでの経験から感じる。
しかし、ここで引くわけにはいかない。自分の団長としての矜持もあるし、レイダの名声を下げようとして自分の名声が地に落ちるといった結果になることは火を見るよりも明らかだ。どうやってここを切り抜けるか、それを必死に考えるのであった。
何も言わずに迷っている敵の団長を見て、アリスは不思議に思う。なんで黙っているんだろうと。
「鏡、私はスキップって口にしちゃいましたっけ? いつもの悪い癖がでてスキップと口にしましたっけ?」
依頼内容がわからないのに、たまに寝ぼけていたりしてスキップしてしまい、どんな依頼かわからないことがあったのだ。なので、今回もスキップと口にしてしまったのだろうかと不安にあるアリスである。さすが考える事がゲーム理論からくる少女であった。
苦笑しながら鏡が相手を観察して、恐怖が見えている姿に納得する。
「いや、相手はアリスの力を見てドン引きして恐れているんだ。クエスト発生前に闘うんじゃなかったのかもな」
「えー! まずは面倒な敵を倒してアイテムを確保してからじゃないとイベント発生してからだと、敵がいなくなっている時があるじゃないですか!」
イベント前に敵は倒しておくのは基本である。できるだけ取れるアイテムは取るのだ。たまに希少なアイテムも手に入るので、絶対に敵は倒すの精神である。
その様子を見て、レイダも驚いていた。アリスがこれほどの強さを持っているとは考えていなかったのだ。魔法だけだと思っていたらとんでもない。恐るべし戦士でもあった。
だけれども今は味方だと安心感を持って相手へと、余裕の表情で話しかける。
「誰かと思えばドーベルじゃないか。どうも躾がなっていないようだね」
「そうですね。お手とお座りしか見ていませんが」
アリスも口を挟む。ここぞと煽り相手が怒って戦闘を仕掛けてこないかなと考えるアリス理論。
そうすれば、手っ取り早くアイテムなどの報酬が手に入ると考えているのだ。
「はっ! こいつらは酔っぱらっていたからな。しょせん末端の喧嘩だ。躾だなんだと言われても困るな」
気を取り直した様子で虚勢をはる相手。どうやらドーベルというらしい。ドーベルマンの耳と尻尾だからドーベル。うんうん凄い覚えやすいですねとアリスは頷いていた。
ぎゃははとおっさんフェアリーは相手の名前に爆笑していた。
「ドーベルって簡単すぎるだろ! こいつら名前をどうやって決めているわけ? ドーベルって凄い多そうな名前だな、この地域だと」
空中を器用に転がりながら、おっさんのツボに入ったらしくゴロゴロと転がって爆笑している。
「へぇ~。なら今回のはただの喧嘩ってことかい? それで手をうとうと?」
ドーベルはその言葉に余裕を見せている演技で頷こうとして、人間族の少女の行動を見て驚く。
「あぁ、そうだって………お前何やっているんだ?」
見ると次々と倒れていた仲間は下着のみとなっていた。少女が手を翳すと下着以外が消えていくのだ。
声をかけられたアリスは平然とした声音で答える。
「お気になさらず。話の間に戦利品を取得しているだけですので。話は続けていていください」
そう答えて次々とアイテムを取得して、残るは下着姿で気絶したウルフニュートとなった。
「うぁぁ。魔法使いって、こんなに酷いのか………。あの服だけでも返してもらえませんかね? ちょっと酷いと言いますか………」
アリスの盗賊も真っ青のアイテムの剥ぎ取りを見て心が折れて、遂に丁寧語で揉み手をしながら話しかけるドーベル。
「あ~。アリスさんや。さすがにちょっと可哀想かもしれないよ? ちょっとだけ返してやらないかい?」
鏡もさすがにドン引きして返すように言う。ゲームの中では当たり前の行動でも、現実では外道すぎる。
「え~。せっかく気絶させたのに返さないといけないのですか?」
心の底からがっかりする少女を見て、周りの傭兵団は絶対にこの少女へ喧嘩は売るまいと誓ったのであった。




