30話 ゲーム少女は傭兵生活をする
ぼろそうな宿屋のわりに、大人数が泊まれて食事ができるように酒場が併設されているからだろう。かなり大ききな厨房がドデンと設置してあった。
地球ではアンティーク並みの年季のあった竈がおいてあり、薪により炒め物をやらなにやらをやる形となっている。そこには科学の科の字もなく、また魔法文明による便利な魔道コンロかとかそんな都合の良いものもなかった。横には薪や水ガメが置いてあり、古めかしい様子を見せている。
そんな古い厨房にアリスは立っており、現在料理中である。
薪の火力を見切り、ほどほどの火力。そこに厨房に置いてある山と置いてある果物を潰してペースト状にしたものと塩と牛乳を竈にかけてある鍋へと注ぐ。塩をパラパラっと入れてぐつぐつと煮えてくる。その加減をぱっちりおめめで睨むように観察して、焦げないか注意する。そして、できたと感じたら隣の竈に絶賛熾火の弱い火力で焼いてたフワうさぎの肉を木皿に移して、さっと煮えたソースをかける。
少しかいた汗をすいっと袖で拭い、フンスと息を吐き得意げに宣言した。
「フワうさぎのソテー、果物ソースがけ。出来上がりました!」
すかさずおっさんフェアリーがアリスにしか聞こえないのに、ノリノリで叫ぶ。
「召し上がれ!」
自分が作ってもいないのに、ドヤ顔でキメ立ちをしている鏡がそこにいた。
その料理姿をみていた酒場のマスターやチャシャは
「おぉっ!」
と叫んで、出来上がった料理を見る。熱々でまだソースがぐつぐつと煮えているのが美味しさを誘う。
ふんわりと甘さを誘うソースの匂いも充満していて、香りから楽しめる逸品である。
ごくりと息を呑んで、酒場のマスターはナイフを差し込む。
「こ、これはっ! ナイフが何の抵抗もなくススッと肉へと入り込む! なんという柔らかさだ!」
驚きで残った猫耳をピンと立たせて、ふしゃーと猫が毛を逆立てるように驚いた。
パクリと一口いれて、カッと瞠目して叫ぶ。雷光が背の後ろに見えるようだ。
「うまい! うまーいぞー!」
「ふふふ、料理とは腕自慢、素材自慢でできるのです! 愛情などはスパイスにはならないのです!」
両手を腰にあてて、ふははと笑う小柄な少女。キュートなアリスは得意げにドヤ顔で高笑いをしていた。その姿は料理ごっこを楽しんでいる愛らしい子供にしか見えなかった。
それを見て、おぉっ!と叫ぶ周りのキャットニュートを見て、ますます調子にのり胸を反らして、後ろにコテンとひっくり返る子供なアリスであった。
「おいおい、グルメマンガと真っ向から対立するセリフだな………。まぁ、実際に現実ではそうだろうけどさ」
再び立ち上がり、ふははと笑うアリスを苦笑して眺める鏡であった。
そんなアリスたちはこの間の狩りから1週間経過していた。
わいわいとうるさい酒場には、みんなが笑いながらエールをごくごくと飲んでいた。お祭り騒ぎで並んだご馳走を楽しんでいる。
レイダも調子にのって酒を飲みながら、ご機嫌にフワうさぎを食べている。
「へぇ~。たしかに今までのフワうさぎがなんなんだって感じの味わいだね」
感心するレイダへとアリスが得意満面な表情でフォークをふりふりと揺らす。
「本当です。こんなに良い食材なのに、あそこまでダメにしてしまうとはフワうさぎがダーク化して襲い掛かってきてもおかしくありませんね。塩しかない? だから味がだせない? いいえ、牛乳からはバターが、卵からは一味違うコクが、そして果物を潰せば、甘みが薄い酸っぱいこの地域の果物でも美味しい調味料ができるんですよ」
調子にのるアリスへとレイダが苦笑交じりに、フワうさぎの美味さを味わいながら答える。
「そりゃしょうがない。学の無い猫人族なんだ。字が読めるだけでもたいしたもんさ。料理はそれこそ独学だからさ。この作り方はちゃんとしたレシピがあるんだろう? 嬢ちゃん?」
「はい。もちろんです。………たしかにスキルの低い料理人では仕方ないですか。というかあの酒場のマスターは酒を注ぐだけで料理のスキルはなさそうですし、まずいのも納得です」
軽く腕を組んで、うんうんと頷きカウンターで額に青筋をたてて怒鳴りたいが我慢してぷるぷる震える酒場のマスターをディスる容赦のないアリスであった。
「………ふん。アリスがこのまま色々儂に料理法を教えてくれれば、どんどん飯は上手くなるぞ」
酒場のマスターは、ふぅ~と怒りを抑えた大人な対応で、渋々とした口調で悔しそうに口を挟む。
「だとしたら、この界隈ではナンバー1にこの酒場はなっちまうね。頼むから宿代をあげるなんて言わないでおくれよ」
からかい半分でレイダが言い。周りがそうだそうだと囃し立てる。
「ふん! お前らもこの1週間で随分金回りが良いじゃないか。毎日毎日大規模な狩りに行きやがって。肉が値下がりを始めるほど狩りをするなんて前代未聞だぞ」
酒場のマスターがニヤリと笑い、素焼きのツボに入ったワインを取り出す。
「値上げされたくなければ、どんどん稼いだ金を酒場で使うんだな。この上等のワインをどんどんと頼んでくれよ」
さすがマスター抜け目ねえなぁと、周りもドッと笑う。
「えへへ。私も金貨の貯金ができるなんて思わなかったよ。新しい武器でも買おうかなぁ」
チャシャたちももりもりとフワうさぎを夢中に頬張りながら、アリスへと嬉しそうに言う。
そうなのだ。この一週間、大規模な狩りをしまくった猫まっしぐら団である。神官様がいると思って稼ぎ時だと、3カ月に1回ぐらいしかしない大規模な勢子を使った狩りを繰り返していたのであった。そのため、肉は町中にいきわたり、値段は少し下がり名声も上がった傭兵団であった。
ただ、その名声はさすがイノシシ狩りの集団という傭兵とはまったく違う名声であったが………。
「まぁ、そうだよな。こいつらは最初の予想と違って、傭兵というより狩人の田舎者の集団という感じだしな」
懐も温かく今日も大宴会をしている集団を見て呆れながら鏡が言う。予想では血生臭い世界で斬った張ったの任侠集団に近いと考えていたのに、現実では魔物を狩り、薬草やら山菜を収集し、肉を獲る集団であった。よくこれで傭兵団とか名乗れるものである。
「辺境の中の辺境なんです。こんなものでしょう。私は別に驚きませんが」
綺麗な所作でナイフとフォークを使い、フワうさぎを味わい、おぉっ、本当にこの肉は柔らかくてミルクのような味わいですねと異世界ウサギの味を堪能しながらアリスが答える。
そんなアリスは夜になると部屋に戻ると言っていなくなるし、きっと貴族の隠し子とかお忍びで冒険を楽しんでいる娘だとか傭兵団の面々からは噂されていた。
それでも大金が稼げているのは、紛れもなくアリスの力が大きいので気にしない面々であった。猫人族は気ままな性格で貯金もしないで遊びまくる人が多い。そして難しい事柄はあんまり気にしないのだ。もちろん出世をする猫人族は違う性格もいるが、大体はそんな緩い性格であった。
「それに、この1週間でレベル14になりました。スキルも精密行動、測距、そしてようやくガンナーの職業スキルを取得しましたよ。これで通常戦闘が大分楽になります」
ふふふと口元をにやけさせながら、アリスはステータスボードを見る。精密行動は各種作業に補正が入りクリティカルは大成功の確率増大。そして、測距は敵との距離がどれぐらいか正確に測れる能力だ。そこに、今まで取得していた銃術、気配感知、隠蔽、鷹の目が職業解放条件となりガンナーを習得する。
装備している銃の威力がこれで大幅アップしてガンナー専用の銃も装備できるようになる。ガンナーは延々と遠距離攻撃ができるのでソロ狩りでは重宝する職業なのであった。そしてガンナーのスキル、狙撃は使用時に敵への命中率とクリティカル率が大幅アップする。複数のスキルを必要とするので解放条件が厳しいが、お得な職業なのである。
「これでクイックドローと狙撃を両方使えば、かなりの敵は簡単に狩れるだろうな。これからの戦闘も楽になるから、ガンナーは花形職業だよな」
うんうんと同意するおっさんフェアリー。ガンナーは実は実装が遅かった職業だ。銃が流行り始めて実装されたのだが、かなりの強職業であったので、速攻とったおっさんである。そしてブイブイと雑魚敵を倒していたら、いつの間にか高価な銃弾も使っていて泣いた覚えまである痛い記憶もついていた。
「でもよぉ~。これからどうする? この傭兵団は猪狩っていて喜んでいる田舎の集団だぞ? これからもここにいるのか?」
周りのキャットニュートを見ながら、疑問顔で尋ねてくるので、相変わらずわかっていないなぁと口元に笑いを浮かべて教えてあげる。
「まだたった1週間ですよ? せっかちな人ですね~。のんびりと2カ月ほど滞在して小金を稼いだあとに行動するのが良いんですよ。この金貨とやら、大分この惑星では価値があるみたいですしね」
フワうさぎを食べ終えて、ふぅと満足げに椅子にもたれかかり言う。
「私の経験からすると、そろそろクエストが発生する時期です。たぶん、何か大きなイベントがまた発生すると思いますよ?」
ふふんと息を吐いて、自分の体験から教えてあげる。こういうのはある程度の傭兵団との友好度や名声度でイベントが発生するものである。今は地道に名声度や友好度を上げている最中なのだからして。
「あ~、言っている意味はわかるぞ? 今までの集団では友好度や名声度が上がるとイベントが発生してクエストが発生していたからな。でも、この惑星では違うんだ。名声度や友好度を上げてもイベントは………」
困り顔になりゲーム少女へと、現実は違うと言おうとした鏡。そこに酒場のドアがバタンと荒々しく開けられた。
なんだろうと視線を向ける騒いでいた面々。ドアから転がるように入ってきたのは傭兵団の仲間であった。
血だらけになり、痛みをこらえながら叫ぶキャットニュートの男性。
「ぐっ、大変だ! 犬人族のここほれわんわん団が俺たちに絡んできて、仲間がやられている!」
ざわっと騒ぎ始める飲んでいた面々。レイダも血相を変えて立ちあがる。
「あん? やつら、舐めやがって!」
それを見て、うんうんと満足げに頷くアリス。そろそろ友好度と名声度が上がってきたからイベントが発生するのがわかっていたので余裕な表情である。ん?とそこで気づく。
「どうしたんですか、鏡? なんだか不細工な顔がますますヘンテコになっていますよ?」
「不細工はよけいだっ! おれの顔は普通だ! それにしても現実でもこういうのはあるのか………う………う~ん」
腕を組んで悩み始める鏡。おっさんフェアリーはいつも悩んでいると放置してアリスはこのイベントを楽しもうと椅子から立ち上がるのであった。




