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29話 ゲーム少女とイノシシ狩り

 街道から離れてしばらく歩き、森林が目の前に見える場所。目の前の森林は背の高い木がたくさん生い茂っており、中に入ると薄暗いと感じるだろう。そこに傭兵団は集まり狩りの準備をしていた。


 カンカンと周りに響き渡るような音を勢子が一生懸命に鳴らしている。チャシャたちも汗を流して大きな銅鑼みたいなのを持って鳴らしていた。チャシャの言うことが確かなら音をたてて追い込み猟をしているらしい。


 その姿を見て鏡は納得いかないような不思議そうな表情でアリスへと話しかけてきた。


「………なぁ、勢子ってさ、音をたてて獲物を追い込むためにあるんじゃないの? たしか森林を囲むように打ち鳴らすんじゃなかったっけ?」


「はぁ、勢子というのが、いまいちわかりませんがそうなんですか?」


 アリスは勢子を使った狩りなどしたことはないので、鏡のいうことを首を傾げて聞く。


 おっさんフェアリーは、指を指して怒鳴った。


「いやいや、そうなんだよ! なのに、なんでこいつらは平原で集団で集まって動かないで打ち鳴らすわけ? 逃げちゃうよね? 逃げるよね、動物なら大きな音がしたら!」


 鏡は怒鳴ってツッコミをいれてくる。たしかに勢子にしては変である。傭兵団の中でも比較的新米たちが銅鑼やら何やらを打ち鳴らしている。集団で森林の前で。そしてその集団を守るように大きな木の盾と木の槍をもったベテランぽい傭兵が立っていた。


 地球では、こんなことをしたら、一生狩りはできないだろう光景だ。鏡がツッコミをいれるのも無理はない。


 そんな鏡の疑問へと答えるように都合よくアリスの隣にいたレイダが口元をにやりと歪めて話しかけてきた。


「狩りは初めてかい? これはね勢子が大きな音をたてると縄張り意識の強い魔物が集まってくるんだよ。それを倒すのがあたしたちってわけだね」


 ほうほうとなるほどね、勢子を使った狩りはこのようにするんですかと頷くアリス。鏡は地球と違う狩りの手段に唖然としてその内容を頭に入れた。


「はぁ~、なるほどね~。攻撃性の高い魔物がいる世界だと勢子の意味も変わるってことか………なるほどね」


 うんうんと異世界だと色々違うなぁと頷くおっさんフェアリーへとアリスは視線を向けて


「知ったかぶりをしてもバレバレですよ。最初から勢子の意味も知らなかったんでしょう?」


 口にちっこいおててをあてて、ぷぷっと小さく笑いを含めてツッコミをいれるのであった。きぃ~と顔を真っ赤にして怒って反論してくるが、このおっさんフェアリーはいつも顔を真っ赤にして反論してくるので放置するアリスである。


「ビックボアは大きいのだと金貨5枚は軽くする。普通の大きさでも金貨3枚はいくね。それと他の獲物も含めて今日は金貨100枚は稼ぎたいところだ」


 腕を組んで、勢子の様子を見ながらレイダが呟くように言う。


「ビックボアって、猪だろ? ビッグって名前がつくんだし、かなり大きいんだろうなぁ」


 鏡がのんびりと空中にふよふよ浮きながら、ビックボアの姿を予想する。


「そうですね。猪系なら肉を売れますし、毛皮も売れるでしょうからお金になるんでしょう」


 うんうんとお金大好きなアリスは僅かに微笑みながら同意する。金貨なんてマテリアルと比べるとゴミであるが、それでもお金が入る感触は大好きである。たとえこの惑星のみでしか使えない通貨だとしても。


 そんな雑談をしていると、叫び声が聞こえた。どよめくほうへと顔を向けると3メートルぐらいの体格の猪が森林から出てきて、ドドドと大きな足音を立てて突進してきていた。


「ほら! 獲物がきたよ。みんなファランクス陣形だ!」


 レイダがその猪を見て、陣形を組むように叫ぶ。傭兵団はすぐにお互いの盾を重ねるように集まって、隙間から槍を突き出す。全て木でできているのは使い捨てにするつもりなのだろう。なんだか貧乏っぽい。異世界なら華麗に戦っても良さそうだと鏡はそれを見てがっかりと思う。


 そんな鏡は放置して、緊張感が周囲を包む。


 ビックボアはドドドと近寄ってくるので、アリスはいつもの力を使う。


『解析』


 すぐさま、ビックボアとやらの力が暴かれる。


『戦闘力132』


「オーガより強いじゃん! え? 猪の方が強い世界?」


 その戦闘力を見て、驚愕して驚くおっさんフェアリー。いつもこのおっさんフェアリーは驚きすぎただと考えながらアリスは教えてあげる。


「たぶん牙の攻撃力が戦闘力に加算されているんです。あの牙はかなり痛そうですし」


「まじかよ………。猪に負けるオーガかぁ………。この異世界、ちょっとおかしいような感じがする………」


 呆然とするおっさんフェアリーを放置して、アリスはその紅葉のようなちっこいおててを掲げて


『マインドショック』


 パシリと光がビックボアを走ったと思うと、突進が止まりふらつく。無防備になったその姿を逃さずにアリスは追撃の銃を構える。


『クイックドロー』


 エネルギー弾が6発発射されて、ビックボアの頭を貫く。あっという間に穴だらけになりビックボアは微かに焼き焦げた匂いをたてて、ズズンと横倒しに倒れた。


 あっけにとられる傭兵団。ビックボアは槍を何本も刺さないと倒せない敵である。それだけ頑丈な毛皮と体力をもっているのだ。そんじょそこらの罠など壊して、暴れる森林の強者である。しかも攻撃性が高いくせに草食性なので、どんどんと草がある限り増え続ける困った害獣である。


 しかし、その肉は美味しく大量にとれるために良い値段で売れて傭兵団の稼ぎ頭であった。だが、滅多に行わない。牙は凶悪で怪我人が出るからである。大怪我を負う人もいるので注意が必要なのであった。


 今回も牙で怪我を負うやつがいるだろうが、神官様がいるので安心して参加したのである。レイダは神官様がいるチャンスを逃さない良い鼻をしていた。


「魔法を使えると聞いたが、これほどかい………」

 

 驚くレイダ。まさか一撃でビックボアを倒すとは考えていなかったのである。それほど強力な攻撃魔法をこの少女が使うとは考えていなかったのだ。


 エネルギーガンを構えて、アリスはその脆弱さに驚き呆れた。


「クイックドローは6発を0.7倍率で攻撃するだけの技です。攻撃倍率がアップする技よりも遥かに弱い技なのに、一撃で倒れるんですね」


 この戦闘力ならば、倒せるかぎりぎりであるダメージだと考えていた。しかし見る限りオーバーキルである。


「ちょっと、この惑星の敵の倒し方を考える必要があるかもしれません」


 もしかしてクリティカルなら一撃死とかありそうな感じがするので、戦い方を修正しようかなぁと考える。でも面倒だから困ったときに考えようとすぐに思考を止めるアリス。今までの鏡のゲームの行動がわかるというものである。


 そんなおっさんフェアリーはドヤ顔で周りを見渡していた。ふんふんと鼻息荒く調子にのっていた。


「そうそう。こんなふうに周りに驚かれながら、無双ができるのが夢だったんだよね。まぁ、俺じゃないけど………そこは仕方ない。アリスは俺の娘も同然だから、俺が無双したとの同義だろう」


 腕を組んで、うんうんと頷いて都合の良いことを言い放つおっさんフェアリーである。もはや魂を乗っ取られたことは気にしていない風な気楽すぎるおっさんフェアリーであった。


 そうこうしているうちに、次の獲物が出てくる。それはオーガが数体であった。再びファランクス陣形をとる傭兵たち。


 すぐにアリスが倒してくれるものだと思い、ドスドスと歩いてきて攻撃をしてくるオーガの攻撃を盾で受ける。


 ガンガンと木の盾が凹み割れそうな勢いで攻撃をしてくるオーガ。音に興奮した表情でバーサクモードみたいな感じである。


 そしていつ助けの魔法がくるかとアリスをちらりと見ると、のんびりとアリスは戦闘を見ていた。まったく助けるつもりはないらしい。


「ちょっ、ちょっとアリス! 援護をしなよ。なんでさっきみたいに魔法を使わないんだい? 魔力がもう尽きたのかい?」


 レイダが慌てて聞いてくるが、アリスはのんびりとした声音で返答した。


「え? あれはお金にならないんですよね? 私は次のビックボアとかお金になりそうな敵を待ちますよ? あの人たちはスキル上げも兼ねているんですよね?」


 平然と自分の戦いが正しいと思うアリスである。あの人たちは技も使わないので、きっと盾スキルでもあげているんだろうなぁと考えていた。お疲れ様です。盾スキルはレベル上げるの大変ですよね。私も敵の集団に乗り込んで、ひたすら攻撃を受けてスキル上げしていましたよと。


「いやいや、スキル上げってなんだい? 腕を磨くってやつかい? そんなことはしていないから! 早く魔法を使ってくれないかい?」


「はぁ、わかりました。後で盾スキルを上げている最中にKYがオーガを倒しまくった件とか言って噂にしないでくださいよ?」


 一応釘を刺して、再びおててを翳す。


『マインドショック』


 そして、もう片方の手で握っているエネルギーガンを構えて正確に頭を狙い撃つ。とろいオーガアストラル体へヘッドショットを狙い撃つのは楽勝である。


 チュインチュインと高熱を放つエネルギー弾がオーガたちの頭に命中して、顔を半分焼かれながら、オーガは苦しみのたうつ。


「今だ! 野郎ども攻撃だよ!」


 わぁぁと叫び声をあげながら夢中になって槍をオーガに突き刺す傭兵団。


「エネルギー弾は99発で10MPと水で作成できますから、かなり弱い弾丸なのですが………。ここのアストラル体は脆弱すぎますね」


 頭に当たったぐらいで、あれほど苦しみのたうつアストラル体などいなかった。せいぜい少しノックバックするぐらいであるので、この惑星のアストラル体の脆弱さにアリスは呆れる。


「ですが、ここだけかもしれません。他は通常通りの強さを持つのでしょう」


 そんな油断を誘うひっかけにはひっかかりませんよと、フンスと胸をはり威張る愛らしいゲーム少女であった。


「なぁなぁ、そんなことよりもさぁ、アリス」


 おっさんフェアリーが気掛かりなことがあるような言葉をかけてくる。


「ん? なんですか? レアなアストラル体でも見つけましたか?」


 いつも通りのアリスの返事を苦笑交じりに否定して、気になることを伝える。


「なぁ、あいつらさぁ………。こんなことは言いたくないんだけどさぁ………。しょぼい傭兵団じゃね? もしかして狩りを中心にしている名ばかりの傭兵団じゃないのかなぁ」


 この狩りをメインにしている傭兵団………。今も倒したビックボアを嬉しそうに解体している集団がオーガとの戦闘から離れてやっている。その姿はどう見ても傭兵団というよりも


「なるほど。辺境の中の辺境です。戦いといえば戦争ではなく狩りなのですね? たしかにしょぼい傭兵団ぽいなぁとは考えていましたが」


 レイダも、うぉぉと叫んでオーガとの戦闘に加わっている。さすがに他の傭兵よりも強そうではあるが。


「まぁ、のんびりとやっていきましょう。最近はクエストがまったくなかったので、ここらへんでのんびりとクエストをやっていくのも良いですよ」


「はぁ、そうかねぇ。まぁ、情報を集めないといけないから、そうするしかないかぁ」


 鏡が頷くのを見ながら、早く次の獲物が来ないかなと、目を光らせるゲーム少女であった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 鏡がドヤ顔するのも納得のアリス無双、案外マインドショックだけでも充分なんではないのかなぁ。 [気になる点] アリスを自分の娘のようなもんだと感慨深い鏡さん、そうするとプロローグを思えば母親…
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