27話 ゲーム少女は日本の情報を見る
のんびりとリビングルームでテレビを見ていたアリス。楽しそうにソファにちっこい小柄な身体を座らせて足をプラプラさせながら休憩中だ。
幸せいっぱいでポテチを口に入れながら、サイダーをごきゅごきゅ飲んでいる。太るレパートリーだが、ゲーム少女は太らない。その体型は変化せず美しいままなので、世間一般の女性たちが一番羨ましがるチート能力であった。
テレビを見ていたアリスはピーという音を聞いてステータスボードを開いた。
ふんふんと頷いて満足そうに鏡へと声をかける。
「鏡、インスタントモスキートの活動時間の6時間が終了しました。そこそこ面白い情報を取得したようですね」
ライブラリーには進化や人類史、戦争の歴史から科学一般まで、そこそこ入っていた。そこにはマップも含まれていたので、この辺境の大まかな地形や地図は手に入れたアリスである。
なかなかの収穫と嬉しいアリス。インスタントモスキートはなかなかの仕事をした模様である。
「あぁ、結構そろったな。これを熟読しておけば一般常識は必要ないぞ、アリス。熟読………できる?」
ぶんぶんと首を横に振って否定する。そんなことをするわけがない。テキストフレーバはたまに気が向いたときに見るのが楽しいのだ。目的があって長々と読むつもりはない。
そのアリスの反応は予測していたのだろう。ため息をつくがそこまで落胆はしていない鏡。
「まぁ、いいや。必要な時に見れば問題ないもんな」
鏡のその考えがアリスを形成したと気づかない。鏡もテキストフレーバなんか読まない人間であったので、当然であった。
アリスはライブラリーを見ながら、気になることを尋ねてきた。
「鏡、ここはアストラル体の情報が載っていません。これでは狩場がどこかわかりませんよ?」
肝心なところが書いていないよと、頬を膨らませて不満になるアリスである。これではレベル上げも素材集めもできないのであるからして。
「あ~。アリスさんや。この惑星にはアストラル体はいないんだ。その代わりにもう一つの惑星にはいるから」
その言葉に驚いて口を開けてポカンとするアリス。
「え? それならここの人間はどうやってレベル上げをしているんですか? 人間同士で殺しあい?」
さらっと怖い事を聞いてくるがレベル上げにはその方法しかないので仕方ないとわかる。
「いや、この惑星ではそこまでレベル上げはしないんだ。だからほとんどの人はレベル1だよ。たぶんね」
いまいち自信がないおっさんフェアリーだが、たぶん地球でレベル上げは不可能であろう。
「え~! それじゃ私はどこでアストラル体を探して素材集めをすればいんですか?」
「いや、もう一つの惑星ですればいいから。そこで集めれば大丈夫だから」
むぅと、おっさんフェアリーの言葉に考え込むアリス。アストラル体がいない惑星? そんな場所は聞いたことが無い。恐らくはおっさんフェアリーが知らないだけだろうと予測する。
たぶんイベントを進めないと発生しないのであろう。なのでおっさんフェアリーの情報にはあんまり頼らない事を決める薄情なアリスであった。
脚をプラプラさせて、ならこの惑星では何をしようかなぁと考え込むアリス。まずはイベントを探さないといけない。
そして、こういう時は考え込むより歩くことだよねと、ぴょんとソファから降りるアリス。いつものスタイル。新しい場所へ着いたら、歩き回ってイベントを受注するのである。
そうだそうだと考えて、ルンルンと再度の外出を行うのであった。
てってこと歩いて数時間、何も起こらない事にご不満なアリスが街の中で歩いていた。
「むぅ~。鏡。何も起きませんよ? クエストを頼む人もいないですよ?」
「だから言っただろう? この日本は平和なの。何か起こるなんて滅多にないから」
「そうなんですか? たしかに壁も無いですし、壁の外にはアストラル体もみえませんしね~」
ほむほむと頷いてアリスは、こんな地域もあるんですねと驚く。そんなアリスへとにやりと笑いおっさんフェアリーは悪巧みをするような笑みを浮かべる。
「そうそう。アリスさんや? その先で砂糖を買い込むのです。1キロを12袋買い込むと良いでしょう」
少し先にあるスーパーを指さし、ふよふよと浮かびながら、いきなりサポートキャラみたいな発言を厳かな表情をして言ってくる鏡。そんな鏡をどうしたんだろうと首を傾げて不思議に思うアリスである。
「むふふ。異世界での無双の一つ砂糖や香辛料で儲けましょう作戦だよ」
「砂糖で? あんなものは大量に手に入るではないですか」
そこらの木を倒して錬金すればいくらでもツリーシュガーが手に入るでしょ?と不思議がる。
アリスの当然の疑問を首を横に振り否定する鏡。人差し指を振りながらドヤ顔で伝えてくる。
「あちらでは、こちらの数十倍の価値を砂糖が持つはずだ。騙されたと思って買ってみなさい」
「砂糖がそんな価値を………。マテリアルで買う訳ではないんですよね? なら少しぐらい良いですか」
納得はしないが、マテリアルを使うという訳ではなさそうだ。それならば全く問題はあるまいとスーパーに入り込み大量に食料を買い込むアリスである。
またもや籠を大量に使って買おうとするので、慌てて止める鏡が苦労したのであった。なんとか2個の籠のみで済ませたのであった。
それでも凄い目立っていたが。何しろ美少女であり、なおかつコスプレみたいなハンタースーツである。誰かが密かにスマフォで写真も撮影していた。DQNな肖像権無視な青年である。
この画像はすごいフォロワーがつくぞと考えて密かに写真を撮っていった。アリスはもちろんそれに気づいていた。鏡は気づかなかった。そこに少し不思議なことが起こることとなった。
男性が写真をアップしようとしたところ、少女の姿は写っていなかったのだ。電子操作スキルが写真の撮影を邪魔したために酷くぶれた何が映っているかわからない画像となっていた。
青年はせっかくの写真だったのにと舌打ちして、そのまま帰宅したがその際に不思議なことに気づいていれば話は変わったかもしれない。
今までそんなにぶれた画像など撮ったことがないのに、青年は気づかずに帰宅してしまったのだ。
ここで気づいていれば大騒ぎになり、宇宙人という言葉が広がりアリスは捕捉されていたかもしれない。その場合はちょっかいをかけてきた人間たちにハンター流のお返しがなされて、日本は地球は大変なことになったかもしれない。
だが、幸運なことにそれは起こらなかった。なので、アリスは砂糖や香辛料を大量に仕入れてホクホク顔で帰宅した事で話は終わってしまった。
ドサドサと砂糖や香辛料の山を前に疑わしそうに尋ねるアリス。
「本当にこれが数十倍になるんですか? だって全部合わせてもそんなにしなかったですよ? 1万もかかりませんでした」
「あぁ、疑問顔なのに砂糖や香辛料を沢山仕入れたアリスさんや。何故儲かると聞いたら大金を迷いもせずにぶち込むんだ………。あぁ、俺の行動のせいだよね。わかってます」
買いすぎだ。正直全部で20キロはあったはずである。まぁ、別に良いかと楽観的になるアリスと同じような思考をするおっさんフェアリー。
「慎重に売り買いすれば、金貨がザクザクだぞ! あぁ、金貨なんて手に入れても仕方ないというんだろう?」
「その通りです。あのゴミが増えても仕方ないと思うのですが?」
心底不思議そうに思うアリス。それに必要なら金を作り出せばよいと思う。
「ダメダメ、これはロマンだし、その金貨をつかえば珍しい素材が手に入るかもよ? あぁ、それと金を増やすのは禁止な? あの惑星の経済をめちゃくちゃにする可能性があるから」
一応釘を刺しておく鏡。どこまでこのゲーム少女が言う事を聞いてくれるか甚だ不安ではあるが。
「さすが鏡です。私は信じていました。私に美味しい話をしてくれると。くたびれたおっさんよりも美少女のフェアリーアストラル体がいいなぁと考えていましたがチェンジしないでよかったです」
手のひらを返すように、さすがは鏡と、ちっこいおててで拍手しながら褒めるアリス。最後の発言が物凄い気になる鏡であるが一応褒めてくれるので、ありがとう、ありがとうと照れる。
「なら、これを売りさばくのですね?」
目の前の砂糖や香辛料を指さして聞いてみる。もうアリスの頭には珍しい素材が手に入ることしか考えていないので、目がお金の輝きを求めていた。
「あぁ、それとだ………。まぁ、やらないといけないクエストは、それはそれはたくさんあるんだ。アリスよ。俺の言う事を聞いて異世界でも行動するんだぞ。本当に気をつけてね? まぁ、地球よりも全然緩そうだから大丈夫そうだけど………。まぁ、地球でもあの少女以外には何もばれていないだろうし問題はなかったが」
「えぇ、私は常に完璧な行動を行おうとして、途中で面倒になり力押しになりますが、最初の方は大丈夫です。ちゃんと行動しますので」
えっへんと胸をはり、小さく微笑みを見せる愛らしいアリス。そしてその発言は不安しか感じないおっさんフェアリー。すでに色々問題は発生している。宇宙戦艦とかインスタントモスキートとか。しかし、それらは記憶から除外しているというか気づいていないアリスである。
でも、なにも言えない。なぜならば鏡がそのような行動をとっていたので。
なので、びしっと人差し指をアリスへと突き付けて言う。
「アリスよ、まずはあの傭兵団を手中に収めるのだ! なに、簡単だ。力を見せつけて金をばら撒けばすぐに手中にできるだろう」
「なるほど。まずは足元を固めるという事ですね。安心してください。そういうのは得意です。私は常にお大尽をやって、集団組織の好感度をバンバン上げるのが得意ですので」
ゲーム理論を現実に持ちだすアリス。凄い自信ありげに発言をする。宴を毎日やって好感度を上げるのは得意ですとのアリス理論である。
その発言を聞いて、現実での傭兵団なんてそんな感じで同じように支配できるでしょうと鏡もニヤリと笑う。
わっはっはと鏡が笑い、ふふふとアリスがほくそ笑む。へっぽこコンビ誕生である。これまでの行動と発言でゲーム理論を抜きにしてもアリスがアホの娘であると、鏡は気づかなかった。残念極まることに。
そうして再びアリスたちは異世界へと出発するのであった。