23話 ゲーム少女は力を見せる
道端で話すのもなんだかなぁということになり、アリスとカナタは少し先の公園へと移動することになった。特に熱心に移動をしようと言ったのはカナタである。
なぜそこまで熱心に公園へと行こうと誘ったのか?それはなぜかというと………。
「奥さん、朝から告白しているわよ、あの娘」
「そうね。性別の差なんてたいしたことないわよね」
「相手の娘はかなりの美少女よ。気持ちもわかるかも」
「頑張れ〜。お嬢ちゃん」
という、先程のお友達になってくださいと、頭を下げて手を差し出したのが、昔のテレビの告白シーンと似ていたのだろう。見事に周りにいた人たちに勘違いされたからだった。興味深々でこちらを見ながら話しているおばちゃんズ。しかも近所だから知り合いもチラホラと見える。
多少なりとも頬を赤くして、アリスのちっこいおててを掴んで早足で移動する。
「もぉ、なんなのよ、もぉ〜。そういう気持ちは持ってないから! もぉ〜。それにしてもこの娘の手は柔らかいな、もぉ〜」
もぉもぉと、牛のように鳴きながら歩くカナタ。それに、引きずられて、アリスはのんびりと周りを見て楽しむのであった。
公園についた二人。近場のベンチに座って、アリスは隣に座ったカナタへとちっこいおてての上にコインを置いて亜空間ポーチへ入れたり、出したりを繰り返していた。
手のひらの上で、コインが瞬時に消えて、また出て来るのはたしかに凄い。凄いんだけど………。
むぅとカナタは不満そうな、微妙に困ったように表情を変えていた。どうやらコインの出し入れが見ていて楽しくないのかなと、アリスは首を可愛く傾げる。
「カナタさん、もしかしてこれでは、この地球外の人間だと納得してもらえませんか?」
しょんぼりと上目遣いに見てくるアリスの破壊力は凄い。大人な紳士なら大金を払って、ブラボーと叫ぶだろう。それぐらい愛らしかった。
だからこそ、カナタは迷っていた。手品に見えるから他のにしてというのは、なんだか美少女が頑張って覚えた手品を馬鹿にするような罪悪感を覚えるからだ。
だか、その感覚はまったく違う感覚だ。アリスは宇宙人の証明として見せてくれるのだ。小さい女の子が一生懸命に手品を見せてくれている訳ではないのだからして。
しかし、今の状況はどう見ても、少女が頑張って覚えた手品を披露されている気分にしかならなかった。
「………う………うん、凄い、凄いよ! 宇宙人だ! わぁい!」
なので、カナタは流された。小枝が大波に流されるように簡単に流されたのだった。だって仕方ない。たぶん他の人も同じ行動を取るだろう。おっさんフェアリーが同じことをしたならば、ナメてんのか、てめえ!と殴られそうなので、美少女はお得である。
その言葉におっさんフェアリーは予想通りの内容になり、悪そうにニヤリと笑った。よしよし、きっとこうなるだろうと予想していたのだ。アリスの暴走を防ぎ、かつ納得させれる方法。自分でもナイスアイデアだったと自画自賛していて、鼻がピノキオみたいに、高くなっていた感じだった偉そうなおっさんフェアリー。
しかして、それは早かった。なにが早かったかというと、油断するのが早かった。
アリスもぱぁっと手品を喜ばれた子供のように、花咲くような笑顔を見せる。可愛らしいことこのうえない。
「良かったです。これで駄目ならどうしようかと考えちゃいました。他に方法がわからなかったので」
ニコニコ笑顔で、ん、とちっこいおててを差し出すアリス。
ん?と差し出された手の意味がわからずに首を傾げるカナタ。
「カナタさん、今のでクエストがクリアされたと出ました。なので報酬ください」
クエストクリアなのだ。簡単ではあったがクリアしたのだ。しかもこの地域での初クリア。なにが貰えるかなと、ワクワクソワソワとする可愛らしいゲーム少女。
「え? 報酬? ど、どうしよう? 報酬必要?」
カナタが慌てて、言ってはいけないセリフを吐く。その言葉にスッと目を細めてアリスは冷たく凍えそうな声音で尋ねる。
「もしや、報酬を払うつもりがないのでしょうか? ハンターへクエストを依頼していて報酬を出す気がないと?」
たまにいるのだ。え?報酬必要?ととぼける依頼者が。その場合はハンター流のお話し合いをすることになっている。
その冷たい声音を耳に入れて、背筋が恐怖でゾクゾクするカナタ。見かけと違い危険な娘だと思い始めたので、ますます慌てる。
アリスは口元だけを微笑ませて、目は冷たい視線を放ち、差し出した右手に瞬時にエネルギーガンを呼び出した。
スチャッと構えて、最終通告をする。
「これまでで、ハンターにそう言ってきたニュートは必ず酷い目にあってきました。身ぐるみ剥がれるのは良い方で、命を含めて全てを失う依頼者もいるんですよ?」
引き金を引いて、地面に置いてある小石を狙う。ピッと音がして、弱エネルギー弾が放たれて、命中した小石を高熱で溶かしていった。
ジュウジュウと溶ける小石を見て、目を見張ったカナタ。すぐさま手にある物を突き出す。それは母に頼まれて買った食パンであった。
「こ、これ! これが報酬………。じゃぁ駄目かな?」
恐る恐るアリスの顔を覗き込むと、満面の笑顔になっていた。
「もちろん大丈夫です。きっとその手に持っているのが報酬なんだろうなと思っていたんです。もう、焦らすのが得意なんですから」
るんるんと機嫌良くアリスは受け取った食パンを亜空間ポーチに無造作に仕舞う。もうこれは癖である。だって手に持つのは武器か亜空間ポーチへと入れられない珍しいアイテムだけだからして。
カナタはそっと地面の小石を見てみる。まだ熱いようでジュウジュウと音をたてて湯気が上がって硝子化しているのが見えた。
カナタは興奮で飛び上がった。小さい子供のようにぴょんと飛び上がった。
「やった〜! 本当に宇宙人なんだね! すご〜い!」
どう見ても普通では見られない光景だ。まさかの非日常に入った感触が予感がして喜ぶカナタである。
鏡は興奮で飛び上がった。小さいおっさんフェアリーは空中なのに器用に飛び上がった。
「うぉぉぉ! 本当に宇宙人なところを見せやがった! ひど〜い!」
どう見ても普通では見られない光景だ。まさかの一般人にいきなりバレた状況に頭を抱える鏡である。
「なぜ銃を撃った! いや、わかるよ! 脅迫コマンドを使ったからこうなった! たしかに交渉が揉めたときは面倒な時は銃を撃つ脅迫コマンドを会話選択肢で選んでいたけど! というか力押しが多かったから、多用していたけど!」
ツッコミをアリスに入れたいが、なぜこの行動をとったかはゲームでアリスにその行動を取らせていた鏡自身が良くわかっているので、ある意味自業自得である。
「でも、ゲームキャラが現実化するから、大人しい行動をとらせようとか考えてゲームやるやついるか? いるわけないだろぉぉ!」
泣き叫ぶおっさんフェアリーであった。必死に考えて言いくるめた行動が全て無に帰したのだ。合掌である。南無〜。
一気にアリスへと身体を乗り出して顔を近づけて、先程とはまったく違う興奮マックスで尋ねるカナタ。
「ねぇねぇ。 なんで地球へ来たの? あ、ファーストコンタクトは私なのかな? やった〜! やっぱり秘密なんだよね? ヒ・ミ・ツ?」
口元に人差し指をあててノリノリなカナタ。そんなカナタへとアリスはニコニコ笑顔で答える。
「やっぱり好感度つきの人だったんですね。私の予想通りです。あとはのんびりと好感度を上げてクエストを受けますからよろしくお願いしますね」
いまいち意味が解らないアリスの言葉だが、宇宙人だから意思疎通が難しいんだとカナタは理解をブラックホールへ投げ捨てた。もはやこの流れに乗るしかない。非日常よ、こんにちはと考えていた。
「あ! お腹空かせていたよね? 私の家で食べる? ご馳走するよ?」
キランとアリスの瞳が光る。ご馳走するとは凄いですねと尻尾があったら、フリフリと振っていたのは間違いない。
「はい。ペコペコなんです。食べに行きます!」
誘拐犯に簡単に連れ去られそうな美少女がここにいた。まぁ、その場合、誘拐犯が酷い目にあうだろうが。
「それじゃ、こっちだよ。来て来て!」
先導して歩き始めるカナタを、どうやら良い人と知り合いになりましたと喜びながら、アリスもついていくのであった。
てくてくと少し歩いて、カナタは立ち止まる。手を振って家へと指し示し笑顔を見せる。かなりの豪邸である。2階建てでかなりの広さだ。隣には年季の入った道場が見える。鶴城流と看板が書いてある。
「じゃ〜ん! ここが私の家だよ。さ、入って入って! うん? どうしたの?」
すぐに家へと案内しようとするカナタを見ながら、ウンウンとなにかを納得したように頷くアリス。
そして、顔をあげてちっこい指を反対の家に指差す。
「こっちは私の拠点です。お向かいさんだったんですね。ということはサポートキャラさんだったんですね。これからはよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるアリスを見て、ほへ?とカナタも驚いて呆然とする。
そして、おっさんフェアリーは叫んだ。
「この娘はアニメでありがちな非日常に巻き込まれる普通系な実は普通じゃない娘役だ〜! きっとその主人公役を狙っている娘だ〜!」
ゴロゴロと空中で頭を抱えて、厄介なことになってきたぞと鏡はこれからの展開を考える。やばい、これは極めてやばい流れである。
気を取り直したカナタが、戸惑いながら恐る恐る尋ねてくる。
「えっと…お向かいさんなの? アリスちゃんは?」
「はい。私は母親が亡くなり、ようやく父親に認知されて、ここに住むことになったバウンティハンターの魔風アリスと言います。よろしくお願いしますね」
たしかそういう設定だったよねと思い出しながら挨拶をして、可愛らしく小首を傾げてニッコリと微笑むアリスである。
「そこでバウンティハンターはいらないから! なんでアリスは執拗にハンターであることをアピールする訳? いらないよね? 今の挨拶に必要ない情報だよね?」
「やれやれです。鏡、良いですか? 私はハンターだと皆に言っておかないと、誰かにクエストを横取りされるかもしれないでしょう? だからハンターアピールは止めませんよ」
そして、周りを置き去りにして、フンスと息を吐いてドヤ顔で胸をはるアリスであった。