22話 ゲーム少女はコンビニで買い物をする
変な娘だったなぁと鶴城カナタはさっき出会った娘を思い出して苦笑する。
長い綺麗な髪と可愛らしい顔だちをした娘であった。小柄な体躯も相まって、アイドルとして売り出したら、即売れっ子になりそうな感じの娘である。
「なのに、厨二病全開だったよね……」
残念過ぎるファッション。どこかのゲームを真似た服装であろうか、なんだかSF映画にでてきそうな服と腰に玩具の銃を下げていた。背丈から見て小学生だろう。高学年になった感じだろうか。
ゲームのやりすぎで、夕飯を抜きにされてお腹が空きましたとしょんぼりする姿は哀れであり、母性本能をキュンキュンと喚起させた。自業自得だとは考えたが、哀れに見えてついついジュースを奢ってしまったのであった。
「それでもお金の種類ぐらいわかるだろうに、なんで玩具なんか持ってきたのかな?」
首を傾げて疑問に思う。当たり前だが、小学生だってお金は知っている。なのに普通に玩具をこちらに見せて、どれが使えるのかを聞いてきたことが不思議であった。
演技にも見えず、本当にどう使うかは知らない様子なので戸惑ったものだが……。
まぁ、厨二病だったからかなと、もう出会うことも無いだろうと、あっさりと考えるのをやめて家に帰るのであった。
ただいまと言ったら、母からコンビニでパン買ってきて〜と言われてUターンする羽目になったのだが。
そうして、近くのコンビニに入るとなぜか行列が朝早いのにできていた。なんだろうと疑問に思いながらも食パンを棚から取って、行列に並ぶ。
しかし、一向に行列は解消されない。今日は日曜だから自分は気にしないけど、出勤するサラリーマンもいるのだろう。解消されない行列に舌打ちして、商品を棚に戻して出ていく。
人手が足りないのだろうかと、カナタもちょっと不満げになる。いくらなんでも会計が遅い。
前に並ぶ人もそう考えているのだろう。愚痴っているのが耳に入ってきた。
「なんだよ、あの娘。買いすぎだろ。ちょっとは後ろの客を考えろよなぁ」
「本当。あんなに買ってどうするのかしら」
そんな人々の声を聞いていたら、もう一つのレジに店員がやってきて、こちらに次のお客様どうぞ〜と焦った声音で言う。
ようやく他の店員が来たかと、並んでいたお客がどんどんさばかれていく。朝だし、そんなに凄い量をコンビニで買う人もいないから、さっきまでの行列が嘘のように、あっさりと自分の番になった。
食パンをレジに置いて、隣を見る。なんでこんなに時間がかかっているのだろうかと。
そうしたら仰天した。先程別れた少女がレシートカゴを8個も持って、その中にはパンやら弁当が山盛りに入っていたのだから。
店員さんはようやくバーコードを読み終えたのだろう。少女へと引き攣る笑顔で会計を言う。
「合計8万7451円になります」
あの少女はお金を持っていないはずだと、ハラハラして眺める。だが、少女はいつの間にかお金を手に持っていた。しかも100万円はある!初めてお札が紙で抑えられているのを見たので驚く。
無頓着にその中から諭吉を少女は取り出して店員に手渡した。店員はなんでこんな子供が大金を持っているのだろうと疑問を顔に出しているが、尋ねはしない。面倒なことになったら嫌であるからだ。まぁ、普通のバイトならそうであろう。いちいち親切に尋ねるのは、お節介焼きのおばちゃんぐらいだ。
そうして、店員はお釣りを渡して、この量をビニール袋に入れるのかとうんざりした表情をして、商品を入れようとするが
「あ、持っていきますので大丈夫です」
少女に手で制される。はぁ?という疑問の表情をとる店員。それはそうだろう。子供では明らかに持てない量である。ビニール袋に入れたって持ち運ぶのはたぶん無理だ。
これは盛大なドッキリかなと周りの人々も思う。どやどやと店の外から人々がやってきて、ニヤニヤとドッキリ成功という顔をして荷物を持っていくのだ。テレビでは素人相手にはやらないから、無料動画投稿サイトとかに投稿するつもりなのかと。
店員だって、文句をつけようにも、単に店のモノを買っただけであり文句はつけられないだろう。お金をかけた方法だとカナタは感心した。
だが、違った。少女が買った物に手を翳すと次々と弁当やパンは消えていった。目の前の現象が信じられないと目を疑う光景。そんなことには無頓着で、全ての物を入れた少女は驚いたように空中に話しかけていた。
「えぇっ! 亜空間ポーチはこの惑星では使われてないんですか! まぁ、そこそこ高級なので………。えぇっ! 存在すら知らないのですか!」
キョロキョロと驚いている周りの人々を見て、軽く頷いて特別なにも気にしていない風で店外へと出ていく。
「なにあれ? 手品?」
「いや、なんかタネがあるんだろ?」
「お前、あの手品のタネわかった?」
「なにかのパフォーマンスだったんだろ」
店内の人が今の謎の行動を見て、会話をしているが手品?あれが?普通に手を翳しただけだ。亜空間とか言っていたし、宇宙人なのかとも考えた。でも宇宙人が可愛らしい人間なんてありえない。どこのアニメかなと思う。
きっと、掲示板に書いても、最近の宇宙船に合わせた釣りお疲れとか言われるのは間違いない………。
ハッと気づいた。宇宙人! え? まさかの可愛らしい少女な宇宙人?
慌てて、私は買った食パンを掴んで走り出す。店外へと出て周りを見渡すと、のんびりと周りを観光でもするように見渡しながら歩いている少女が見えた。
たぶんあれは観光なのではないかと思いながら、もし宇宙人じゃなかったら恥ずかしい思いをするだろう。たぶんただの厨二病の少女。私の理性もさっきのはただの手品かなにかだと囁いている。でも、一時の恥で非日常を味わえるかもと思ったら、それぐらい良いじゃないかと、声をかけるのであった。
「ちょっと待って!」
アリスがてこてこと周りを観光しながら、お弁当を買い込めたのでご機嫌で歩いていたら、後ろから少女が走って来ていた。
余程急いだのか、汗を流しながら走ってくる。
見れば先程のプリンをくれたチュートリアルの娘であった。なるほどと頷いて、近寄るのを待つ。
「おい、アリス! 走るんだ! 逃げるんだ! ちょっと面倒なことになりそうだぞ!」
鏡が妨害するように、声を荒だてて言ってくるが冷静に答えてあげる。
「鏡………。サブクエストが発生するようです。少し黙っていてください」
「あれは面倒ごとだから! 絶対に面倒だから!」
「面倒なクエスト程、良い報酬が手に入るのです。わかってないですね〜、鏡は」
やれやれですと可愛らしい小柄な肩をすくめるアリス。面倒なクエスト程、報酬が良いのはハンター内では当たり前である。常識といっても良い。なので、このようなクエストをハンターが逃すわけはないのだ。
ふぅふぅと息をついて、少女はこちらに追いついたので息を整える。そしておもむろに聞いてきた。
「貴女は宇宙人かな?」
少々羞恥で頬を赤くしながら聞いてきたので、自分でも半信半疑、いや、2信8疑ぐらいなのだろう。
「宇宙人………? 意味がわかりません。この宇宙に住む人は全員宇宙人では?」
本気で疑問の表情になって、戸惑いがちに答えるアリス。貴女は宇宙人ですかなんて、初めて聞かれたのだ。なになにの惑星からきたやつだろうとかは言われたことがあるが、宇宙人とは広範囲すぎて意味がわからず、首を傾げる。
その答えにオロオロする少女。想定外であったからだ。たぶん馬鹿にされるか、私は宇宙人ですと言う答えを期待していたからである。聞き方を間違えたと思い、再度問いただす。
「貴女は地球人ですか?」
「いえ、私は安心格安で確実に依頼を遂行する銀河を旅するバウンティハンター、魔風アリスと言います」
ニコリと思わず見惚れるような可愛らしい笑顔で返答するアリスであった。隣ではうぎゃーとおっさんフェアリーが頭を抱えて叫んでいるが、このおっさんフェアリーはいつも頭を抱えて叫んでいるのでスルーする。いつもはしていないかもしれないがスルーする。でも妨害してきたのでスルー。
「えと……。私は鶴城カナタ。カナタって呼んでね。で………んと……アリスちゃん! 私と友達になってください!」
頭を下げて、必死な声音で手を突き出してきたカナタ。それを見て唖然としてしまうアリスである。すぐに真面目な表情になって聞き返す。
「貴女は皇女なんでしょうか? 命を狙われていますか?」
帝国で休日の少女とひょんなことから知り合ったら皇女だったのだ。そこから長期クエストに入ったので、幾分厳しめな表情になったアリス。王族系のクエストは敵が強い場合が多いのだ。場合によってはレベルを回復しないとと考えたのであるからして。
とんでもないゲーム理論で勘違いをするアリス。それに対してカナタは困ったように頭に手をあてて答える。
「私の家は先祖代々平民かな? アハハハ……」
あれ、違ったかと拍子抜けするアリスに、カナタが真剣そうな表情で言葉を続ける。
「アリスちゃん……。いきなりで戸惑うかもしれないけど、アリスちゃんが宇宙人だという証拠を見たいの! 私、非日常に憧れているんだ!」
なんとも不躾で、意味のわからない質問である。私が宇宙人である証拠? なんだろうとまたもや首を傾げちゃうアリス。まぁ、普通はそうだろう。貴方が地球人という証拠を見せてくださいとアリスが返したら、証拠をどうやって見せるのだろうか。
そんなお困りアリスに、鏡がドヤ顔で解決策を教えてきた。
「アリスさんや、宇宙人という証拠を見せる方法は一つ。コインを手のひらに置いて、亜空間ポーチに出し入れするんだ」
「そんなことで良いんですか?」
「あぁ、今回はそれで大丈夫。それぐらいの報酬しか貰えないだろうからな」
そして、アリスへとビシッと指を突きつけて、物凄い真剣な表情で告げる。
「今回はクエストを受領したから仕方ない。ただし! これ以上、アリスがこの惑星の人間ではないとバレたとき!」
さらに大きな声を張り上げるおっさんフェアリー。かなりうるさいし、なぜかドヤ顔だ。
「その場合! クエストは大幅ショートカットされて、手に入るはずであった報酬は一切手に入らないだろう! この地球ではそのようなペナルティがあるのだ!」
ドーンと稲光りがアリスの頭に落ちる感じがした。報酬減?アリスが一番嫌いな言葉であるので
「わかりました。あとでこの地球では使われてない技術を教えてくださいね」
素直に頷くアリスであった。うむうむと満足そうにナイスアイデアで言いくるめることができたと内心で喝采する鏡。これで下手な行動をアリスはとらなくなるだろうと胸を撫で下ろす。
そんな鏡を見ながら、アリスはバレなければ良いのですねと、ゲームでプレイヤーが考える当然のことを内心で思っていたのだった。




