21話 ゲーム少女は日本で朝の散歩をする
朝の住宅街なのだろう、たまに散歩をしている老人や、ジャージを着て走っている人がちらほらと見える。家からは朝食を作るフライパンでなにかを焼く音や、誰かを起こそうとする声も聞こえてくる極めて平和な町並みだ。
その中でフンフンと鼻歌を歌いながら、腰まで届く艶やかなロングヘアー、ぱっちりとしたおめめに、可愛らしい小さな唇。小柄なる身体は愛らしさをどことなく感じさせる。周囲の人に子犬を思わせる感じの美少女が歩いていた。
通りすがりの人が、その可愛らしさに顔を緩めて和んでいる。ちらりとアリスを見た人も生暖かい目となり、微笑む。
誰あろう魔風アリス。ゲームの中からひょんなことから現実化したゲームの中の美少女である。二次元ならではの可愛らしさが現実化したためにアイドルすらも勝てないだろう美少女だ。
だが、人々がその容姿を見ただけで和んでいるのではない。小さい子供が黒いライダースーツみたいな服を着込んで、腰にはホルスターを下げて、無限ハンドガンとエネルギーガンの銃を入れている。
なので、小柄な体躯も相まって、小さい子が何かのヒーローに似せた服を着て遊んでいると思っているのだった。俗に言う厨二病というやつである。銃は青い色をしており、安っぽい銀玉鉄砲にハンドガンは見える。エネルギーガンなんか、銃口が何かのプラグのような形をしており、どう見ても玩具であったからだ。
なので、通りすがりの人々はまさかそんな玩具の武器が恐ろしい破壊力をもっているとは、露ほども考えなかった。
まぁ、アリスはそんなことは一切気にせずに歩いて町並みを楽しそうに見ていた。
「どことなく古さを感じますが、辺境ならこんなものですね。まあ、さっきまでいた惑星がおかしかったのですが」
このレベルの科学力なら他の辺境でも見たことはある。ただ気になることがあった。首を傾げて不思議に思う。
「なぜかマテリアル特有の光を放つ機械がないんですよね。なぜでしょうか?」
どんな機械もマテリアルは使用されているはずである。クリーンで簡単に手に入る夢のエネルギーなのだ。使わない訳がない。
「まぁ、そんなところもありますか。なにしろ聞いたこともない辺境ですし」
今までの星は、多少でも話を聞いたことがある場所であった。なのに今回は聞いたこともない惑星だ。
「楽しくなってきましたよ。これはわくわくしますね。きっとたくさん稼げます」
そうして、まずは飲み物を買いましょうと、自動販売機の前に立つ。この惑星でしか金貨とやらは使えないなら、精々ご飯とか好き勝手に食べようと考えたのだ。今までになかった行動であるし、美味しいご飯が食べれると思うと胸が高まり頬が紅潮する。
自動販売機は単純な飲み物だけを売っているポピュラーなタイプだ。いつもならカードを使用するが、今回は違う。
「160円……。やはりマテリアルが通貨ではないのですね」
棚に表記されている金額を見て理解する。ここは円が使われていると瞬時に理解したアリス。だけどと可愛く首を傾げて
「困りました……。円はこの通貨ではいくらとなるんでしょうか」
亜空間ポーチから金貨やらを取り出して迷う。今いちよくわからないが、とりあえず硬貨投入口とかいうのに入れれば良いのかなと、金貨を入れようとする。
もちろん金貨は入らなかった。小柄な体なので微妙に届かない投入口へは腕を伸ばして懸命にグイグイと入れようとするが、そもそも大きさとかが違うらしい。銀貨も銅貨も入らない。
ぷくぅと頬を膨らませてご不満アリス。もうお腹が空いたので、なにかを食べたい。
どうしよう。カードを翳すところがあるから、仕方ないからマテリアルで支払おうかなと軽く腕組みをして迷う。でもせっかくだから、美味しいご飯が食べたいなぁと考えていると声をかけてくる人がいた。
「ねぇねぇ。なにか困ったことがあるの?」
振り向くと、セミロングで髪の片側を編み込んでいる150ぐらいの背丈の可愛らしい少女が、心配げな表情で立っている。
ウンウンと頷くアリス。納得の展開であるからして。
「使い方を教えてくれるチュートリアルとかいうやつですね。助かりました。そうなのです、困っているのです」
声をかけてきた少女をチュートリアルNPCとして扱うアリスである。ちょうど困っていたら声をかけてきて使い方を教えてくれる人はよくいるのだ。
そんなアリスの呟きが聞こえたのだろう。苦笑しながら、少し腰を屈めてアリス視点に合わせる少女。それだけで良い人だとわかる行動だ。しかも悪戯そうな笑顔で聞き返してきた。
「はいはい。チュートリアルのキャラですよ〜。少女よ、なにかお困りかね?」
演技をしつつ、こちらへと尋ねてくる。しかしアリスは演技だとは思わなかった。いくらでもこんな出逢いはあったので。
なので素直に手のひらにある硬貨をジャラジャラと見せる。
「この自動販売機はどの硬貨で買えるのでしょうか? この惑星のクレジットの使い方に慣れていないので、困っていたんです。もうお腹も限界です」
そう言うと同時に、くぅ〜とお腹がなるので頬を赤くする。一応羞恥はあるのだ。ハンターなのに準備不足と言われると恥ずかしいなぁと考えていた。
相手の少女は、ちょっと目を見開いて感心したように金貨や銀貨を眺める。
「うわぁ、なんだか使い込まれている感じがするし、よくできてるねぇ〜。お姉さん感心しちゃったな」
「そうですか? 私は最初見たときはゴミかと思いましたが」
遠慮のないアリスの返答に、またもや苦笑する少女。
「そんなことを言ったらだめだよ? この金貨とか作った人はたぶんかなり頑張ったと思うよ?」
「う〜ん、たしかに原始的な場所でしたので、これを作成するのも大変だったのかもしれません」
「でしょう? 勝手に持ってきたのかな? それは玩具だから使えないよ?」
まったく噛み合わない会話であるのに、なぜか通じてしまう不思議。二人共もちろんそんなことは気づかない。
くぅ〜となるお腹を抑えて、悲しそうな表情になるアリス。可愛く上目遣いで少女へと返答をする。
「でもお腹が空いたのです。冷蔵庫の中は空にしてしまいましたし」
自分で空にしたのである。それをおくびにも出さずに、お腹を抑えて語るゲーム少女。
それを見て、なにかを感じたのか少女が考え込む。
「え? 何も食べていないの? いつから?」
「昨日の昼食が最後でした。冷蔵庫の中身を全部食べたからなにもないのです」
「あ、両親が旅行とか? 用意されていたご飯を全部食べちゃったんでしょう?」
合点がいったという表情になって、吐息を吐く少女。
「それでそんな玩具を持ってきたのかな? お金は?」
「30億円程持ってますが、どうやって手に入れるかわからないのです」
がっかりして肩を落としながら語るアリス。それを聞いて、アチャーと顔を手で覆う少女。
「厨二病もここまでくればすごいね……。凄い美少女なのに……」
何やら呟いてから、再度尋ねてくる。
「お金をくれる人はお家にいないの? 両親はどうしているの?」
「お金を私に渡せる鏡はまだ寝ています。起きれば貰える予定です」
その言葉に、今度こそ安心した表情になる少女。児童虐待とかを考えていた模様。
「なんだ。旅行でもないのね。あれ? それじゃ昨日の夜はなんで食べていないの?」
「ゾンビ退治をしていたら、食べるのを忘れました。たまにクエストをしていると忘れちゃうんです」
「ゲームをしていて、夕飯を食べ損なったら自業自得だよ! 両親が怒ってご飯抜きにされただけでしょ!」
すかさずツッコミを入れる少女である。予想よりもしょうもない内容だったと呆れ顔になる。ゲームをご飯も食べないでやっていたら、そりゃ怒るでしょと思う。
はぁ〜とため息を吐いて、ポッケから財布を取り出して自動販売機の前に立つ。
「しょうがない娘だなぁ。ご両親には内緒だよ? なにが飲みたいかな?」
それを聞いて、アリスはぴょこんと飛び跳ねた。喜びを隠さずに嬉しげに答える。
「チュートリアル終了の報酬ですね! 私はそのプリンのやつをお願いします!」
「あはは……。こりゃ両親は大変だろうな……」
呆れながらもチャリンとお金を入れて、プリンの缶のボタンを押す。ゴトリと出てきた缶をアリスに渡して苦笑交じりに注意しておく。
「これからはゲームのやりすぎは気をつけないとね。両親がまたご飯抜きにしちゃうかもよ?」
冷たい缶を受け取りチュートリアルは終わりだねと言われた内容を気にしないアリスは適当に相槌をうつ。シャカシャカ触れば飲めるんですねと、目を輝かせて缶を振ろうとしたときである。
「あ〜! お前、いつの間に外に! え? その姿で外出中?」
少し離れたところから、ようやく目覚めた鏡が突撃してきた。なんだか凄い慌てているが、いつもこのおっさんフェアリーは慌てているから気にしないアリス。
「だって鏡は寝ていたので、起こすのも悪いかなぁと思ったのです」
「いや、なんでそういうときだけ気を利かすの? 起こせよ!」
「それよりも聞いてください。なんとこの地域では金貨らは使えないそうなんです! このチュートリアルのお姉さんが教えてくれました」
そう言って、プリンを奢って貰った少女へと指差す。
ようやく少女の存在に気づいて、さぁ〜と、血の気がひいて青褪める鏡。
「マジかよ! 変なこと、いや、力は使っていないよな、アリス?」
「はい。特に使う状況にありませんでしたから」
素直にアリスは鏡の問いに答える。その返答を聞いて胸を撫で下ろす鏡。
「危なかった………。不幸中の幸いか。すぐに家に戻るぞ!」
「お腹を空かせているんですが? もうペコペコなんですけど?」
「わかった! 家に帰れば金はある。後で好きなだけ食べていいから、とりあえずこの場は脱出だ」
必死な様相で鏡が顔を近づけてくるので、少し離れる。おっさんが、接近するのはノーサンキューであるからして。
「わかりました。すぐに家に帰還しますね」
ウンウンと頷いて返答する。そんなおっさんフェアリーと話すアリスを疑問に思ったのであろう。おずおずと戸惑った表情で少女が尋ねてきた。
「え、と……。誰かとお話中かな?」
「はい、このフェアリーアストラル体と」
自分以外に見えないので、他者から見たら危ない人だと思い込ませているアリスであった。
ちなみにチャシャたちが聞いてこなかったのは、神官様であるアリスが神様との対話か祈りを捧げていると思われていたからである。
「とりあえず帰還しろと言われたので帰りますね。チュートリアルのお姉さん、プリンありがとうございました」
アリスはペコリと頭を下げて、家へと帰り始めるのであった。
「あ〜。またね〜……」
小さく手を振りながら見送ってくるので、アリスも手を振り返してスタタタと小走りに家へと帰るのであった。




